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番外編
番外編・第四話 家族の絆、混合大魔法
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亡霊工場を浄化した後に残された、不気味な紋章。それは、絡み合う蛇と、歯車を食い破る髑髏(どくろ)が描かれた、古の禁忌組織「デトリタス(塵の再誕)」の印であった。
彼らは、文明が生み出す「廃絶の魔力」を崇拝し、世界を再び混沌とした汚泥に沈めることで、新たな生命の形を作ろうとする狂信的な集団である。
青空が戻り、歓喜に沸くヘパイストスの街の地下深く。
そこには、地上の喧騒とは無縁の、冷たく湿った「真の病巣」が脈打っていた。
「……アレクシス様。感じますか? この足元から伝わってくる、吐き気をもよおすような『腐敗』の予感を」
レティシアは、瓦礫の跡地に刻印された紋章を指先でなぞった。彼女の指が触れた瞬間、紋章から黒い火花が飛び散り、彼女の清浄な魔力を拒絶するように激しく弾けた。
「ああ。……どうやら、工場を倒したのは序の口だったようだな。奴らは、街の地下水路そのものを巨大な『培養槽』に変え、人々の悪意と廃液を煮詰めている」
アレクシスの言葉通り、地下からは地響きと共に、ドロドロとした黒い液体が逆流し始めていた。それは、先ほどのスモッグ・ファントムよりも遥かに高濃度で、物理的な実体と魔力的な呪いを併せ持った「最凶の汚泥」だった。
「キキキ……。お掃除聖女、そして死神公爵。……私の庭を汚してくれたのは君たちか」
地下水路の奥から、不気味な影が浮かび上がる。
それは、全身を黒い油のようなローブで包んだ男――デトリタスの司祭、フォースタスだった。彼の背後には、街から吸い上げた汚れを凝縮した巨大な心臓が、ドクンドクンと脈打っている。
「庭、ですって? ……こんなにドロドロで、不衛生な場所を庭だなんて。……あなたは、お掃除の楽しさを全く分かっていませんね」
レティシアは箒を構え、毅然と言い放った。しかし、フォースタスは嘲笑うように手を広げた。
「掃除だと? ……美化は、現実からの逃避に過ぎない。このヘドロこそが、人間の欲望の結晶。これこそが、偽りの光よりも尊い『真実の姿』なのだ! ――ゆけ、我が傑作! 『万物腐飾の海《エンドレス・レジデゥ》』!!」
フォースタスが叫ぶと、地下から噴き出した汚泥が一気に膨れ上がり、広場全体を飲み込む波となって襲いかかった。
その汚泥は、レティシアの浄化結界を瞬時に黒く染め上げ、彼女の体から魔力を吸い取っていく。
「レティシア!?」
「きゃあぁぁっ!!」
あまりの汚染の濃さに、レティシアの膝が折れた。彼女の「浄化の力」は、対象を綺麗にしようとする愛が源泉だ。しかし、この汚泥には愛はおろか、生命を拒絶する「無」の悪意が詰まっており、彼女の心を直接侵食しようとしていた。
「レティシア!! ……くっ、この汚泥、触れるだけで剣を腐らせるというのか!」
アレクシスが飛び込むが、彼が放った斬撃は汚泥に飲み込まれ、愛剣の刃から神々しい輝きが失われていく。
フォースタスは勝ち誇ったように笑った。
「無駄だ。お掃除聖女の光は、この『絶対の汚れ』の中では消える運命にある。彼女は私の苗床となり、世界を汚し尽くす母となるのだ!」
黒い触手がレティシアの細い手首を絡め取り、地下の闇へと引きずり込もうとする。
意識が遠のくレティシアの耳に、震えながらも、しかし決して折れない二つの声が届いた。
「――ママから、手を離せ!!」
「――わたくしたちの、パパとママを……汚さないで!!」
レオンとノエルだった。
二人は恐怖で涙を流しながらも、しっかりとそれぞれの道具を握りしめていた。
これまで、いつも親の背中を守られてきた子供たちが、初めて自分たちの意志で「一歩」前に踏み出したのだ。
「レオン、ノエル……。ダメよ、逃げて……」
レティシアが弱々しく手を伸ばすが、レオンは力強く首を振った。
「ママ、言ったでしょ? 『お掃除に負けちゃダメ』って! ……ボク、もう怖くないよ。パパが教えてくれたんだ。――『守るべきものがある時、人は誰よりも強くなれる』って!」
レオンの体から、黄金のオーラが立ち昇る。それはアレクシス譲りの覇気と、レティシア譲りの浄化光が混ざり合った、見たこともないほど眩い輝きだった。
「お兄様、わたくしたちでママを助けますわよ! ……パパ! パパの『守護の力』をわたくしたちの道具に込めてくださいまし!!」
ノエルの叫びに、アレクシスが目を見開いた。
そうだ。自分の剣が効かないのなら、次世代の「可能性」にすべてを託せばいい。
「……分かった。レオン、ノエル! 俺の魔力のすべてをお前たちに預ける! ――『不落の公爵・命運授受《ヴォルフェン・レガシー》』!!」
アレクシスが子供たちの肩に手を置くと、漆黒の魔力が純白に転じ、雷鳴のような勢いでレオンの箒とノエルのハタキに流れ込んだ。
「いくよ、ノエル! 汚れは『集めて』『固めて』――」
「『消し去る』! ですわね、お兄様!!」
二人が同時に高く跳躍した。
レオンが空中で箒を旋回させると、広場を覆っていた汚泥が巨大な竜巻となって巻き上げられた。パパから譲り受けた圧倒的な「重力操作」が、汚れを逃さない牢獄を作る。
「――『ヴォルフェン流・重力大掃除《グラビティ・クリーン》』!!」
「キ、キサマら、ガキの分際で……!?」
驚愕するフォースタス。だが、攻撃はそれだけでは終わらない。
ノエルが空中で舞うようにハタキを振ると、パパの「絶対防御」の力が、ママの「浄化の泡」と結晶化し、無数の光の弾丸となって汚泥の竜巻に降り注いだ。
「――『聖女の末裔・光陣粉砕《シャイニング・ダスト・バスター》』!!」
――ドォォォォォン!!
重力で凝縮された汚泥に、浄化の弾丸が着弾する。
爆発的な化学反応が起き、触れることさえできなかった「絶対の汚れ」が、次々と真っ白な「灰」へと変わっていく。
それは、アレクシスの力とレティシアの力が、子供たちの純粋な心という触媒を通して初めて完成した、究極の「ハイブリッド浄化魔法」だった。
「ぐ、あああああ……っ! バカな、私の傑作が……ただの灰に……!?」
汚泥の触手が霧散し、レティシアが解放される。
宙に舞う彼女を、アレクシスが優しく、しかし力強くその腕で受け止めた。
「……レティシア、大丈夫か」
「アレクシス様……。……はい。あの子たちの光が、私を温めてくれました」
レティシアはアレクシスの胸の中で、愛おしそうに子供たちを見上げた。
着地したレオンとノエルは、肩で息をしながらも、誇らしげに胸を張っている。
「ママ、見て! ボクたち、パパの力を使って、悪い油を全部やっつけたよ!」
「お洋服はちょっと汚れちゃいましたけれど……でも、心はピカピカですわ!」
レティシアは微笑み、アレクシスの支えを借りてゆっくりと立ち上がった。
彼女の手に、再び一本の箒が戻る。その箒は、子供たちの勇気に応えるように、これまでで最も強く、澄み渡るような銀色の光を放っていた。
「……レオン、ノエル。素晴らしいお掃除でした。……でも、最後の『仕上げ』は、やっぱりお母さんの役目ですね」
レティシアがフォースタスに向き直る。
汚泥を失い、ボロボロになった狂信者は、地下の心臓に縋り付こうとしていた。
「ま、まだだ……! この心臓がある限り、汚れは無限に湧き出す……! 世界を……世界を真っ黒に……!」
「いいえ。……世界は、あなたが思うほど弱くありません。……そして、お掃除はいつだって、新しい未来を創るためにあるんです」
レティシアはアレクシスを振り返った。
「あなた。……最後は、家族四人の力を一つに合わせましょう。……この街に、本当の春を届けるために」
「……ああ。お前が指揮を執れ。俺たちは、どこまでも君に従おう」
アレクシスがレティシアの背後に立ち、その肩に手を置く。
レオンとノエルが、両親の手を握りしめる。
家族四人の魔力が、一本のラインとなって繋がり、レティシアが掲げる箒の先端に集束した。
それは、かつて世界を救った「大浄化」をも超える、究極の絆の光。
「――天地開闢・家族の円卓《ヴォルフェン・ファミリー・ブライトネス》!!」
放たれた光の激流は、フォースタスの地下心臓を貫き、地下水路に溜まっていた数十年分の廃液を、一瞬にして「栄養に満ちた清流」へと書き換えていった。
「――ああ……っ。温かい……。お掃除とは、これほどまでに……救い……だったのか……」
フォースタスの体は、光に溶けるようにして消えていった。
彼の魂もまた、レティシアたちの圧倒的な「愛」によって浄化され、長い苦しみから解放されたのだ。
光の余波が街を駆け抜ける。
すると、どうだろう。
鉄機都市ヘパイストスの、黒く煤けていた壁から、パキパキと古い塗装が剥がれ落ち、その下から美しい赤煉瓦と輝く鋼鉄が現れた。
地下からは清らかな水が噴き出し、街中の噴水を満たしていく。
「……わあぁ……。空だけじゃない、街が……街が笑ってるみたい!」
レオンが声を上げる。
人々が窓を開け、信じられないものを見る目で自分たちの街を見渡していた。
汚れが消えただけではない。傷ついていた機械たちは滑らかに動き出し、煤で汚れていた街路樹には、見たこともないほど鮮やかな緑の葉が芽吹いていた。
アレクシスは、疲れて眠りそうになっているノエルを抱き上げ、レオンの頭を撫でた。
「……終わったな、レティシア」
「はい。……とっても、ピカピカになりましたね」
レティシアはアレクシスの腕に寄り添い、晴れ渡った北の空を見上げた。
しかし、その瞳には、一抹の寂しさが宿っていた。
子供たちは強くなった。自分たちの助けがなくても、いつか世界を綺麗にできるようになるだろう。それは親として最も喜ばしいことだが、同時に「子離れ」の予感でもあった。
そんな妻の心を見透かしたように、アレクシスが耳元で囁いた。
「案ずるな、レティシア。……あの子たちがどこへ行こうとも、俺たちの『お掃除』の旅は、永遠に終わらない。……老いて箒が持てなくなっても、俺が君の手足となる」
「……ふふ。おじいちゃんとおばあちゃんになっても、お掃除デートですね? 楽しみです」
一家を祝福するように、ヴォルフェン領から駆けつけた地龍と天龍が、街の上空で美しい旋回を見せた。
だが、物語にはまだ「続き」がある。
オウル公国を救った一家が、ヴォルフェン領に戻った後に待っていた、本当の「最高の景色」とは。
そして、数十年後の未来、銀髪の老夫婦となったレティシアとアレクシスが、孫たちに語り継ぐ言葉とは。
番外編、いよいよ次話で完結。
愛と箒が繋ぐ、永遠のピカピカを、あなたに。
(続く)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
最後まで読んでいただきありがとうございます!
第四話、ヴォルフェン家の総力戦、いかがでしたでしょうか。
ついに次回、番外編・最終回です。
「第五話 未来へ続くピカピカの道」
感動のグランドフィナーレを、心を込めてお届けします!
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彼らは、文明が生み出す「廃絶の魔力」を崇拝し、世界を再び混沌とした汚泥に沈めることで、新たな生命の形を作ろうとする狂信的な集団である。
青空が戻り、歓喜に沸くヘパイストスの街の地下深く。
そこには、地上の喧騒とは無縁の、冷たく湿った「真の病巣」が脈打っていた。
「……アレクシス様。感じますか? この足元から伝わってくる、吐き気をもよおすような『腐敗』の予感を」
レティシアは、瓦礫の跡地に刻印された紋章を指先でなぞった。彼女の指が触れた瞬間、紋章から黒い火花が飛び散り、彼女の清浄な魔力を拒絶するように激しく弾けた。
「ああ。……どうやら、工場を倒したのは序の口だったようだな。奴らは、街の地下水路そのものを巨大な『培養槽』に変え、人々の悪意と廃液を煮詰めている」
アレクシスの言葉通り、地下からは地響きと共に、ドロドロとした黒い液体が逆流し始めていた。それは、先ほどのスモッグ・ファントムよりも遥かに高濃度で、物理的な実体と魔力的な呪いを併せ持った「最凶の汚泥」だった。
「キキキ……。お掃除聖女、そして死神公爵。……私の庭を汚してくれたのは君たちか」
地下水路の奥から、不気味な影が浮かび上がる。
それは、全身を黒い油のようなローブで包んだ男――デトリタスの司祭、フォースタスだった。彼の背後には、街から吸い上げた汚れを凝縮した巨大な心臓が、ドクンドクンと脈打っている。
「庭、ですって? ……こんなにドロドロで、不衛生な場所を庭だなんて。……あなたは、お掃除の楽しさを全く分かっていませんね」
レティシアは箒を構え、毅然と言い放った。しかし、フォースタスは嘲笑うように手を広げた。
「掃除だと? ……美化は、現実からの逃避に過ぎない。このヘドロこそが、人間の欲望の結晶。これこそが、偽りの光よりも尊い『真実の姿』なのだ! ――ゆけ、我が傑作! 『万物腐飾の海《エンドレス・レジデゥ》』!!」
フォースタスが叫ぶと、地下から噴き出した汚泥が一気に膨れ上がり、広場全体を飲み込む波となって襲いかかった。
その汚泥は、レティシアの浄化結界を瞬時に黒く染め上げ、彼女の体から魔力を吸い取っていく。
「レティシア!?」
「きゃあぁぁっ!!」
あまりの汚染の濃さに、レティシアの膝が折れた。彼女の「浄化の力」は、対象を綺麗にしようとする愛が源泉だ。しかし、この汚泥には愛はおろか、生命を拒絶する「無」の悪意が詰まっており、彼女の心を直接侵食しようとしていた。
「レティシア!! ……くっ、この汚泥、触れるだけで剣を腐らせるというのか!」
アレクシスが飛び込むが、彼が放った斬撃は汚泥に飲み込まれ、愛剣の刃から神々しい輝きが失われていく。
フォースタスは勝ち誇ったように笑った。
「無駄だ。お掃除聖女の光は、この『絶対の汚れ』の中では消える運命にある。彼女は私の苗床となり、世界を汚し尽くす母となるのだ!」
黒い触手がレティシアの細い手首を絡め取り、地下の闇へと引きずり込もうとする。
意識が遠のくレティシアの耳に、震えながらも、しかし決して折れない二つの声が届いた。
「――ママから、手を離せ!!」
「――わたくしたちの、パパとママを……汚さないで!!」
レオンとノエルだった。
二人は恐怖で涙を流しながらも、しっかりとそれぞれの道具を握りしめていた。
これまで、いつも親の背中を守られてきた子供たちが、初めて自分たちの意志で「一歩」前に踏み出したのだ。
「レオン、ノエル……。ダメよ、逃げて……」
レティシアが弱々しく手を伸ばすが、レオンは力強く首を振った。
「ママ、言ったでしょ? 『お掃除に負けちゃダメ』って! ……ボク、もう怖くないよ。パパが教えてくれたんだ。――『守るべきものがある時、人は誰よりも強くなれる』って!」
レオンの体から、黄金のオーラが立ち昇る。それはアレクシス譲りの覇気と、レティシア譲りの浄化光が混ざり合った、見たこともないほど眩い輝きだった。
「お兄様、わたくしたちでママを助けますわよ! ……パパ! パパの『守護の力』をわたくしたちの道具に込めてくださいまし!!」
ノエルの叫びに、アレクシスが目を見開いた。
そうだ。自分の剣が効かないのなら、次世代の「可能性」にすべてを託せばいい。
「……分かった。レオン、ノエル! 俺の魔力のすべてをお前たちに預ける! ――『不落の公爵・命運授受《ヴォルフェン・レガシー》』!!」
アレクシスが子供たちの肩に手を置くと、漆黒の魔力が純白に転じ、雷鳴のような勢いでレオンの箒とノエルのハタキに流れ込んだ。
「いくよ、ノエル! 汚れは『集めて』『固めて』――」
「『消し去る』! ですわね、お兄様!!」
二人が同時に高く跳躍した。
レオンが空中で箒を旋回させると、広場を覆っていた汚泥が巨大な竜巻となって巻き上げられた。パパから譲り受けた圧倒的な「重力操作」が、汚れを逃さない牢獄を作る。
「――『ヴォルフェン流・重力大掃除《グラビティ・クリーン》』!!」
「キ、キサマら、ガキの分際で……!?」
驚愕するフォースタス。だが、攻撃はそれだけでは終わらない。
ノエルが空中で舞うようにハタキを振ると、パパの「絶対防御」の力が、ママの「浄化の泡」と結晶化し、無数の光の弾丸となって汚泥の竜巻に降り注いだ。
「――『聖女の末裔・光陣粉砕《シャイニング・ダスト・バスター》』!!」
――ドォォォォォン!!
重力で凝縮された汚泥に、浄化の弾丸が着弾する。
爆発的な化学反応が起き、触れることさえできなかった「絶対の汚れ」が、次々と真っ白な「灰」へと変わっていく。
それは、アレクシスの力とレティシアの力が、子供たちの純粋な心という触媒を通して初めて完成した、究極の「ハイブリッド浄化魔法」だった。
「ぐ、あああああ……っ! バカな、私の傑作が……ただの灰に……!?」
汚泥の触手が霧散し、レティシアが解放される。
宙に舞う彼女を、アレクシスが優しく、しかし力強くその腕で受け止めた。
「……レティシア、大丈夫か」
「アレクシス様……。……はい。あの子たちの光が、私を温めてくれました」
レティシアはアレクシスの胸の中で、愛おしそうに子供たちを見上げた。
着地したレオンとノエルは、肩で息をしながらも、誇らしげに胸を張っている。
「ママ、見て! ボクたち、パパの力を使って、悪い油を全部やっつけたよ!」
「お洋服はちょっと汚れちゃいましたけれど……でも、心はピカピカですわ!」
レティシアは微笑み、アレクシスの支えを借りてゆっくりと立ち上がった。
彼女の手に、再び一本の箒が戻る。その箒は、子供たちの勇気に応えるように、これまでで最も強く、澄み渡るような銀色の光を放っていた。
「……レオン、ノエル。素晴らしいお掃除でした。……でも、最後の『仕上げ』は、やっぱりお母さんの役目ですね」
レティシアがフォースタスに向き直る。
汚泥を失い、ボロボロになった狂信者は、地下の心臓に縋り付こうとしていた。
「ま、まだだ……! この心臓がある限り、汚れは無限に湧き出す……! 世界を……世界を真っ黒に……!」
「いいえ。……世界は、あなたが思うほど弱くありません。……そして、お掃除はいつだって、新しい未来を創るためにあるんです」
レティシアはアレクシスを振り返った。
「あなた。……最後は、家族四人の力を一つに合わせましょう。……この街に、本当の春を届けるために」
「……ああ。お前が指揮を執れ。俺たちは、どこまでも君に従おう」
アレクシスがレティシアの背後に立ち、その肩に手を置く。
レオンとノエルが、両親の手を握りしめる。
家族四人の魔力が、一本のラインとなって繋がり、レティシアが掲げる箒の先端に集束した。
それは、かつて世界を救った「大浄化」をも超える、究極の絆の光。
「――天地開闢・家族の円卓《ヴォルフェン・ファミリー・ブライトネス》!!」
放たれた光の激流は、フォースタスの地下心臓を貫き、地下水路に溜まっていた数十年分の廃液を、一瞬にして「栄養に満ちた清流」へと書き換えていった。
「――ああ……っ。温かい……。お掃除とは、これほどまでに……救い……だったのか……」
フォースタスの体は、光に溶けるようにして消えていった。
彼の魂もまた、レティシアたちの圧倒的な「愛」によって浄化され、長い苦しみから解放されたのだ。
光の余波が街を駆け抜ける。
すると、どうだろう。
鉄機都市ヘパイストスの、黒く煤けていた壁から、パキパキと古い塗装が剥がれ落ち、その下から美しい赤煉瓦と輝く鋼鉄が現れた。
地下からは清らかな水が噴き出し、街中の噴水を満たしていく。
「……わあぁ……。空だけじゃない、街が……街が笑ってるみたい!」
レオンが声を上げる。
人々が窓を開け、信じられないものを見る目で自分たちの街を見渡していた。
汚れが消えただけではない。傷ついていた機械たちは滑らかに動き出し、煤で汚れていた街路樹には、見たこともないほど鮮やかな緑の葉が芽吹いていた。
アレクシスは、疲れて眠りそうになっているノエルを抱き上げ、レオンの頭を撫でた。
「……終わったな、レティシア」
「はい。……とっても、ピカピカになりましたね」
レティシアはアレクシスの腕に寄り添い、晴れ渡った北の空を見上げた。
しかし、その瞳には、一抹の寂しさが宿っていた。
子供たちは強くなった。自分たちの助けがなくても、いつか世界を綺麗にできるようになるだろう。それは親として最も喜ばしいことだが、同時に「子離れ」の予感でもあった。
そんな妻の心を見透かしたように、アレクシスが耳元で囁いた。
「案ずるな、レティシア。……あの子たちがどこへ行こうとも、俺たちの『お掃除』の旅は、永遠に終わらない。……老いて箒が持てなくなっても、俺が君の手足となる」
「……ふふ。おじいちゃんとおばあちゃんになっても、お掃除デートですね? 楽しみです」
一家を祝福するように、ヴォルフェン領から駆けつけた地龍と天龍が、街の上空で美しい旋回を見せた。
だが、物語にはまだ「続き」がある。
オウル公国を救った一家が、ヴォルフェン領に戻った後に待っていた、本当の「最高の景色」とは。
そして、数十年後の未来、銀髪の老夫婦となったレティシアとアレクシスが、孫たちに語り継ぐ言葉とは。
番外編、いよいよ次話で完結。
愛と箒が繋ぐ、永遠のピカピカを、あなたに。
(続く)
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最後まで読んでいただきありがとうございます!
第四話、ヴォルフェン家の総力戦、いかがでしたでしょうか。
ついに次回、番外編・最終回です。
「第五話 未来へ続くピカピカの道」
感動のグランドフィナーレを、心を込めてお届けします!
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幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。
時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。
やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。
それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。
けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────
生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。
※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
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