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世界中で「働きすぎ」がダサくなってきた件

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――努力は美徳、でも疲れてる人は評価されない不思議
少し前まで、「忙しい」はだいたい褒め言葉だった。
残業している、休日も仕事の連絡を返している、寝不足。それらはまとめて「頑張っている証拠」として扱われてきた。少なくとも表向きはそうだったと思う。
ところが最近、世界の空気が微妙に変わってきている。
別に「働くな」という革命が起きたわけじゃない。ただ、「働きすぎている人」が、以前ほどかっこよく見えなくなってきた。むしろ、どこか不器用で、空気が読めていない人扱いされる場面すらある。
象徴的なのが、いわゆる「静かな退職(Quiet Quitting)」という言葉だ。
会社を辞めるわけじゃない。与えられた仕事はきちんとやる。ただ、それ以上の“過剰な熱意”を見せない。残業もしないし、使命感も演出しない。仕事を人生の中心に置かない、という態度だ。
一昔前なら「やる気がない」「評価されない人」の典型だったはずなのに、今は違う。少なくとも欧米では、「自分の人生を守るための健全な姿勢」として語られることが増えている。ここが面白いところだ。
ヨーロッパを見てみると、流れはさらに分かりやすい。
フランスやドイツでは「仕事をしない権利」、つまり業務時間外に連絡を断っていい権利が法制度として整えられてきた。メールを返さない自由が、怠慢ではなく権利として認められている。
一方でアメリカはどうかというと、こちらはもう少し露骨だ。
成果主義が進みすぎた結果、「頑張ってる感」より「結果だけ出して余裕そうな人」の方が評価されるようになってきた。睡眠不足を誇る文化は、少なくともテック業界ではかなり古い価値観になりつつある。
面白いのは、これらの動きが「優しさ」から来ているわけではない点だ。
みんなが急に人に優しくなったわけじゃない。単純に、疲れきった人間は生産性が低いという事実が、あまりにもはっきり数字で出てしまったからだ。
燃え尽き症候群、メンタル不調、離職率の上昇。
頑張らせすぎた結果、会社も国も損をする。だから「ほどほど」が推奨されるようになった。それだけの話とも言える。
ここにAIの存在が加わって、状況はさらにややこしくなる。
AIは真面目に文句も言わず、24時間動く。しかもミスもしない。こうなると、人間に求められるのは「長時間労働」ではなく、「判断」と「調整」になる。つまり、常に疲れている人より、余裕のある人のほうが向いている。
結果として、「一生懸命やってます」という態度そのものが、価値を持ちにくくなった。
頑張ること自体が悪いわけじゃない。ただ、それを前面に出すと、どこか時代遅れに見えてしまう。努力は裏でやるもの、という空気ができつつある。
日本も、さすがに無風ではいられなくなってきた。
副業解禁、リモートワーク、週休3日制の議論。どれも「もっと働け」という方向ではない。建前上は「多様な働き方」だが、実態としては「今の働き方、もう無理だよね」という共通認識の表れだ。
ただし、日本の場合は少し歪みがある。
表向きは効率化を進めつつ、内心ではまだ「頑張っている人」を評価したい気持ちが残っている。その結果、頑張っているフリをしないと不安になる人が大量に生まれる。
面白いのは、ここでSNSが絡んでくる点だ。
以前は「忙しい自慢」が主流だったのに、今は「余白のある生活」「何もしない時間」が称賛される。とはいえ、そういう投稿をしている人ほど、実際はかなり忙しそうだったりする。余裕の演出合戦、と言ってもいい。
結局のところ、世界は「働かなくていい」とは言っていない。
ただ、「命削ってまで働く姿」を美談として扱わなくなった。それだけだ。
努力は依然として必要だが、それを正面から振りかざす時代は終わりつつある。
頑張っているのに評価されない、と感じる人が増えているのは、この価値観の切り替わりが原因かもしれない。努力の方向が、少しズレてきている。
働きすぎがダサくなった世界で、じゃあどうするのか。
答えは案外シンプルで、「元気そうに見えること」が、これからの最大のスキルなのかもしれない。皮肉な話だけど。
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