死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん

文字の大きさ
5 / 6

第5話:運命の出会い

しおりを挟む
ボルマン伯爵との縁談を「承諾」したふりをした翌日、私は再び街へと向かった。
父は結納金が入る予定を立てて、すでに高級なワインや毛皮をツケで注文し始めている。その傲慢な浪費ろうひこそが、自らの首を絞める縄になるとも知らずに。

指定された場所は、王都の喧騒から少し離れた湖畔の古びた東屋。
そこには、昨日とは違う、上質な旅装に身を包んだシオンが待っていた。

「待たせたな、エルゼ。……昨日の騒動は聞いた。君の弟が、王宮で『算術の基本もわからぬ無能』と揶揄されているらしいじゃないか」

「あら、耳が早いですわね。シオン様」

私が歩み寄ると、シオンは私の手を取り、その甲に薄く唇を寄せた。
皇太子としての気品と、裏社会を支配する者としての危うさが同居する、不思議な男。

「君が私に持ちかけた『亡命』の相談だが……。条件がある」

「条件?」

「ああ。君の身の安全と、隣国での地位を保証する代わりに、君が公爵家から回収する『資産』の一部を、我が国の経済発展のために運用してほしい。……君のその、恐ろしいほどの経営手腕を、私に貸してくれ」

シオンの金色の瞳が、獲物を狙う猛獣のように細められる。
彼は私を単なる「亡命者」としてではなく、自国の国益に繋がるとして見ているのだ。

「いいでしょう。私の能力を最大限に活用すること、約束いたしますわ。……その代わり、私がこの国を出る時、アデナウアー公爵家の名義で行われる全ての追手を、あなたの権限で封じていただきたいの」

「容易い御用だ。……契約成立だな」

シオンが差し出した羊皮紙に、私たちは互いの指先から出した血を一滴ずつ垂らす。
これが、王国に対する「裏切り」の証であり、私たちが結んだ唯一のの絆。

「ところで、エルゼ。……君の家、もうすでに資金繰りがショートしかけているだろう?」

「ええ。父が遊び歩くための金は、すべて私が操作して、ボルマン伯爵からの前払い金に充てさせました。……ですが、その金も、私が作った『架空の投資案件』に吸い込まれる手はずになっていますわ」

「ははは!実の父親を、投資詐欺にかけるのか。君は本当に、最高に悪女だ」

シオンが愉快そうに笑い、私の腰を抱き寄せる。
その体温を感じながら、私は冷徹に次の計画を練っていた。

屋敷に戻ると、廊下でマリアが私の顔を見て勝ち誇ったように笑った。

「あら、お姉様!聞いたわよ。あのボルマン伯爵に嫁ぐんですってね。……あの方は、奥様を何人も使い捨てにすることで有名な、気性の荒い御仁だそうよ。お似合いですわね、お姉様!」

「マリア。あなたこそ、今のうちに好きなものを食べて、好きな服を着ておくといいわ」

「なっ、何よ、その言い草は!私がアデナウアー公爵家の美しい花として、永遠に輝き続けるのは当たり前でしょう?」

「ええ。その『輝き』を維持するための金が、あと数日で一滴も残らなくなることも知らずに……。お可哀想な、マリア」

「何を……っ!」

言い返そうとするマリアを無視して、私は自分の部屋の鍵を閉めた。

机の上には、父が判を押した「領地管理権」の委譲書類。
私はそれを、すでに自分の個人口座と紐付けたへと書き換え終えている。

(残るは、家宝のすり替えと、最後の大規模な資産移動……。そして、決別の日)

窓の外、隣国へと続く空を見つめながら、私は自分の胸にある復讐の炎を静かに燃やした。
もう、後戻りはできない。
アデナウアー公爵家の看板は、まもなく私が引きちぎり、ゴミ捨て場に放り投げてあげる。

「さようなら、私の不幸だった前世」

私は、自分名義の金貨が詰まった革袋を手に、静かに微笑んだ。

最後まで読んでいただきありがとうございます! 「続きが気になる!」「面白そう!」と思っていただけたら、 【お気に入り登録】と【感想やいいね】をいただけると執筆の励みになります!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

遊び人の令嬢が目を付けたのは、私の真面目な婚約者でした

おいどん
恋愛
子爵家の令嬢エリーネと伯爵家の次男のノルトが婚約を結んだのは、半年前だった。 真面目で優秀なノルトに相応しい婚約者であろうとするものの、エリーネには自信がなかった。 ある日、遊び人と噂の令嬢べルティーナとノルトが共にいるところを見てしまう。 「真面目クンは壁さえ破っちゃえばこっちのもんだからね〜」 「きっと、彼女の美しさに嫉妬しているのだわ…」 「…今度は、ちゃんと言葉にするから」

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される

さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。 慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。 だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。 「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」 そう言って真剣な瞳で求婚してきて!? 王妃も兄王子たちも立ちはだかる。 「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた

夏菜しの
恋愛
 幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。  彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。  そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。  彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。  いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。  のらりくらりと躱すがもう限界。  いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。  彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。  これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?  エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

【完結】冤罪で殺された王太子の婚約者は100年後に生まれ変わりました。今世では愛し愛される相手を見つけたいと思っています。

金峯蓮華
恋愛
どうやら私は階段から突き落とされ落下する間に前世の記憶を思い出していたらしい。 前世は冤罪を着せられて殺害されたのだった。それにしても酷い。その後あの国はどうなったのだろう? 私の願い通り滅びたのだろうか? 前世で冤罪を着せられ殺害された王太子の婚約者だった令嬢が生まれ変わった今世で愛し愛される相手とめぐりあい幸せになるお話。 緩い世界観の緩いお話しです。 ご都合主義です。 *タイトル変更しました。すみません。

処理中です...