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第5話:運命の出会い
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ボルマン伯爵との縁談を「承諾」したふりをした翌日、私は再び街へと向かった。
父は結納金が入る予定を立てて、すでに高級なワインや毛皮をツケで注文し始めている。その傲慢な浪費こそが、自らの首を絞める縄になるとも知らずに。
指定された場所は、王都の喧騒から少し離れた湖畔の古びた東屋。
そこには、昨日とは違う、上質な旅装に身を包んだシオンが待っていた。
「待たせたな、エルゼ。……昨日の騒動は聞いた。君の弟が、王宮で『算術の基本もわからぬ無能』と揶揄されているらしいじゃないか」
「あら、耳が早いですわね。シオン様」
私が歩み寄ると、シオンは私の手を取り、その甲に薄く唇を寄せた。
皇太子としての気品と、裏社会を支配する者としての危うさが同居する、不思議な男。
「君が私に持ちかけた『亡命』の相談だが……。条件がある」
「条件?」
「ああ。君の身の安全と、隣国での地位を保証する代わりに、君が公爵家から回収する『資産』の一部を、我が国の経済発展のために運用してほしい。……君のその、恐ろしいほどの経営手腕を、私に貸してくれ」
シオンの金色の瞳が、獲物を狙う猛獣のように細められる。
彼は私を単なる「亡命者」としてではなく、自国の国益に繋がる戦略兵器として見ているのだ。
「いいでしょう。私の能力を最大限に活用すること、約束いたしますわ。……その代わり、私がこの国を出る時、アデナウアー公爵家の名義で行われる全ての追手を、あなたの権限で封じていただきたいの」
「容易い御用だ。……契約成立だな」
シオンが差し出した羊皮紙に、私たちは互いの指先から出した血を一滴ずつ垂らす。
これが、王国に対する「裏切り」の証であり、私たちが結んだ唯一の真実の絆。
「ところで、エルゼ。……君の家、もうすでに資金繰りがショートしかけているだろう?」
「ええ。父が遊び歩くための金は、すべて私が操作して、ボルマン伯爵からの前払い金に充てさせました。……ですが、その金も、私が作った『架空の投資案件』に吸い込まれる手はずになっていますわ」
「ははは!実の父親を、投資詐欺にかけるのか。君は本当に、最高に悪女だ」
シオンが愉快そうに笑い、私の腰を抱き寄せる。
その体温を感じながら、私は冷徹に次の計画を練っていた。
屋敷に戻ると、廊下でマリアが私の顔を見て勝ち誇ったように笑った。
「あら、お姉様!聞いたわよ。あのボルマン伯爵に嫁ぐんですってね。……あの方は、奥様を何人も使い捨てにすることで有名な、気性の荒い御仁だそうよ。お似合いですわね、お姉様!」
「マリア。あなたこそ、今のうちに好きなものを食べて、好きな服を着ておくといいわ」
「なっ、何よ、その言い草は!私がアデナウアー公爵家の美しい花として、永遠に輝き続けるのは当たり前でしょう?」
「ええ。その『輝き』を維持するための金が、あと数日で一滴も残らなくなることも知らずに……。お可哀想な、マリア」
「何を……っ!」
言い返そうとするマリアを無視して、私は自分の部屋の鍵を閉めた。
机の上には、父が判を押した「領地管理権」の委譲書類。
私はそれを、すでに自分の個人口座と紐付けた魔法契約へと書き換え終えている。
(残るは、家宝のすり替えと、最後の大規模な資産移動……。そして、決別の日)
窓の外、隣国へと続く空を見つめながら、私は自分の胸にある復讐の炎を静かに燃やした。
もう、後戻りはできない。
アデナウアー公爵家の看板は、まもなく私が引きちぎり、ゴミ捨て場に放り投げてあげる。
「さようなら、私の不幸だった前世」
私は、自分名義の金貨が詰まった革袋を手に、静かに微笑んだ。
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父は結納金が入る予定を立てて、すでに高級なワインや毛皮をツケで注文し始めている。その傲慢な浪費こそが、自らの首を絞める縄になるとも知らずに。
指定された場所は、王都の喧騒から少し離れた湖畔の古びた東屋。
そこには、昨日とは違う、上質な旅装に身を包んだシオンが待っていた。
「待たせたな、エルゼ。……昨日の騒動は聞いた。君の弟が、王宮で『算術の基本もわからぬ無能』と揶揄されているらしいじゃないか」
「あら、耳が早いですわね。シオン様」
私が歩み寄ると、シオンは私の手を取り、その甲に薄く唇を寄せた。
皇太子としての気品と、裏社会を支配する者としての危うさが同居する、不思議な男。
「君が私に持ちかけた『亡命』の相談だが……。条件がある」
「条件?」
「ああ。君の身の安全と、隣国での地位を保証する代わりに、君が公爵家から回収する『資産』の一部を、我が国の経済発展のために運用してほしい。……君のその、恐ろしいほどの経営手腕を、私に貸してくれ」
シオンの金色の瞳が、獲物を狙う猛獣のように細められる。
彼は私を単なる「亡命者」としてではなく、自国の国益に繋がる戦略兵器として見ているのだ。
「いいでしょう。私の能力を最大限に活用すること、約束いたしますわ。……その代わり、私がこの国を出る時、アデナウアー公爵家の名義で行われる全ての追手を、あなたの権限で封じていただきたいの」
「容易い御用だ。……契約成立だな」
シオンが差し出した羊皮紙に、私たちは互いの指先から出した血を一滴ずつ垂らす。
これが、王国に対する「裏切り」の証であり、私たちが結んだ唯一の真実の絆。
「ところで、エルゼ。……君の家、もうすでに資金繰りがショートしかけているだろう?」
「ええ。父が遊び歩くための金は、すべて私が操作して、ボルマン伯爵からの前払い金に充てさせました。……ですが、その金も、私が作った『架空の投資案件』に吸い込まれる手はずになっていますわ」
「ははは!実の父親を、投資詐欺にかけるのか。君は本当に、最高に悪女だ」
シオンが愉快そうに笑い、私の腰を抱き寄せる。
その体温を感じながら、私は冷徹に次の計画を練っていた。
屋敷に戻ると、廊下でマリアが私の顔を見て勝ち誇ったように笑った。
「あら、お姉様!聞いたわよ。あのボルマン伯爵に嫁ぐんですってね。……あの方は、奥様を何人も使い捨てにすることで有名な、気性の荒い御仁だそうよ。お似合いですわね、お姉様!」
「マリア。あなたこそ、今のうちに好きなものを食べて、好きな服を着ておくといいわ」
「なっ、何よ、その言い草は!私がアデナウアー公爵家の美しい花として、永遠に輝き続けるのは当たり前でしょう?」
「ええ。その『輝き』を維持するための金が、あと数日で一滴も残らなくなることも知らずに……。お可哀想な、マリア」
「何を……っ!」
言い返そうとするマリアを無視して、私は自分の部屋の鍵を閉めた。
机の上には、父が判を押した「領地管理権」の委譲書類。
私はそれを、すでに自分の個人口座と紐付けた魔法契約へと書き換え終えている。
(残るは、家宝のすり替えと、最後の大規模な資産移動……。そして、決別の日)
窓の外、隣国へと続く空を見つめながら、私は自分の胸にある復讐の炎を静かに燃やした。
もう、後戻りはできない。
アデナウアー公爵家の看板は、まもなく私が引きちぎり、ゴミ捨て場に放り投げてあげる。
「さようなら、私の不幸だった前世」
私は、自分名義の金貨が詰まった革袋を手に、静かに微笑んだ。
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