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【第1章】
■第1話 : 腕はあるのに勝てない男
ジャラジャラジャラ……
ジェットカウンターにコインを流し、レシートを受け取る。
受け取ったレシートに記されていたのは、いつもの枚数である『50枚』。
等価店なら、換金すれば1000円ぴったりとなる枚数だ。
男は、受け取ったレシートを景品カウンターへ持っていき特殊景品に換え、交換所で現金を手にした。
「よし、これで久々にメシが食える」
男は小さく呟いた。
この男、夏目優司は、つい最近までパチスロで生活していた。
いや、正確には「パチスロで生活しようとしていた」と言った方が正しいだろう。
なぜならば、働きもせずにパチスロを打ち続け、「多少あった貯金」と「賃貸で借りていた家」の両方を失ったのだから。
そして、両親との円満な関係も。
それにより優司は、2004年3月をもってホームレスとなり、どん底の生活がもう3ヶ月も続いていた。
どん底な生活内容については、後述する。
ここまでの話で想像できることといえば、
【この夏目優司という男は、単純にパチスロにハマってしまい、下手の横好きが高じて打ち続けた結果、ホームレスという状況に追い込まれてしまった】
というものだろう。
しかし、違うのである。
優司の立ち回りや店選びには、全く落ち度はない。
実家の方に優良店(=高設定の掴みやすい店)が少ないから、十分な下調べでわかった優良店の多い土地にわざわざ引っ越すほどの徹底ぶりなのだ。
もちろん台選びについても完璧。
手間隙を惜しまず、毎日毎日ホール情報を調査してメモを取る。
フットワークも軽く、電車で数駅程度の範囲にあるホールはすべて網羅している。
そして、集めたデータに基づいて適切な分析を行ない、驚異的な確率で高設定を奪取していた。
あまりの高設定奪取率に、周りの客からサクラだと疑われたことすらあるほど。
しかし、不思議と揉め事になったことはなかった。
なぜならば、いつもいつも高設定を掴みながら負けていたから。
しっかりと高設定をツモりまくっているのにもかかわらず、それでも負けてしまうのだ。
なぜなのか?
答えは簡単。
優司の『ヒキ』が尋常じゃなく弱かったからだ。
確率通りにボーナスが当たってくれず、悪い方へ悪い方へと偏ってしまうことを「ヒキが弱い」「ヒキ弱」などと表現する。
例えば、1/10で当たりが入っているくじに対して、何回チャレンジしても1/30でしか当たりを引けないような場合、「ヒキが弱い」「ヒキ弱」といった言葉が使われたりする。
パチスロの場合も同様で、1/200で抽選されているBIGを1/400くらいの確率でしか引けないような場合、「ヒキが弱い」ということになる。
優司は、まさにこの状態にあった。
しかし、「ヒキが弱い」という表現はオカルトであり、完全確率で抽選されているパチスロにおいて「ヒキが強い」・「ヒキが弱い」などという言葉を使うのは元来おかしい。
大数の法則に基づけば、試行回数を増やせばいやでも確率は収束に向かうはずなのだ。
確率に偏りがあるとすれば、それは試行回数が足りないから。
ただそれだけの話。
そんなことは優司自身もわかっていた。
それでも、高設定をツモりまくっている自分が全然勝てない、という現状を見るに、「ヒキ弱」という言葉を使う以外に選択肢がなかったのだ。
(わかってる、わかってるんだ。
本当なら『ヒキ』なんて存在しないってことを。
確率ってのは、いつかは収束してくれるってことを。
……でも、一体いつになったら俺の確率が収束するっていう保証があるんだ!?
1ヵ月後? 1年後? 10年後? 100年後? もしかしたら……1000年後?)
こんな疑問が、常に優司の頭をよぎる。
確かに、丸1年フル稼働して、しかも高設定を掴みまくっていたりしたならば、マイナスになることなどほぼありえない。
が、天文学的な確率とはいえ、理論上ありえなくもない。
抽選である以上、確率が偏り続ける可能性はゼロにはならないのだ。
つまり優司は、この『天文学的な確率』の枠に入ってしまっている人間なのである。
高校卒業後、しばらくしてから親元を離れ、パチスロ一本で生活していくことを誓って始めた一人暮らし。
しかしその生活はすぐに終わりを迎え、住所を持たない生活に突入していった。
優司はこれまでの20年間の人生、勉強・運動など、どれをとっても大した努力なく人並み以上にこなしてきた。
天才タイプ、とまではいかないものの、ある程度努力すれば、すべからく上手くいっていたのだ。
だがそれがネックとなり、『何一つ大成できない』というマイナスの副産物を背負った。
要は『器用貧乏』なのだ。
そんな中で出会ったのがパチスロ。
思った通りにならない歯がゆさが心地よく、夢中になってのめり込んだ。
そのうち、「高設定台を回すほど勝ち額が増える」という当然のことに気付き、収支は向上。
データ収集や店選びや設定判別を徹底し、毎月、サラリーマンの月収の倍以上を稼ぎ出すようになった。
その結果、意気揚々と一人暮らしを始めたのだが、途端に勝てなくなった。
連日読みを的中させ、設定公開の際に「設定6」の札が刺さる台を朝から打っているのに、なぜか負け続けてしまうのだ。
(なんでだ?
こんな、確率を無視したような不運が、なんで俺の身に降りかかるんだ?
ありえないだろ)
何度も葛藤し、何度も心が折れそうになったが、素直に諦めて引き下がることはしなかった。
逆に、火がついた。
今までの人生、何でも無難にこなしてきた自分のプライドが傷つけられ、なんとしてでもパチスロで身を立ててやろう、くらいに思ってしまった。
結果、パチスロに素寒貧にされながらも必死で考え抜き、一矢報いるための「必勝の立ち回りを」編み出した。
それは、【1円もかけずに、しかも確実にパチスロでプラスにする方法】だった。
ジェットカウンターにコインを流し、レシートを受け取る。
受け取ったレシートに記されていたのは、いつもの枚数である『50枚』。
等価店なら、換金すれば1000円ぴったりとなる枚数だ。
男は、受け取ったレシートを景品カウンターへ持っていき特殊景品に換え、交換所で現金を手にした。
「よし、これで久々にメシが食える」
男は小さく呟いた。
この男、夏目優司は、つい最近までパチスロで生活していた。
いや、正確には「パチスロで生活しようとしていた」と言った方が正しいだろう。
なぜならば、働きもせずにパチスロを打ち続け、「多少あった貯金」と「賃貸で借りていた家」の両方を失ったのだから。
そして、両親との円満な関係も。
それにより優司は、2004年3月をもってホームレスとなり、どん底の生活がもう3ヶ月も続いていた。
どん底な生活内容については、後述する。
ここまでの話で想像できることといえば、
【この夏目優司という男は、単純にパチスロにハマってしまい、下手の横好きが高じて打ち続けた結果、ホームレスという状況に追い込まれてしまった】
というものだろう。
しかし、違うのである。
優司の立ち回りや店選びには、全く落ち度はない。
実家の方に優良店(=高設定の掴みやすい店)が少ないから、十分な下調べでわかった優良店の多い土地にわざわざ引っ越すほどの徹底ぶりなのだ。
もちろん台選びについても完璧。
手間隙を惜しまず、毎日毎日ホール情報を調査してメモを取る。
フットワークも軽く、電車で数駅程度の範囲にあるホールはすべて網羅している。
そして、集めたデータに基づいて適切な分析を行ない、驚異的な確率で高設定を奪取していた。
あまりの高設定奪取率に、周りの客からサクラだと疑われたことすらあるほど。
しかし、不思議と揉め事になったことはなかった。
なぜならば、いつもいつも高設定を掴みながら負けていたから。
しっかりと高設定をツモりまくっているのにもかかわらず、それでも負けてしまうのだ。
なぜなのか?
答えは簡単。
優司の『ヒキ』が尋常じゃなく弱かったからだ。
確率通りにボーナスが当たってくれず、悪い方へ悪い方へと偏ってしまうことを「ヒキが弱い」「ヒキ弱」などと表現する。
例えば、1/10で当たりが入っているくじに対して、何回チャレンジしても1/30でしか当たりを引けないような場合、「ヒキが弱い」「ヒキ弱」といった言葉が使われたりする。
パチスロの場合も同様で、1/200で抽選されているBIGを1/400くらいの確率でしか引けないような場合、「ヒキが弱い」ということになる。
優司は、まさにこの状態にあった。
しかし、「ヒキが弱い」という表現はオカルトであり、完全確率で抽選されているパチスロにおいて「ヒキが強い」・「ヒキが弱い」などという言葉を使うのは元来おかしい。
大数の法則に基づけば、試行回数を増やせばいやでも確率は収束に向かうはずなのだ。
確率に偏りがあるとすれば、それは試行回数が足りないから。
ただそれだけの話。
そんなことは優司自身もわかっていた。
それでも、高設定をツモりまくっている自分が全然勝てない、という現状を見るに、「ヒキ弱」という言葉を使う以外に選択肢がなかったのだ。
(わかってる、わかってるんだ。
本当なら『ヒキ』なんて存在しないってことを。
確率ってのは、いつかは収束してくれるってことを。
……でも、一体いつになったら俺の確率が収束するっていう保証があるんだ!?
1ヵ月後? 1年後? 10年後? 100年後? もしかしたら……1000年後?)
こんな疑問が、常に優司の頭をよぎる。
確かに、丸1年フル稼働して、しかも高設定を掴みまくっていたりしたならば、マイナスになることなどほぼありえない。
が、天文学的な確率とはいえ、理論上ありえなくもない。
抽選である以上、確率が偏り続ける可能性はゼロにはならないのだ。
つまり優司は、この『天文学的な確率』の枠に入ってしまっている人間なのである。
高校卒業後、しばらくしてから親元を離れ、パチスロ一本で生活していくことを誓って始めた一人暮らし。
しかしその生活はすぐに終わりを迎え、住所を持たない生活に突入していった。
優司はこれまでの20年間の人生、勉強・運動など、どれをとっても大した努力なく人並み以上にこなしてきた。
天才タイプ、とまではいかないものの、ある程度努力すれば、すべからく上手くいっていたのだ。
だがそれがネックとなり、『何一つ大成できない』というマイナスの副産物を背負った。
要は『器用貧乏』なのだ。
そんな中で出会ったのがパチスロ。
思った通りにならない歯がゆさが心地よく、夢中になってのめり込んだ。
そのうち、「高設定台を回すほど勝ち額が増える」という当然のことに気付き、収支は向上。
データ収集や店選びや設定判別を徹底し、毎月、サラリーマンの月収の倍以上を稼ぎ出すようになった。
その結果、意気揚々と一人暮らしを始めたのだが、途端に勝てなくなった。
連日読みを的中させ、設定公開の際に「設定6」の札が刺さる台を朝から打っているのに、なぜか負け続けてしまうのだ。
(なんでだ?
こんな、確率を無視したような不運が、なんで俺の身に降りかかるんだ?
ありえないだろ)
何度も葛藤し、何度も心が折れそうになったが、素直に諦めて引き下がることはしなかった。
逆に、火がついた。
今までの人生、何でも無難にこなしてきた自分のプライドが傷つけられ、なんとしてでもパチスロで身を立ててやろう、くらいに思ってしまった。
結果、パチスロに素寒貧にされながらも必死で考え抜き、一矢報いるための「必勝の立ち回りを」編み出した。
それは、【1円もかけずに、しかも確実にパチスロでプラスにする方法】だった。
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