ゴーストスロッター

クランキー

文字サイズ
小 中 大 特大
3 / 138
【第1章】

■第3話 : ホームレスから抜け出すための『あの計画』

2004年6月中旬のある日の朝。

今日の優司は、いつもと違う行動をとっていた。

恒例の「ホールを巡ってのコイン拾い」は、ある程度落ちているコインが増えだす昼頃から開始するため、優司が活動を始めるのは基本昼から。

しかしこの日に限っては、朝一からあるホールの開店待ちの列へと加わっていた。
もちろん、打つ為ではない。

時刻は9:30過ぎ。
あと30分弱で開店というところ。

梅雨時とはいえ晴天に恵まれた、気持ちの良い朝だった。

「あの……ちょっといいかな」

開店待ちをしているのは優司を含め20人ほど。
そんな中優司は、自分の前に並んでいた開店待ちをしている一人の男に、いきなり話しかけた。

その男は、歳は優司と同じ20歳くらい。

身長も175cm前後と優司と同じくらいだが、ガタイの良さが違った。
細身の優司と比べ、その男は筋骨隆々で、服装や面構えからすると一見悪そうな雰囲気を纏った男だった。

しかし優司にとっては、この男でなければダメな理由があった。

そう、いよいよ優司は、『惨めな生活から抜け出すための計画』を実行に移したのだ。

「……?」

いきなり話しかけられ、振り返った男は、明らかに戸惑っていた。

「そんなに構えないでよ。お互いにプラスになる話があるんだけど、聞くだけ聞いてもらえる?」

「……」

「俺は夏目っていうんだ。君は?」

「……藤田。つーか、いきなりなんなの? 用があるならさっさと言ってくれよ」

「ここじゃちょっとマズいんだって。絶対損はない話だから! ちょっと列から離れようよ!」

そう言って、藤田に開店待ちの列から離れるように促した。

藤田は、なんとなく腑に落ちないような気がしながらも、「絶対に損のない話」という部分に惹かれたのか、優司に従って列を離れた。



こうして、ついに練りに練った計画を行動に移した優司。

その計画とは……。

まずは、日々コイン拾いやデータ取りを行いながら、「ヒキは強いが立ち回りが全然駄目な金のない若者」を探しだし、その人間に変則的なノリ打ちを申し出ることだった。

優司は、台選びには自信がある。
自分に勝てる人間はいないんじゃないかと思えるくらいに。

そんな自分が選んだ台をヒキの強い人間に打ってもらい、得た金を折半する。

自分の読みに絶対の自信があることを示すため、もし高設定がツモれなかったら負け金は優司が全額負担する。

これにより、相手も優司の読みを信用してくれる可能性が高まると考えたのだ。

これが、優司の考えた計画の全貌だった。

優司は、元々超理論派の人間。
当然、「ヒキ」などというものは信じていなかった。
「大数の法則」により、試行回数を増やせば確率は収束すると信じきっていた。

しかし、あまりの自分のヒキ弱ぶりに、ついつい「ヒキは存在する」という概念が染み込んでしまい、こんな計画を立てるに至ったのである。



誘いに簡単に応じて素直に列から離れ、優司の話に聞き入る藤田。

すべてを説明され、藤田は素直にこの提案を承諾した。

「おお! じゃあ話に乗ってくれるんだね?」

「ああ、いいよ。悪い話じゃなさそうだし。だって設定6を掴めなくて負けたら、負けた分を返してくれるんだろ?」

「もちろん! 台読みには自信があるからさ、そこは任してよ。6がツモれずに負け、っていう時は、全額俺が負け金を負担する。そのかわり、勝ったら勝ち金を折半ってのも忘れないでくれよ」

「オッケー。どう転んでも俺に損はないんだし、ここ最近負けがこんでてキツイからやらせてもらうよ」

交渉は予想以上にうまくいき、すんなり決まった。

それもそのはず。
藤田にとっては、得はあっても損はないという話なのだから、決まらない方がおかしい。

しかもこの男は、優司がたっぷりと時間をかけて探した、『ヒキは強いが立ち回りがダメな金のない若者』なのだから。
普段の負けっぷりを見るに、どこぞのお坊ちゃんでもない限り金がないのは明白だった。

「じゃあ明日、朝9時にはこのホールの前に来てくれない? そこで取って欲しい台番を言うから」

「わかった。9時な」

集合時間を決め、そのまま二人は一旦解散した。

優司は、その足で近くの喫茶店へと入っていき、一番安い飲み物を注文して空いている席に座った。

(よし……よかった……本当によかった……! これで、今のクソ貧乏な生活から脱出できる!
 あんな読みやすいホールなら、俺だったらほぼ間違いなく設定6の台を当てられる。
 で、俺が選んだ設定6濃厚台を打つのは、あのヒキの強い藤田って奴だ。これで出ないわけがない!)

気持ちは弾んでいた。

数ヶ月もの間甘んじていたこの過酷な状況を、ようやく打破できる要因が生まれたのだから、当然のことだろう。

(さて、明日は藤田に何を打たせるかな。
 やっぱ北斗だろうな。彼、北斗は特に強い印象があるし)

各ホールの状況や客の特徴などを記してあるノートを眺めながら、明日の計画を練る優司。

(早く明日にならないかな)

明るい未来が鮮明にイメージできる今の状況に、自然と顔が綻ぶ。
ここ最近感じることのできなかった、柔らかな感情に包まれていた。 
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~ 表紙

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。
恋愛 完結 ショートショート
文字数 9,943
女風体験記〜今話題の女性用風俗に行ってきたので感想載せます〜 表紙

女風体験記〜今話題の女性用風俗に行ってきたので感想載せます〜

女風に行った感想書いちゃうよ! (あくまでも私が体験したことです。全てのセラピスト様が同じ様な施術をしてるわけでは無いと思います。)
恋愛 完結 短編
文字数 10,166
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか... 表紙

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。
青春 完結 短編
文字数 11,294
百合ランジェリーカフェにようこそ! 表紙

百合ランジェリーカフェにようこそ!

 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
青春 連載中 長編 R15
文字数 59,023
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。 表紙

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。
恋愛 完結 短編 R15
文字数 1,856
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。 表紙

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
青春 連載中 長編 R15
文字数 31,050
還暦の性 若い彼との恋愛模様 表紙

還暦の性 若い彼との恋愛模様

還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話
恋愛 完結 短編
文字数 12,614
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。 表紙

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ファンタジー 完結 長編 R15
文字数 564,689