ゴーストスロッター

クランキー

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【第3章】

■第31話 : 「これが俺の生きる道」

「俺、決めたよ!
 随分悩んだけど、やっぱり、しばらくの間はパチスロ勝負を生業としてみるよ!」

溜まり場となっているいつもの飲み屋、『串丸』。

この店で、日高・真鍋・ヒデの3人に向かって、突如として自分の決意を表明した優司。

時は2004年7月15日。
つまり、真鍋との勝負が終わった3日後のことだった。

優司のこの言葉を聞き、日高が嬉しそうに喋りだす。

「お? やっとスロを続ける気になったか!
 俺らとしては、お前がスロをやめちまうんじゃないかって心配してたとこなんだよ。
 なぁ、遼介?」

日高同様、真鍋も満面の笑みで嬉しそうにしている。

「本当だぜ!
 夏目からスロを取っちまったら何も残らねぇっつーのに、お前ときたら全然やる気がねぇんだもんな!
 やっぱお前には、スロが似合ってんよ!」

「な、何も残らないって……そこまで言う……?
 相変わらず口が悪いよな、真鍋は……」

「ハッハッハ! まあ気にすんなって! 今に始まったことじゃねぇさ!」

ただただ苦笑いの優司。
日高とヒデは、そんな二人のやりとりをいたずらっぽく眺めていた。



今はこうして吹っ切って明るく振舞えている優司だが、実はこの結論に至るまでの間は悩みに悩んでいた。

自分のヒキでは、到底スロで普通に喰っていくことはできない。
もしスロで生き残っていくとしたら、今までのような設定読みのスロ勝負で食いつないでいくしかない、と。

とはいえ、所詮勝負など水物。
ちょっとした不運であっさりと勝敗が入れ違ってしまう。

本来慎重な性格である優司には、そんな不安定な生活をしようとする大胆さはなかなか持てなかった。

そうなると優司には「スロ引退」しかなくなる。
普通に打って喰えない以上、スロで生活することなどできないのだから。

しかし、この「スロを引退する」というのも、優司にとってはありえない選択。

ここまで精通し、ここまで必死になって情報を集めたものをあっさりと捨てられるわけがない。
器用貧乏な優司が、初めて「極めた」と言ってもいいようなジャンルなのだから。

散々悩んだ結果、ある一つの結論に辿り着いた。

それは、自分の中で一つの『決め事』を作り、そのルールの中でスロ勝負生活を送ること。

その『決め事』とは……



「でさ、俺がスロ勝負生活を始めるにあたって、絶対に守ろうと決めてることがあるんだ。
 それは、『一度でも勝負に負けたらスロから完全に足を洗う』っていうことなんだけど」

すぐさま真鍋が聞き返す。

「あん? 1回負けたくらいで即引退?
 いくらなんでもそりゃ無茶じゃないか?
 どんなに立ち回りのうまい奴だって、100%設定6に座ることなんて不可能なんだぜ」

「うん、それはわかってるよ。
 でもさ、真鍋にも言われたことだけど、やっぱ俺って追い込まれなきゃ全力出し切れないタイプだと思うんだ。
 だから、自ら後がない状態にでもしておかないと、到底やってけないと思う。
 確かに設定なんて100%読みきれるモンじゃないけどさ、そのくらい追い込んでおくくらいが、俺の場合は丁度いいんだよ」

「うーん……」

真鍋が腕組みしながら考え込む。

「もちろん、これは口先だけで言ってるわけじゃなくて、実際に負けたら本当にやめるつもりだよ。
 そのために、こうやってわざわざ宣言してるんだからさ」

軽く納得したような表情で返事をする真鍋。

「まあな。お前の場合、そんぐらいの覚悟でいた方がいいかもしれないよな。
 ……で、設定読み勝負をするための最初の相手は、誰にするつもりなんだ? アテはあるのか?」

「それなんだけど、まずはみんなに触れ回ってもらおうかと思ってんだ。
 30万を賭けて設定読み勝負をしたがってるヤツがいる、って感じで。
 小島なんかは、頼まなくたって広めてくれそうだし」

優司のこの言葉に、日高が口を開く。

「でもよ、そんなんで簡単に勝負相手が見つかるもんなのか?
 30万って額は、普通のサラリーマンの初任給を余裕で上回る額なんだぞ?」

「いや、大丈夫だよ。
 パチスロにどっぷり浸かって生活してる人間ってのは、自分のウデとか存在を周りに認めさせたがってる人間が多いと思うんだ。
 なにしろパチスロには、公的に自分の力を示すものが何もないじゃん? 資格とかさ」

「うーん……」

納得したようなしていないような顔で、日高が唸る。

すると、黙って聞いていたヒデが話に入ってきた。

「うん、夏目の言うとおりかもね。
 自分の力を周りに示したい、って考えてる人間はちょこちょこいると思うよ」

ヒデの言葉を聞き、俄然勢いを増す優司。

「でしょっ?
 だからさ、しばらくの間は不自由なくやってけると思うんだ。
 勝ち続けられればの話だけどね」

日高は大きくうなずき、声を張り上げて喋りだした。

「なるほどな! わかった!
 じゃあ、とりあえずはそれでいこうか!
 まずは、俺らで相手を探してやるよ。
 遼介、ヒデ、協力してやろうぜ!」

「ああ、俺はかまわねぇぜ。つーかむしろ賛成だな。いろいろあたってみるよ」

真鍋が即答する。

そしてヒデもそれに続く。

「俺も探してみるよ。まあ、夏目の言う通り、お喋りな小島に任せておけば勝手に広まりそうだけどね」

皆に賛同され、優司は嬉しさを隠せない。

「ありがとう、ホント助かる!
 じゃあ俺は、対戦相手が決まるのを楽しみに待つことにするよ。
 もちろん、俺の方でも探してみるけどさ。
 で、俺は勝ち続けるから! 設定読みで俺に勝てる奴がいるならかかってこいって感じだよ!」

酒の勢いもあってか、いつも以上に強気な優司だった。



◇◇◇◇◇◇



時刻は23:30。
日高たちは明日も稼動するため、ここでお開きとなった。

解散しようとした矢先、真鍋がポケットからあるモノを取り出す。

「おい夏目、今日からコレ持っておけよ」

渡されたのは、携帯電話だった。

「え……? なんで……?」

「まあ、気にすんなよ!
 俺のグループの人間で、斉藤っつーのがいてさ、こいつが生意気にも携帯2個持っててな。
 で、そのうち1個を解約しようとしてたんだよ」

「……」

「でさ、お前は家もないわけだから、こっちから連絡が取れないだろ?
 やっぱ携帯くらい持っててくんねぇと、こっちもいろいろ不便だからさ」

「……これ、もらっていいの?」

「ああ。もちろん通話料とか基本料は自分で払ってもらうけどな! ハハハ!」

「本当にいいの? これもらっちゃって……」

「気にすんなって! 別に誰かが特別に金払ったわけじゃねぇんだから。解約されそうになってた携帯をもらってきただけだよ。
 ほら、やっぱ住所がないと、携帯の契約も面倒だろ?」

「あ、ああ……! マジで助かるよ!
 携帯くらい持っておきたいなとは思ってたんだ! ホントありがとう、真鍋!」

「いいって。気にすんなよ。
 さっきも言ったけど、誰かが自腹切ったわけじゃないんだからさ」

日高もそれに続く。

「遼介の言うとおりだぜ。
 こっちとしても、連絡が取れないのはやっぱ不便だからな」

真鍋と日高の心遣いに、感動を覚える優司。

確かに真鍋の言うとおり、誰かが自腹を切ったわけではない。
そもそもこの時代、少々型の古い携帯電話ならば無料で配布していることも多々あった。

だが、それでも優司にとっては涙が出るほどありがたかった。

携帯が一つ不要になるという時に、自分のことを思い出し、気遣ってくれたことが。

優司は、ここ最近にない幸せな日々を送ることができていた。 
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