34 / 138
【第3章】
■第34話 : パチスロ勝負、次の相手は……②
しおりを挟む
「まあ、まずはこれを見ろよ。」
そう言って日高は、自分の持ってきた地図をテーブルの上に広げた。
優司が、広げられた地図に目をやる。
その地図が何を示すものなのかは瞬時にわかった。
「これって、このへんの地図、だよね?」
「ああ、俺らが普段打ってる、このS町T駅周辺の地図だ。赤い丸をつけてあるところがホールの場所だよ」
地図には、いくつもの赤丸が記されていた。
「へぇ、こりゃわかりやすいなぁ」
「だろ?
で、見て分かるとおり、このT駅から徒歩とか原付で移動できる範囲に、ざっと20個以上のホールがある。
こんなにホールが密集してるところは他にないだろう?
この街は日本で最大のスロ激戦区なんて言われてるけど、これがその由縁だよ」
「改めて見るとすごいね。
俺もノートにまとめてるから、大体のホールの数はわかってたつもりだけど、地図上でこうやって見ると圧巻だね。こんなに多けりゃ、そりゃいろんな人間が集まってくるわけだ」
ここで真鍋が口をはさむ。
「腕に自信のあるヤツは、とりあえずこの街に来ようとするからなぁ。
ライターデビューするヤツも多いし。
スロッターとしてはやりがいのある街だぜ、ほんと」
「なるほどね。
――じゃあ日高、悪いけど説明をお願いしてもいいかな?
そのためにこの地図を持ってきてくれたんでしょ?」
「ああ、いいぜ」
日高は、自分の肩掛けバッグからボールペンを取り出し、地図を指しながら話し出した。
「まず、前も説明したと思うけど、この街では注意しなきゃいけないデカいパチスログループってのがいくつかあるんだ。
その筆頭は、神崎のグループだな」
「神崎……?」
「そうだ。彼は今や、この街のカリスマみたいなもんだからな。
勝負したところで勝ちづらい相手ってのもあるけど、下手に仕掛けると後々面倒なことにもなりそうだしよ。
あとは、『マルサン』の広瀬、『パーラー桜』の北条、ホールを問わずイベント狙いで立ち回ってる緒方、こいつらのグループもそこそこデカい。揉めると厄介だな。
……こんな感じだよな遼介?」
「まあ、俺は揉めてもかまわねぇけどな!」
日高がため息をつく。
「……聞いた俺がバカだった。
ま、コイツの言うことは気にすんなよ夏目。
下手に揉めたらマズいのは確かだから」
「な、なんでだよ!
俺、そんな間違ったこと言ったかっ?」
「うっせぇよ! お前の基準で判断すんな!」
また始まった、と思い、呆れ顔で二人の様子を見ている優司。
この二人は、一事が万事この調子だ。
仲が良いほどケンカする、それを地でいく二人の関係であった。
「まあまあ、落ち着いてよ二人とも。
要は、今挙がったグループの人間とかに下手に勝負を仕掛けるなってことでしょ?」
優司の方に向き直り、返事をする日高。
「ああ、そういうことだよ」
「オッケー、わかったよ。
俺としても、この街で長くやっていきたいからトラブルは御免だし。
今名前が挙がったような人たちは避けていくことにするよ」
「よし。わかってくれりゃいいや。
あと、ピンで打ってるヤツでも要注意なのはいるぜ。
前も軽く言ったけど、特に乾って男には間違ってもカラむなよ?
最近じゃほとんどこの街で打ってないみたいだけど、とにかくピンで打ってるヤツの中じゃ腕はピカイチだ」
「ふーん……」
「仲条、大石ってのもいる。
こいつら二人もなるべく避けた方がいい」
淡々と説明していく日高。
説明に素直に聞き入りつつ、優司は自分のノートにメモしていった。
「そっか、ありがとう!
大体わかったよ。当面避けるべき相手ってのが」
「さすが物分りがいいな。遼介とは違うぜ!」
「あ? なんだと? 言わせておけばテメェ!」
「お前がいつまでもガキみたいなこと言ってっからだろうが!」
「な、なんだとッ?」
再び始まる二人のケンカ的掛け合い。
やれやれ、となんとなく小島へ目を向けると、小島も同じような表情で苦笑していた。
「あ、そうだ。そろそろ俺の最初の相手について教えてくれよ、小島」
目が合った瞬間、先延ばしになっていた重要事項を思い出し、早速質問した。
真鍋とのやり合いを止めた日高が、優司の方に向き直った。
「おっと、そうだったよな。
今日はそれを伝えるために集まったんだっけ。
――じゃあ小島、頼むよ」
「うっす! じゃあいいッスか?」
身を乗り出す優司。「ああ、教えてくれ!」
ビールを一口流し込んでから、小島が口を開く。
「今回食いついてきた相手は、牧野っていうスロプーっス。
普段は3人とか4人でツルんで打ち回ってるヤツで、腕の方はまあ……初級者に毛が生えた程度ってところッスかね。
最近段々と勝てるようになってきて、調子に乗ってる真っ最中って感じッスよ!」
小島の話を聞き、優司はついキョトンとしてしまった。
「ふーん、そうなんだ。今の話からすると、随分と張り合いのなさそうな相手じゃん」
「ええ。夏目君なら楽勝なんじゃないかと。
とりあえず、本格的なスロ勝負生活としては初戦だし、まずはこのくらいの相手で丁度いいんじゃないッスか?」
横で聞いていた真鍋が喋りだす。
「小島の言うとおりだな。
いきなり初戦から苦戦してもつまんねぇだろ。
まずは勢いをつけとくためにも、その程度の相手の方が都合がいいんじゃねぇか?」
「まあ、そうだね!
よく考えたら俺は、負けないことが最重要なんだし。張り合いとか求めてる場合じゃなかったな。
じゃあ、その牧野って人でお願いするよ!」
「決まりッスね! 早速、連絡しときますよ」
「うん、よろしく頼むよ」
「よっしゃッ! これで決まったな!
とにかくめでたいぜこりゃッ!
ほら、乾杯だよ乾杯! ジョッキ持てよ光平、小島!
夏目、お前もほら! 当事者なんだからよ!」
話が決まったとみるや、大声で仕切りだす真鍋。
嬉しくて仕方がないといった様子だ。
「祭好きなヤツだな」と苦笑いする一方、まるで自分のことのように喜んでくれる真鍋の姿に心が温まった。
真鍋の号令とともに、4人はもう一度大きな乾杯をした。
そう言って日高は、自分の持ってきた地図をテーブルの上に広げた。
優司が、広げられた地図に目をやる。
その地図が何を示すものなのかは瞬時にわかった。
「これって、このへんの地図、だよね?」
「ああ、俺らが普段打ってる、このS町T駅周辺の地図だ。赤い丸をつけてあるところがホールの場所だよ」
地図には、いくつもの赤丸が記されていた。
「へぇ、こりゃわかりやすいなぁ」
「だろ?
で、見て分かるとおり、このT駅から徒歩とか原付で移動できる範囲に、ざっと20個以上のホールがある。
こんなにホールが密集してるところは他にないだろう?
この街は日本で最大のスロ激戦区なんて言われてるけど、これがその由縁だよ」
「改めて見るとすごいね。
俺もノートにまとめてるから、大体のホールの数はわかってたつもりだけど、地図上でこうやって見ると圧巻だね。こんなに多けりゃ、そりゃいろんな人間が集まってくるわけだ」
ここで真鍋が口をはさむ。
「腕に自信のあるヤツは、とりあえずこの街に来ようとするからなぁ。
ライターデビューするヤツも多いし。
スロッターとしてはやりがいのある街だぜ、ほんと」
「なるほどね。
――じゃあ日高、悪いけど説明をお願いしてもいいかな?
そのためにこの地図を持ってきてくれたんでしょ?」
「ああ、いいぜ」
日高は、自分の肩掛けバッグからボールペンを取り出し、地図を指しながら話し出した。
「まず、前も説明したと思うけど、この街では注意しなきゃいけないデカいパチスログループってのがいくつかあるんだ。
その筆頭は、神崎のグループだな」
「神崎……?」
「そうだ。彼は今や、この街のカリスマみたいなもんだからな。
勝負したところで勝ちづらい相手ってのもあるけど、下手に仕掛けると後々面倒なことにもなりそうだしよ。
あとは、『マルサン』の広瀬、『パーラー桜』の北条、ホールを問わずイベント狙いで立ち回ってる緒方、こいつらのグループもそこそこデカい。揉めると厄介だな。
……こんな感じだよな遼介?」
「まあ、俺は揉めてもかまわねぇけどな!」
日高がため息をつく。
「……聞いた俺がバカだった。
ま、コイツの言うことは気にすんなよ夏目。
下手に揉めたらマズいのは確かだから」
「な、なんでだよ!
俺、そんな間違ったこと言ったかっ?」
「うっせぇよ! お前の基準で判断すんな!」
また始まった、と思い、呆れ顔で二人の様子を見ている優司。
この二人は、一事が万事この調子だ。
仲が良いほどケンカする、それを地でいく二人の関係であった。
「まあまあ、落ち着いてよ二人とも。
要は、今挙がったグループの人間とかに下手に勝負を仕掛けるなってことでしょ?」
優司の方に向き直り、返事をする日高。
「ああ、そういうことだよ」
「オッケー、わかったよ。
俺としても、この街で長くやっていきたいからトラブルは御免だし。
今名前が挙がったような人たちは避けていくことにするよ」
「よし。わかってくれりゃいいや。
あと、ピンで打ってるヤツでも要注意なのはいるぜ。
前も軽く言ったけど、特に乾って男には間違ってもカラむなよ?
最近じゃほとんどこの街で打ってないみたいだけど、とにかくピンで打ってるヤツの中じゃ腕はピカイチだ」
「ふーん……」
「仲条、大石ってのもいる。
こいつら二人もなるべく避けた方がいい」
淡々と説明していく日高。
説明に素直に聞き入りつつ、優司は自分のノートにメモしていった。
「そっか、ありがとう!
大体わかったよ。当面避けるべき相手ってのが」
「さすが物分りがいいな。遼介とは違うぜ!」
「あ? なんだと? 言わせておけばテメェ!」
「お前がいつまでもガキみたいなこと言ってっからだろうが!」
「な、なんだとッ?」
再び始まる二人のケンカ的掛け合い。
やれやれ、となんとなく小島へ目を向けると、小島も同じような表情で苦笑していた。
「あ、そうだ。そろそろ俺の最初の相手について教えてくれよ、小島」
目が合った瞬間、先延ばしになっていた重要事項を思い出し、早速質問した。
真鍋とのやり合いを止めた日高が、優司の方に向き直った。
「おっと、そうだったよな。
今日はそれを伝えるために集まったんだっけ。
――じゃあ小島、頼むよ」
「うっす! じゃあいいッスか?」
身を乗り出す優司。「ああ、教えてくれ!」
ビールを一口流し込んでから、小島が口を開く。
「今回食いついてきた相手は、牧野っていうスロプーっス。
普段は3人とか4人でツルんで打ち回ってるヤツで、腕の方はまあ……初級者に毛が生えた程度ってところッスかね。
最近段々と勝てるようになってきて、調子に乗ってる真っ最中って感じッスよ!」
小島の話を聞き、優司はついキョトンとしてしまった。
「ふーん、そうなんだ。今の話からすると、随分と張り合いのなさそうな相手じゃん」
「ええ。夏目君なら楽勝なんじゃないかと。
とりあえず、本格的なスロ勝負生活としては初戦だし、まずはこのくらいの相手で丁度いいんじゃないッスか?」
横で聞いていた真鍋が喋りだす。
「小島の言うとおりだな。
いきなり初戦から苦戦してもつまんねぇだろ。
まずは勢いをつけとくためにも、その程度の相手の方が都合がいいんじゃねぇか?」
「まあ、そうだね!
よく考えたら俺は、負けないことが最重要なんだし。張り合いとか求めてる場合じゃなかったな。
じゃあ、その牧野って人でお願いするよ!」
「決まりッスね! 早速、連絡しときますよ」
「うん、よろしく頼むよ」
「よっしゃッ! これで決まったな!
とにかくめでたいぜこりゃッ!
ほら、乾杯だよ乾杯! ジョッキ持てよ光平、小島!
夏目、お前もほら! 当事者なんだからよ!」
話が決まったとみるや、大声で仕切りだす真鍋。
嬉しくて仕方がないといった様子だ。
「祭好きなヤツだな」と苦笑いする一方、まるで自分のことのように喜んでくれる真鍋の姿に心が温まった。
真鍋の号令とともに、4人はもう一度大きな乾杯をした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる