ゴーストスロッター

クランキー

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【第3章】

■第39話 : 9人目の勝負相手

優司が、小島と斉藤を相手に泥酔しながらくだを巻いたあの日から、2日が経過した2004年10月17日。
時刻は17:00過ぎ。

(今日もどうせ嬉しい連絡はないんだろうな……)

優司は、ネガティブなことを考えながらホールを巡っていた。
ここ最近は、スロ勝負相手が決まらず、ただただホールデータを取る日々が続いている。

(やっぱり、広瀬と勝負したのは間違いだったのか……?)

広瀬に勝った直後こそ、スロッターとしての名誉・喜びを感じていた優司だが、その後はただただ邪魔な勲章でしかなかった。

それでも、心の底から後悔しているわけでもない。

確かに勝負相手を探すのに苦労はしているが、裏を返せば、それだけ自分が他のスロッター達に認められているということ。

自分との勝負を恐れて、誰も正面からぶつかってこようとしない。
この事実は、優司の生活にとって不自由さはあるものの、悪い気分でもなかった。
特に、プライドの高い優司にとっては。

ただ、悪い気分ではないが、「結果を残し続けてる自分がこんなに苦しむのはおかしい」という妙なイラ立ちに苛まれ、気持ち的には徐々に余裕を失くしていた。

だからこそ大酒に酔い、仲間たちに愚痴ってしまうわけだが。



◇◇◇◇◇◇



18:00。
引き続きホールデータを取り続ける優司。

(さて、と。
 今日の飲みには久々日高たちも来るみたいだし、早めに切り上げるかな)

久々といっても、会っていない期間はたかだか10日間程度。

それでも、優司にとっては「久々」だった。
今までは、週に3~4回のペースで会っていたのだから。

携帯を取り出し、時刻を確認する。
そして、もう皆集まっているのかどうかを、小島に電話して確認しようとした。

すると、その時だった。

「悪い! ちょっといいかい?」

後ろから不意に声をかけられた優司は、反射的に振り返る。
そこには、見知らぬ男たちが二人立っていた。

一人は、そこそこ背が高く、茶髪で両耳に3つずつピアスをあけ、タチの悪そうな面構えをした男。
話しかけてきた方の男だ。
もう一人は、なんとなく頼りなさげな小さい男だった。

(な、なんだ? チンピラとその舎弟みたいな感じだけど……)

怪訝な表情を浮かべる優司を見て、茶髪が話を続けた。

「そんなに構えることはねぇよ。
 俺は八尾やおってんだ。この街でスロ打って生活してんだけどさ」

「……」

「アンタ、あれだろ?
 ここ最近、いろんなヤツに設定読み勝負を吹っかけまくって、しかも全部勝っちまってるっていうルーキー君
だよな?
 確か『夏目優司』とかって名前の」

この言葉に、少しカチンときた優司。

「へえ~。恐れ入るね。この俺がルーキー扱いなんだ?
 じゃあ、そっちは何者なの?
 ちなみに俺は『八尾』なんて名前、聞いたこともないんだけどね」

日高から散々説明してもらったため、この街の有力なスロッターたちの名前は一通り覚えている。
しかし、八尾という名にまったく覚えがなかった。

「へっ、そう突っかかるなって! 別に悪気はねぇよ。
 今日はさ、ちょっと話があって来たんだ」

「話?」

「ああ。
 聞くところによると、今のアンタはスロ勝負の相手探しに困ってるらしいじゃん。
 そりゃそうだよなぁ。あの広瀬にまで勝っちまったんじゃ、30万も賭ける以上そう簡単に勝負しようなんてヤツが現れるわけないもんな」

「……」

「そりゃそうなるって
 夏目君さぁ、『加減』って言葉を知った方がいいぜ?
 適当なところで負けておけば、相手探しになんか苦労しなかったのによ。俺ならそうしたね」

「うるさいな! そんなこと、そっちには関係ないだろ?
 何が『俺ならそうした』だよ! どうせ、勝ち切る腕もないんじゃないのっ?
 そもそも、話ってなんなんだよ?
 そんなくだらない話をしにきたわけじゃないんだろ」

イラつく優司に対し、八尾はニヤつきながらふてぶてしい態度を崩さない。

「だから言ってんじゃん、突っかかるなってよ。
 本題はこれからだ」

「……じゃあ何?」

「相手いなくて困ってんだろ?
 だったら、俺と勝負しようぜ」

「えっ?」

「いや、『えっ?』じゃないだろ。
 俺と勝負しようぜって誘ってんだよ」

「マ、マジで……?
 八尾……君だっけ? ある程度名の通ってる人間ですら俺との勝負を避けるのに、アンタみたいな聞いたこともないような人間が俺と勝負して、勝てるとでも思ってんの?」

「随分言いたい放題言ってくれるねぇ。
 まあでも、確かに普通に設定読みで勝負したら分が悪いかな」

「それが分かってるなら――」

「だからさ、勝負方法を変えて欲しいんだ」

この言葉を聞いた優司は、「だろうな……」と心の中で呟いた。

「やっぱりそうくるんだ。
 過去にもそういうことを言う人はいたよ。出玉勝負なら受けてもいいって。
 でもね、俺は出玉勝負だけは絶対に受けられない。理由は――」

「知ってるよ。ヒキが凄まじく弱いんだってな。
 それを承知で、勝負方法の変更を頼んでるんだ。
 人の話は最後まで聞けって。俺は『どっちが多く出すかの勝負』がしたいだなんて一言も言ってないぜ?」

「……じゃあ、何勝負をしようって言うんだ?」

「ズバリ、『逆出玉勝負』だ」

「は? 逆出玉……?」

「そう。
 厳密に言うと『逆出玉』って表現はおかしいけどさ。
 要は、1日でどれだけ負けられるかって勝負だ。
 どうだ? これならヒキ弱は言い訳にならねぇぜ。むしろ有利になるくらいだ。
 断る理由はないよな」

ここで初めて、横で黙って聞いていた舎弟っぽい男がおそるおそる口をはさむ。

「お、お前はあの有名な、な、夏目優司なんだろ?
 こ、これで逃げたら、た、ただの臆病モンだからな!」

八尾は、相変わらずニヤニヤしながら優司を見据えている。

二人の言動と態度に、優司はたまらず頭に血をのぼらせる。

「だ、誰が逃げるかよ!
 いいよ、やるよ! むしろ望むところだ。こっちとしては、相手がいなくて困ってたわけだしね。渡りに船だよ。
 それに、逆出玉勝負だっけ? ちょこっと勝負方式をいじったくらいで俺に勝てると思うなんて甘すぎるね!」

興奮する優司の様子をものともせず、依然八尾は余裕を保ったままだった。
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