ゴーストスロッター

クランキー

文字の大きさ
51 / 138
【第3章】

■第51話 : 奇策

しおりを挟む
(こ、こりゃ決まったね。
 も、もう夏目に勝ち目はない)

優司の頭上にあるコインを見て、改めて八尾の勝利を確信する信次。

時刻は14:00。
優司の出玉は、約3000枚に達していた。

対する八尾は、投資21000円のままで出玉は150枚程度。

優司にとっては、もはや絶望を通り越して「敗北ほぼ確定」と言っても過言ではない状況。
何しろ、その差は現金にして約8万円もの開きがあるのだ。

11時の時点で既に1500枚ものコインを抱えてしまった優司だが、「こんなものは一時的な偏り」と気を取り直してガシガシ回していた。

だが、その勢いは一向に衰えなかったのである。

優司が心の中で煩悶する。

(何がどうなってるんだ……? 何をどうすれば、このコイン共はいなくなってくれるんだ……?
 一度も特訓に入らず、ここまで出玉が増えちまうなんて……)

もはや、目の焦点が定まっていない。
惰性でチンタラとレバーを叩いてはいるが、全くもって生気がない。

(このままじゃ……このままじゃ100%負ける。
 なんとかしないと…………なんとか、逆転するための策を捻り出さないと……。
 何かないのか……? 何かあるはずなんだよ……。
 いつも俺は、なんとかしてきたじゃないか……)

必死で脳内の引き出しを漁る。
だが、そう簡単に打開策が見つかるはずもない。

(……とりあえず台移動だ。この巨人はまずい。
 何度リプレイ3連がきても全然特訓に入らないから、設定1なのは濃厚だけど、波に乗りすぎてる。
 『波』なんていうオカルトワードを使いたくはないけど、その変な意地のせいでここまで出玉が増えちまったんだ。移動しなきゃ……)

移動候補機種を頭の中で浮かべていく。

(ルール上、移動は3回しかできないから、真剣に選ばなくちゃいけない。
 考えろ……考えろ……。
 どの機種へ行く? 他の巨人か?
 でも、今空いてる台の中で設定1だという確信がある台がない……。
 ダメだ! 何がなんでも1に座らないと!
 何かないのか……? 何か…………)

手を止めて、ただ考えることに集中する。
後ろで監視している信次が不思議そうに覗き込んでくる。

そんな信次の行動などお構いなしに優司は考え続けた。

そして、ようやく一つの結論を出す。

(吉宗か……?
 アレなら、一発で3000枚溶かすことも可能だ。
 ……よし、こうなったらもうしょうがない。とりあえず吉宗でいこう!)

機種の絞込みが終了し、早速席を立つ優司。

吉宗のシマはあまりピーピングしていなかったため、なんとかこの時間までのデータ履歴で設定1が濃厚だと思われる台を探そうと考えた。

後ろを振り返り、信次にことわりを入れる。

「ちょっと移動候補台を探してくる。
 別にいちいちついて来なくていいよ。すぐ戻ってくるから」

そう言って、吉宗のシマへ向かった。



◇◇◇◇◇◇



(えっ……?)

吉宗のシマに向かう途中のことだった。
優司の目に、「気になるもの」が飛び込んできた。

(そうかッ……
 そうだ! ここは『ベガス』だッ! これがあったじゃないかッ!)

そう考えるやいなや、ダッシュで元の自分の席へと戻り、約3000枚分のコインを持って移動を始めた。



◇◇◇◇◇◇



「や、八尾さんッ!」

信次が、大急ぎで八尾のもとへ走り寄ってきた。
そして、日高に聞こえないよう耳元で『ある報告』を行なった。

「た、大変です。夏目が台移動して……」

「台移動? 別にいいじゃねぇか。ルール上では、3回までOKなんだしよ」

「そ、それが、移動した先の機種が『ゴールドX』で……」

「何っ……?」

それから、二人でボソボソと喋り始めた。

その様子を黙って見ていた日高。

(……何やってんだアイツら。
 そういえば、夏目が台移動したみたいだけど、どこで打ってんだろう)

妙に気になり、一旦八尾の後ろから離れて優司を探しに行く日高。

しばらく歩き回っていると、『変則押し禁止! 発見次第出玉没収!』という張り紙がされたゴールドXのシマで、堂々と変則押しをする優司の姿があったのだ。

慌てて優司に飛びつく日高。

「そうか! そういうことかよ夏目!
 そうだよな、確かにこの店にはこれがあったんだよ!
 小島がまんまと喰らってたんだもんな!」

嬉々としている日高に対し、優司は大分落ち着いていた。

「ああ。
 AT機は完全に候補からはずしてたからすっかり忘れてたよ。
 さっきも、偶然このシマを通っただけなんだ。吉宗に移動しようとしてさ」

先ほどまではこれ以上なく焦り、絶望していた優司だったが、もう普段の冷静さを取り戻していた。

いつの間にか監視に戻ってきた信次は、二人の様子をただじっと見ているだけ。

日高に向け、さらに優司が言葉を続ける。

「さっき店員が見てたから、そろそろ上の人間が注意にきそうだよ。
 まだ勝ったわけじゃないけどさ、これで大分差を縮められるよ!」

「そっか!
 マジでよかったよ……。
 確かにまだ劣勢だけど、さっきまでの状況よりは大分前進だよな。
 一気に3000枚が没収されるんだし。
 よし、じゃあ後は頑張れよ! 俺はとりあえず八尾の監視に戻るから」

「ああ。よろしく頼むよ!」

こうして日高は、八尾のもとへ戻っていった。

優司は、再び変則押しでの消化を始めた。
あとは、店員が没収に来るのを待つのみ。

優司は思う。

(八尾との取り決めで、『機種情報不足による出玉の減少』は反則になってるけど、こういう『ホール情報不足による出玉の減少』は反則にはならない。
 俺があの張り紙を見てなかったことにすりゃいいんだ。
 そうすれば、『意図的にコインを減らそうとした行為』には当たらない。実際、今もコインは増え続けているんだからな。これくらいは全然ルール内のはずだ。『なんでもアリ』ってルールなんだし。
 ルールで決められてなきゃ、何をしてもいい。これは、八尾が自分で決めたこと。
 八尾だってそんなことくらいはわかってるはずだ。文句なんて言わせない!)

ガラガラのゴールドXのシマで、優司は自信を持って変則押しを続けた。

すると、シマのハジに一人の白シャツの男が立ち始めた。
現金の回収時などで、たまにホールへ姿を見せる男だ。

(来たッ! あの白シャツは、このホールの主任のはず。店員がチクったんだろうな。グッジョブだぜ店員!
 確か小島も、主任に出玉を没収されたって言ってたしな。
 ってことは、アイツが近藤っていう主任か)

そしてその白シャツ男は、ゆっくりと優司の方へ歩いてきた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...