ゴーストスロッター

クランキー

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【第3章】

■第52話 : 驚愕の疑惑

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(来た……来た……)

ゆっくりと歩み寄ってくる、ホール主任と思われる男。
徐々に優司との距離がつまってくる。

そして、ついにすぐ後ろまでやってきた。

当然、変則押しを続行する優司。

ゴールドXの変則押しは、毎回警告音が鳴るので非常に目立つ。
これが見過ごされる可能性は皆無に等しい。

本来ならば、他の客からの視線が気になるところだが、幸いにもゴールドXのシマ・付近のシマともに今はほとんど客がおらず、周囲の客から奇異な目で見られることは回避できていた。

ほぼ無人のシマで、声がかかるのを今か今かと待ち受けながら変則押しを続ける優司。

しかし……。

なぜか、一向に声がかからない。

おかしいと思い、後ろを振り返ってみると、なぜかそこには既にホール主任の姿はなかった。

急いであたりを見渡すと、シマの端で腕を組みながら優司の姿をじっと見ているホール主任の姿が目に入った。

そして、優司と目が合った瞬間、主任はニヤリと笑ってそのままどこかへ行ってしまったのである。

(……え? ちょ……ど……どういうことだ……?)

気付かなかったわけがない。

あれだけ大きな警告音が台から発せられていたし、そもそも一度は自分の後ろで立ち止まったのだ。
確実に気付いているはず。

優司はそう確信していた。

(ていうかあの主任、俺と目が合った瞬間に笑ったよな。
 なんで笑ったんだ……?
 なんでそんなことをする必要が……?)

イヤな予感が走る。

(いや、まさか……
 でも……。え…………?)

頭が混乱する。

(そ、そんなことあるわけ…………
 いくら八尾でも、そこまでするわけないって…………
 それじゃ、既に『勝負』じゃないって…………)

最悪の答えがじわじわと頭の中を支配していく。

(だって、そんな…………
 店の人間と組まれてたんじゃ、勝ち目なんかあるわけないじゃんか…………)

決して認めたくなかったが、ついにそれを頭に思い描いてしまった。

この瞬間、凄まじい吐き気と冷や汗が優司を襲った。



『負ける』



この言葉が、両方の耳から幻聴のように何度も何度も聞こえてくる。

(負ける……負ける……負けるのか…………?
 ……嘘だろッ? ふ、ふざけるなッ!
 なんで俺が負けなきゃいけないんだッ?)

絶望の表情から、段々と怒りの表情へと変化していった。

(そうだよッ! 俺の負けなわけがない!
 だって、店員とグルなんだぞっ?
 こんなの、どう考えたって反則だろっ?
 ふぅ~ 危ない危ない。本気で『負け』になるかと思った。冷静に考えたら、そんなわけがないんだよ。
 店員とグルであることを見抜いた時点で、俺の勝ちか、最悪再勝負だ。
 よし、今から八尾のヤツをとっちめてやるか!)

意気揚々と席を立つ優司。

すると、なぜかゴールドXのシマの端っこに、八尾と信次が二人して立っていた。

やや驚いた優司だったが、すぐさま気を取り直して、八尾たちのもとへと向かう。

(ふん、あの主任がしっかりと仕事をするかどうか見届けにきたってわけか。
 汚ない真似しやがって……。 
 さてと、どうやって論破してやろうか。
 ストレートに『店員と組んでることはわかってんだ』とでも言ってやるか!
 よし、それでいこ――)

ここでフッと冷静になる優司。

(……ちょっと待て。
 俺は、さっきからなんで『八尾が店員とグル』って決め付けてたんだっけ?
 なんでだっけ……?」

八尾たちに向かっていく足が止まる。

「……あ、そうかそうか。確か、変則押しする俺を見てニヤっと笑ったんだよな、あの主任が。
 しかも、今こうやって八尾も様子を見に来てるわけだし……。
 …………それで?)

起死回生かと思ったのも束の間、またしても顔色が変わっていく優司。

(そうだ…………。俺は何を考えてんだ…………?
 たったそれだけで…………なんの証拠もなく、八尾にねじ込むつもりだったのか俺は…………。
 そんなの、八尾は『知らない』って言い張るに決まってる。
 あの主任にしたって、わざわざ自分からゲロってくるわけない。
 そんなことしたら、下手したら背任ってことで後々面倒な問題になる。そんなの認めるわけがない。
 ……じゃあ証拠は? 八尾が明らかな不正をしてるって証拠はどこにあるんだ?)

どんどん追い詰められていく。

そう、今までの思考は、すべて優司の主観でしかないのだ。

確かに、状況証拠は揃っている。
普通に判断すれば、八尾と主任が組んでる可能性が濃厚。
店を指定したのも八尾であるし、本来没収されるはずのコインも没収されなかった。

しかし、容疑はあくまで容疑。
裁判でも、「疑わしきは罰せず」が基本方針。

つまり、8~9割方そうだろうと思われることでも、確定的な証拠がなければ有罪とはならないのだ。

ましてや、こんな場末の勝負など、すっとぼけられたら終わり。

(なんてバカなんだよ俺は……。
 なんで、勝ち誇ったような気になってたんだ……)

再び立場が、元の地点に戻ってしまった。
元の不利な立場に。

(……とりあえず、日高と相談しよう。何か良いアイデアをくれるかも)

そう考え、八尾たちの横を素通りしていき、一旦日高の元へと向かっていった。

そんな優司を、例によって余裕のニヤケ面で見送る八尾と信次だった。



◇◇◇◇◇◇



「どうしたんだよ夏目?
 うまいこと出玉没収にはありついたのか?
 つーか、なんで八尾はわざわざゴールドXのシマまで行ったんだろうな。
 よっぽど出玉没収の行方が気になったんかな?」

『ベガス』から30mほど離れたところにあるコンビニの前。
日高は、優司に呼ばれてここまで連れ出されていた。

「やばい……。まずいことになったよ日高」

「ん? まずいこと?
 なかなか変則押しが注意されないのか?」

「……いや。八尾のヤツ、ベガスの主任と組んでやがる……」

「えッ? ま、まさか…………」

「いや。ほぼ間違いないと思う。
 思いっきし変則押ししてるところをあそこの主任に見られたんだけど、平然と無視していったんだ。
 しかも、俺と目が合った時に軽く笑ったんだよ、あの主任……。
 八尾のヤツもニヤニヤしながら見てたし」

「…………」

「小島の話だと、見つかってすぐに没収されたって言ってたよね?
 それなのに、モロに見られてるのにシカトだよ?
 しかも、笑うってのはどう考えてもおかしいでしょ?」

「おかしいっつーか、ほぼ確定だろうな。
 確かに、随分とおとなしくしてるなとは思ってたんだよ、八尾の野郎。
 勝つ為にはなんでもするような奴なんだろ?
 その割には動きが少ないなって」

「ど、どうしよう……?
 なんとか、八尾の不正を問い詰める方法はないかな?
 必死で考えてんだけど、なかなか思い浮かばなくて……」

「不正?」

そう聞き返し、じっと優司を見据える日高。

「ど、どうしたんだよ日高、そんな怖い顔して?」

「夏目……」

「ん?」

「お前、ゴールドXの変則押しを始めた時にどう思った?」

日高は、厳しい表情で優司にそう問いかけた。
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