ゴーストスロッター

クランキー

文字の大きさ
54 / 138
【第3章】

■第54話 : 我慢の限界の末の暴行

「よぉ、作戦会議は終わったかい?」

ホールへ戻った日高を待っていたのは、相変わらず神経を逆撫でしてくる八尾の言葉と表情だった。

横目で日高に視線を送りつつ、ゆったりと自分の台を稼動させている。

先ほどまでは優司に対し、口では「なんでもアリだからしょうがない」とは言ったものの、当然この八尾のやり口に納得しているわけではない。

汚く、低俗な策であることには変わりないのだ。
いや、もはや策などと呼べるシロモノでもない。

「八尾。お前、こんなことしてただで済むと思うなよ……」

「ん? 何言ってんの日高君」

自分の台に座ったまま、おどけた顔で、君付けまでしておちょくりにかかる八尾。

「てめぇ……マジでいい加減にしろよ……」

「おっかねぇなぁ~。
 そんなにイライラしてると寿命が縮むぜぇ~?」

「八尾ォ…………」

「おいおい、勘弁してくれよぉ~。
 劣勢だからって俺にアタるなよぉ日高ちゃぁ~ん。
 あれ? お宅の大将はどこいったの?
 あ! わかった! トイレでシクシク泣いてたりして!」



プ ツ ン



日高は、自分の中で何かが切れたのをはっきりと自覚した。

咄嗟に右手で八尾の髪をわし掴みにし、そのまま台の盤面部分へと全力で叩きつけた。
不意を突かれた八尾は、顔面からモロに筐体へと突っ込まされた。

日高の怒号とともに、激しい衝撃音が鳴り響く。

「テメェッッ! ナメるのも大概にしろよッッ!」

何度も何度も、全力で八尾の顔面を筐体へと叩きつける日高。

必死で抵抗しようとする八尾だが、所詮座っている人間と立っている人間とでは力の入り方が違う。

座っていては、仮にどんなに力があっても、立っている人間に上から押さえつけられると抵抗しづらいものなのだ。

「ちょッ……待てッ……待てってッ…………」

叩きつけられながらも、必死で言葉を絞り出す八尾。

しかし、日高はそんな言葉に一切耳を貸さず、八尾を盤面へと叩きつけ続けた。

「や、や、やめろ! やめて!」

へっぴり腰で信次が止めに入る。
だが、それでも日高は止まらなかった。

しかし間もなく、男性店員が複数で押し寄せ、日高を強引に羽交い絞めにした。

「や、やめなさいッ! 何やってるんですかッ!」

「はぁ…………はぁ…………」

肩で息をする日高。
約1分間ほど全力で暴れたのだ。
当然息も上がる。

八尾がノソリと起き出し、日高に近寄ってくる。

「ゲホッ…………。
 はぁ……はぁ……。
 よ、よくもやってくれたな……。こりゃ完全な傷害だからな……」

「うっせぇッ! テメェがねちねちとウザったい挑発繰り返すからだろうがァッ!
 気持ちワリーんだよテメェよッ!」

「そんなことは関係ねぇな……。
 この法治国家日本ではな、挑発されたくらいじゃ暴力ってのは認められねぇんだよ、バカがッ……」

「八尾ォ……」

羽交い絞めにされたまま、まだ殴り足りないといった様子の日高。

「とにかく、おめぇらは失格な。
 ここまでやったんだから当然だよな
 ほら、俺なんて鼻血まで出てんだぜ?」

「ハァッ? 何トチ狂ったこと言ってんだよッ!」

「トチ狂ってんのはそっちだろうが!
 ここまでやっといて、何ホザいてんだこのバカが!
 テメェは、たった今犯罪者になったんだよッ! そんなもん、負けに決まってんじゃねぇかッ!」

段々と呼吸が落ち着いてくる日高。
そして、店員たちに羽交い絞めにされながら、少しトーンを落として話し出した。

「あのなぁ……。
 この勝負は、あの紙に書いてあることがすべてなんだろ?
 ルールを書いたあの紙に駄目と書かれてなけりゃ、何でもアリなんだろ?
 『暴力振るったら負け』なんて項目はどこにもなかったぜ?」

「はァ? そ、そんなもん……」

「『そんなもんは常識』だとかはヌカすなよ? 言ってる意味わかるよな?」

これは当然、店員と組んでることを指している。

八尾も、ゴールドXで出玉没収にならなかった時点で、店員と組んでいることはバレるだろうとわかっていた。
しかし、取り決め以外はなんでもアリという条件を盾に突っぱねる気でいたのだ。

「……わかったよ。まあ、しょうがねぇな。
 確かに、あの紙に書かれてなきゃなんでもアリだ。
 ……じゃあ、せめて監視役交代だ! お前は警察に引き渡す!」

「へっ! こんな面倒な監視役を受ける人間を、そんな右から左に用意できるかよ」

「ぐッ……」

「俺が退場となりゃ、その時点で勝負は無効だ。
 俺から席を蹴るんじゃねぇんだぜ? お前が俺を締め出すんだからな。
 いや、無効どころか、むしろテメェの負けだよ。お前が『なんでもなかった』とでも言やぁそれで済むのに、わざわざオオゴトにして勝負を無効にするんだからな」

八尾は、口や鼻からの出血を手で拭いながらしばらく考え込む。

店員は、いつの間にか日高に対する羽交い絞めを解いていた。

そのまま、3人の店員が二人のやりとりをジッと観察している。
もちろん、周囲の客も。

八尾は考える。

「(……どうする? ここまでされたのに、日高のバカを許しちまうのか?
 こんだけ証人もいるし、俺も実際に結構派手に出血もしてる。
 警察に引き渡しゃ、コイツは確実に傷害罪で前科一犯だ。
 ……でも、俺の目的は今日の勝負で何がなんでも勝つこと。今の流れでいけば、100%俺の勝ちなんだ)

そのまま思索に耽る八尾。

(…………しょうがねぇか)

決心し、周囲の店員たちに事情を説明しだす八尾。

「すいません、俺とコイツは友達なんです。
 ちょっとしたくだらないことで口論になっちゃって……」

バイトと思しき一人の店員が返事をする。

「そ、そうなんですか……? 随分派手でしたけど……」

「ええ。俺とコイツがやり合うといつもこうなんですよ。ついつい激しくなっちゃって。
 今日は俺がやられる側だったけど、普段は逆なんで全然いいです。
 こういうの慣れっこなんで、気にしないでください」

「……そうですか。
 お客様同士で納得されてるんでしたら、別にそれでかまいませんが……」

どう見ても日高と八尾が友人同士に見えなかった店員たちだが、店側としても「店内で暴力事件があった」という噂を立てられたくはないため、無理矢理穏便に片付けようとしていた。

「じゃあ、これで終わりにしてください。お騒がせしてすみませんでした」

そう言い残し、そのまま八尾はトイレへと向かった。
日高には目もくれず。

他の客達も、再び自分の台へ集中し始め、店員たちも本来の業務へと戻っていった。

正直なところ、「やりすぎた」と若干焦っていた日高だったが、これにて一件落着となった。

(ふぅ……。一時はどうなることかと思ったけど、なんとか収まったか。
 ……でも、俺にボコボコにされながらも勝負続行を選んだってことは、それだけ八尾は今回の勝負の勝ちを確信してるってことだろうな。さっきの反応で、主任と組んでるのも確定したし。
 クソ……。うまくいけば、この勝負自体を無効にできたかもしれなかったのに……)

暴れたところまでは衝動的だったが、その後のやりとりの最中は、なんとか勝負を無効にして優司の窮地を救おうとしていた日高。

(でも……。勝負が無効になってたら、俺は逮捕だったろうな。血が出るまで暴行したわけだし。
 もう、あいつ自身が否定しちまったんだから、今更蒸し返すことはできないだろうけど)

複雑な心境の日高だった。



◇◇◇◇◇◇



(イッテェ……畜生ッ! あの日高のクソ野郎……)

店のトイレの中。
洗面台で、顔を水で洗い流す八尾。

(耐えろ……。ここを耐えれば、それ以上の見返りがくる……。
 手段はどうあれ、とにかく『あの無敗の夏目優司に勝った男』っていう称号が手に入るんだッ……。
 その知らせを聞けば、ヒロちゃんだってきっと…………)
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話