ゴーストスロッター

クランキー

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【第3章】

■第55話 : 揺れ動く

一方、日高と八尾の揉め事など全く知らない優司。

席を離れてから30分ほど経った頃、ようやくホールへと戻ってきた。
そして、自分の監視にくるように、八尾のところにいるであろう信次を呼びに行く。

八尾のところへ着くと、すぐに異変に気付いた。

「……八尾、どうしたんだよその顔?」

「おぅ、やっと戻ってきたか。
 おら、信次! さっさと夏目の監視につけよ!」

優司の質問に答えず、ぶっきらぼうに信次に命令する八尾。

優司は仕方なく、八尾の後ろにいる日高のそばへ。

「どうしたんだよ八尾のやつ? なんであんなに顔腫らしてんの?」

「いや……まあ……いろいろあってね」

「いろいろ?」

「あとでゆっくり話すよ。
 それより、どうすんだ夏目っ? 八尾が主任と組んでんのが確定したぞ」

「なんだ、そのことか。それは、さっきから確定してたじゃん」

「まぁ……そうだけど……」

妙にサバサバしてる優司の様子に、意外そうな日高。

「なんだか、妙にさっぱりしてんな? まさか、もう勝負捨てたんじゃねぇだろうな?」

「まさか! 俺が勝負を投げ出すわけないじゃん。俺は、これで食ってくしかないんだからさ。
 ――とりあえず、ゴールドXで出玉没収してもらう方法を思いついたんだよ。だから、ちょっくら実行してくる」

「え? マ、マジかよ? 何を思いついたんだっ?」

「まあ、あとでゆっくり話すよ」

「ま、真似すんなって!」

「ハハハッ! 気付いた?」

先ほど、日高からお預けを喰らった時のセリフをそのまま返した優司。
そんなことができるほど、余裕を取り戻していた。

納得がいかない日高が、優司に問い掛ける。

「でもよ、うまいこと出玉没収までいったとして、そこからどうすんだ?
 何かいい手があんのか?
 ホールの主任と組まれてる以上、相当な方法じゃないと……」

「まあ、なんとかしてみるよ。どうなるかはわかんないけど」

言い終わるか終わらないかで、小走り気味にゴールドXのシマへと戻っていく優司。

(よし……。とりあえずやれるだけやろう。
 あとは知ったこっちゃない。最終的には運だ。どっちに『勝負運』があるか、だ)



◇◇◇◇◇◇



「や、や、八尾さんッ!」

優司の監視に付いていた信次が、またもや八尾のもとへ走り寄ってきた。

今度はなんだ、という感じで面倒くさそうに首を傾ける八尾。

「あ、あ、あの、な、夏目の3000枚の出玉が、ぼ、没収されました!」

「なんだとッ?」

この報告には、さすがに八尾も驚いた。
そして、大きな声だったため、この報告は日高にまで届いた。

(すげぇな夏目……。ホントにやりやがった……!
 あれからすぐじゃねぇか……)

驚嘆の表情のまま固まる日高。

しかし、それ以上に驚いているのが八尾だった。

「そ、そんなわけ…………」

言いかけて、慌てて途中で小声にした。
ここで「そんなわけがない」と言い張ることは、主任と組んでいることを自らバラすのと同じ事。

もはやほぼほぼバレていると分かってはいるが、やはり自分の口から認めるような発言はしたくない。

声を落とし、信次に詰め寄る。

「そんなわけねぇだろッ
 絶対に没収なんかされないようになってんだッ」

「お、俺もそう思ってました。だって、主任と組んでるんですもんね」

「……ああ。だから、そんなことありえるわけないんだよッ」

「で、でも現に…………」

八尾は、急いでポケットから携帯を取り出し、信次を置いてそのまま外へと出て行った。
もちろんコール先は、このホールの主任である近藤だった。

4コールほど鳴らしたところで近藤が電話に出た。

「はい、もしも――」

「おいッ! どうなってんだよ近藤ッ? なんで夏目の出玉を没収してんだッ?
 しっかりと前金で5万払ってんだろうがッ! いい加減な仕事してんじゃねぇぞッ?」

八尾の剣幕に臆することなく、近藤は静かに答える。

「ああ、そのことか。まあ、電話してくるだろうとは思ってたけどさ」

「いいから答えろよッ!」

「ああ、あれな……。
 やっぱ、長いこと放置すんのは無理だよ。周りの客まで苦情言い出してさ。
 『俺は昔没収されたことあんのに、なんでアイツは没収されないんだ』みたいな」

「そ、そんなもん無視しときゃ……」

「無茶言うなって。それじゃ、俺がクビになっちゃうもん」

「…………」

「まあ、そう怒るなって!
 確かに、八尾からはもう前金を貰ってるし、俺も悪いと思ってるからさ。ちゃんと良い仕事しといたよ。
 あの夏目ってヤツに、吉宗の設定1と設定6を全部教えてやったんだよ。ゴールドXでの出玉没収のせめてもの償い、とか適当なこと言ってよ」

「はぁ? それじゃ意味ねぇじゃねぇかッ! 設定1に座られて終わりだろうがッ!」

「聞けって!
 もちろん、まともに教えたんじゃねぇよ。設定1と6を逆に教えてやったんだ。
 今頃あいつ、吉宗の6に座っちまってるぜ? 設定1だと勘違いしてよ。
 ああ、あとお前にも今からメールするよ、吉宗の1と6の台番」

八尾の表情が徐々に緩んでいく。

「……なるほど、そういうことか。
 でかした! よくやってくれたよ!
 そのファインプレーに免じて、夏目の出玉没収の件はチャラにしてやる。
 勝負が終わった後、ちゃんと残りの5万も払ってやるよ」

「そりゃ助かるね~!
 ……ああ、あとさ、お前の打ってるあの巨人、設定1だって言ったけど、あれ設定2だったわ。
 まぁ順調にヘコんでたし、別にいいかと思って連絡しなかったんだけど、問題ないだろ?」

「何っ? おい、適当な仕事してんじゃねぇぞッ?」

「いや、下手に連絡取る方がヤバいと思ってさ……」

「ちっ……。まあいいや。
 幸い、特に問題はなかったからな。
 でも、今後は些細なことでも連絡しろよ?」

「ああ、わかった。
 じゃあ、残りの報酬の5万は……?」

「ちゃんと払うよ、安心しろって」

「そっかぁ~、危ねぇ危ねぇ~!
 今月、レイコちゃんにむしられすぎてさ。
 ったく、キャバ嬢ってのは金がかかっていけねぇぜ!」

「……そういう話はまた今度付き合ってやる。
 まあいいや、ご苦労さん。
 あと、この後すぐに吉宗の設定1と6の台番を俺にメールしろよ。それじゃあな」

言い終わると同時に電話を切り、途端にニヤける八尾。

(ふん、近藤のやつ、なかなか機転が利くじゃねぇか。普段は金にしか興味のないボンクラのクセによ。
 ……ま、3回しか会ったことないから、詳しくアイツを知ってるわけじゃないけどな)

今回の買収のためだけに知り合った男、近藤。
しかし、その人間が賢いか賢くないかくらいなら、数回会うだけでなんとなく察しはつく。

ほどなくして、近藤からメールが届いた。
そこには、吉宗の設定1と設定6の台番がしっかりと載っていた。

(よし、これでさらに俺の勝ちは磐石になった。
 まあ、あの出玉没収はご祝儀として認めてやるよ。こっからまた地獄を見せてやる)

台番を頭に叩き込み、すぐにメールを消す。
些細な証拠をも残さないために。

そして、不敵な笑いを浮かべながらホールへと戻っていった。
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