ゴーストスロッター

クランキー

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【第4章】

■第65話 : パチスロ勝負中毒

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前日の串丸にて――



「だから、乾に仕掛けるのはやめとけって言ってんだろ!
 何度言わせりゃ気が済むんだッ!」

日高がテーブルを叩きながら怒鳴る。

負けずに大声で応戦する優司。

「だからなんで駄目なんだよ!
 もうこうなったらしょうがないじゃんよ?
 それに、別に負ける気もしないし」

「あのなァ……
 何回も言ってるだろ?
 ちょっと前から思ってたことだけど、今のお前は自信過剰になりすぎてるんだって。
 なんで負ける気がしないなんて言葉が出てくんだよ?」

「なんでって……。
 その言葉通りの意味で、負ける気なんて全くしないからだよ!」

「答えになってないだろ……。
 昔のお前は、たとえそういう強気な発言をすることがあっても、それは自分を鼓舞しようとしてるだけで、本気で自惚れてたわけじゃない。
 それなのに最近は……」

「うるさいって!
 いくら日高にでも、そこまで細かく突っ込まれたくないね!」

「なんだとっ?
 俺はお前のことを考えて言ってやってんだぜ」

「だから余計なお世話だって! 俺は負けないから! 現に負けたことないんだからさ!」

いつまでも醜く言い争う二人。

それは、八尾に勝った直後の二人の関係からでは想像もできないような光景だった。

「おいおい……。
 もうちょっと静かな声でやれよ二人とも……。
 いくら馴染みの串丸とはいえ追い出されんぞ?」

言い争いを続ける二人の元へ、真鍋がやってきた。
元々今日は優司・日高・真鍋の3人での集まりだった。

「よぉ、遼介。ちょっとお前からも言ってやってくれよ。
 夏目のやつ、乾と勝負するっつって聞かねぇんだよ」

「乾と?」

そう言いながら真鍋は日高の横へ座り、怪訝そうな顔をしながら優司の方へ顔を向けた。

「ああ、そうだよ。
 もう他に相手もいないし、しょうがないでしょ。
 真鍋も反対するのか?」

「まぁ、そりゃ反対だろうな。
 乾とか神崎はまた別格だ。多分夏目でも勝てない。
 この街で長いこと打ってる俺らの言うことなんだから間違いねぇって。
 おとなしく聞いとけよ」 

「でも! 全然相手が決まんないじゃんよ!」

興奮する優司をなだめるように、優しい口調で語りかける真鍋。

「なぁ、思ったんだけどよ、もうそろそろいいんじゃないのか?
 前々から光平とも話しあってたんだけど、こんな勝負、いつまでも続けられるもんじゃねぇだろ?
 もう金だって充分貯まってんだろうしさ、これ以上続けるメリットなんかねぇぞ?」

「……」

しばらく黙っていた日高も入ってくる。

「そうだぞ夏目。
 どうせならこのまま『無敗』の状態でやめるって方が良くないか?
 どの道、ずっとは続けられないんだよ、こんな勝負。
 仮にだけど、乾や神崎に勝っちまうようなことがあれば、その時点で完全に終了なんだぜ?
 そうなったら、誰もこの街じゃ勝負なんて受けねぇよ」

「……そんなことは、神崎に勝ってから考えりゃいいよ」

日高が顔を歪めながら言う。

「はぁ? そんな行き当たりばったりな感じでどうすんだよ!
 つーかその前に、神崎にまで勝負吹っかけるつもりかよ?」

「わ、わるいかよ……。
 だって、せっかくここまできたんだ。そういう目標を持ったっていいだろ?
 俺はホームレスまでしながら、必死でこの街で立ち回るための地盤を掴んだんだよ!
 で、やっとここまでこれた。
 トップを狙ってみたくなるのは当然だろ!」

「……」

「家もなく、その日の食費もなく街をうろついてたあの時、俺がどれだけ苦しんでたか。
 どれだけ屈辱を味わってきたか。
 実際に体験してない君らにはわからないんだよ!」

優司の必死の言葉に、つい黙り込む二人。



しばらく沈黙が続いた後、重々しく日高が口を開く。

「……それでもやっぱり、俺たちとしては乾や神崎とやり合うのは反対だ。何もメリットなんかない」

「……」

「まだ200万円以上は楽勝で残ってるんだろ?
 だったら、とりあえず家でも借りてさ。
 それで、後は俺たちと一緒に打ちまわろうぜ!
 なぁに、負けが込んだって心配することねぇよ。俺たちとのノリ打ちでいいからさ」



日高たちの言っていることは正論だった。

そして、そのことは優司もわかっている。

『30万をかけてのパチスロ勝負』など、所詮長続きするわけがないのだ。
トップに勝ったら終わり、という天井があるのだから。

しかも、その天井は間近まで迫っているのだ。
リスクを取ってまで続行するようなことではない。



「でもさ日高……。
 なんでそんなに乾や神崎との勝負を止めるんだ?
 スロ勝負をやめるにしても、一応彼らとやり合ってからでも遅くないでしょ?」

「簡単な理由だよ。今の夏目は、もう負けられない体なんだ。負けが受け入れられないんだよ」

「え……?」

「もし勝負して負けでもしたら、お前は完全に駄目になる。
 『負けちったな~、まあいいや』で済ませられないはずだ」

「……」

「さすがに、どうなっちまうのかまでは想像できない。
 無気力な廃人みたいになっちまうのか、意地でも乾や神崎に勝ってやろうと醜く足掻くのか。
 とにかく今のお前は、スロ勝負の勝ち負けに異常なほど執着しすぎてる。
 これは、お前を一番近くで見てきた俺らだからわかることだ。
 今のお前は、一旦スロ勝負から離れて冷静になるべきなんだよ」

思わずドキッとする優司。

一見、他人による勝手な性格判断に過ぎないようだが、実はかなり的確な分析だった。

確かに、今の優司に『負け』を受け入れられる余裕などない。
負けるなど、考えただけでも吐き気がしてくる。

これが優司のリアルな感情だった。

一種の神経症にかかっているといっても過言ではない状態。
人間の精神・神経など、実に些細なことからでも狂いが生じてしまうもの。

「……わかったよ。とにかく君らは反対なんだね。
 意見としては聞いておくよ。それじゃ」

会計として数枚の千円札をテーブルに置き、席を立った。

「あっ! お、おい! 待てよッ!」

日高の呼び止める声に一切反応せず、そのまま串丸から出ていく優司。

そんな優司の姿を見送りながら、寂しそうに日高が呟く。

「遼介……。俺、間違ってんのかな……? 言い過ぎてんのかな……?」

「……いや、そんなことねぇよ。気にすんな。
 おかしいのはむしろ夏目の方だろ。
 今の夏目は、急激な自分のステータスの変化に感情がついていけてねぇんだよ。
 軽い情緒不安定みたいなモンだな。
 あと、ある種のギャンブル中毒も入ってんのかもしれねぇ。スロ勝負っつーギャンブルの」

「…………」

二人とも暗い顔をしながら、目の前にあるビールを黙ってチビチビと飲みだした。 
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