68 / 138
【第4章】
■第68話 : 女
しおりを挟む
「ゆ、優司君……? だよね……?」
不意に話しかけてきた、男連れの若い女。
いまいち状況が飲みこめない優司は、足を止めて女の顔をじっと見つめていた。
連れの男は、無表情のまま突っ立っているだけ。
だが次の瞬間、何かを思い出したかのようにみるみる優司の表情が変わっていった。
「……い、い、い、飯島ッ?」
激しく狼狽する優司。
女に向かって指をさしながら、口をぱくぱくとさせている。
「やっぱり優司君だ……!
久しぶりだね! どうしたの、こんなところでっ?」
「え……あ、あの……」
「元気にしてた?
今って何してるの? 学生?」
矢継ぎ早に質問をぶつけてくる。
もはや女の方に動揺した素振りはない。
「学生……。う、うん……。まあ、そんなとこかな」
たいした理由もなく、咄嗟に嘘をついてしまう優司。
「へぇ、そうなんだぁ。
じゃあ、あの後大学行ったんだね?」
「いや、まあ、い、いろいろだよ!」
「……?」
「そ、そんなことよりさぁ、飯島は今何してんの?
……って、あ、ゴメン! き、聞くまでもなくデートだよなぁ?
あ、ち、違う、何してるってのはその、今何してるかとかじゃなくて、その、仕事とか……」
周りから見ていて恥ずかしくなるほどの焦り方をさらす優司。
この女性は、優司の高校時代の彼女である『飯島由香』だった。
付き合っていた8ヶ月間、優司は心底惚れきっていた。
しかし、残念ながらフラれて終わってしまったのだが。
完全に体勢を立て直し、もはや平常時と変わらない冷静さを取り戻している飯島由香。
逆に、未だ冷静さのカケラも見当たらない優司。
「それにしても本当に久しぶりね!
まさか、こんなところでいきなり会うなんて……
あ、そういえば勉強の方はどう? 無事、医者にはなれそう?」
「え……?」
「あ、愚問か!
大学行ってるってことは、無事医学部に通ってるってことだもんね?
悔しいな~、私があれだけ頑張って説得しても聞いてくれなかったのに」
ひたすらあたふたしていただけの優司だったが、この質問で急に冷めた顔になっていった。
「あれ……?
ごめん、聞いちゃいけなかった?」
「いや……大丈夫だよ。
まあ、そこらへんはうまいこと適当にやってるよ。
まだ修行中ってことでさ」
「そうなんだ。いろいろ大変そうね。
でも、そりゃそうよね! お医者さんなんて、誰にでもなれる職業じゃないし。
昔は、優司君のとこみたいに開業医やってる親なんてかっこいいと思ったけど、今思うと結構プレッシャーかもね。
優司君、一人っ子だし、後継がなきゃって思いで大変だっただろうし」
「……」
「ん? どうしたの?」
「……いや、なんでもないよ!
それよりさ飯島、今デート中なんだろ? ほら、そこの彼にも悪いじゃん!
また今度ゆっくり話そうよ!」
「え? ああ……。
そっか、そうだね! じゃあ、また今度ゆっくり!」
飯島は、そう言って笑顔で男の方へ振り返った。
すると、今まで黙って様子を見ていた男が話に入ってきた。
「別に俺のことはいいんだけどね。
それよりさ、優司……君だっけ?
今の話からすると、医者の卵なんだって?
それならちょっと話したいことがあるんだけど、もしよかったら少しだけいいかな?」
それまで、ただ黙って話を聞いていた飯島由香の彼氏と思しき男。
ここで急に、優司にコンタクトを取ってきた。
その男は、長身長髪で痩せ型、首や腕にはアクセサリー類を大量に纏っていた。
優司が好かないタイプの代表格のような格好だった。
しかし、話しかけてこられたからには無視するわけにもいかない。
「え? 俺に話……?」
「うん、そんなに長引かないからさ。頼むよ優司君。」
「……まあ、別にいいけど」
なんで俺が……と思いつつも、つい承諾してしまった。
いきなりのモトカノとの遭遇による動揺がまだ収まっていなかったというのも作用していた。
「ありがとう! 助かるよ!
じゃあ、ちょっとこっちに来て。
由香、お前はそこの喫茶店で待ってて。すぐ行くから」
「ええ~? なんで私は居ちゃいけないの?」
「いや、ちょっとさ、医学関連で相談したいことがあるんだよ。
俺の友達で医大目指してるヤツがいて、それについてちょこっとね。
お前にはつまんない話だしさ。
な、頼むよ。おとなしく待っててくれって!」
「え~……? もう、しょうがないなぁ!
じゃあ一人でおとなしく待ってる代わりに、チョコパフェ頼んどいていい?
健自君のオゴリで!
たまにはオゴってよね~」
「ったく……わかったよ!
じゃあ、それでいいから、ちゃんと待っててくれよな!」
「はぁ~い! じゃあ行ってきま~す!」
男の言うことに素直に従い、近くの喫茶店へと向かう飯島。
「ふぅ、やれやれ……。
さてと、じゃあそこの公園にでも行こうか、夏目優司君」
「ああ、わかっ…………え? あれ? い、今、俺のフルネームを……?」
男は優司の言葉を無視し、スタスタと黙って公園の方に歩いていった。
不意に話しかけてきた、男連れの若い女。
いまいち状況が飲みこめない優司は、足を止めて女の顔をじっと見つめていた。
連れの男は、無表情のまま突っ立っているだけ。
だが次の瞬間、何かを思い出したかのようにみるみる優司の表情が変わっていった。
「……い、い、い、飯島ッ?」
激しく狼狽する優司。
女に向かって指をさしながら、口をぱくぱくとさせている。
「やっぱり優司君だ……!
久しぶりだね! どうしたの、こんなところでっ?」
「え……あ、あの……」
「元気にしてた?
今って何してるの? 学生?」
矢継ぎ早に質問をぶつけてくる。
もはや女の方に動揺した素振りはない。
「学生……。う、うん……。まあ、そんなとこかな」
たいした理由もなく、咄嗟に嘘をついてしまう優司。
「へぇ、そうなんだぁ。
じゃあ、あの後大学行ったんだね?」
「いや、まあ、い、いろいろだよ!」
「……?」
「そ、そんなことよりさぁ、飯島は今何してんの?
……って、あ、ゴメン! き、聞くまでもなくデートだよなぁ?
あ、ち、違う、何してるってのはその、今何してるかとかじゃなくて、その、仕事とか……」
周りから見ていて恥ずかしくなるほどの焦り方をさらす優司。
この女性は、優司の高校時代の彼女である『飯島由香』だった。
付き合っていた8ヶ月間、優司は心底惚れきっていた。
しかし、残念ながらフラれて終わってしまったのだが。
完全に体勢を立て直し、もはや平常時と変わらない冷静さを取り戻している飯島由香。
逆に、未だ冷静さのカケラも見当たらない優司。
「それにしても本当に久しぶりね!
まさか、こんなところでいきなり会うなんて……
あ、そういえば勉強の方はどう? 無事、医者にはなれそう?」
「え……?」
「あ、愚問か!
大学行ってるってことは、無事医学部に通ってるってことだもんね?
悔しいな~、私があれだけ頑張って説得しても聞いてくれなかったのに」
ひたすらあたふたしていただけの優司だったが、この質問で急に冷めた顔になっていった。
「あれ……?
ごめん、聞いちゃいけなかった?」
「いや……大丈夫だよ。
まあ、そこらへんはうまいこと適当にやってるよ。
まだ修行中ってことでさ」
「そうなんだ。いろいろ大変そうね。
でも、そりゃそうよね! お医者さんなんて、誰にでもなれる職業じゃないし。
昔は、優司君のとこみたいに開業医やってる親なんてかっこいいと思ったけど、今思うと結構プレッシャーかもね。
優司君、一人っ子だし、後継がなきゃって思いで大変だっただろうし」
「……」
「ん? どうしたの?」
「……いや、なんでもないよ!
それよりさ飯島、今デート中なんだろ? ほら、そこの彼にも悪いじゃん!
また今度ゆっくり話そうよ!」
「え? ああ……。
そっか、そうだね! じゃあ、また今度ゆっくり!」
飯島は、そう言って笑顔で男の方へ振り返った。
すると、今まで黙って様子を見ていた男が話に入ってきた。
「別に俺のことはいいんだけどね。
それよりさ、優司……君だっけ?
今の話からすると、医者の卵なんだって?
それならちょっと話したいことがあるんだけど、もしよかったら少しだけいいかな?」
それまで、ただ黙って話を聞いていた飯島由香の彼氏と思しき男。
ここで急に、優司にコンタクトを取ってきた。
その男は、長身長髪で痩せ型、首や腕にはアクセサリー類を大量に纏っていた。
優司が好かないタイプの代表格のような格好だった。
しかし、話しかけてこられたからには無視するわけにもいかない。
「え? 俺に話……?」
「うん、そんなに長引かないからさ。頼むよ優司君。」
「……まあ、別にいいけど」
なんで俺が……と思いつつも、つい承諾してしまった。
いきなりのモトカノとの遭遇による動揺がまだ収まっていなかったというのも作用していた。
「ありがとう! 助かるよ!
じゃあ、ちょっとこっちに来て。
由香、お前はそこの喫茶店で待ってて。すぐ行くから」
「ええ~? なんで私は居ちゃいけないの?」
「いや、ちょっとさ、医学関連で相談したいことがあるんだよ。
俺の友達で医大目指してるヤツがいて、それについてちょこっとね。
お前にはつまんない話だしさ。
な、頼むよ。おとなしく待っててくれって!」
「え~……? もう、しょうがないなぁ!
じゃあ一人でおとなしく待ってる代わりに、チョコパフェ頼んどいていい?
健自君のオゴリで!
たまにはオゴってよね~」
「ったく……わかったよ!
じゃあ、それでいいから、ちゃんと待っててくれよな!」
「はぁ~い! じゃあ行ってきま~す!」
男の言うことに素直に従い、近くの喫茶店へと向かう飯島。
「ふぅ、やれやれ……。
さてと、じゃあそこの公園にでも行こうか、夏目優司君」
「ああ、わかっ…………え? あれ? い、今、俺のフルネームを……?」
男は優司の言葉を無視し、スタスタと黙って公園の方に歩いていった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる