ゴーストスロッター

クランキー

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【第4章】

■第79話 : 悪の本尊

優司と広瀬が会った翌日の夜。
つまり、この日は優司と鴻上との勝負の前日――



「えーっと……。
 卵と牛乳と……あとは納豆だったよな?」

「うん。あと、ビールもなくなりそうだから、何本か買ってきてもらっていい?」

「オッケー、任せてよ!
 ついでにプリンも買ってくるよ。由香はプリンさえあればご機嫌だもんな~」

「さっすが~! わかってるね!」

「あったりまえじゃん。由香のことをこの世で誰よりもわかってるのは俺だぜ?
 ってことで、行ってくるね!」

「ホントに私は行かなくていいの? 私も一緒に行くよ?」

「いいって!
 こんな夜遅くに由香まで連れ出して、何か危ない目に遭わせちゃったりしたら悔やんでも悔やみきれないからさ。
 いいから俺に任せてよ」

「健自……。
 ホントありがとね! もう深夜だし、気をつけてね」

「大丈夫だよ。そんじゃ、おとなしく待っててね!」

「うん、行ってらっしゃい!」

飯島由香の自宅から、温かい見送りを受ける男。
もちろん、その男は鴻上だった。

「ふぅ……ったく、アホくせぇ。
 いつまでもこんなバカップルみたいな会話、やってられっかっての」

そう呟きながら、アパートの階段を駆け下りていく。

そして、家から少し離れたところまで行ったところで、おもむろに携帯を取り出した。

(さてと……。いよいよ作戦開始だ。
 この勝負が決まれば、今みたいなアホくせぇヒモ生活とはおさらばできる。
 いつまでもこんなことやってらんねぇからな。
 夏目に勝って名前が売れれば、あとはどうとでもなる)

長らく甘んじてきたヒモ生活とはいえ、鴻上もどこかのタイミングで違う生活に乗り換えなければとわかっていた。

乗り換える先がパチスロという、またもや不安定な道なのだが、そこは鴻上なりの目算があった。

(そもそも、夏目たちはやり方が下手クソなんだ。
 あれだけ名が売れてるんなら、いくらだって稼ぎようがある。
 それに比べて、やっぱあの男は凄いよな。
 おかげで俺も、しばらくはガシガシ稼いでいけそうだ!)

ほくそ笑みながら携帯電話を取り出し、『あの男』へ電話をかけ始めた。



◇◇◇◇◇◇



「あ、もしもし、土屋?
 俺、俺。鴻上」

電話の相手が、ぶっきらぼうに答える。

「ああ……鴻上か。どうした?」

「いや、ほら、あの例の計画、順調に進んでるから」

「ん……? 例の計画……?
 …………あ、ああ~! 夏目優司の件か?」

「そうそう。
 いやぁ、うまいことハマってくれたよ、アイツ!」

「そうか。ちゃんと動いてたんだな、お前」

「そりゃそうだよ~!
 あんなおいしい話、乗らないわけないじゃん!
 夏目に勝って名をあげて、そっからグループ作って打ち子集めて、その打ち子たちからの上納金でウッハウハ、なんて話聞いちゃったらさ、そりゃ乗るしかないって!
 黙ってても金が転がり込んでくるじゃん」

「……ああ、まあ、そうだな」

電話相手の土屋は、何か言いたそうにした後、面倒くさそうに通り一遍の返答をした。

そんな空気に気付かず、鴻上が勢いよく話し続ける。

「土屋の言った通り、過去に付き合ってた女を調べて、そいつをエサに勝負仕掛けたらすぐだったよ。コロっと落ちたね!
 特に『あの女も最近までは夏目に未練があった』ってセリフが効いたみたい!
 凄いよね、土屋は! このセリフでイチコロだって言ってたもんね!」

「なるほどな、そんなにうまいこといったか」

「ああ、楽勝だね!
 で、明日はいよいよ勝負だからさ。一応連絡しとこうと思って。
 本当はもっと途中経過とかも報告したかったんだけど、なんか忙しいんだろ土屋?
 『あんまり連絡するな、必要最低限にしろ』って言ってたもんね」

「……まあな。よくちゃんと守ったな。偉いよ、お前」

「へへへっ!」

「よし、じゃあうまいこといったらまた連絡しろ。
 期待してるからな」

「オッケー! 任しとけってっ!」

「……ああ、じゃあな」

言い終わると同時に、土屋はすぐに電話を切った。

しかし鴻上はなんら気にせず、近い将来訪れるであろう自分の豪遊している姿を思い描きつつ、一人でニヤけていた。

(へへ、これで女に気を使う生活からはオサラバだ。
 逆に、女に気を使わせるだけのハッピーな生活が待ってるんだ!)



◇◇◇◇◇◇



「土屋、誰からだったんだ?」

とある居酒屋で、土屋の正面に座りながら電話が終わるのを待っていた男が、待ちかねていたように話しかけた。

「ああ、今のやつか?
 いちいち覚える必要もねぇよ。鴻上っつーアホだ」

「鴻上?」

「ああ。たまたま俺の高校の時の同級生でな。
 なんか妙にキザったらしくて、クラスの男どもから嫌われてたヤツだよ。
 一部の女からはなぜか人気があったけどな」

「ふーん。
 で、そいつがなんで土屋に電話なんか掛けてきてんだ?」

「ほら、あれだよ。
 例の、T駅周辺への再進出。
 やっぱ、あのスロ激戦区はこのまま放っておくのは勿体無いからな」

「えっ? そんな大事な件を他のヤツに任せてんのかっ?」

「落ち着けよ丸島。
 任せてんじゃなくて、ダメモトで勝手にやらせてんだよ。
 俺も偶然知ったんだけどよ、その鴻上ってヤツ、たまたまあのT駅周辺を根城に生活しててな。しかもヒモとして。
 そんなら女の扱いは上手いだろうってことでよ、夏目の昔の女でも調べて、そいつを籠絡してからエサとして利用すれば、夏目優司を手玉に取ることができるだろ?
 そのための方法をあいつに伝えておいたんだよ」

「へぇ。
 そういや土屋、前からやたら夏目にこだわってるなぁ」

「やっぱ、あの街への再進出を目指す上で、夏目の存在は無視できないだろ。
 神崎の時の二の舞は勘弁だしな。
 そもそも、あんなバカげたスロ勝負は受けなきゃよかったんだけど、一度それで負けてる以上、こっちとしても警戒はしておきたいしな」

「まあ、そうだよな。同じ展開で防がれるってのはゴメンだ。
 ……で、その鴻上ってヤツ、うまいこといってんのか?」

「ああ。意外にも順調らしい。
 あいつの働きなんて期待せずに計画を練ってたんだけどな。
 それが成功したとしたら、かなり計画もショートカットできるぜ。
 万が一鴻上が勝てば、『夏目に勝った男』として鴻上を利用できるし、夏目の前の女もそのまま押さえときゃ夏目に協力させるのも簡単になる。一石二鳥だ 」

「でもよ、お前の口ぶりからいくと、その鴻上ってのはあんまりデキそうなヤツじゃないけど大丈夫か?」

「だから『一応やらせてるだけ』って言っただろ? 大して期待しちゃいねぇさ。基本は、元の作戦通り動くつもりだ。
 あくまでおまけだよ、鴻上は。単に俺の気まぐれでやらせただけだ。
 仮に成功したところで、あいつにはなんの旨味も与えないし。あんなバカ、邪魔なだけだしよ」

「それを聞いて安心したぜ。
 そんなヤツまで仲間として認めないといけないのかと思ってヒヤヒヤしたからな」

「見損なうなって。俺がバカなヤツを嫌いなのは知ってんだろ?」

「そうだったな。
 土屋、バカだとみなしたヤツに対しての態度、死ぬほどひどいもんな~」

「それはしょうがねぇよ。俺の性分だからさ」

「ふーん。俺みたいな善人には信じられねぇな」

丸島が、からかうように笑いながら言った。

「ったく、よく言うぜ。
 ……とにかく、急がないとな。夏目が勝手に勝負に出る前に。
 2,3日後にはもう向こうに行くぜ?」

「オッケー。人集めとくよ。
 いつもみたいに、金の方は気にしなくていいんだろ土屋?」

「ああ。俺らには優秀な財務担当がいるからな。
 金には糸目をつけずに動いていいぞ」

「吉田か。アイツの存在は本当に助かるな!」

「へっ、その吉田っつーカードを持ててるのも、俺の実力のうちだよ」

「わかってるって!
 それじゃ、来週中に攻め込めるようにバシっと準備にかかるかぁ~!」

「おう、頼んだぜ」

話がまとまり、上機嫌の土屋と丸島だった。 
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