91 / 138
【第4章】
■第91話 : 「出ない答え」と「苦しむ男」
しおりを挟む
広瀬の言葉により、意固地になっていた優司の考えが段々とほぐれてきていた。
ここだ、と感じた広瀬は、優司のためを思って畳みかける。
「そうだよ夏目。日高たちは、心から真剣に考えてくれてるんだよ。
だって、彼らが自分達だけのことを考えるなら、夏目にガンガン勝負させるはずじゃん? 面白がってさ。
で、うまいこと勝ち続ければ、夏目優司の名前を利用することだって出来るだろうし」
「……」
「とにかく、もう一度ゆっくり考えてみれば?
俺から見ても、なんでそんなにパチスロ勝負にこだわるのかはイマイチ理解できないしさ。
それほどこだわるものでもないと思うけどね。
大体もう、夏目優司の名前はこの街で浸透しまくってるよ? 超凄腕ってことで。
スロッターとしての実力を証明したいってことなら、もう充分目標は達成してるでしょ」
「それは……まあ……」
そう呟いた優司は、視線を下げ、グっと考え込んだ。
今まで、仲間内から再三再四止められてきたパチスロ勝負。
それでも、優司は折れなかった。とことんまで勝負しようとしていた。
しかし、自分よりも2つ年上で、一目も二目も置いている人間である広瀬からも同じような意見が出たことにより、段々と考えが揺らいできたのだ。
日高や真鍋たちのような友達関係とは少し違う広瀬からの言葉だからこそ、妙なフィルターがかからず素直に聞けた、という部分があった。
(俺にとって今一番大事なのは、日高や真鍋や小島やヒデたちだ。
みんなといると本当に楽しいし、いろいろ気を使わずに喋れる。
じゃあ、なんで俺はこんなに勝負にこだわってるんだ……? みんなの言うとおり、もうやめたっていいんじゃないか……?
俺がスロ勝負にさえこだわらなければ、また日高たちと仲良くやれるのに……)
焼酎グラスを持ったままうつむき、自問自答が続く。
(でもここでやめたら、やっぱり日高たちに対して多少なりとも引け目を感じることにもなる。
このまま勝負を続けても先がないんだから、ってのも、勝負を止められてる理由の一つだけど、メインの理由は『乾や神崎には敵わないから』ってことだし。
結局、俺は乾や神崎には勝てないって思われてることになる。
そんなネガティブな思いを受け入れて、またヘラヘラと友達付き合いをするなんてできるわけない……。
でも……)
思考がいつもの堂々巡りに入ってしまった。
明らかに悩んでいる様子の優司を見て、広瀬が声をかける。
「夏目はさ、頭が良いからいろいろ考えすぎるんだよ。
もっと単純に考えようぜ?
体裁とかプライドとかは無視してさ、自分が一番望むことを優先すればいいじゃん!
日高たちとまた仲良く酒飲んだりスロ打ったりしたいんだろ?
じゃあ、素直にそうすりゃいいんだよ」
「……」
「何も難しいことなんかないじゃん!
ただ、自分が一番だと思うことを優先すればいいんだけだ。簡単でしょ?」
「自分が一番だと思うこと……か……」
優司は、どこを見るでもなくボーっとしながらボソっと呟いた。
◇◇◇◇◇◇
23:30過ぎ。
時間も時間だということで、飲みを切り上げて店を出る優司と広瀬。
去り際、広瀬が優司に声をかけた。
「いろいろあると思うけどさ、そんなに考えすぎるなよ夏目!
人生一度きりなんだから、楽しくいこうよ! あんまり難しく考えないでさ!」
「うん、そうだね。
今日はありがとう! 本当にいろいろタメになったよ! それじゃ、また今度!」
「ああ、また飲もうよ! 今度は日高たちも交えてさ!」
「……うん、わかった! それじゃまた!」
こうして、二人は店の前で別れた。
◇◇◇◇◇◇
(やっぱり、やめるべきなのかなぁ、スロ勝負。
広瀬君までもがああ言うんだもんな。
変な意地なんて張らずに、素直に日高たちの意見に従って、また今まで通りの関係に戻るってのもアリなのかなぁ……)
帰り道、広瀬に言われたことを思い返しつつ歩いていた優司。
優司にとっては、何よりも大事な日高たちとの関係。
学生時代に得られなかった理想の関係が、ようやく今になって得られたのだから。
学生時代の同級生には信頼できる人間がおらず、親とも微妙な関係。
やっと出来た彼女とも、付き合い始めた頃からパチスロが原因で衝突の繰り返し。
そんな自分が、やっと得ることができた安息の場所。
自分の好きなスロの話や、くだらないバカ話に花を咲かすことが思う存分にでき、真剣な話ももちろん出来る。
そんなかけがえのない存在。
それを失うことは、優司にとって何よりも辛いことだった。
(でも……。それじゃあ、今まで俺の張ってきた意地はどうなる?
ここまで頑張ってきたスロ勝負が中途半端に終わってもいいのか?)
もう、数え切れないほどやってきた自問自答。
またそのループに陥っていた。
悶々としながらも、いつものマンガ喫茶を目指し歩く。
いつも使っているマンガ喫茶へ行くためには、優司が今歩いている、駅まで続くこの遊歩道を利用するのが一番の近道。
ベンチや自販機が至るところに設置された、なかなか雰囲気の良い遊歩道。
優司は、酔いどれながらこの道をダラダラと歩くことが好きだった。
時間も時間なので、人通りは既にまばら。
歩いているのは、優司の少し後を歩く二人連れの若い女、そして正面から向かって歩いてくる一人の若い男だけだった。
正面から来る若い男は、酔っているのか軽くふらつきながら歩いている。
しかし、そんな周りの様子など気にせず、考えに耽る優司。
(どうしようか……。もうそろそろ答えを出さないと。
いつまでもただ悩んでるだけじゃしょうがないし…… )
ひたすら悩み続ける。
するとその時だった。
向かいからやってきた若い男が、優司の目の前で大きく体勢を崩し、そのままうずくまってしまったのだ。
ここで、いろいろ考えていた優司の思考がピタリと止まり、この若い男だけに注意がいった。
(ん? な、なんだ?)
見ると、肩にかかりそうなほどの長さの黒髪を真ん中で分けた、20代中盤くらいの痩せ型・長身の男性だった。
立ち止まり、その男の様子を窺う優司。
しゃんとしていれば整っていそうなその顔が、今は苦悶の表情で歪んでいた。
どうしようかと迷っていると、後ろを歩いていた若い女二人連れは、優司と若い男を横目でチラっと見つつも、そのまま素通りしていった。
これにより、この男の周りには自分しかいないという状況に。
大きな悩みを抱えているゆえ、あまり軽々しく他人と関わる気分にもなれなかった優司だが、目の前で人が苦しんでいるこの状況で無視することはさすがにできなかった。
「あ、あの……だ、大丈夫ですか……?」
倒れこんだ男に声をかける優司。
「はぁ……ふぅ、ふぅ……」
「ど、どうしたんですか?」
「み、水を……」
うずくまっている男は、ポケットをまさぐりながら水を要求した。
「水……ですかっ? あ……じゃあ、ちょっと待っててください!」
目の前に自販機があることに気付き、男に断わりを入れた後、ダッシュで自販機へ水を買いに行った。
この時はまだ、この出会いが自分にとって大きな意味を持つとは露ほども知らなかった。
ここだ、と感じた広瀬は、優司のためを思って畳みかける。
「そうだよ夏目。日高たちは、心から真剣に考えてくれてるんだよ。
だって、彼らが自分達だけのことを考えるなら、夏目にガンガン勝負させるはずじゃん? 面白がってさ。
で、うまいこと勝ち続ければ、夏目優司の名前を利用することだって出来るだろうし」
「……」
「とにかく、もう一度ゆっくり考えてみれば?
俺から見ても、なんでそんなにパチスロ勝負にこだわるのかはイマイチ理解できないしさ。
それほどこだわるものでもないと思うけどね。
大体もう、夏目優司の名前はこの街で浸透しまくってるよ? 超凄腕ってことで。
スロッターとしての実力を証明したいってことなら、もう充分目標は達成してるでしょ」
「それは……まあ……」
そう呟いた優司は、視線を下げ、グっと考え込んだ。
今まで、仲間内から再三再四止められてきたパチスロ勝負。
それでも、優司は折れなかった。とことんまで勝負しようとしていた。
しかし、自分よりも2つ年上で、一目も二目も置いている人間である広瀬からも同じような意見が出たことにより、段々と考えが揺らいできたのだ。
日高や真鍋たちのような友達関係とは少し違う広瀬からの言葉だからこそ、妙なフィルターがかからず素直に聞けた、という部分があった。
(俺にとって今一番大事なのは、日高や真鍋や小島やヒデたちだ。
みんなといると本当に楽しいし、いろいろ気を使わずに喋れる。
じゃあ、なんで俺はこんなに勝負にこだわってるんだ……? みんなの言うとおり、もうやめたっていいんじゃないか……?
俺がスロ勝負にさえこだわらなければ、また日高たちと仲良くやれるのに……)
焼酎グラスを持ったままうつむき、自問自答が続く。
(でもここでやめたら、やっぱり日高たちに対して多少なりとも引け目を感じることにもなる。
このまま勝負を続けても先がないんだから、ってのも、勝負を止められてる理由の一つだけど、メインの理由は『乾や神崎には敵わないから』ってことだし。
結局、俺は乾や神崎には勝てないって思われてることになる。
そんなネガティブな思いを受け入れて、またヘラヘラと友達付き合いをするなんてできるわけない……。
でも……)
思考がいつもの堂々巡りに入ってしまった。
明らかに悩んでいる様子の優司を見て、広瀬が声をかける。
「夏目はさ、頭が良いからいろいろ考えすぎるんだよ。
もっと単純に考えようぜ?
体裁とかプライドとかは無視してさ、自分が一番望むことを優先すればいいじゃん!
日高たちとまた仲良く酒飲んだりスロ打ったりしたいんだろ?
じゃあ、素直にそうすりゃいいんだよ」
「……」
「何も難しいことなんかないじゃん!
ただ、自分が一番だと思うことを優先すればいいんだけだ。簡単でしょ?」
「自分が一番だと思うこと……か……」
優司は、どこを見るでもなくボーっとしながらボソっと呟いた。
◇◇◇◇◇◇
23:30過ぎ。
時間も時間だということで、飲みを切り上げて店を出る優司と広瀬。
去り際、広瀬が優司に声をかけた。
「いろいろあると思うけどさ、そんなに考えすぎるなよ夏目!
人生一度きりなんだから、楽しくいこうよ! あんまり難しく考えないでさ!」
「うん、そうだね。
今日はありがとう! 本当にいろいろタメになったよ! それじゃ、また今度!」
「ああ、また飲もうよ! 今度は日高たちも交えてさ!」
「……うん、わかった! それじゃまた!」
こうして、二人は店の前で別れた。
◇◇◇◇◇◇
(やっぱり、やめるべきなのかなぁ、スロ勝負。
広瀬君までもがああ言うんだもんな。
変な意地なんて張らずに、素直に日高たちの意見に従って、また今まで通りの関係に戻るってのもアリなのかなぁ……)
帰り道、広瀬に言われたことを思い返しつつ歩いていた優司。
優司にとっては、何よりも大事な日高たちとの関係。
学生時代に得られなかった理想の関係が、ようやく今になって得られたのだから。
学生時代の同級生には信頼できる人間がおらず、親とも微妙な関係。
やっと出来た彼女とも、付き合い始めた頃からパチスロが原因で衝突の繰り返し。
そんな自分が、やっと得ることができた安息の場所。
自分の好きなスロの話や、くだらないバカ話に花を咲かすことが思う存分にでき、真剣な話ももちろん出来る。
そんなかけがえのない存在。
それを失うことは、優司にとって何よりも辛いことだった。
(でも……。それじゃあ、今まで俺の張ってきた意地はどうなる?
ここまで頑張ってきたスロ勝負が中途半端に終わってもいいのか?)
もう、数え切れないほどやってきた自問自答。
またそのループに陥っていた。
悶々としながらも、いつものマンガ喫茶を目指し歩く。
いつも使っているマンガ喫茶へ行くためには、優司が今歩いている、駅まで続くこの遊歩道を利用するのが一番の近道。
ベンチや自販機が至るところに設置された、なかなか雰囲気の良い遊歩道。
優司は、酔いどれながらこの道をダラダラと歩くことが好きだった。
時間も時間なので、人通りは既にまばら。
歩いているのは、優司の少し後を歩く二人連れの若い女、そして正面から向かって歩いてくる一人の若い男だけだった。
正面から来る若い男は、酔っているのか軽くふらつきながら歩いている。
しかし、そんな周りの様子など気にせず、考えに耽る優司。
(どうしようか……。もうそろそろ答えを出さないと。
いつまでもただ悩んでるだけじゃしょうがないし…… )
ひたすら悩み続ける。
するとその時だった。
向かいからやってきた若い男が、優司の目の前で大きく体勢を崩し、そのままうずくまってしまったのだ。
ここで、いろいろ考えていた優司の思考がピタリと止まり、この若い男だけに注意がいった。
(ん? な、なんだ?)
見ると、肩にかかりそうなほどの長さの黒髪を真ん中で分けた、20代中盤くらいの痩せ型・長身の男性だった。
立ち止まり、その男の様子を窺う優司。
しゃんとしていれば整っていそうなその顔が、今は苦悶の表情で歪んでいた。
どうしようかと迷っていると、後ろを歩いていた若い女二人連れは、優司と若い男を横目でチラっと見つつも、そのまま素通りしていった。
これにより、この男の周りには自分しかいないという状況に。
大きな悩みを抱えているゆえ、あまり軽々しく他人と関わる気分にもなれなかった優司だが、目の前で人が苦しんでいるこの状況で無視することはさすがにできなかった。
「あ、あの……だ、大丈夫ですか……?」
倒れこんだ男に声をかける優司。
「はぁ……ふぅ、ふぅ……」
「ど、どうしたんですか?」
「み、水を……」
うずくまっている男は、ポケットをまさぐりながら水を要求した。
「水……ですかっ? あ……じゃあ、ちょっと待っててください!」
目の前に自販機があることに気付き、男に断わりを入れた後、ダッシュで自販機へ水を買いに行った。
この時はまだ、この出会いが自分にとって大きな意味を持つとは露ほども知らなかった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる