93 / 138
【第4章】
■第93話 : ゴーストスロッター
「……バカにしてんのか?」
名乗り出たのかどうかを茶化すように言われ、少しムッとした神崎。
そう、パニック発作で倒れていたこの男。
それは、優司が最終目標に定めていた「神崎真佐雄」だった。
そして、一緒にいるのは「伊達慎也」。
学生時代からの神崎の親友で、実質的に神崎のグループを管理している人間だった。
「嘘だよ、嘘。怒るなって。
……ってかさ、なんであんなところで夏目と喋ってたんだ?」
「いや、それがさ……。
つい油断してて、久々やっちゃったんだよ、発作を。
で、水も持ってなくて、へたりこんじゃってさ」
「ああ、なるほど……。
最近なかったのになぁ? 例の資格の勉強とかで忙しかったとか?」
「うん。それもあるし、他にもいろいろ、ね。
とにかく時間がなくて、体も疲れてたし」
「そういう時は自律神経が乱れてやばい、って言ってたもんな」
「まあ、これからは気をつけるよ」
そう言った後、神崎は大きく息を吐き、少し微笑みながら呟くように話し出した。
「それにしても、気のいい人間だったなぁ、彼。俺が倒れこんでるのを見て声をかけてくれたし、水を求めたらすぐさま近くの自販機まで買いに行ってくれたし、俺の話を嫌がりもせず聞いてくれたし」
「へぇ~、そういう感じの奴なんだ?
スロ勝負仕掛けまくってる、ってイメージが強いから、もっとギスギスしたヤツなのかと思ってたよ」
「うん、俺もそう思ってた。だから、途中で気付いた時はびっくりしちゃってさ」
「なるほどね。……じゃあさ、夏目が勝負を挑んできたらどうする?」
「うーん……」
少し考え込む神崎。
「まあ……受けるかな。
あんな感じの奴だって知らなかったし、あれなら、土屋の時みたいに殺伐とした感じにならずにイベント感覚で楽しめるかもしれないじゃん?
それで夏目が満足するならやってみてもいいかも」
「おお~? そうなんだっ? 絶対受けないと思ってたのに。
やっぱ、さっき話してみて印象が変わったからか?」
「いや……。前から、受けてもいいかなとは思ってたんだ。同じような状態に陥ってる者として」
「同じような状態?」
「うん。夏目ってさ、『神懸り的なヒキ弱』ってので、まともにホールで打つことができなくなってるんだろ?」
「そういえばそんな話を聞いたな。実際どうだか知らないけど。
で、まともにホールで打つことができないから、仕方なくスロッター相手に賞金稼ぎみたいなことを始めた、って感じだろ? つまり、スロ台との勝負は諦めて、スロッターと勝負してる、と」
「…………」
「それがどうした?」
「……似てない? 俺と」
「ん?」
「理由は違えど、俺も『まともにホールでは打てない』って状態になってるじゃん」
「ああ……まあ、そうか。
真佐雄は、ホールで発作が起きてから打ちづらくなってるんだもんな。
パニック障害ってのは、発作が起こる病気じゃなくて、発作を恐れるがあまり行動が制限される、って病気だよな?」
「大雑把に言えばそんな感じだよ。
でも、勘違いされることが多いんだけどね。『パニック障害』って名前がよくないよなぁ。自制が効かなくなって暴れだす、みたいなイメージを持たれることもあるし。逆だってのに。
……まあそれはともかく、俺と夏目って同じような状況だと思わないか? まともにホールでスロが打てない、っていう部分で」
「確かにそういう意味では一緒かぁ」
「だろ? でさ、そういう奴のことを、俺の中では勝手に『ゴーストスロッター』って呼んでるんだよね」
「は? 何それ?」
「俺の造語。要は、なんらかの事情でまともにパチスロを打つことができない人間の総称、みたいな感じかな。
理由はどうであれ、結局ホールの中では俺達は幽霊みたいな存在じゃん?
普段からホールの中をウロウロはするけども、特別な事情がない限り打たない、みたいな」
「なるほどねぇ……。それで『ゴーストスロッター』かぁ」
「ま、そういうことでさ。滅多に出会えない同じ者同士、ってことで興味はあったんだ。
で、実際話してみたらあんな感じだったし、そんなあいつが『どうしても勝負したい』って言うなら、別にしてもいいかな、ってね」
「ふーん、そっか。
まあ、俺もその勝負には興味あるし、実現したら面白いかもね。神崎真佐雄 VS 夏目優司、ってか」
「どうなるかね。わかんないけどさ。
あ! そういえばさ、東口のガイオン、最近カモりすぎじゃない? 客も飛び出してるし」
「だろ? だから言ったじゃん!
あそこは店長変わってからひどいんだって! この間のイベントなんか――」
そのまま話は、何気ないホール談義・スロ談義へと移っていった。
◇◇◇◇◇◇
翌朝、優司がいつも泊まるマンガ喫茶にて。
(もう9時かぁ……早く起きないと。昨日はなかなか寝付けなかったからなぁ)
なぜ寝付けなかったのか?
もちろん、「スロ勝負」について悩んでいたからだった。
頑なに継続しようとしていたスロ勝負だったが、広瀬に本心を打ち明け、そこで真剣なアドバイスをもらったことにより、考えが揺らいできていたのだ。
しかし、一晩考えて出した答え、それは……「やはり勝負は継続する」というものだった。
(乾と神崎……。あと2回、あとたった2回なんだ!
それでケジメがつく。
ここまで来たのなら、やっぱりケジメはつけるべきだ。
で、全てやり終えて、スッキリしてからまた日高たちとツルみたい。
変なわだかまりは残したくない)
これが、優司の出した答えだった。
寝付けなかった原因の9割は、スロ勝負をどうするかということだったが、少しだけ違う原因もあった。
それは、自分の将来。
偶然遭遇した、パニック発作に苦しんでいた男、神崎。
まだ優司は、あの男が神崎だったということは知らない。
しかし、発作に苦しんでいた男と出会った、ということに大きな意味があった。
(医者……かぁ)
心療内科の開業医である父親との不仲から抵抗のある職業だったが、なんとなく意識してしまう。
しかし、すぐにそんな思いを打ち消した。
(何考えてんだ俺は! それじゃ、あのオヤジの思い通りじゃんよ!
医者なんかになってたまるかよ……。
俺は、自分で自分のやりたいことを見つけ出す。
自分の将来を、あんな親に決められてたまるかっ……。
無理矢理だろうがなんだろうが、子供にはとにかく勉強させておけばいい、としか考えていない親なんかクソだ……)
苦々しい表情を浮かべながら、改めて決意を固める優司。
それから、おもむろに体を起こし、外へ出るための準備を始めた。
名乗り出たのかどうかを茶化すように言われ、少しムッとした神崎。
そう、パニック発作で倒れていたこの男。
それは、優司が最終目標に定めていた「神崎真佐雄」だった。
そして、一緒にいるのは「伊達慎也」。
学生時代からの神崎の親友で、実質的に神崎のグループを管理している人間だった。
「嘘だよ、嘘。怒るなって。
……ってかさ、なんであんなところで夏目と喋ってたんだ?」
「いや、それがさ……。
つい油断してて、久々やっちゃったんだよ、発作を。
で、水も持ってなくて、へたりこんじゃってさ」
「ああ、なるほど……。
最近なかったのになぁ? 例の資格の勉強とかで忙しかったとか?」
「うん。それもあるし、他にもいろいろ、ね。
とにかく時間がなくて、体も疲れてたし」
「そういう時は自律神経が乱れてやばい、って言ってたもんな」
「まあ、これからは気をつけるよ」
そう言った後、神崎は大きく息を吐き、少し微笑みながら呟くように話し出した。
「それにしても、気のいい人間だったなぁ、彼。俺が倒れこんでるのを見て声をかけてくれたし、水を求めたらすぐさま近くの自販機まで買いに行ってくれたし、俺の話を嫌がりもせず聞いてくれたし」
「へぇ~、そういう感じの奴なんだ?
スロ勝負仕掛けまくってる、ってイメージが強いから、もっとギスギスしたヤツなのかと思ってたよ」
「うん、俺もそう思ってた。だから、途中で気付いた時はびっくりしちゃってさ」
「なるほどね。……じゃあさ、夏目が勝負を挑んできたらどうする?」
「うーん……」
少し考え込む神崎。
「まあ……受けるかな。
あんな感じの奴だって知らなかったし、あれなら、土屋の時みたいに殺伐とした感じにならずにイベント感覚で楽しめるかもしれないじゃん?
それで夏目が満足するならやってみてもいいかも」
「おお~? そうなんだっ? 絶対受けないと思ってたのに。
やっぱ、さっき話してみて印象が変わったからか?」
「いや……。前から、受けてもいいかなとは思ってたんだ。同じような状態に陥ってる者として」
「同じような状態?」
「うん。夏目ってさ、『神懸り的なヒキ弱』ってので、まともにホールで打つことができなくなってるんだろ?」
「そういえばそんな話を聞いたな。実際どうだか知らないけど。
で、まともにホールで打つことができないから、仕方なくスロッター相手に賞金稼ぎみたいなことを始めた、って感じだろ? つまり、スロ台との勝負は諦めて、スロッターと勝負してる、と」
「…………」
「それがどうした?」
「……似てない? 俺と」
「ん?」
「理由は違えど、俺も『まともにホールでは打てない』って状態になってるじゃん」
「ああ……まあ、そうか。
真佐雄は、ホールで発作が起きてから打ちづらくなってるんだもんな。
パニック障害ってのは、発作が起こる病気じゃなくて、発作を恐れるがあまり行動が制限される、って病気だよな?」
「大雑把に言えばそんな感じだよ。
でも、勘違いされることが多いんだけどね。『パニック障害』って名前がよくないよなぁ。自制が効かなくなって暴れだす、みたいなイメージを持たれることもあるし。逆だってのに。
……まあそれはともかく、俺と夏目って同じような状況だと思わないか? まともにホールでスロが打てない、っていう部分で」
「確かにそういう意味では一緒かぁ」
「だろ? でさ、そういう奴のことを、俺の中では勝手に『ゴーストスロッター』って呼んでるんだよね」
「は? 何それ?」
「俺の造語。要は、なんらかの事情でまともにパチスロを打つことができない人間の総称、みたいな感じかな。
理由はどうであれ、結局ホールの中では俺達は幽霊みたいな存在じゃん?
普段からホールの中をウロウロはするけども、特別な事情がない限り打たない、みたいな」
「なるほどねぇ……。それで『ゴーストスロッター』かぁ」
「ま、そういうことでさ。滅多に出会えない同じ者同士、ってことで興味はあったんだ。
で、実際話してみたらあんな感じだったし、そんなあいつが『どうしても勝負したい』って言うなら、別にしてもいいかな、ってね」
「ふーん、そっか。
まあ、俺もその勝負には興味あるし、実現したら面白いかもね。神崎真佐雄 VS 夏目優司、ってか」
「どうなるかね。わかんないけどさ。
あ! そういえばさ、東口のガイオン、最近カモりすぎじゃない? 客も飛び出してるし」
「だろ? だから言ったじゃん!
あそこは店長変わってからひどいんだって! この間のイベントなんか――」
そのまま話は、何気ないホール談義・スロ談義へと移っていった。
◇◇◇◇◇◇
翌朝、優司がいつも泊まるマンガ喫茶にて。
(もう9時かぁ……早く起きないと。昨日はなかなか寝付けなかったからなぁ)
なぜ寝付けなかったのか?
もちろん、「スロ勝負」について悩んでいたからだった。
頑なに継続しようとしていたスロ勝負だったが、広瀬に本心を打ち明け、そこで真剣なアドバイスをもらったことにより、考えが揺らいできていたのだ。
しかし、一晩考えて出した答え、それは……「やはり勝負は継続する」というものだった。
(乾と神崎……。あと2回、あとたった2回なんだ!
それでケジメがつく。
ここまで来たのなら、やっぱりケジメはつけるべきだ。
で、全てやり終えて、スッキリしてからまた日高たちとツルみたい。
変なわだかまりは残したくない)
これが、優司の出した答えだった。
寝付けなかった原因の9割は、スロ勝負をどうするかということだったが、少しだけ違う原因もあった。
それは、自分の将来。
偶然遭遇した、パニック発作に苦しんでいた男、神崎。
まだ優司は、あの男が神崎だったということは知らない。
しかし、発作に苦しんでいた男と出会った、ということに大きな意味があった。
(医者……かぁ)
心療内科の開業医である父親との不仲から抵抗のある職業だったが、なんとなく意識してしまう。
しかし、すぐにそんな思いを打ち消した。
(何考えてんだ俺は! それじゃ、あのオヤジの思い通りじゃんよ!
医者なんかになってたまるかよ……。
俺は、自分で自分のやりたいことを見つけ出す。
自分の将来を、あんな親に決められてたまるかっ……。
無理矢理だろうがなんだろうが、子供にはとにかく勉強させておけばいい、としか考えていない親なんかクソだ……)
苦々しい表情を浮かべながら、改めて決意を固める優司。
それから、おもむろに体を起こし、外へ出るための準備を始めた。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話