ゴーストスロッター

クランキー

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【第4章】

■第94話 : 御子神の追随

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「おはよう。遅かったのね」

「え……?」

「何を驚いてるの? 付いていく、って言ったでしょ?」

再び乾探しの放浪を始めようとマンガ喫茶の入り口から外へ出ると、そこには御子神留衣が立っていた。

「なんでこのマンガ喫茶にいるって知ってんの……?」

「そんなの簡単よ。ちょっと調べればわかるわ」

(そっか……。この人、異常に人脈が広いんだっけ)

無言のまま納得してしまう優司。

「本当に俺に付いてくる気なの?」

「そう言ったでしょ」

「……あのさぁ、昨日も言ったけど、御子神さんほどの人がなんでこんな面倒なことするの?
 いつ出てくるともわからない俺を、朝早くからマンガ喫茶の前で待ち伏せするなんてさ。
 本当に俺に乾探しをやめさせたいんなら、わざわざこんなことする必要ないでしょ?
 鴻上の時みたいに、その筋の人に依頼するとかなんとか言って脅す、って感じでできるはずなのに。狙いは何?」

御子神は、露骨なまでに焦りの色を滲ませた。

「べ……別に狙いなんて……。
 ただ、二人の無駄な勝負を止めたいだけよ!」

「だからさ、それならわざわざこんなことしなくても、御子神さんならいろいろ方法があるでしょ、って言ってんの」

「……別にいいでしょ。私がどういう行動を取ろうと」

うつむき、複雑な顔をしている御子神を見て、優司の妄想がひた走る。

(この人……もしかしたら、俺に好意が……?
 スロに興味なさそうにしてるけど、実はバリバリ興味があって、そんなスロでの勝負で勝ちまくってる俺に惹かれてる、みたいなっ?)

しかし、すぐに冷静になる。

(……いや、それはないか。今までの流れじゃ、惚れられる要素なんてどこにもないし。
 でも……もしかして……)

感情が行ったり来たりしつつ、自然と軽くニヤけてしまう優司。
それを必死で誤魔化す。

優司ももちろん一人の男。
御子神のような美人に好かれたとなれば、嬉しくないはずがない。

しかし、御子神は全く別のことを考えていた。

(意外としつこく聞いてくるのね。
 でも、本当のことなんて恥ずかしくて言えるわけない。私が体を張って夏目優司君を止めれば、そのことが和弥にも伝わって、結果的に和弥が私に振り向いてくれるかもしれないから、なんていう子供っぽいことを……。
 和弥との勝負をやめないなら付きまとう、なんて勢いで言っちゃったけど、言っちゃった手前、やるしかないもんね。さすがにここまでする気はなかったけど……。
 こんなに頑張ってるんだから、いい加減少しは私のことを意識してくれないかな、和弥。下手に幼馴染になんかなっちゃったから、上手く進まないのかな)

お互い、悲しいまでにかけ離れたことを考えていた。



◇◇◇◇◇◇



(うわぁ……本当に付いてきてるよ……。きっちり3mくらい後ろを。
 この調子で、変な距離を保たれたままずっと付いてくる気か?
 どうせなら、隣りに来るとかしてくれればなぁ。
 こんな扱いってことは、やっぱり俺に好意なんてないんだろうなぁ……)

きっちりと一定の距離を取り、話しかけてくるでもなく、視線を送ってくるでもなく、ただただ優司の後を付いてくる御子神。

一瞬抱きかけた優司の淡い期待は、あっさりと打ち砕かれてしまった。

(まあいいや。ハナから期待なんてしてなかったし。
 それより何より、乾のことだ。
 俺は乾の顔を知らない。それ以前に、昨日の御子神の話だと、ここ最近は全く打ってないみたいだし。
 それじゃ探しようがないよな……。どうしよう……)

伏し目がちに歩きながら、考え込む優司。

(とりあえず乾の知り合いを探して、そいつに勝負のことを依頼してもらう、っていう方法しかないかな。
 でもこれをやるには、いちいち乾の知り合いかどうかをいろんな人に聞いて回らないといけないんだよなぁ。
 面倒くさいし、そもそもそう簡単にヒットするとは思えない。非効率すぎる。
 しかも、日高たちにも知られちゃう可能性が高いし。
 ……でも、なんだかんだでそれしか方法がないんだよなぁ)

悶々としながらも、T駅東口駅付近にあるホール『大和』を目指す。

まず『大和』へ行くことにした理由は、以前に乾がよく通っていたという噂を聞いたことがあるから。
あくまで噂だが。

しかし、理由はそれだけではなかった。

西口方面のホールには『エース』があるため、なるべく東口方面を中心に攻めたかったのだ。

『エース』は、日高や真鍋のホームグラウンド。
いつ遭遇するかもわからない。

ケンカをしているわけではないが、とにかく今は彼らとの接触は避けたかった。
いろいろと決着がつくまで。



御子神と一定の距離を保ったまま歩き続け、ようやく『大和』へ到着。

常宿としているマンガ喫茶からはわずか5分強という短い距離だが、ピタリと誰かに張り付かれるというのはあまり気分がよくないもの。
いつも以上に長い道のりに感じられた。

何はともあれホールへ着いたということで、ここで気合を入れなおし、早速ホールへ入って手当たり次第に乾のことを聞いてみることにした。
日高たちに知られてしまう可能性が高いし、非効率的だし、といった気の進まない手段ではあるが、現状これしか方法がないと割り切りつつ。



ホールへ入ろうとすると、男が5人ほど、入り口を塞ぐようにして溜まっていた。

男たちは優司よりも年上っぽく、いずれも高身長でガッチリとした体格の男たちだった。

(ガテン系の方々かな……? たまの休みで打ちに来てるのかなぁ。
 それにしても邪魔だな。あれじゃ、入店しようと思っても気後れしちゃうじゃんよ。
 しょうがない、一言声をかけてどいてもらうか)

そう決心し、男たちに話しかける優司。

「あの、すいません。ちょっとそこを――」

優司が喋りだした途端、5人の男は一斉に優司の方へ顔を向けた。

その視線に圧倒され、つい言葉を止めてしまう優司。

しかし次の瞬間、男達は一気に柔和な表情になり、大声を出した。

「ル、ルイさんっ!」

男達が声をかけた相手は、優司ではなく、すぐ後ろにいた御子神に対してだった。

その様子を見て、優司は反射的に振り返った。
優司の視線の先には、ニコニコしながら男達に手を振っている御子神の姿ある。

「久しぶり~! まだここでパチスロ打ってたんだ?」

御子神の問いに、この5人の中で明らかにリーダー格っぽい風体をした角刈りの男が答える。

「そうなんっすよ~! やっぱ、乾さんとの思い出のホールだし、なんとなくこのホールに溜まっちゃうんですよね~!」

(乾っ……?)

すかさず反応する優司。
しかし、まだ御子神との会話が続きそうだったので、しばらく様子を見ることにした。

「そうなんだ~。
 でも和弥、もう何ヶ月も打ちに来てないでしょ? それでもこのお店にこだわるものなの?」

「そりゃそうっすよ! ここでいろいろと乾さんから教わったし、アツいノリ打ちもしたし、とにかくここじゃなきゃダメなんっす!
 ……いや、たまにゲキアツイベントとかがあったら他も行っちゃいますけど」

「ほら~、別にこのホールじゃなくてもいいんじゃん!」

「い、いや。で、でも一番大事なのはこのホールで……」

ここで、軽く笑い合う男達と御子神。
馴れ合いムードが漂いまくっている。

そんな中、優司の顔は嬉しさでやや紅潮していた。

(こ、この男たちは乾の知り合いっ……。
 ツいてるっ! いきなり会えるなんて!
 御子神が付いてきてくれてなかったら、見過ごすところだった。本当にツいてる!
 これはもう、乾と勝負しろっていう天啓でしょ! よぉし……)

御子神たちの会話が一瞬途切れた隙をついて、優司が会話に加わろうとした。
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