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【第5章(最終章)】
■第101話 : 解離
「おい小島ァ! いい加減なこと言ってんじゃねぇぞっ?」
時は2004年12月16日。
つまり、優司が土屋たちのグループに入ってから約2週間ほどが経過した頃。
場所はいつもの串丸で、時刻は21:30頃。
飲んでいるメンバーは、日高・真鍋・ヒデ・小島の4人。
最初は日高・真鍋・ヒデの3人で飲んでいたが、つい今しがた小島が合流し4人になった。
そして小島は合流したその矢先、自分が少し前に見てしまったことを皆に告げた。
その言葉を聞いた瞬間に出た真鍋の恫喝が、先ほどのセリフ。
しかし小島は、淡々とした口調で真鍋の恫喝に対して答える。
「俺だって……違うと思いたいッスけど……。
あれは絶対土屋だったし、で、その横に歩いてたのは…………」
「夏目だった、ってのか?」
ここで日高が、落ち着いた声で確かめるように小島に問いかけた。
「……はい。間違いなく夏目君でした。
しかも、明らかに『仲間同士』って感じだったッス」
すかさず真鍋が噛みつく。
「仲間同士だぁ? なんでそんなこと言えんだよ! えぇっ?」
「だって……夏目君と土屋が親しそうに何か喋りながら歩いてて……。
あの様子は、明らかに何かを打ち合わせてるような感じだったッス。
しかも途中で、土屋が夏目君の背中を軽く叩いたりしてて、夏目君もそれに対して軽く笑ってたりしてて……」
「……」
思わず無言になってしまう日高と真鍋。
同席していたヒデも、黙り込んだまま下を向いていた。
沈黙を破り、真鍋が吐き捨てるように言い放つ。
「なんだよそれ……。
土屋がこの街に舞い戻ってきたって聞いただけでブルーだったのによ。どういうつもりなんだよ夏目は……。なんで土屋なんかの仲間に……。
土屋がどんなヤツか知ってんのかあいつは?」
「落ち着けよ遼介。
俺らは最近、夏目との連絡を完全に絶ってんだ。どんな事情があってそうなったかなんてまだわからないだろ?
何も知らない状態で勝手に怒り出すのはやめろよ」
「まあ……そうだけどよ……。
それにしたって、よりにもよってあの土屋だぜ? 光平だって、直接的に痛い目に遭ってんじゃんよ!
1年前のあの時、特に理由もなくボコボコにされたんだろ?」
日高の目を見ながら、真剣に語りかける真鍋。
小島もヒデもそのことを知っているため、黙ったまま日高の答えを待っていた。
「もう終わったことだよ。土屋のことなんてどうでもいい。
そんなことより夏目だよ。多分あいつは、あの時土屋たちが何をしたかってことを知らないと思うんだ。知ってたら、さすがに土屋なんかと組んだりはしないはずだ」
「……だよなぁ。
夏目のやつ、だいぶ追い込まれてたみたいだけど、だからといって俺達を裏切るようなマネなんかするはずないもんな。
全てを知った上で土屋と組むってことは、完全に裏切ったようなもんだし」
「俺もそう思うッス。
いくらパチスロ勝負に行き詰ってて追い込まれてるからって、人としての道をはずすような人間じゃないッス、夏目君は」
3人の意見に対し、ヒデも黙ったまま頷いた。
そんな様子を確認し、日高は少し声のトーンを上げながら喋り始めた。
「よし! それじゃ明日あたり、夏目を無理矢理にでも飲みに誘うかぁ!
酒飲みながら腹割って話し合えば、こんな問題すぐに解決すると思うんだよな。
こんなとこでウダウダ悩んでたって何も解決しないしな!」
「おお~! それいいなっ! わかりやすいよ、それ!
俺、そういうわかりやすいの大好きだ!」
「ああ~、確かに真鍋さん好きそうッスよね、そういう単純なの!」
「おい小島、お前バカにしてん――」
真鍋がやや怒っている空気を察し、咄嗟に「しまった」と感じる小島。
なんとか誤魔化そうと思い、真鍋が喋り終わらないうちに小島が言葉を続けた。
「よぉし! 明日は忙しくなるッスよぉ~!
じゃ、乾杯しましょうよ乾杯! 明日は夏目君が久々にこの串丸に飲みに来るわけだから、その前夜祭として! ねぇ、真鍋さん?」
「あ? う、うーんと……。
まあ、そうだな。
よし、景気付けに乾杯だ! ほら、光平もヒデもジョッキ持てよ!」
途端に仕切りだす真鍋。
皆、「しょうがないやつだ」と思いつつも一斉にジョッキを持ち上げ、勢いよく乾杯した。
◇◇◇◇◇◇
「お前、ホント凄いな! 的中率9割超えてんじゃん!
なんでそんなに的確に設定を読めるわけ?」
東口にある居酒屋「げんた」。
知る人ぞ知る、この街で老舗の高級創作和食居酒屋。
生ビール1杯800円という強気な価格設定で、メニューの一品一品の単価も高い。
1000円を超えるメニューがザラ。
この店で、土屋、丸島、吉田、優司、そしてもう一人、柿崎という男を加えた合計5人で飲んでいた。
なぜこんな高い店で飲んでいるのか?
理由は単純で、それだけ『例の計画』がうまく進んでいるからだった。
『例の計画』とは、優司が予想した設定6の台を、土屋が用意した大量の打ち子に打たせて荒稼ぎする、というもの。
打ち子には多少の日当を渡して、残りの金は土屋たち幹部で山分け、という形になっていた。
まだ計画が動き出して2週間ほどしか経っていないが、10人からスタートした打ち子の数も、今や20人に増えた。
たった2週間で倍になったのである。
それもこれも、優司の驚異的な設定予想の的中率にあった。
なんと、平均で90%を超えているのである。
これは、当初土屋が予測していたものよりも遥かに高い数値だった。
この事態に、ぼやぼやしている場合ではないといった感じで地元からどんどん人を呼び寄せ、この短期間で打ち子の数が倍の人数まで増えたのだった。
そして、この人数倍増に一役買ったのが、急に幹部的な扱いを受けるようになった柿崎である。
長身でガタイがよく、下あごあたりにヒゲを生やしている。
いかにも腕力がありそうで、人員調達だけでなく実質的な打ち子たちの統率も行なっていた。
おそらく暴力をちらつかせて打ち子たちを管理しているのだろう、と優司は予想していた。
もし出玉をチョロまかしたりしたらタダじゃおかない、という感じで。
あくまで予想だったが、この予想は大きく外れてはいないだろうと思っていた。
「そりゃどうも」
褒められてもあまり嬉しくない相手だが、それでもここまで手放しで絶賛されると悪い気はしない。
少しテレくさそうにしながら、優司は土屋からの賞賛に対して返事をした。
「いや、本当スゲェよ! まさかここまでデキる奴だったとはな。
俺が3歳も下の人間をこんなに褒めることなんてねぇぜ?」
実は、それまで優司は彼らの年齢を知らなかった。
特に興味もなかったし、知る必要もないだろうと思っていたから聞きもしなかったのだ。
しかし、偶然わかってしまった。
自分の3歳上ということは、23歳。
そんなに離れていたのか、と内心優司は驚いた。
年上だということは大体わかっていたが、3つも離れているとは思っていなかった。
そしてそれぞれの口ぶりから、丸島も吉田も同じくらいの年齢なのだろうと思った。
柿崎だけは、土屋たちを君付けで呼ぶので1つ2つ下かもしれない。
ここでふと優司の頭に、「他愛もない疑問」と「絶対に知りたいが聞きそびれていた疑問」の2つが浮かんだ。
酒の力もあってか、優司は躊躇なく頭に浮かんだこの2つを土屋にぶつけてみることにした。
「あのさ……ちなみに、神崎っていくつなの?」
「あん? 神崎?
あいつは俺とタメだよ。23だ」
他愛もない疑問の方はすぐに解決した。
次は、絶対に知りたいが聞きそびれていた疑問、の出番だ。
「そうなんだ。
……でさ、もう一個聞きたいことがあるんだけど、いい?」
飲み始めて1時間ほど経っており、土屋もだいぶデキ上がってきていた。
そして、優司が予想以上の働きをしていることもあってか、土屋は上機嫌で答えた。
「おお~、なんでも聞けよ! 答えてやるぜ」
「ありがとう。
じゃあ、遠慮なく聞くけど……。
土屋君って、神崎と勝負してるんでしょ? 結果負けたらしいけど、どういう勝負をしたの?」
初対面の時に聞いて以来、ずっと気になっていたことだった。
時は2004年12月16日。
つまり、優司が土屋たちのグループに入ってから約2週間ほどが経過した頃。
場所はいつもの串丸で、時刻は21:30頃。
飲んでいるメンバーは、日高・真鍋・ヒデ・小島の4人。
最初は日高・真鍋・ヒデの3人で飲んでいたが、つい今しがた小島が合流し4人になった。
そして小島は合流したその矢先、自分が少し前に見てしまったことを皆に告げた。
その言葉を聞いた瞬間に出た真鍋の恫喝が、先ほどのセリフ。
しかし小島は、淡々とした口調で真鍋の恫喝に対して答える。
「俺だって……違うと思いたいッスけど……。
あれは絶対土屋だったし、で、その横に歩いてたのは…………」
「夏目だった、ってのか?」
ここで日高が、落ち着いた声で確かめるように小島に問いかけた。
「……はい。間違いなく夏目君でした。
しかも、明らかに『仲間同士』って感じだったッス」
すかさず真鍋が噛みつく。
「仲間同士だぁ? なんでそんなこと言えんだよ! えぇっ?」
「だって……夏目君と土屋が親しそうに何か喋りながら歩いてて……。
あの様子は、明らかに何かを打ち合わせてるような感じだったッス。
しかも途中で、土屋が夏目君の背中を軽く叩いたりしてて、夏目君もそれに対して軽く笑ってたりしてて……」
「……」
思わず無言になってしまう日高と真鍋。
同席していたヒデも、黙り込んだまま下を向いていた。
沈黙を破り、真鍋が吐き捨てるように言い放つ。
「なんだよそれ……。
土屋がこの街に舞い戻ってきたって聞いただけでブルーだったのによ。どういうつもりなんだよ夏目は……。なんで土屋なんかの仲間に……。
土屋がどんなヤツか知ってんのかあいつは?」
「落ち着けよ遼介。
俺らは最近、夏目との連絡を完全に絶ってんだ。どんな事情があってそうなったかなんてまだわからないだろ?
何も知らない状態で勝手に怒り出すのはやめろよ」
「まあ……そうだけどよ……。
それにしたって、よりにもよってあの土屋だぜ? 光平だって、直接的に痛い目に遭ってんじゃんよ!
1年前のあの時、特に理由もなくボコボコにされたんだろ?」
日高の目を見ながら、真剣に語りかける真鍋。
小島もヒデもそのことを知っているため、黙ったまま日高の答えを待っていた。
「もう終わったことだよ。土屋のことなんてどうでもいい。
そんなことより夏目だよ。多分あいつは、あの時土屋たちが何をしたかってことを知らないと思うんだ。知ってたら、さすがに土屋なんかと組んだりはしないはずだ」
「……だよなぁ。
夏目のやつ、だいぶ追い込まれてたみたいだけど、だからといって俺達を裏切るようなマネなんかするはずないもんな。
全てを知った上で土屋と組むってことは、完全に裏切ったようなもんだし」
「俺もそう思うッス。
いくらパチスロ勝負に行き詰ってて追い込まれてるからって、人としての道をはずすような人間じゃないッス、夏目君は」
3人の意見に対し、ヒデも黙ったまま頷いた。
そんな様子を確認し、日高は少し声のトーンを上げながら喋り始めた。
「よし! それじゃ明日あたり、夏目を無理矢理にでも飲みに誘うかぁ!
酒飲みながら腹割って話し合えば、こんな問題すぐに解決すると思うんだよな。
こんなとこでウダウダ悩んでたって何も解決しないしな!」
「おお~! それいいなっ! わかりやすいよ、それ!
俺、そういうわかりやすいの大好きだ!」
「ああ~、確かに真鍋さん好きそうッスよね、そういう単純なの!」
「おい小島、お前バカにしてん――」
真鍋がやや怒っている空気を察し、咄嗟に「しまった」と感じる小島。
なんとか誤魔化そうと思い、真鍋が喋り終わらないうちに小島が言葉を続けた。
「よぉし! 明日は忙しくなるッスよぉ~!
じゃ、乾杯しましょうよ乾杯! 明日は夏目君が久々にこの串丸に飲みに来るわけだから、その前夜祭として! ねぇ、真鍋さん?」
「あ? う、うーんと……。
まあ、そうだな。
よし、景気付けに乾杯だ! ほら、光平もヒデもジョッキ持てよ!」
途端に仕切りだす真鍋。
皆、「しょうがないやつだ」と思いつつも一斉にジョッキを持ち上げ、勢いよく乾杯した。
◇◇◇◇◇◇
「お前、ホント凄いな! 的中率9割超えてんじゃん!
なんでそんなに的確に設定を読めるわけ?」
東口にある居酒屋「げんた」。
知る人ぞ知る、この街で老舗の高級創作和食居酒屋。
生ビール1杯800円という強気な価格設定で、メニューの一品一品の単価も高い。
1000円を超えるメニューがザラ。
この店で、土屋、丸島、吉田、優司、そしてもう一人、柿崎という男を加えた合計5人で飲んでいた。
なぜこんな高い店で飲んでいるのか?
理由は単純で、それだけ『例の計画』がうまく進んでいるからだった。
『例の計画』とは、優司が予想した設定6の台を、土屋が用意した大量の打ち子に打たせて荒稼ぎする、というもの。
打ち子には多少の日当を渡して、残りの金は土屋たち幹部で山分け、という形になっていた。
まだ計画が動き出して2週間ほどしか経っていないが、10人からスタートした打ち子の数も、今や20人に増えた。
たった2週間で倍になったのである。
それもこれも、優司の驚異的な設定予想の的中率にあった。
なんと、平均で90%を超えているのである。
これは、当初土屋が予測していたものよりも遥かに高い数値だった。
この事態に、ぼやぼやしている場合ではないといった感じで地元からどんどん人を呼び寄せ、この短期間で打ち子の数が倍の人数まで増えたのだった。
そして、この人数倍増に一役買ったのが、急に幹部的な扱いを受けるようになった柿崎である。
長身でガタイがよく、下あごあたりにヒゲを生やしている。
いかにも腕力がありそうで、人員調達だけでなく実質的な打ち子たちの統率も行なっていた。
おそらく暴力をちらつかせて打ち子たちを管理しているのだろう、と優司は予想していた。
もし出玉をチョロまかしたりしたらタダじゃおかない、という感じで。
あくまで予想だったが、この予想は大きく外れてはいないだろうと思っていた。
「そりゃどうも」
褒められてもあまり嬉しくない相手だが、それでもここまで手放しで絶賛されると悪い気はしない。
少しテレくさそうにしながら、優司は土屋からの賞賛に対して返事をした。
「いや、本当スゲェよ! まさかここまでデキる奴だったとはな。
俺が3歳も下の人間をこんなに褒めることなんてねぇぜ?」
実は、それまで優司は彼らの年齢を知らなかった。
特に興味もなかったし、知る必要もないだろうと思っていたから聞きもしなかったのだ。
しかし、偶然わかってしまった。
自分の3歳上ということは、23歳。
そんなに離れていたのか、と内心優司は驚いた。
年上だということは大体わかっていたが、3つも離れているとは思っていなかった。
そしてそれぞれの口ぶりから、丸島も吉田も同じくらいの年齢なのだろうと思った。
柿崎だけは、土屋たちを君付けで呼ぶので1つ2つ下かもしれない。
ここでふと優司の頭に、「他愛もない疑問」と「絶対に知りたいが聞きそびれていた疑問」の2つが浮かんだ。
酒の力もあってか、優司は躊躇なく頭に浮かんだこの2つを土屋にぶつけてみることにした。
「あのさ……ちなみに、神崎っていくつなの?」
「あん? 神崎?
あいつは俺とタメだよ。23だ」
他愛もない疑問の方はすぐに解決した。
次は、絶対に知りたいが聞きそびれていた疑問、の出番だ。
「そうなんだ。
……でさ、もう一個聞きたいことがあるんだけど、いい?」
飲み始めて1時間ほど経っており、土屋もだいぶデキ上がってきていた。
そして、優司が予想以上の働きをしていることもあってか、土屋は上機嫌で答えた。
「おお~、なんでも聞けよ! 答えてやるぜ」
「ありがとう。
じゃあ、遠慮なく聞くけど……。
土屋君って、神崎と勝負してるんでしょ? 結果負けたらしいけど、どういう勝負をしたの?」
初対面の時に聞いて以来、ずっと気になっていたことだった。
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