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【第4章】
■第100話 : 泡沫の未来【第4章 完】
「わりとあっさり成功したな、土屋」
土屋・丸島・吉田の3人が優司のところから去り、公園を出てからしばらく歩いた頃。
不意に丸島が土屋に話しかけた。
それに対し、得意満面で答える土屋。
「ああ、だから言っただろ?
ああいう小利口でひ弱そうな奴には、変に下手に出るより、ある程度高圧的に攻めた方が落ちやすいんだよ。
あとは、『加わることでいかに利があるか』って部分をコンコンと説いてやればいい」
「なるほど。
で、巧妙にちょいちょい嘘も入れていけば完璧、って感じだよな」
「神崎のことについてか?」
「そうそう。
あそこ、わざとああやって嘘を言ったんだろ? 『腕の立つヤツを地元から呼び寄せて立ち回らせたら、神崎が泣きついてきた』ってよ」
「もちろんわざとだ。夏目のヤツが一瞬意外そうにしてたのには焦ったけどな。
けど、すぐに信じてたから一安心だ。
あの神崎が、そんなことで泣きついてくるはずないんだけどな。
設定推測にかけては、地元から何人優秀なヤツを引っ張ってこようと神崎には勝てねぇ。悔しいけどよ」
「あいつはバケモノじみてるからなぁ。
まあでも、あそこはああいう感じで誤魔化しといて正解だよ」
「だろ? 本当のことなんて言ったら、さすがに夏目もひいちまうだろうからな。
無差別にこの街のスロッターを襲ってボコボコにしていった、なんてよ。
で、ボコったやつらに対して『二度とこの街で打つな』って脅していったんだよな。
その中には、今夏目とお友達ごっこしてる日高ってヤツも入ってたなぁ」
「ああ、いたいた! あの生意気なヤツ。
でも、さすがにそれを言ったら夏目も素直にはなびかなかったんじゃね?」
「ああ。ちょっとは苦労したと思うぜ。
だから、いちいち言葉を濁したんだ。面倒くさかったよ、ほんと」
「まあ、そういうなよ。
そのおかげで、夏目は素直にこっちに付いたんだからさ。
いや、さすがは土屋だよ! 機転が利くな!」
「まあな」
ニヤリとしながら答える土屋。
丸島は、ふっ、っと軽く笑って土屋に合わせた後、また流暢に喋りだした。
「それにしても、当時のアレは効果的だったよ。
この街のスロッターたちをジワジワといたぶっていったことが効いて、あの神崎が音をあげたんだもんな。
自分のせいで街のスロッターたちが暴力の被害を受けるってのは見過ごせない、って。
それであいつがパチスロ勝負を仕掛けてきた、と」
「そうそう。あいつは人道的な部分を重んじるからな。利用しやすい男だったよ」
「今回も、もちろんその部分をつくんだろ? 夏目との勝負を成立させるために」
「普通に申し込んで聞かない場合はな。幸い、今回も乾はいないみたいだしな。あの時みたいに。
そもそも乾のやつ、最近じゃ滅多にこの街にこないらしい」
「乾か……。ありゃ厄介なやつだったなぁ。
土屋も、あいつにはやられっぱなしだったもんな、いろいろと」
「…………」
無言のまま、黙って丸島を睨みつける土屋。
すぐにそれを察し、取り繕う丸島。
「わ、わりい……。そういうつもりで言ったわけじゃ……」
「……まあいい。
とにかく、今回は絶対に成功させるぜ丸島? ここまでうまく事が運んで、これで失敗しましたじゃ話にならないからな」
「ああ、そうだな。今度こそ大丈夫だ。
あの夏目ってやつ、パチスロの腕だけなら神崎よりも上だろ」
「そりゃそうだろ。不確定なパチスロ勝負なんてモンでバカみたいな連勝を重ねてんだ。そうでなきゃ困る。今度こそ間違いねぇよ」
土屋は、不敵な笑みを浮かべながらそう言い捨てた。
ここで、丸島が思い出したように土屋に質問をした。
「ところで、鴻上のやつはどうするんだ?
この前あいつから『失敗した』っていう連絡が来た時、『とことん追い込むから覚悟しろ』みたいなこと言ってたじゃん。本当にやるのか?」
「まさか。んなもん時間の無駄だ。脅しで言っただけだよ。
そもそも最初から期待なんてしちゃいないんだから、怒る気力もわかねぇな」
「まあ、そりゃそっか。
あんな使えないヤツと不要に関わっても何の得もないもんな」
「ああ。今は、夏目を使っての3000万円計画にしか興味がねぇ。これに全力で取り組む。
わかったな、丸島、吉田」
「ああ、わかってるって!」
勢いよく返事をする丸島。
「……うん、わかってる」
丸島とは対照的に、吉田は静かに返事をした。
◇◇◇◇◇◇
(とりあえず神崎との勝負の目処がついたとはいえ……あんなよくわからない連中と組んじゃうなんて、ちょっと軽率すぎたんじゃないか……?)
公園を出て、あてどなく彷徨う優司。
先ほどまでの出来事を頭の中で反芻しながら、釈然としないまま歩き続けていた。
(でも……とりあえず俺の目的は達成できるわけだし、ここは無理矢理にでも納得するしかないか。
こうでもしなきゃ、神崎との勝負なんて実現しないだろうし)
納得いかない部分を抱えながらも、なんとかして自分で自分を説得しようとする優司。
(これしかなかったんだ、これしか。
……でも、いくらなんでもいきなりあんな得体の知れない奴らの仲間になっちゃうなんて……どうしちゃったんだろう俺……)
追い詰めれていた精神状況だったということはわかっていたが、それにしても普段の自分からは考えられないような軽率な行動。
その点について激しく自問自答を繰り返す。
しかし、不毛な自問自答に段々と虚しさを覚え、なんとかして前向きに考えようとした。
(……ああっ! もういい! ウダウダ考えるのはやめようっ!
こういう状況になっちゃったんだから仕方がない。いつまでもネガティブに考えてても先へ進まないし。
そうだよ、もっと前向きに考えなきゃ。楽しいことを考えよう。
……そうだ、そうなんだよ! とりあえずこれで神崎との勝負の目処はついたんだ。
で、神崎に勝てば、晴れてなんの気兼ねもなく日高たちのところへ戻れるんだ!
土屋たちとは片手間にツルんで、設定推測をやりながら金を稼げばいいし、どうしてもあいつらに我慢ができなくなったらさっさと奴らから離れて、また気の合う人間とだけツルんでればいいんだ。簡単な話じゃないか!
よし、日高たちのところに戻ったら、一回断わったままお流れになってた広瀬君たちとの飲み会をやろう! 日高と真鍋とヒデと小島たち、向こうも広瀬君のグループの人を連れてきてもらって。
そうなったら、八尾が来てもいいかもな。今じゃいい思い出だしね。
日高と笑い合いながらあの日の勝負を振り返ったりするのも悪くないよな)
自然と表情が綻んでくる。
別に、非現実的なことを夢想して逃避しているわけではない。
優司としては、近い将来必ず起こるであろう事を思い描いているつもりだった。
というよりは、必ずそうなると思い込みたかった。
(いざ俺が離れたくなった時、素直に土屋が俺を手放すか、ってところだけが問題だけど……まあ、そこはなんとかするさ。
神崎との勝負が終われば、あんな奴らに用はない。デカい月収はちょっと魅力だけど、1,2ヶ月やるだけでも結構な金になるだろうし、それ以上は、あんな不快な連中と一緒に居てまで稼ぎ続けたいなんて思わない。
とりあえず1,2ヶ月くらいは組んで、デカい金額を掴んで……それで充分だ!
それだけあれば当分は喰っていけるから、それでオサラバだ。
あいつらだって、俺を利用したいだけなんだから遠慮することはない。お互い様だ!)
昨日の、乾の連れである角刈りたちとの一件からどんよりとしていた優司だったが、目先の算段がついたことにより、段々と顔に生気が蘇ってきた。
もう自分は大丈夫なんだ、と強く思い込み、その表情は実に晴れやか。
が、これはあくまで強がり。
実際にはまだなんら解決しておらず、何がどうなるかは神のみぞ知る、という状況なのだから。
しかし優司は、これで良かったんだ、これが最良の方法だったんだ、と無理矢理自分に言い聞かせることにより、なんとか気持ちを保とうとしていた。
そして優司は、そのまま特に行き場所を定めず、ただウロウロとこの街を歩き続けた。
【第4部 完】
土屋・丸島・吉田の3人が優司のところから去り、公園を出てからしばらく歩いた頃。
不意に丸島が土屋に話しかけた。
それに対し、得意満面で答える土屋。
「ああ、だから言っただろ?
ああいう小利口でひ弱そうな奴には、変に下手に出るより、ある程度高圧的に攻めた方が落ちやすいんだよ。
あとは、『加わることでいかに利があるか』って部分をコンコンと説いてやればいい」
「なるほど。
で、巧妙にちょいちょい嘘も入れていけば完璧、って感じだよな」
「神崎のことについてか?」
「そうそう。
あそこ、わざとああやって嘘を言ったんだろ? 『腕の立つヤツを地元から呼び寄せて立ち回らせたら、神崎が泣きついてきた』ってよ」
「もちろんわざとだ。夏目のヤツが一瞬意外そうにしてたのには焦ったけどな。
けど、すぐに信じてたから一安心だ。
あの神崎が、そんなことで泣きついてくるはずないんだけどな。
設定推測にかけては、地元から何人優秀なヤツを引っ張ってこようと神崎には勝てねぇ。悔しいけどよ」
「あいつはバケモノじみてるからなぁ。
まあでも、あそこはああいう感じで誤魔化しといて正解だよ」
「だろ? 本当のことなんて言ったら、さすがに夏目もひいちまうだろうからな。
無差別にこの街のスロッターを襲ってボコボコにしていった、なんてよ。
で、ボコったやつらに対して『二度とこの街で打つな』って脅していったんだよな。
その中には、今夏目とお友達ごっこしてる日高ってヤツも入ってたなぁ」
「ああ、いたいた! あの生意気なヤツ。
でも、さすがにそれを言ったら夏目も素直にはなびかなかったんじゃね?」
「ああ。ちょっとは苦労したと思うぜ。
だから、いちいち言葉を濁したんだ。面倒くさかったよ、ほんと」
「まあ、そういうなよ。
そのおかげで、夏目は素直にこっちに付いたんだからさ。
いや、さすがは土屋だよ! 機転が利くな!」
「まあな」
ニヤリとしながら答える土屋。
丸島は、ふっ、っと軽く笑って土屋に合わせた後、また流暢に喋りだした。
「それにしても、当時のアレは効果的だったよ。
この街のスロッターたちをジワジワといたぶっていったことが効いて、あの神崎が音をあげたんだもんな。
自分のせいで街のスロッターたちが暴力の被害を受けるってのは見過ごせない、って。
それであいつがパチスロ勝負を仕掛けてきた、と」
「そうそう。あいつは人道的な部分を重んじるからな。利用しやすい男だったよ」
「今回も、もちろんその部分をつくんだろ? 夏目との勝負を成立させるために」
「普通に申し込んで聞かない場合はな。幸い、今回も乾はいないみたいだしな。あの時みたいに。
そもそも乾のやつ、最近じゃ滅多にこの街にこないらしい」
「乾か……。ありゃ厄介なやつだったなぁ。
土屋も、あいつにはやられっぱなしだったもんな、いろいろと」
「…………」
無言のまま、黙って丸島を睨みつける土屋。
すぐにそれを察し、取り繕う丸島。
「わ、わりい……。そういうつもりで言ったわけじゃ……」
「……まあいい。
とにかく、今回は絶対に成功させるぜ丸島? ここまでうまく事が運んで、これで失敗しましたじゃ話にならないからな」
「ああ、そうだな。今度こそ大丈夫だ。
あの夏目ってやつ、パチスロの腕だけなら神崎よりも上だろ」
「そりゃそうだろ。不確定なパチスロ勝負なんてモンでバカみたいな連勝を重ねてんだ。そうでなきゃ困る。今度こそ間違いねぇよ」
土屋は、不敵な笑みを浮かべながらそう言い捨てた。
ここで、丸島が思い出したように土屋に質問をした。
「ところで、鴻上のやつはどうするんだ?
この前あいつから『失敗した』っていう連絡が来た時、『とことん追い込むから覚悟しろ』みたいなこと言ってたじゃん。本当にやるのか?」
「まさか。んなもん時間の無駄だ。脅しで言っただけだよ。
そもそも最初から期待なんてしちゃいないんだから、怒る気力もわかねぇな」
「まあ、そりゃそっか。
あんな使えないヤツと不要に関わっても何の得もないもんな」
「ああ。今は、夏目を使っての3000万円計画にしか興味がねぇ。これに全力で取り組む。
わかったな、丸島、吉田」
「ああ、わかってるって!」
勢いよく返事をする丸島。
「……うん、わかってる」
丸島とは対照的に、吉田は静かに返事をした。
◇◇◇◇◇◇
(とりあえず神崎との勝負の目処がついたとはいえ……あんなよくわからない連中と組んじゃうなんて、ちょっと軽率すぎたんじゃないか……?)
公園を出て、あてどなく彷徨う優司。
先ほどまでの出来事を頭の中で反芻しながら、釈然としないまま歩き続けていた。
(でも……とりあえず俺の目的は達成できるわけだし、ここは無理矢理にでも納得するしかないか。
こうでもしなきゃ、神崎との勝負なんて実現しないだろうし)
納得いかない部分を抱えながらも、なんとかして自分で自分を説得しようとする優司。
(これしかなかったんだ、これしか。
……でも、いくらなんでもいきなりあんな得体の知れない奴らの仲間になっちゃうなんて……どうしちゃったんだろう俺……)
追い詰めれていた精神状況だったということはわかっていたが、それにしても普段の自分からは考えられないような軽率な行動。
その点について激しく自問自答を繰り返す。
しかし、不毛な自問自答に段々と虚しさを覚え、なんとかして前向きに考えようとした。
(……ああっ! もういい! ウダウダ考えるのはやめようっ!
こういう状況になっちゃったんだから仕方がない。いつまでもネガティブに考えてても先へ進まないし。
そうだよ、もっと前向きに考えなきゃ。楽しいことを考えよう。
……そうだ、そうなんだよ! とりあえずこれで神崎との勝負の目処はついたんだ。
で、神崎に勝てば、晴れてなんの気兼ねもなく日高たちのところへ戻れるんだ!
土屋たちとは片手間にツルんで、設定推測をやりながら金を稼げばいいし、どうしてもあいつらに我慢ができなくなったらさっさと奴らから離れて、また気の合う人間とだけツルんでればいいんだ。簡単な話じゃないか!
よし、日高たちのところに戻ったら、一回断わったままお流れになってた広瀬君たちとの飲み会をやろう! 日高と真鍋とヒデと小島たち、向こうも広瀬君のグループの人を連れてきてもらって。
そうなったら、八尾が来てもいいかもな。今じゃいい思い出だしね。
日高と笑い合いながらあの日の勝負を振り返ったりするのも悪くないよな)
自然と表情が綻んでくる。
別に、非現実的なことを夢想して逃避しているわけではない。
優司としては、近い将来必ず起こるであろう事を思い描いているつもりだった。
というよりは、必ずそうなると思い込みたかった。
(いざ俺が離れたくなった時、素直に土屋が俺を手放すか、ってところだけが問題だけど……まあ、そこはなんとかするさ。
神崎との勝負が終われば、あんな奴らに用はない。デカい月収はちょっと魅力だけど、1,2ヶ月やるだけでも結構な金になるだろうし、それ以上は、あんな不快な連中と一緒に居てまで稼ぎ続けたいなんて思わない。
とりあえず1,2ヶ月くらいは組んで、デカい金額を掴んで……それで充分だ!
それだけあれば当分は喰っていけるから、それでオサラバだ。
あいつらだって、俺を利用したいだけなんだから遠慮することはない。お互い様だ!)
昨日の、乾の連れである角刈りたちとの一件からどんよりとしていた優司だったが、目先の算段がついたことにより、段々と顔に生気が蘇ってきた。
もう自分は大丈夫なんだ、と強く思い込み、その表情は実に晴れやか。
が、これはあくまで強がり。
実際にはまだなんら解決しておらず、何がどうなるかは神のみぞ知る、という状況なのだから。
しかし優司は、これで良かったんだ、これが最良の方法だったんだ、と無理矢理自分に言い聞かせることにより、なんとか気持ちを保とうとしていた。
そして優司は、そのまま特に行き場所を定めず、ただウロウロとこの街を歩き続けた。
【第4部 完】
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