ゴーストスロッター

クランキー

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【第5章(最終章)】

■第108話 : 揺れる西口スロッターたち

「日高さん」

串丸での飲み会があった3日後。
つまり2004年12月20日。

いつものように『エース』で打っていた日高の元へやってきて、声をかける小島。

「お、小島か?
 どうしたこんな時間に。まだ13:00じゃん。
 今日は『シンフォニー』に打ちに行ってたんだろ?」

「それが……夏目君のことなんですけど」

「ッ……?」

「斉藤っているじゃないッスか、メンバーの。
 この前の飲みには来てませんでしたけど」

「ああ、元々真鍋とツルんでたあいつだろ?」

「そうッス。その斉藤が、昨日と今日、夏目君を見たらしいんですよ。東口のホールで」

「えっ?」

「で、声をかけようとしたみたいなんスけど、なんかやたらゴツそうな男が3人ほど夏目君の周りを固めてたみたいで」

「…………」

「しかも斉藤曰く、昨日も今日も、まるで夏目君をガードするように立ってたみたいッス。その3人の男が」

「マジかよ……」

「ええ……。
 考えたくはないッスけど、夏目君が俺達から声をかけられないようにボディガード的な感じで彼らをつけてるのかも……」

優司に対し悪い噂しか耳にしていないこの頃。
こんな時に、常にボディガードのような男がいると聞いてしまったら、優司が意図的に自分達を避けるために守らせている、と考えてしまうのは当然だった。

「そうか……。
 わかった、もういい。
 小島、みんなに夏目を探すのは終わりだ、って伝えてくれ。無理に東口のホールで打つことはない、って」

「それって……もう夏目君のことは見捨てたってことッスか?」

「いや、見捨てたとかじゃないよ。あいつが迷惑だと感じてるなら、もうどうしようもないだろ?」

「……」

「だから、もうしょうがないって」

「真鍋さんとかに伝えなくていいッスか?」

「いや、いいよ。あいつが入るとまたややこしくなりそうだし。俺からうまく伝えておくよ」

「……わかったッス」

そう言って、小島はその場を離れていった。

日高は振り向きもせずに、今打っている『主役は銭形』の稼動を続けた。

(そろそろ565Gか。まだ一度も超えてないけど、ついに超えちまうか……?)

しかし、5分経ち、ゲーム数が535Gとなったところでボーナス確定。
見事BIGを放出した。

(よし、これでまだ一度も565G超えはなし、と)

高設定への自信をより一層強めた。
今日も勝てる、そう思い、心の中でガッツポーズを決めた。

しかし……。
無理矢理台に集中しようとする日高だが、やはり本当に気になっていることはなかなか払拭できるものではなかった。

(夏目……マジかよ……。なんで土屋なんかと組んじまうんだよ……。
 すべてを知った上で、って本当か? お前はそんな奴だったのか?
 自分の目的を達成するためだったら、何でもアリなのか……?)

下唇を噛みながら、いつしか銭形を打つ手は止まっていた。



◇◇◇◇◇◇



「広瀬さん、聞きました? 夏目のあの話」

広瀬たちの溜まり場となっている喫茶店『ロージー』。
伊藤の他に、もう4人ほどグループの人間が周りに座っていた。

しかし伊藤は、二人で話したかったのか、広瀬が店に入ってくるなりそばに寄っていって声をかけ、仲間達と少し離れた席へ広瀬を誘導した後、聞きたくてウズウズしていた優司の話題を振った。

「おお、伊藤~! 久しぶりだな。
 ……で、夏目のことだっけ?」

椅子に座りながら伊藤に返事をする広瀬。

「はい、今噂になってる話は耳にしてるのかな、って」

「ああ、今さっきジュンと会って、そこで聞いたよ。俺が4,5日離れてる間に、なんか妙な噂が立ってるんだって?」

「いや、噂というか、どうやら本当っぽいんですよ」

「……何をもって本当っぽいなんて言ってんだ? 噂はあくまで噂だろ?」

「でも、この話を知ってる奴も凄い多いし、実際夏目は土屋と組んでるわけだし……。
 しかも、3日くらい前に日高のとこにいる小島っていうのと会って、そこで夏目のこと伝えてみたら、そんなに
驚くこともなく素直に納得してましたもん」

「……」

「多分、本当なんじゃないかな。夏目のパチスロ勝負にかける意気込みは凄そうだし。
 神崎と勝負できるなら、昔の仲間を見限ることも――」

「伊藤、そのへんでやめときな」

流暢に喋り続ける伊藤に、ストップをかける広瀬。
何かに気付き、慌ててフォローに入る伊藤。

「あ、あ、そ、そうですよね!
 いくら夏目でも、さすがにそこまでは……。
 そんな奴だったら、広瀬さんがあんなふうに助けたりとかしないですもんね!」

「……」

「鴻上の一件で、いろいろ手を貸したんですよね?」

「ああ。八尾の件で夏目には世話になったしね。
 そもそも俺はあいつのこと気に入ってるし、恩返しも兼ねてさ」

ここで、不思議そうに伊藤が聞いてくる。

「確かに広瀬さん……妙に夏目のこと気にかけてますよね。
 何でなんですか? 前からちょっと気になってたんですけど」

「うーん……。
 なんていうか……なんかほっとけないところがあるんだよな。つい助けてやりたくなるっていうか。
 でも、締めるところはビシっと締める奴だし。
 ……うまく言えないんだけど、そんな感じかな」

「……?」

さっぱりわからない、という表情の伊藤。
自分でも何を言っているのかわからなくなり、戸惑う広瀬。

「じゃあ今回も、なんで土屋なんかと手を組んでるのか、理由を探ったりするんですか? 例えば夏目に電話したりして」

「いや、それはないよ。余計なお世話かもしれないだろ?
 鴻上の時は、頼まれたから動いただけだ。こっちから世話を焼くようなマネはしたくないな。ありがた迷惑ってこともある」

「なるほど」

今度は納得している様子の伊藤を見て、広瀬もなんとなく落ち着いた。

「まあ、夏目の件はいいとして……これからどうします?」

「これからって、土屋のこと?」

「そうです。
 土屋がこの街に来たって知った時、とりあえず東口には打ちに行かないようにしようって広瀬さん言いましたよね?
 でも、それだけでいいんですか? あいつら、1年前の例があるじゃないですか?
 あの時みたいに、また手当たり次第にスロ打ってる人間を襲いだしたら……」

「そこまで考え出したらキリがないよ。
 とりあえず今は俺達に被害はないんだし、ほっとくべきでしょ。
 かかる火の粉は振り払うけど、それまではあえてこっちからしゃしゃり出ていくこともないよ」

「そう言われれば確かに」

「そういうことでさ。今まで通り東口には打ちに行かず、西口中心で打っていこう。『マルサン』も西口にあることだしね。
 そういうふうに皆にも伝えといて。で、もし何かあったら俺にすぐ知らせてよ」

「わかりました!」

「うん、頼むよ。
 それじゃ俺、ちょっと『マルサン』の様子を見に行ってくるからさ」

伊藤が軽く頷いたのを確認し、ニコっと笑った後広瀬は席を立った。

しかし店を出るなり、その表情はどんどん曇っていった。

(伊藤にはああ言ったけど……。
 夏目の件、本当に単なる噂なんだろうか。実際に土屋と夏目が組んでるのは事実みたいだし。
 何やってんだよ、夏目……) 
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