135 / 138
【第5章(最終章)】
■第135話 : 帰るべき場所
土屋・丸島・柿崎・吉田の4人が連行され、姿が見えなくなった直後、神崎が誰に言うでもなく話しだした。
「昨日の夜、吉田が一人で俺んとこに訪ねてきてね。『最後にやりたいことがあるから、勝負が終わっても勝手に帰らず一度集合してくれ。絶対に迷惑はかけないから』って頼まれてたんだ」
広瀬が続きを促す。
「吉田に頼まれてた……?」
「ああ。土屋の仲間の言うことだし、罠かなとも思ったんだけど、その時の吉田の目がとても嘘を言ってるようには思えなくてね。慎也と相談して、信用することにしたんだ。
まあ、勝負が終わったら集合するなんてのは、言われなくてもするつもりだったしね」
一つ大きなため息をついた後、神崎が続けて話す。
「でもまさか……こういうことだったとはね。
土屋たちを警察には突き出すけど、自分を主犯ってことにして少しでも罪を軽くする、なんて。よっぽど土屋っていう人間に惚れ込んでたんだな。
俺たちの知らない当時の土屋には、何か大きな魅力でもあったのかもな」
優司は、以前に吉田から聞いた話を思い出していた。
昔の土屋は、グレてはいたが一本筋が通っており、仲間や後輩思いの男だったということを。
そして、そんな仲間や後輩たちの金銭的な面倒を見るためにこの街に来て神崎と勝負したものの負けてしまい、そこから歯車が狂い始め、歪み、今の土屋が出来上がってしまったことを。
今、目の前で起こった出来事に対して、頭の中で整理がつかない一同。
誰も神崎の言葉に付け足したりできず、ただ呆然としていた。
しばらく沈黙の時が続いた後、神崎は優司の方へ向き直り、こう言った。
「さて、と……。これで終わったね。
夏目、これからどうするの?」
「え……?」
不意に話を振られた優司は、頓狂な声で聞き返した。
「いや、『え?』じゃなくてさ。
もうこれで、君のパチスロ勝負は終わりでしょ? で、土屋たちとも無事関係が切れた。彼らは逮捕までされてるんだからね。もう好き勝手はできないでしょ。
ってことは、これから何をするかは夏目の自由なわけじゃん?」
「……」
「それで、どうするの?」
「どうするも何も……。
バカみたいに固執してきたパチスロ勝負に完敗しちゃって……仲間のところにももう戻れなくて……もう何もできないよ。また一人ぼっちの、何もない生活に……戻るだけで……」
言いながら、自分のことがどんどん哀れになってきた。
顔をくしゃくしゃにしながら俯いてしまう優司。
だが神崎は、そんな優司に対し、これまでの会話の中で一番とも思えるような優しい声で語りかけた。
「……日高たちのところに戻んなよ、夏目」
「はっ……?」
「余計な意地なんて張らずに、素直に戻ればいいんだよ。夏目はいろいろ考えすぎなんだって」
だが優司は、神崎の言葉を力無く拒む。
「無理だよ……。ただ意地を張ってる、ってだけじゃないんだから。俺から謝ったって、俺みたいな奴をもう受け入れてくれるわけがないんだ。彼らの中で、俺なんてもう仲間でもなんでもないんだし。
その上……無様に負けて……合わせる顔なんてないよ……」
「じゃあ、俺が聞いたのはなんだったのかな。幻聴でも聞いたってこと?」
「え……?」
神崎は少し間を取り、それからゆっくりと話しだした。
「実はさ……昨日、会ってきたんだよね。日高に」
「ひ、日高に会ってきたッ?」
「ある人から頼まれてね。
で、夏目は多分戻ってくることになると思うけど大丈夫?って日高に聞いたら、大喜びしてたよ。大歓迎だってさ。本当に戻ってくるのかってしつこく聞きなおされたくらいだよ」
「そ、そんな……。う、嘘だよそんなの……」
「なんで嘘なんだ?」
「だって俺は……裏切り者で……。いや、本当はもちろん違うんだけど、日高たち……というかこの街の皆から軽蔑されてて……」
「ああ、そのことね。
大丈夫だよ。その誤解を解くために、わざわざ日高のとこに行ってきたんだからさ。さっき言った『ある人』に頼まれてね」
「ある人?」
「御子神さんだよ」
「み、御子神……さん?」
「あの人もほんとお人好しだよなあ。見ててあまりにも不憫だし、そもそも自分にも責任の一端はあるから、このまま優司君をほっとくわけにはいかない、だとさ。昨日俺のところに来て、そう言ったんだよ。
なんか、夏目が土屋に誘われてるところを見たけどほっておいたんだって? そんなことで責任感じるなんて、かわいい人だよね。外見だけじゃなく中身も」
「御子神さんが…………」
「あの人は全部知ってたみたいだね。夏目が騙されて土屋に取り込まれたこととか、その後もいいようにされてボロボロになってたこととか」
「…………」
「一人で苦しんでたんだってね。軟禁に近いような状態にされて、妙な噂流されて昔の仲間のところ戻れないようにされて」
「…………」
「そういったことを、全部日高に伝えた。まずは日高だけにね。
そしたら彼、今にも泣き出しそうな顔してさ、しきりに申し訳ないことをしたって言ってた。そもそも夏目がパチスロ勝負を始めたのは俺達が原因だ、俺達が始めさせたようなものだ、ってね。中途半端に煽って協力して、パチスロ勝負に没頭させちまった、って心の底から悔やんでたよ」
優司の顔が徐々に歪んでくる。
必死で何かを堪えている。
「なんとか俺達を許して欲しい、帰ってきて欲しい、って、何度も何度も言ってた」
「そ、そんな……なんで日高が謝ったり…………そんなことする必要なくて…………それは俺がすることで…………うぅ…………うっ、うぅ…………あぁ…………」
ついに我慢できなくなり、嗚咽とともに大粒の涙がこぼれてきた。
「そんなわけ…………そんなわけないんだ…………日高たちが悪いなんて…………そんなわけ…………。
俺が…………俺が全部…………悪くて…………」
うわずった声のままそう呟く優司。
必死で涙を止めようと頑張っていたが、次から次へと湧き出る感情を抑えることができず、いつしかその場で泣き崩れていた。
「昨日の夜、吉田が一人で俺んとこに訪ねてきてね。『最後にやりたいことがあるから、勝負が終わっても勝手に帰らず一度集合してくれ。絶対に迷惑はかけないから』って頼まれてたんだ」
広瀬が続きを促す。
「吉田に頼まれてた……?」
「ああ。土屋の仲間の言うことだし、罠かなとも思ったんだけど、その時の吉田の目がとても嘘を言ってるようには思えなくてね。慎也と相談して、信用することにしたんだ。
まあ、勝負が終わったら集合するなんてのは、言われなくてもするつもりだったしね」
一つ大きなため息をついた後、神崎が続けて話す。
「でもまさか……こういうことだったとはね。
土屋たちを警察には突き出すけど、自分を主犯ってことにして少しでも罪を軽くする、なんて。よっぽど土屋っていう人間に惚れ込んでたんだな。
俺たちの知らない当時の土屋には、何か大きな魅力でもあったのかもな」
優司は、以前に吉田から聞いた話を思い出していた。
昔の土屋は、グレてはいたが一本筋が通っており、仲間や後輩思いの男だったということを。
そして、そんな仲間や後輩たちの金銭的な面倒を見るためにこの街に来て神崎と勝負したものの負けてしまい、そこから歯車が狂い始め、歪み、今の土屋が出来上がってしまったことを。
今、目の前で起こった出来事に対して、頭の中で整理がつかない一同。
誰も神崎の言葉に付け足したりできず、ただ呆然としていた。
しばらく沈黙の時が続いた後、神崎は優司の方へ向き直り、こう言った。
「さて、と……。これで終わったね。
夏目、これからどうするの?」
「え……?」
不意に話を振られた優司は、頓狂な声で聞き返した。
「いや、『え?』じゃなくてさ。
もうこれで、君のパチスロ勝負は終わりでしょ? で、土屋たちとも無事関係が切れた。彼らは逮捕までされてるんだからね。もう好き勝手はできないでしょ。
ってことは、これから何をするかは夏目の自由なわけじゃん?」
「……」
「それで、どうするの?」
「どうするも何も……。
バカみたいに固執してきたパチスロ勝負に完敗しちゃって……仲間のところにももう戻れなくて……もう何もできないよ。また一人ぼっちの、何もない生活に……戻るだけで……」
言いながら、自分のことがどんどん哀れになってきた。
顔をくしゃくしゃにしながら俯いてしまう優司。
だが神崎は、そんな優司に対し、これまでの会話の中で一番とも思えるような優しい声で語りかけた。
「……日高たちのところに戻んなよ、夏目」
「はっ……?」
「余計な意地なんて張らずに、素直に戻ればいいんだよ。夏目はいろいろ考えすぎなんだって」
だが優司は、神崎の言葉を力無く拒む。
「無理だよ……。ただ意地を張ってる、ってだけじゃないんだから。俺から謝ったって、俺みたいな奴をもう受け入れてくれるわけがないんだ。彼らの中で、俺なんてもう仲間でもなんでもないんだし。
その上……無様に負けて……合わせる顔なんてないよ……」
「じゃあ、俺が聞いたのはなんだったのかな。幻聴でも聞いたってこと?」
「え……?」
神崎は少し間を取り、それからゆっくりと話しだした。
「実はさ……昨日、会ってきたんだよね。日高に」
「ひ、日高に会ってきたッ?」
「ある人から頼まれてね。
で、夏目は多分戻ってくることになると思うけど大丈夫?って日高に聞いたら、大喜びしてたよ。大歓迎だってさ。本当に戻ってくるのかってしつこく聞きなおされたくらいだよ」
「そ、そんな……。う、嘘だよそんなの……」
「なんで嘘なんだ?」
「だって俺は……裏切り者で……。いや、本当はもちろん違うんだけど、日高たち……というかこの街の皆から軽蔑されてて……」
「ああ、そのことね。
大丈夫だよ。その誤解を解くために、わざわざ日高のとこに行ってきたんだからさ。さっき言った『ある人』に頼まれてね」
「ある人?」
「御子神さんだよ」
「み、御子神……さん?」
「あの人もほんとお人好しだよなあ。見ててあまりにも不憫だし、そもそも自分にも責任の一端はあるから、このまま優司君をほっとくわけにはいかない、だとさ。昨日俺のところに来て、そう言ったんだよ。
なんか、夏目が土屋に誘われてるところを見たけどほっておいたんだって? そんなことで責任感じるなんて、かわいい人だよね。外見だけじゃなく中身も」
「御子神さんが…………」
「あの人は全部知ってたみたいだね。夏目が騙されて土屋に取り込まれたこととか、その後もいいようにされてボロボロになってたこととか」
「…………」
「一人で苦しんでたんだってね。軟禁に近いような状態にされて、妙な噂流されて昔の仲間のところ戻れないようにされて」
「…………」
「そういったことを、全部日高に伝えた。まずは日高だけにね。
そしたら彼、今にも泣き出しそうな顔してさ、しきりに申し訳ないことをしたって言ってた。そもそも夏目がパチスロ勝負を始めたのは俺達が原因だ、俺達が始めさせたようなものだ、ってね。中途半端に煽って協力して、パチスロ勝負に没頭させちまった、って心の底から悔やんでたよ」
優司の顔が徐々に歪んでくる。
必死で何かを堪えている。
「なんとか俺達を許して欲しい、帰ってきて欲しい、って、何度も何度も言ってた」
「そ、そんな……なんで日高が謝ったり…………そんなことする必要なくて…………それは俺がすることで…………うぅ…………うっ、うぅ…………あぁ…………」
ついに我慢できなくなり、嗚咽とともに大粒の涙がこぼれてきた。
「そんなわけ…………そんなわけないんだ…………日高たちが悪いなんて…………そんなわけ…………。
俺が…………俺が全部…………悪くて…………」
うわずった声のままそう呟く優司。
必死で涙を止めようと頑張っていたが、次から次へと湧き出る感情を抑えることができず、いつしかその場で泣き崩れていた。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話