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【第5章(最終章)】
■第135話 : 帰るべき場所
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土屋・丸島・柿崎・吉田の4人が連行され、姿が見えなくなった直後、神崎が誰に言うでもなく話しだした。
「昨日の夜、吉田が一人で俺んとこに訪ねてきてね。『最後にやりたいことがあるから、勝負が終わっても勝手に帰らず一度集合してくれ。絶対に迷惑はかけないから』って頼まれてたんだ」
広瀬が続きを促す。
「吉田に頼まれてた……?」
「ああ。土屋の仲間の言うことだし、罠かなとも思ったんだけど、その時の吉田の目がとても嘘を言ってるようには思えなくてね。慎也と相談して、信用することにしたんだ。
まあ、勝負が終わったら集合するなんてのは、言われなくてもするつもりだったしね」
一つ大きなため息をついた後、神崎が続けて話す。
「でもまさか……こういうことだったとはね。
土屋たちを警察には突き出すけど、自分を主犯ってことにして少しでも罪を軽くする、なんて。よっぽど土屋っていう人間に惚れ込んでたんだな。
俺たちの知らない当時の土屋には、何か大きな魅力でもあったのかもな」
優司は、以前に吉田から聞いた話を思い出していた。
昔の土屋は、グレてはいたが一本筋が通っており、仲間や後輩思いの男だったということを。
そして、そんな仲間や後輩たちの金銭的な面倒を見るためにこの街に来て神崎と勝負したものの負けてしまい、そこから歯車が狂い始め、歪み、今の土屋が出来上がってしまったことを。
今、目の前で起こった出来事に対して、頭の中で整理がつかない一同。
誰も神崎の言葉に付け足したりできず、ただ呆然としていた。
しばらく沈黙の時が続いた後、神崎は優司の方へ向き直り、こう言った。
「さて、と……。これで終わったね。
夏目、これからどうするの?」
「え……?」
不意に話を振られた優司は、頓狂な声で聞き返した。
「いや、『え?』じゃなくてさ。
もうこれで、君のパチスロ勝負は終わりでしょ? で、土屋たちとも無事関係が切れた。彼らは逮捕までされてるんだからね。もう好き勝手はできないでしょ。
ってことは、これから何をするかは夏目の自由なわけじゃん?」
「……」
「それで、どうするの?」
「どうするも何も……。
バカみたいに固執してきたパチスロ勝負に完敗しちゃって……仲間のところにももう戻れなくて……もう何もできないよ。また一人ぼっちの、何もない生活に……戻るだけで……」
言いながら、自分のことがどんどん哀れになってきた。
顔をくしゃくしゃにしながら俯いてしまう優司。
だが神崎は、そんな優司に対し、これまでの会話の中で一番とも思えるような優しい声で語りかけた。
「……日高たちのところに戻んなよ、夏目」
「はっ……?」
「余計な意地なんて張らずに、素直に戻ればいいんだよ。夏目はいろいろ考えすぎなんだって」
だが優司は、神崎の言葉を力無く拒む。
「無理だよ……。ただ意地を張ってる、ってだけじゃないんだから。俺から謝ったって、俺みたいな奴をもう受け入れてくれるわけがないんだ。彼らの中で、俺なんてもう仲間でもなんでもないんだし。
その上……無様に負けて……合わせる顔なんてないよ……」
「じゃあ、俺が聞いたのはなんだったのかな。幻聴でも聞いたってこと?」
「え……?」
神崎は少し間を取り、それからゆっくりと話しだした。
「実はさ……昨日、会ってきたんだよね。日高に」
「ひ、日高に会ってきたッ?」
「ある人から頼まれてね。
で、夏目は多分戻ってくることになると思うけど大丈夫?って日高に聞いたら、大喜びしてたよ。大歓迎だってさ。本当に戻ってくるのかってしつこく聞きなおされたくらいだよ」
「そ、そんな……。う、嘘だよそんなの……」
「なんで嘘なんだ?」
「だって俺は……裏切り者で……。いや、本当はもちろん違うんだけど、日高たち……というかこの街の皆から軽蔑されてて……」
「ああ、そのことね。
大丈夫だよ。その誤解を解くために、わざわざ日高のとこに行ってきたんだからさ。さっき言った『ある人』に頼まれてね」
「ある人?」
「御子神さんだよ」
「み、御子神……さん?」
「あの人もほんとお人好しだよなあ。見ててあまりにも不憫だし、そもそも自分にも責任の一端はあるから、このまま優司君をほっとくわけにはいかない、だとさ。昨日俺のところに来て、そう言ったんだよ。
なんか、夏目が土屋に誘われてるところを見たけどほっておいたんだって? そんなことで責任感じるなんて、かわいい人だよね。外見だけじゃなく中身も」
「御子神さんが…………」
「あの人は全部知ってたみたいだね。夏目が騙されて土屋に取り込まれたこととか、その後もいいようにされてボロボロになってたこととか」
「…………」
「一人で苦しんでたんだってね。軟禁に近いような状態にされて、妙な噂流されて昔の仲間のところ戻れないようにされて」
「…………」
「そういったことを、全部日高に伝えた。まずは日高だけにね。
そしたら彼、今にも泣き出しそうな顔してさ、しきりに申し訳ないことをしたって言ってた。そもそも夏目がパチスロ勝負を始めたのは俺達が原因だ、俺達が始めさせたようなものだ、ってね。中途半端に煽って協力して、パチスロ勝負に没頭させちまった、って心の底から悔やんでたよ」
優司の顔が徐々に歪んでくる。
必死で何かを堪えている。
「なんとか俺達を許して欲しい、帰ってきて欲しい、って、何度も何度も言ってた」
「そ、そんな……なんで日高が謝ったり…………そんなことする必要なくて…………それは俺がすることで…………うぅ…………うっ、うぅ…………あぁ…………」
ついに我慢できなくなり、嗚咽とともに大粒の涙がこぼれてきた。
「そんなわけ…………そんなわけないんだ…………日高たちが悪いなんて…………そんなわけ…………。
俺が…………俺が全部…………悪くて…………」
うわずった声のままそう呟く優司。
必死で涙を止めようと頑張っていたが、次から次へと湧き出る感情を抑えることができず、いつしかその場で泣き崩れていた。
「昨日の夜、吉田が一人で俺んとこに訪ねてきてね。『最後にやりたいことがあるから、勝負が終わっても勝手に帰らず一度集合してくれ。絶対に迷惑はかけないから』って頼まれてたんだ」
広瀬が続きを促す。
「吉田に頼まれてた……?」
「ああ。土屋の仲間の言うことだし、罠かなとも思ったんだけど、その時の吉田の目がとても嘘を言ってるようには思えなくてね。慎也と相談して、信用することにしたんだ。
まあ、勝負が終わったら集合するなんてのは、言われなくてもするつもりだったしね」
一つ大きなため息をついた後、神崎が続けて話す。
「でもまさか……こういうことだったとはね。
土屋たちを警察には突き出すけど、自分を主犯ってことにして少しでも罪を軽くする、なんて。よっぽど土屋っていう人間に惚れ込んでたんだな。
俺たちの知らない当時の土屋には、何か大きな魅力でもあったのかもな」
優司は、以前に吉田から聞いた話を思い出していた。
昔の土屋は、グレてはいたが一本筋が通っており、仲間や後輩思いの男だったということを。
そして、そんな仲間や後輩たちの金銭的な面倒を見るためにこの街に来て神崎と勝負したものの負けてしまい、そこから歯車が狂い始め、歪み、今の土屋が出来上がってしまったことを。
今、目の前で起こった出来事に対して、頭の中で整理がつかない一同。
誰も神崎の言葉に付け足したりできず、ただ呆然としていた。
しばらく沈黙の時が続いた後、神崎は優司の方へ向き直り、こう言った。
「さて、と……。これで終わったね。
夏目、これからどうするの?」
「え……?」
不意に話を振られた優司は、頓狂な声で聞き返した。
「いや、『え?』じゃなくてさ。
もうこれで、君のパチスロ勝負は終わりでしょ? で、土屋たちとも無事関係が切れた。彼らは逮捕までされてるんだからね。もう好き勝手はできないでしょ。
ってことは、これから何をするかは夏目の自由なわけじゃん?」
「……」
「それで、どうするの?」
「どうするも何も……。
バカみたいに固執してきたパチスロ勝負に完敗しちゃって……仲間のところにももう戻れなくて……もう何もできないよ。また一人ぼっちの、何もない生活に……戻るだけで……」
言いながら、自分のことがどんどん哀れになってきた。
顔をくしゃくしゃにしながら俯いてしまう優司。
だが神崎は、そんな優司に対し、これまでの会話の中で一番とも思えるような優しい声で語りかけた。
「……日高たちのところに戻んなよ、夏目」
「はっ……?」
「余計な意地なんて張らずに、素直に戻ればいいんだよ。夏目はいろいろ考えすぎなんだって」
だが優司は、神崎の言葉を力無く拒む。
「無理だよ……。ただ意地を張ってる、ってだけじゃないんだから。俺から謝ったって、俺みたいな奴をもう受け入れてくれるわけがないんだ。彼らの中で、俺なんてもう仲間でもなんでもないんだし。
その上……無様に負けて……合わせる顔なんてないよ……」
「じゃあ、俺が聞いたのはなんだったのかな。幻聴でも聞いたってこと?」
「え……?」
神崎は少し間を取り、それからゆっくりと話しだした。
「実はさ……昨日、会ってきたんだよね。日高に」
「ひ、日高に会ってきたッ?」
「ある人から頼まれてね。
で、夏目は多分戻ってくることになると思うけど大丈夫?って日高に聞いたら、大喜びしてたよ。大歓迎だってさ。本当に戻ってくるのかってしつこく聞きなおされたくらいだよ」
「そ、そんな……。う、嘘だよそんなの……」
「なんで嘘なんだ?」
「だって俺は……裏切り者で……。いや、本当はもちろん違うんだけど、日高たち……というかこの街の皆から軽蔑されてて……」
「ああ、そのことね。
大丈夫だよ。その誤解を解くために、わざわざ日高のとこに行ってきたんだからさ。さっき言った『ある人』に頼まれてね」
「ある人?」
「御子神さんだよ」
「み、御子神……さん?」
「あの人もほんとお人好しだよなあ。見ててあまりにも不憫だし、そもそも自分にも責任の一端はあるから、このまま優司君をほっとくわけにはいかない、だとさ。昨日俺のところに来て、そう言ったんだよ。
なんか、夏目が土屋に誘われてるところを見たけどほっておいたんだって? そんなことで責任感じるなんて、かわいい人だよね。外見だけじゃなく中身も」
「御子神さんが…………」
「あの人は全部知ってたみたいだね。夏目が騙されて土屋に取り込まれたこととか、その後もいいようにされてボロボロになってたこととか」
「…………」
「一人で苦しんでたんだってね。軟禁に近いような状態にされて、妙な噂流されて昔の仲間のところ戻れないようにされて」
「…………」
「そういったことを、全部日高に伝えた。まずは日高だけにね。
そしたら彼、今にも泣き出しそうな顔してさ、しきりに申し訳ないことをしたって言ってた。そもそも夏目がパチスロ勝負を始めたのは俺達が原因だ、俺達が始めさせたようなものだ、ってね。中途半端に煽って協力して、パチスロ勝負に没頭させちまった、って心の底から悔やんでたよ」
優司の顔が徐々に歪んでくる。
必死で何かを堪えている。
「なんとか俺達を許して欲しい、帰ってきて欲しい、って、何度も何度も言ってた」
「そ、そんな……なんで日高が謝ったり…………そんなことする必要なくて…………それは俺がすることで…………うぅ…………うっ、うぅ…………あぁ…………」
ついに我慢できなくなり、嗚咽とともに大粒の涙がこぼれてきた。
「そんなわけ…………そんなわけないんだ…………日高たちが悪いなんて…………そんなわけ…………。
俺が…………俺が全部…………悪くて…………」
うわずった声のままそう呟く優司。
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