無関係だった私があなたの子どもを生んだ訳

キムラましゅろう

文字の大きさ
53 / 161
ミニ番外編

過去を振り返って……あの時のフェリックス③ 家族への報告

しおりを挟む
第二王子(当時)クリフォードの視察終了に伴い、ハノンとルシアンをハイレンに残して先に王都へと戻ったフェリックス。 

本当は視察終了と同時に連れ帰りたく、視察中も時間を見つけては動いていたのだが、やはりどうにも間に合わなかったのだった。

なので一時だけフェリックスのみ、王都に戻った。

三人で暮らす家を探したり、とりあえず必要最低の物を揃えたりと、最愛の妻子を迎え家族として暮らしてゆく生活の場を整える。

それともう一つ、フェリックスには重要な目的があった。

それは自分の家族、ワイズ侯爵家の面々に探し続けていた女性が見つかった事と、その女性との間に子どもが生まれていた事を報告する事である。

事前にさっくりとは手紙で知らせていたフェリックス。

そのフェリックスから手紙を読んだ父親である現ワイズ侯爵(当時)アルドンと、フェリックスの兄であるヴィクトルは驚きを隠せない様子であった。

卒業式のあの夜から四年。

四年もの間見つからなかった女性が、占い師のたったひと言により見つかったというのだからそれは当然だの事だろう。

フェリックスが占い師の言葉を手掛かりにハイレンへ行くと言った時は正直「バカな事を言うな」と諌めようとも思ったが、
もうすぐ約束の四年が経つという事で最後に気が済むようにやらせようと思ったのだ。

それがまさかこんな大成果を齎すとは……。


しかしそれでも王都に戻ったフェリックスから詳しい事情を聞くまでは半信半疑、眉唾もので構えていたアルドンとヴィクトル。

フェリックスが覚えていたその女性の身体的特徴と魔力が合致した事、
そして何よりその女性が密かに生み育てていた子どもがワイズ家の魔力属性と銀髪と赤い瞳を持っているというのだ。

そこまで聞いて疑い続けるほどアルドンもヴィクトルも浅慮ではない。


「……そうか……とうとう見つかったのか。正直、もう無理だろうと思っていたのだ。あれから四年、見つかっても相手の女性は既にどこかに嫁がれているだろうと考えていたのだが……しかし女手一つで子を守り生きて来たとは……」

「市井で平民のように暮らしたとしても、シングルマザーでは他に嫁ぎようもないでしょうからね。フェリックスにとってはそれが幸いだったとしか言いようがありませんが……」

父と兄が自らの考えを口にするのを聞き、フェリックスは言った。

「彼女も俺が婚約者候補だった令嬢のどちらかと既に結婚しているだろうと思い、波風たてないように密かに生み育てていたそうです」

「うっ、うぅっ……」

「母上?」

急に泣き声が聞こえ、その声の方を見ると
母であるアメリアが嗚咽を漏らしながらハンカチで顔を押さえていた。

「ただでさえ初めての妊娠出産育児は大変であるというのに……こちらに迷惑が掛からないようにとたった一人で……どれほどの苦労がその方にあった事でしょうっ……知らなかった事とはいえ、何もしてやれなかったのが悔やまれて仕方ないわっ……!」

夫のアルドンに肩を抱かれながらアメリアはそう訴えた。

それを聞き、フェリックスは頷く。

「彼女は芯が強く、逞しい女性ですがきっと相当な苦労もあったと思います。でも俺はもう二度と、彼女にそんな大変な思いをさせないと約束します。彼女も息子も、必ず幸せにしてみせます」

「頼みましたよフェリックス。私たちも協力は惜しみませんからね」

「母上、ありがとう。感謝します」

自身もうんうんと頷きながら話を聞いていたアルドンが徐にフェリックスに確認してきた。

「ワイズ家の血を受け継ぐ子どもを生んでくれた女性だ。もう平民であったとしても構わないとするが、(貴族院は抑えつける)その女性は確かに貴族令嬢なんだな?」

「はい。ルーセル子爵家の令嬢でした。もっともそのルーセル家は先代当主の借金により領地を失って子爵位のみが残る家ですが、そんな事はお気になさらないですよね?父上」

「お気になさらないという事はないが、些末な事ではあるな。いや、待て、今、ルーセル子爵家と言ったか?」

アルドンは眉間にシワを寄せてフェリックスに訊ねた。

「はい?……そうですが何か?」

「ハノン、さん…と言ったかな?その女性の名は。そのハノンさんに兄が居るとか聞いてはいないか?」

「ファビアン卿の事ですか?ええ、彼女には実兄が一人居ますよ。俺もハイレンで実際にお会いしました。ファビアン=ルーセル卿。北方騎士団所属の騎士です」

「ファビアン=ルーセル子爵!!」


いきなり大声を出されてフェリックスは面食らう。
兄のヴィクトルも同じな様で兄弟揃って父親の方を凝視した。

「父上?」

アルドンは鼻息を荒くして言う。

「近頃弟のクレイからよくその名を聞くのだ。クレイが友人である北方騎士団長のオルブレイから自慢ばかりされて腹が立つとな」

「東方騎士団を任されているクレイ叔父さんが?オルブレイ辺境伯に?」

「なんと聞かされているのですか?」

息子達に訊かれ、何故かアルドンがしたり顔で言った。


「北の国境を護る最強のゴリラ、
北方騎士団にファビアン=ルーセル在りとなっ!……どうだったフェリックス、ルーセル卿は真ゴリラであったかっ?」

やや食い入り気味の父に目を見張りながらフェリックスは答える。

「っ……ゴリラ……?確かにそのくらいガタイも良く屈強な騎士である事は一目瞭然の方ではありましたが……でもファビアン卿のご気性は穏やかで優しいものでしたよ?気の強さではハノンの方がよっぽど強くて逞しいと思います」

「お前、何さりげなく自分のもの発言をしているんだ。なんだ…お前は女性には淡白だと思っていたが、やはり自分の唯一ともなると違うのだな。当然か」

自身も唯一と認める妻を愛するヴィクトルが感心したようにフェリックスに言うのを尻目に、
アルドンは驚愕に満ちた目でフェリックスを見ていた。

「なっ……!?“雪原のシルバーバック”という勇名を隣国にまで轟かせている男よりも強く逞しい妹だ…と……?」

「父上?気丈さの話ですよ?」

フェリックスが咄嗟に訂正しておいた。

そしてこれからまだ新しい家の購入手続きがあると言って屋敷を後にする。

住む家が整い次第、ハイレンに残した妻子を迎えに行くという。
その時に二人を連れて来るともフェリックスは言っていた。


フェリックスが帰った後もアルドンは自身の考えに囚われ、ぶつくさと呟いている。

「なんと……北のゴリラよりも屈強な嫁……」

その言葉を聞き、ヴィクトルが目を丸くして驚く。

「え?ゴリラな嫁?まさか……」

「兄と妹、似ていて当然だからな。それにしても兄よりも強く逞しい嫁か……」

アルドンのその呟きにアメリアが毅然として言い放つ。

「ゴリラな嫁だからといって何だと云うのです!
恩義を忘れずその身を捧げてフェリックスを救ってくれた上に、一人で子を守り生きてきた女性ですよ!そりゃ強くて当たり前です!例えゴリラな嫁でもワイズ家の新しい家族として温かく迎え入れますわよ!異論なんて許しませんからねっ!!」


それを聞き、アルドンもヴィクトルもハッと我に返ったように頷いた。

「と、当然ですっ!彼女はもう我が家の一員です!」

「ゴリラな嫁万歳だっ!大歓迎だ!」

「よろしい!」


と、すっかりフェリックスが連れてくる嫁がゴリラだと思い込んだワイズ家の面々。


その嫁がゴリラではなく美しい華奢な女性であり、

しかも密かに生まれていた孫が天使であった事に衝撃を受けるのは、

この日より少し後の事である。














しおりを挟む
感想 3,580

あなたにおすすめの小説

嫌われたと思って離れたのに

ラム猫
恋愛
 私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。  距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。

私の婚約者でも無いのに、婚約破棄とか何事ですか?

狼狼3
恋愛
「お前のような冷たくて愛想の無い女などと結婚出来るものか。もうお前とは絶交……そして、婚約破棄だ。じゃあな、グラッセマロン。」 「いやいや。私もう結婚してますし、貴方誰ですか?」 「俺を知らないだと………?冗談はよしてくれ。お前の愛するカーナトリエだぞ?」 「知らないですよ。……もしかして、夫の友達ですか?夫が帰ってくるまで家使いますか?……」 「だから、お前の夫が俺だって──」 少しずつ日差しが強くなっている頃。 昼食を作ろうと材料を買いに行こうとしたら、婚約者と名乗る人が居ました。 ……誰コイツ。

【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」 「恩? 私と君は初対面だったはず」 「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」 「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」 奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。 彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました

四折 柊
恋愛
 子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

(完結)あなたの愛は諦めました (全5話)

青空一夏
恋愛
私はライラ・エト伯爵夫人と呼ばれるようになって3年経つ。子供は女の子が一人いる。子育てをナニーに任せっきりにする貴族も多いけれど、私は違う。はじめての子育ては夫と協力してしたかった。けれど、夫のエト伯爵は私の相談には全く乗ってくれない。彼は他人の相談に乗るので忙しいからよ。 これは自分の家庭を顧みず、他人にいい顔だけをしようとする男の末路を描いた作品です。 ショートショートの予定。 ゆるふわ設定。ご都合主義です。タグが増えるかもしれません。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】 白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語 ※他サイトでも投稿中

結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。

佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。 結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。 アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。 アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。

婚約者に妹を紹介したら、美人な妹の方と婚約したかったと言われたので、譲ってあげることにいたしました

奏音 美都
恋愛
「こちら、妹のマリアンヌですわ」  妹を紹介した途端、私のご婚約者であるジェイコブ様の顔つきが変わったのを感じました。 「マリアンヌですわ。どうぞよろしくお願いいたします、お義兄様」 「ど、どうも……」  ジェイコブ様が瞳を大きくし、マリアンヌに見惚れています。ジェイコブ様が私をチラッと見て、おっしゃいました。 「リリーにこんな美しい妹がいたなんて、知らなかったよ。婚約するなら妹君の方としたかったなぁ、なんて……」 「分かりましたわ」  こうして私のご婚約者は、妹のご婚約者となったのでした。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。