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ミニ番外編
学園祭にて① 学生時代の印象
しおりを挟む数年前に中・高一貫で編成し直されたアデリオール魔術学園。
その中等部(十三歳~十六歳)にルシアンはこの秋に入学した。
今日は一年生として初めて参加する学園祭の日だ。
家族や友人など外部からも招待出来るこの学園祭に、ルシアンは両親と妹、そして従姉弟のミシェルとファニアスを招いていた。
ルシアンはミシェルとファニアスに学園を案内すると言って別行動を取り、
ポレットはなんとお忍びで学園に来たディビッドに入り口近くで早々に捕獲された。
社会勉強の一環と称してその実、ポレットと学園祭を回りたいディビッドの意図を知ったフェリックスの額に青スジが立ったのをハノンは見逃さなかった。
そしてかつて自分達も通った魔術学園を夫婦で巡りたいと言って不機嫌になった夫を無理やり引っ張って行ったのだ。
「もうほらフェリックス、そんなに怒らないで?」
夫婦水入らずになり、学園内を歩きながらハノンが言う。
「しかしだな、あの王子(不敬)後学の為にだなんて見え透いた嘘を吐きやがって。あからさまにポレット目当てなのが無性に腹が立つ」
「でもポレットは喜んでいたじゃない。それに二人は婚約者同士よ?親交を深めるのは良い事だわ」
「親交なんて深めなくていい」
「何をバカな事を……もういいじゃない、せっかくなんだから私達も二人で楽しみましょうよ」
「二人で……いいな」
「ふふ、そうよ。私達の学園内での共通の思い出と言ったら魔獣の一件くらいなものでしょう?だから今日は学生に戻った気分であなたと学園祭を楽しみたいわ」
共通の思い出としては卒業式の夜の事が一番だが、恥ずかしいのでそれには触れずにいた。
「ハノン……そうだな、それがいい。なんだそれ最高じゃないか」
「ぷ、ふふふ……」
途端に機嫌が治るフェリックスを可愛いと思ってしまう、自分も大概この夫に弱いと心の中でひとり言ちるハノンであった。
その後懐かしいかつての学び舎を二人で回る。
ハノンのお気に入りの読書スペースである中庭のベンチに来た時にハノンは言った。
「ここのベンチでよくお弁当を食べたり本を読んで過ごしたわ」
「へぇここでか……学生時代のハノン…可愛かったんだろうなぁ……当時の俺に教えてやりたいよ。この学園内に大切な唯一がいるぞと、今すぐ探してハノンを見つけ出せと。そうしたら十代のハノンを堪能出来たのに……」
心底残念そうに、そして口惜しそうに言うフェリックスにハノンは意地悪してやりたくなった。
「あら、当時のあなたはきっとそんな事どうでも良かったんじゃないかしら?だってあなたはいつも男子も女子も色んな人間に囲まれて楽しそうだったもの」
「魔獣の一件の前から俺の事を知っていた?」
そう訊ねてきたフェリックスにハノンは当時思っていた事を正直に話した。
「ええ。あなたは有名人だったから。そのご友人方も集まっている女生徒もみんな華やかな人たちばかりで、住む世界が違う別の生きものと認識していたわ。軽薄な苦労知らずのボンボンとも思っていたし」
「……そ、そうだったのか……」
確かに既に傾いていたルーセル子爵領を立て直そうと必死だった兄の手伝いをしていたハノンにしてみれば、上位貴族の令息令嬢は何の苦労もない温室育ちに見えた事だろう。
いや実際そうだったのだから。
「絶対に好きになるタイプだとも思えなかったし、近寄りたいとも思わなかったわ」
「うっ……そ、そうか……」
学生時代はのん気に遊んでいた自覚のあるフェリックスは突きつけられた真実に打ちのめされた。
「でも……」
「でも?」
「あの魔獣が暴れた騒ぎの時、皆がただ逃げ惑うしか出来なかった最中であなたは剣を持ち、果敢に立ち向かった。あなたに助けられた時に見た、あなたの広い背中がとても印象的だったの。制服のブレザー越しでは分からなかったその逞しい背中が、どれだけの研鑽を重ね努力してきたのかを如実に語っていたから……薄れゆく意識の中でも目を離す事が出来なかったわ……」
「ハノン……」
「思えばあの背中に恋をしたのね。ふふ、わたしの初恋」
ハノンが屈託のない笑顔をフェリックスに向けた。
「うっ……」
その表情を見たフェリックスが徐に胸を押さえて苦しそうにする。
「フェリックス?急にどうしたの?大丈夫?」
夫のその様子に慌てたハノンが歩み寄った。
そしてフェリックスは苦しそうに声を押し出してハノンに言う。
「……今すぐ抱きしめてキスをしたいっ……」
「えぇっ?ちょっ、何を言ってるの?」
「何を言ってるはこちらのセリフだ。ハノン、キミは俺を殺したいのか。そんな可愛い事を言われて、平静を装えるわけがないっ。ハノン、今すぐ帰ろう」
「バカな事言わないで、せっかくの学園祭なのに。それにルシアンの余興試合を観に来たのよっ?」
「そ、そうだった……じゃあせめて……」
「え?」
フェリックスはハノンの肩を両手で掴み、その頬にキスをした。
どこからか黄色い悲鳴が聞こえる。
こんな場所で頬とはいえキスをされた事にハノンは恥ずかしさで居た堪れなくなる。
そして夫に抗議した。
「もう!何を考えているのっこんな学園内でっ」
「仕方ない。ハノンが可愛いのが悪い」
「なに堂々と恥ずかしい発言もしてくれてるのよっ」
「愛してるぞハノン。学生だった俺に教えてやりたい。将来こんな可愛い妻を得られるという事を」
言うに事欠いて尚も甘いセリフを吐くフェリックスにハノンは頬を染めて口をはくはくさせるしかなかった。
学園祭はまだ始まったばかりであるのに、
ハノンは既にいっぱいいっぱいであった。
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しばらくこの学園祭でのエピソードをお届けします。
でもごめんなさい、しばらく更新は火曜日のみとなりそうです。
・°°・(>_<)・°°・。
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