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ミニ番外編
破滅の足音③ 学園、管理下に
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「……ワイズ卿はまだ来られんのか」
学園の長である自分の首を狩りに来た、地獄の使者の襲来に覚悟を決めたバルビエが補佐の者にそう訊ねた。
今回教師に襲われた王子の婚約者の父であり、近衛騎士隊長でもあるフェリックス=ワイズ伯爵が学園長室にやって来るとの知らせを受けてからすでに半時が過ぎている。
「先ほどワイズ伯爵夫人が学園に到着され、それを知らされた伯が慌てて出迎えに行ったと聞き及んでおります」
補佐の者にそう告げられ、バルビエは表情を明るくした。
「そ、そうか!ワイズ卿の夫人への溺愛は有名だからなっ。夫人に会われたことがクッション材となり、卿のご機嫌が少しでも良くなるといいのだが…….」
「はい誠に……」
「伯爵はいそいそとエントランスに向かわれたそうなので期待出来るかと……」
「そ、そうか!」
補佐役二名の者にそう言われ、バルビエの声が高くなる。
だがしかし…………
カタカタカタ……
───何が期待出来るだ!この文字通り背筋も凍るワイズ卿の冷たさはなんだっ!!
学園長室の応接ソファーに対面となって座るフェリックスから漂う冷気に、バルビエが震えながら補佐役二名を睨めつけた。
補佐役たちは気まずそうに顔を背けている。
フェリックスは膝に手を当て無言で座っている。
カタカタカタ……
バルビエは寒さと恐怖で歯の根が合わない自身の体を叱咤し、居住まいを正してフェリックスに言った。
先手必勝、謝罪は迅速かつ丁寧にを心がけて。
「こ、此度の事、偏に学園の長である私の不徳の致すところ……王子殿下の婚約者であるご息女を危険な目に遭わせて誠に申し訳ありませんでした……!」
座位姿勢のまま頭を下げたバルビエだが、フェリックスからの応答は一切なかった。
深々と下げた後頭部に冷ややかな目を向けられているのを肌で感じる。
───もう許して!なんとか言って!
バルビエが心の中で悲鳴をあげると漸くフェリックスが口を開いた。
「……それは学園長として、教師の監督不行届を詫びておられるのですか?それとも学園内に宗教が蔓延る事を看過した事を詫びておられるのですか?それとも……「全てです!もう全て!!教師を律しきれなかった事も、信仰の自由だからと放置したのも、ご息女が一部生徒から言いがかりを付けられていた事を知りながらも静観したのも、男子生徒を侍らせて闊歩する聖女を厄介だからと注意しなかった事全てに対する謝罪ですっ!!」
バルビエはフェリックスにみなまで言われる前にその言葉を遮って一気に捲し立てた。
肩で息をしながら、バルビエはフェリックスの顔を見る。
向こうはまるで氷の彫像のように無表情でバルビエを見ていた。
───くそっ相変わらず無駄にイケメンだなおいっ。その上侯爵家の出で伯爵で王家の信任厚い近衛騎士だとっ……?天はなぜ、こいつに二物も三物も四物も五物も与え給うたのだ!
半ばヤケクソになりながらそんな事を考えるバルビエは、自身の首に巻いていたマフラーをそっと巻き直した。
フェリックスは冷静……文字通り冷たい静かな声で告げる。
「そこまでわかっていながらなぜこのような状況になるまで……とは申しますまい。貴方の正式な処分は学園理事会が下す事、私の管轄外です。しかし禁術による精神を汚染された人間が学園内に多数いること、そして王子の婚約者への傷害未遂は話が別です。王太子殿下の命にてこれより学園は当面の間王国騎士団の管理下となります。宜しいですね?」
「む、無論だ……」
バルビエが力なく答えると、フェリックスは言葉を重ねた。
「では直ちに調査に入ります。すでに学園は騎士団により敷地内全封鎖。許可が出るまでは学園からは誰一人出られません」
「わ、私はっ……私はどうすればよいのです?」
「学園長は指示があるまでこの部屋で待機願います。もちろん騎士が見張りに付きますので、変な行動は起こされませんよう」
「と、当然だっ、私は聖女に感化されてはおらんっ……」
「ならば重畳。そのまま静かにお待ちください」
フェリックスはそれだけ告げると徐に立ち上がった。
それを見たバルビエは慌ててフェリックスに訊ねた。
「こ、これから学園で何が起こるのですっ?調査だけですかっ?禁忌の術に犯された者たちをどうするのですっ……?」
フェリックスは立ったままその質問に答えた。
「手っ取り早く学園ごと浄化しますよ」
「浄化っ……?それでは何日も生徒を学園に拘束するというのですかっ?」
「言ったでしょう?手っ取り早く学園ごと浄化すると。まとめて一気にいきますよ」
「が、学園ごとっ……?」
「ええ。学園ごと」
「そんな事が可能なのかっ?」
「私には無理ですが、それが出来る者を呼んでおります」
「そ、それは誰なのですっ……?」
「本人たっての希望でシークレットです。本来は民事不介入をモットーとしているらしいので」
「え、えぇー……一体誰~……」
気になって仕方ないバルビエを残し、フェリックスは学園長室を後にした。
そして側に控えていた部下に指示をする。
「これより学園の調査を始める。調査を行うのは魔術師団の魔術師たちだが、騎士はその補助に当たるよう申し伝えろ。捕縛した教師は直ちに魔力無効化の拘束具着用の上投獄。調査、浄化が終わるまで誰一人学園から出してはならん。学園内への立ち入りも禁ずる。心してかかれ」
「はっ」
部下は敬礼し、足早にその場を去って行く。
フェリックスはそれとは反対方向に踵を返し歩き出した。
そろそろあの男が到着するはずだ。
今回、学園全体の浄化を依頼したあの男が。
フェリックスは長靴の硬質な靴音を響かせて長廊下を歩いて行った。
───────────────────────
さて、どっちが来ると思います?
ちなみに「☆」の住人の人なら、フェリックスは占いをして貰って依頼の再会となりますね。
でもまずその前に……
学園の長である自分の首を狩りに来た、地獄の使者の襲来に覚悟を決めたバルビエが補佐の者にそう訊ねた。
今回教師に襲われた王子の婚約者の父であり、近衛騎士隊長でもあるフェリックス=ワイズ伯爵が学園長室にやって来るとの知らせを受けてからすでに半時が過ぎている。
「先ほどワイズ伯爵夫人が学園に到着され、それを知らされた伯が慌てて出迎えに行ったと聞き及んでおります」
補佐の者にそう告げられ、バルビエは表情を明るくした。
「そ、そうか!ワイズ卿の夫人への溺愛は有名だからなっ。夫人に会われたことがクッション材となり、卿のご機嫌が少しでも良くなるといいのだが…….」
「はい誠に……」
「伯爵はいそいそとエントランスに向かわれたそうなので期待出来るかと……」
「そ、そうか!」
補佐役二名の者にそう言われ、バルビエの声が高くなる。
だがしかし…………
カタカタカタ……
───何が期待出来るだ!この文字通り背筋も凍るワイズ卿の冷たさはなんだっ!!
学園長室の応接ソファーに対面となって座るフェリックスから漂う冷気に、バルビエが震えながら補佐役二名を睨めつけた。
補佐役たちは気まずそうに顔を背けている。
フェリックスは膝に手を当て無言で座っている。
カタカタカタ……
バルビエは寒さと恐怖で歯の根が合わない自身の体を叱咤し、居住まいを正してフェリックスに言った。
先手必勝、謝罪は迅速かつ丁寧にを心がけて。
「こ、此度の事、偏に学園の長である私の不徳の致すところ……王子殿下の婚約者であるご息女を危険な目に遭わせて誠に申し訳ありませんでした……!」
座位姿勢のまま頭を下げたバルビエだが、フェリックスからの応答は一切なかった。
深々と下げた後頭部に冷ややかな目を向けられているのを肌で感じる。
───もう許して!なんとか言って!
バルビエが心の中で悲鳴をあげると漸くフェリックスが口を開いた。
「……それは学園長として、教師の監督不行届を詫びておられるのですか?それとも学園内に宗教が蔓延る事を看過した事を詫びておられるのですか?それとも……「全てです!もう全て!!教師を律しきれなかった事も、信仰の自由だからと放置したのも、ご息女が一部生徒から言いがかりを付けられていた事を知りながらも静観したのも、男子生徒を侍らせて闊歩する聖女を厄介だからと注意しなかった事全てに対する謝罪ですっ!!」
バルビエはフェリックスにみなまで言われる前にその言葉を遮って一気に捲し立てた。
肩で息をしながら、バルビエはフェリックスの顔を見る。
向こうはまるで氷の彫像のように無表情でバルビエを見ていた。
───くそっ相変わらず無駄にイケメンだなおいっ。その上侯爵家の出で伯爵で王家の信任厚い近衛騎士だとっ……?天はなぜ、こいつに二物も三物も四物も五物も与え給うたのだ!
半ばヤケクソになりながらそんな事を考えるバルビエは、自身の首に巻いていたマフラーをそっと巻き直した。
フェリックスは冷静……文字通り冷たい静かな声で告げる。
「そこまでわかっていながらなぜこのような状況になるまで……とは申しますまい。貴方の正式な処分は学園理事会が下す事、私の管轄外です。しかし禁術による精神を汚染された人間が学園内に多数いること、そして王子の婚約者への傷害未遂は話が別です。王太子殿下の命にてこれより学園は当面の間王国騎士団の管理下となります。宜しいですね?」
「む、無論だ……」
バルビエが力なく答えると、フェリックスは言葉を重ねた。
「では直ちに調査に入ります。すでに学園は騎士団により敷地内全封鎖。許可が出るまでは学園からは誰一人出られません」
「わ、私はっ……私はどうすればよいのです?」
「学園長は指示があるまでこの部屋で待機願います。もちろん騎士が見張りに付きますので、変な行動は起こされませんよう」
「と、当然だっ、私は聖女に感化されてはおらんっ……」
「ならば重畳。そのまま静かにお待ちください」
フェリックスはそれだけ告げると徐に立ち上がった。
それを見たバルビエは慌ててフェリックスに訊ねた。
「こ、これから学園で何が起こるのですっ?調査だけですかっ?禁忌の術に犯された者たちをどうするのですっ……?」
フェリックスは立ったままその質問に答えた。
「手っ取り早く学園ごと浄化しますよ」
「浄化っ……?それでは何日も生徒を学園に拘束するというのですかっ?」
「言ったでしょう?手っ取り早く学園ごと浄化すると。まとめて一気にいきますよ」
「が、学園ごとっ……?」
「ええ。学園ごと」
「そんな事が可能なのかっ?」
「私には無理ですが、それが出来る者を呼んでおります」
「そ、それは誰なのですっ……?」
「本人たっての希望でシークレットです。本来は民事不介入をモットーとしているらしいので」
「え、えぇー……一体誰~……」
気になって仕方ないバルビエを残し、フェリックスは学園長室を後にした。
そして側に控えていた部下に指示をする。
「これより学園の調査を始める。調査を行うのは魔術師団の魔術師たちだが、騎士はその補助に当たるよう申し伝えろ。捕縛した教師は直ちに魔力無効化の拘束具着用の上投獄。調査、浄化が終わるまで誰一人学園から出してはならん。学園内への立ち入りも禁ずる。心してかかれ」
「はっ」
部下は敬礼し、足早にその場を去って行く。
フェリックスはそれとは反対方向に踵を返し歩き出した。
そろそろあの男が到着するはずだ。
今回、学園全体の浄化を依頼したあの男が。
フェリックスは長靴の硬質な靴音を響かせて長廊下を歩いて行った。
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さて、どっちが来ると思います?
ちなみに「☆」の住人の人なら、フェリックスは占いをして貰って依頼の再会となりますね。
でもまずその前に……
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