137 / 161
ミニ番外編
ポレットの婚礼 ⑥ 挙式当日・花嫁の母
アデリオール王国王太子嫡男デイビッドとポレット・ワイズ伯爵令嬢の挙式当日は快晴となった。
今日の主役のひとりであるポレットは、朝早くに起床して準備を始める。
この日のために集められた腕利きのレディーズメイドたち。
そして古くからポレットに付いてくれている侍女たちとで、ポレットは最高に美しい花嫁に仕上げられた。
その様子を母親として感慨深げに見守っていたハノンが姿見の前の娘に告げる。
「綺麗よポレット。あなたはわたしの誇りだわ」
母の言葉を受け、ゆっくりと振り返るポレット。
父親譲りの赤い瞳がまっすぐにハノンに向けられる。
「ありがとうございます、お母様……」
「本当に美しく成長して……」
ハノンは目頭が熱くなるのを感じた。
手塩にかけて育てた娘の晴れ姿を見て、胸の内から様々な感情が涙と共に溢れ出しそうになる。
だが自分は花嫁の母。
これからのスケジュールを考えると泣いている暇はない。
泣くのはワイズの男たちに任せて、自分は笑顔で娘の門出を見守り、ワイズ側の差配を執らねばと気持ちを引き締めた。
そしてハノンは娘の元へと行き、流れるベールの位置を整える。
ポレットのウェディングドレスは東方から取り寄せた最高級の絹とこれまた最高級のシルク糸で織られたオーガンジーやレース(レース部分はメロディ謹製)をふんだんに使用されている。
薄いレースのハイネックノースリーブにプリンセスラインのシルエットが、気品を損なわずにポレットの可憐さと瑞々しい美しさを引き出す絶妙なデザインだ。
そこに惜しげもなく最高品質のダイヤとパールが散りばめられ、王家より届けられた王族のみが着用を許されるティアラに負けない輝きを放っていた。
王家に嫁ぐワイズ家門の娘が身に纏うに相応しい、流行の最先端を捉えながらも格式の高さが窺える最高のウェディングドレスであった。
親の贔屓目を差し引いても実に美しい花嫁である。
大切に、大切に育てた娘だ。
今日という晴れの日を迎えられて本当に嬉しい。
だけど同時に、その大切な娘を手放す寂しさも感じる。
これからは母として無遠慮に触れ慈しむことも憚られる、王族と臣下の関係となるのだ。
母娘であることに変わりはなくても、公の場では決してもう娘に触れることは叶わない。
娘の身に辛いことが起きたとしても、抱きしめて慰めることも容易には出来なくなる。
それがどうしようもなく、寂しい。
だから。
だからせめて、絶対に幸せに、幸せになって欲しい。
ハノンはそう祈るばかりであった。
「ポレット、頑張りなさい。女は強しよ」
「はい。大丈夫です。だって、私はお母様の娘だもの」
「そうね、……ええ、そうね」
ハノンはポレットの両手を自身の両手で包みこむ。
そしてその手を額に押し頂き、娘の幸せを心から願った。
嫁いでゆく娘と只々娘の幸せを願う母。
その光景は高尚で美しく、まるで一枚の絵画のようであったと、その場にいた古参の侍女長が後に語ったという。
そして定刻となり、ポレットが生家を後にする時が訪れる。
家族と伯爵家に仕える者たちが花嫁の出発を見送るためにエントランスに集まっていた。
家令を筆頭とする使用人たちが次々に祝いの言葉を口にする。
兄であるルシアンは妹の花嫁姿を見て、目を細めて頷いた。
妹のノエルが「おねぇさまキレイっ……!まるでまっしろなデコレーションケーキみたい!」と目を輝かせて羨望の眼差しを姉に向けているのが微笑ましくて、皆の笑みが零れた。
ぐるりとエントランスを見渡し、ポレットが母に尋ねる。
「……お父様がいらっしゃらないようだけど……」
嫁に行ってくれるなと拗ねてしまっているのだろうか。
そんな娘の心配を見透かすようにハノンが答えた。
「ふふ。この期に及んでそんな大人気ないことはしないわよ。王家に嫁ぐ花嫁の護衛を、近衛騎士として他に任せる気はないと言ってね。もう騎乗して馬車の側で待機しているわ」
それを聞き、ポレットは瞠目する。
「え……近衛隊長であるお父様が直々に護衛してくださるの……?」
「ええ。王家の慶事は国民の皆が喜ぶところではあるけれど、利権的な思惑でどうしても良しとは思わない輩もいると……そんな奴らが何か仕掛けてこないとは絶対に言えない。ポレットは必ず、命に代えても無事に大聖堂まで送り届けると息巻いていたわ」
「お父様……」
「でも心配しないでね?近衛隊長としては大聖堂到着まで。その後はポレットの父として、式に参列するからと本人が言っていたわ」
母の言葉に、ポレットの胸がいっぱいになる。
こんなに頼もしく、安心して身を委ねられる護衛は他にはいないだろう。
そして、「じつはキースもポレットの護衛に志願して、フェリックスの隣で既に馬上の人よ」という母の言葉にポレットは思わず吹き出していた。
もう一人、信頼できる護衛もいた。
介添人に手を引かれて屋敷の外に出ると、母の言った通り、父と従兄が騎乗して待機していた。
ポレットは二人を見て微笑んで会釈をすると、父は黙ったまま頷いて、それに応えた。
キースがため息混じりの感嘆の声を発する。
「なんと……美しい……!綺麗だよポゥ」
「ありがとうございます、キースお兄様」
「………フグッ……!」
ポレットが花の顏を綻ばせるとキースから変な声が漏れた。
が、同時に余裕を持って出発した方がよいと告げられたポレットがそれに従って馬車に乗った。
それを見届けたフェリックスが護衛騎士の隊列に号令を発する。
「これより出立する。道中、不届き者が現れたら容赦なく鎮圧せよ。その際の抜剣を許可する」
「はっ!」
部下たちの返事を聞き、フェリックスは小さく頷いた。
そうして四頭立ての馬車をぐるりと囲み隊列を成す近衛騎士たちに守られながら、ポレットは大聖堂へ向けて出発した。
─────────────────────
次回は、近衛隊長から花嫁の父に戻ったフェリックスとポレットのお話です。
その逆となるルシアン。
あ、もちろん式には兄として参列します。
その後のお話ですね。
次次回くらいかな?(予告)
今日の主役のひとりであるポレットは、朝早くに起床して準備を始める。
この日のために集められた腕利きのレディーズメイドたち。
そして古くからポレットに付いてくれている侍女たちとで、ポレットは最高に美しい花嫁に仕上げられた。
その様子を母親として感慨深げに見守っていたハノンが姿見の前の娘に告げる。
「綺麗よポレット。あなたはわたしの誇りだわ」
母の言葉を受け、ゆっくりと振り返るポレット。
父親譲りの赤い瞳がまっすぐにハノンに向けられる。
「ありがとうございます、お母様……」
「本当に美しく成長して……」
ハノンは目頭が熱くなるのを感じた。
手塩にかけて育てた娘の晴れ姿を見て、胸の内から様々な感情が涙と共に溢れ出しそうになる。
だが自分は花嫁の母。
これからのスケジュールを考えると泣いている暇はない。
泣くのはワイズの男たちに任せて、自分は笑顔で娘の門出を見守り、ワイズ側の差配を執らねばと気持ちを引き締めた。
そしてハノンは娘の元へと行き、流れるベールの位置を整える。
ポレットのウェディングドレスは東方から取り寄せた最高級の絹とこれまた最高級のシルク糸で織られたオーガンジーやレース(レース部分はメロディ謹製)をふんだんに使用されている。
薄いレースのハイネックノースリーブにプリンセスラインのシルエットが、気品を損なわずにポレットの可憐さと瑞々しい美しさを引き出す絶妙なデザインだ。
そこに惜しげもなく最高品質のダイヤとパールが散りばめられ、王家より届けられた王族のみが着用を許されるティアラに負けない輝きを放っていた。
王家に嫁ぐワイズ家門の娘が身に纏うに相応しい、流行の最先端を捉えながらも格式の高さが窺える最高のウェディングドレスであった。
親の贔屓目を差し引いても実に美しい花嫁である。
大切に、大切に育てた娘だ。
今日という晴れの日を迎えられて本当に嬉しい。
だけど同時に、その大切な娘を手放す寂しさも感じる。
これからは母として無遠慮に触れ慈しむことも憚られる、王族と臣下の関係となるのだ。
母娘であることに変わりはなくても、公の場では決してもう娘に触れることは叶わない。
娘の身に辛いことが起きたとしても、抱きしめて慰めることも容易には出来なくなる。
それがどうしようもなく、寂しい。
だから。
だからせめて、絶対に幸せに、幸せになって欲しい。
ハノンはそう祈るばかりであった。
「ポレット、頑張りなさい。女は強しよ」
「はい。大丈夫です。だって、私はお母様の娘だもの」
「そうね、……ええ、そうね」
ハノンはポレットの両手を自身の両手で包みこむ。
そしてその手を額に押し頂き、娘の幸せを心から願った。
嫁いでゆく娘と只々娘の幸せを願う母。
その光景は高尚で美しく、まるで一枚の絵画のようであったと、その場にいた古参の侍女長が後に語ったという。
そして定刻となり、ポレットが生家を後にする時が訪れる。
家族と伯爵家に仕える者たちが花嫁の出発を見送るためにエントランスに集まっていた。
家令を筆頭とする使用人たちが次々に祝いの言葉を口にする。
兄であるルシアンは妹の花嫁姿を見て、目を細めて頷いた。
妹のノエルが「おねぇさまキレイっ……!まるでまっしろなデコレーションケーキみたい!」と目を輝かせて羨望の眼差しを姉に向けているのが微笑ましくて、皆の笑みが零れた。
ぐるりとエントランスを見渡し、ポレットが母に尋ねる。
「……お父様がいらっしゃらないようだけど……」
嫁に行ってくれるなと拗ねてしまっているのだろうか。
そんな娘の心配を見透かすようにハノンが答えた。
「ふふ。この期に及んでそんな大人気ないことはしないわよ。王家に嫁ぐ花嫁の護衛を、近衛騎士として他に任せる気はないと言ってね。もう騎乗して馬車の側で待機しているわ」
それを聞き、ポレットは瞠目する。
「え……近衛隊長であるお父様が直々に護衛してくださるの……?」
「ええ。王家の慶事は国民の皆が喜ぶところではあるけれど、利権的な思惑でどうしても良しとは思わない輩もいると……そんな奴らが何か仕掛けてこないとは絶対に言えない。ポレットは必ず、命に代えても無事に大聖堂まで送り届けると息巻いていたわ」
「お父様……」
「でも心配しないでね?近衛隊長としては大聖堂到着まで。その後はポレットの父として、式に参列するからと本人が言っていたわ」
母の言葉に、ポレットの胸がいっぱいになる。
こんなに頼もしく、安心して身を委ねられる護衛は他にはいないだろう。
そして、「じつはキースもポレットの護衛に志願して、フェリックスの隣で既に馬上の人よ」という母の言葉にポレットは思わず吹き出していた。
もう一人、信頼できる護衛もいた。
介添人に手を引かれて屋敷の外に出ると、母の言った通り、父と従兄が騎乗して待機していた。
ポレットは二人を見て微笑んで会釈をすると、父は黙ったまま頷いて、それに応えた。
キースがため息混じりの感嘆の声を発する。
「なんと……美しい……!綺麗だよポゥ」
「ありがとうございます、キースお兄様」
「………フグッ……!」
ポレットが花の顏を綻ばせるとキースから変な声が漏れた。
が、同時に余裕を持って出発した方がよいと告げられたポレットがそれに従って馬車に乗った。
それを見届けたフェリックスが護衛騎士の隊列に号令を発する。
「これより出立する。道中、不届き者が現れたら容赦なく鎮圧せよ。その際の抜剣を許可する」
「はっ!」
部下たちの返事を聞き、フェリックスは小さく頷いた。
そうして四頭立ての馬車をぐるりと囲み隊列を成す近衛騎士たちに守られながら、ポレットは大聖堂へ向けて出発した。
─────────────────────
次回は、近衛隊長から花嫁の父に戻ったフェリックスとポレットのお話です。
その逆となるルシアン。
あ、もちろん式には兄として参列します。
その後のお話ですね。
次次回くらいかな?(予告)
あなたにおすすめの小説
結婚式の翌朝、夫に「皇太子の愛人だろう」と捨てられました――ですが私は、亡き国王の娘です
柴田はつみ
恋愛
母の遺した薬草店を守りながら、慎ましく暮らしていたアンリ。
そんな彼女に求婚してきたのは、国内でも名高い騎士にして公爵家当主、アルファだった。
真っすぐな想いを向けられ、彼を信じて結婚したアンリ。
けれど幸せなはずの結婚式の翌朝、夫は冷たく言い放つ。
「君を愛していると本気で思っていたのかい? 」
彼はアンリが第一皇太子と深い仲にあり、自分との結婚は身を隠すための偽装だと誤解していたのだ。
アンリは実は、亡き国王の婚外子。
皇太子にとっては、隠して守らなければならない妹だったのである。
三度裏切られた私が、四度目で「離婚」を選ぶまで
狛犬
恋愛
三度、夫に裏切られた。
一度目は信じた。
二度目は耐えた。
三度目は――すべてを失った。
そして私は、屋上から身を投げた。
……はずだった。
目を覚ますと、そこは過去。
すべてが壊れる前の、まだ何も起きていない時間。
――四度目の人生。
これまでの三度、私は同じ選択を繰り返し、
同じように裏切られ、すべてを失ってきた。
だから今度は、もう決めている。
「もう、陸翔はいらない」
愛していた。
けれど、もう疲れた。
今度こそ――
自分を守るために、家族を守るために、
私は、自分から手を放す。
これは、三度裏切られた女が、
四度目の人生で「選び直す」物語。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。
「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」
私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・
異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。
「美しい女性(ヒト)、貴女は一体、誰なのですか?」・・・って、オメエの嫁だよ
猫枕
恋愛
家の事情で12才でウェスペル家に嫁いだイリス。
当時20才だった旦那ラドヤードは子供のイリスをまったく相手にせず、田舎の領地に閉じ込めてしまった。
それから4年、イリスの実家ルーチェンス家はウェスペル家への借金を返済し、負い目のなくなったイリスは婚姻の無効を訴える準備を着々と整えていた。
そんなある日、領地に視察にやってきた形だけの夫ラドヤードとばったり出くわしてしまう。
美しく成長した妻を目にしたラドヤードは一目でイリスに恋をする。
「美しいひとよ、貴女は一体誰なのですか?」
『・・・・オメエの嫁だよ』
執着されたらかなわんと、逃げるイリスの運命は?
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
私を棄てて選んだその妹ですが、継母の私生児なので持参金ないんです。今更ぐだぐだ言われても、私、他人なので。
百谷シカ
恋愛
「やったわ! 私がお姉様に勝てるなんて奇跡よ!!」
妹のパンジーに悪気はない。この子は継母の連れ子。父親が誰かはわからない。
でも、父はそれでいいと思っていた。
母は早くに病死してしまったし、今ここに愛があれば、パンジーの出自は問わないと。
同等の教育、平等の愛。私たちは、血は繋がらずとも、まあ悪くない姉妹だった。
この日までは。
「すまないね、ラモーナ。僕はパンジーを愛してしまったんだ」
婚約者ジェフリーに棄てられた。
父はパンジーの結婚を許した。但し、心を凍らせて。
「どういう事だい!? なぜ持参金が出ないんだよ!!」
「その子はお父様の実子ではないと、あなたも承知の上でしょう?」
「なんて無礼なんだ! 君たち親子は破滅だ!!」
2ヶ月後、私は王立図書館でひとりの男性と出会った。
王様より科学の研究を任された侯爵令息シオドリック・ダッシュウッド博士。
「ラモーナ・スコールズ。私の妻になってほしい」
運命の恋だった。
=================================
(他エブリスタ様に投稿・エブリスタ様にて佳作受賞作品)