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アイシャ、怒る

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ほぼセリフの応酬です。


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「……なんだ。久しぶりに顔を合わせたというのにそんな顰めっ面をして」

「私がこんな顔をする理由はご存知なのではありませんか?クレイル卿」

「親子なんだ。敬称なんてつけなくていい」

「ではクレイル次席補佐官様」

「役職名もだ」

「我儘ですね、

「…………」



私は今、久しぶりに対面した義父である実父と対峙している。

原因は私宛のブレイクからの手紙を隠蔽した事だ。



「………手紙の事は………その、すまなかった」

「え?なんですか?お声が小さくて聞こえません」


「っ、勝手に手紙を隠して悪かった!」

「どうして謝罪がそんなに偉そうなんですか。それがお貴族様流なのですか?」

「偉そうになど言っていない」

「声に全く誠意が感じられませんもの」

「お前はっ……私にどうしろと言いたいのだ」

「ブレイクに謝って下さい。貴方の所為で私は彼の事を疑って信じられなくなった。彼は何も悪くないのに」

「しかしだな、ブレイク=ワードの父親の素行の悪さといったら酷いものだったのだぞっ?そんな家の者をお前に近付けさせれるわけがないだろうっ……」

「人の物を勝手に奪うのは盗みと一緒ですよ?そんな行為をしておいて人の家庭の事を偉そうに言うのですか?それに、親と子は同じ人間ではありません。彼自身の為人も知らないで最初から色眼鏡で見るなんて、了見が狭いのではないですかっ?」

「うっ……し、しかしっ…あの青年が父親に似ないとは言えないだろうっ……」

「では今はどうです?今の彼を見てどう思いますかっ?懸念していた女遊びをしてますか?ギャンブルをしてますか?」

「そ、それは……だなっ……」

「彼は貴方と同じ経歴だそうですね?魔術学園を上位の成績で卒業し、魔法省に高官候補として入省。今現在次長で、まぁあなたは彼の歳では副局長になっておられましたけど、それは貴族という身分が底上げしたものでしょう?彼は平民で、しかも働きながら成績上位で卒業しましたよ。父親が居ても居なくても!」

「ぐっ……そ、そうだ、な……」

「そんな彼の頑張りを私は知らずに来ました。今まで、貴方に手紙を奪われ続けた所為で」

「うっ……」

「そんな大変な時こそ励ましてあげたかった。優しくしてあげたかった。労わってあげたかった。私と彼の時間を返して下さいっ!それが出来ないなら裸踊りで王都を一周してからブレイクに謝って下さいっ!」

「お前はっ!親に向かってなんて口をっ……!」

「親らしい事なんて一つもしてこなかった癖に父親面しないでっ!」

「私はっ、お前の事を思って……!お前の事を心配してっ……!」

「それが父親面だと言うんです!今回の事は絶対に許さないっ!もう絶対に父親だなんて思わないっ!」

「っ………!」


私が吐き捨てた言葉に、ギード=クレイルは酷く傷付いた顔をした。


それでも、やっぱり私の怒りは鎮まらない。


その時、私の名を呼ぶ声がした。


「アイシャ」

「………ブレイク……」


部屋の入り口の方を見ると、母に案内されて来たブレイクの姿があった。

「どうしてここに……?」

「迎えに来たんだよ。もっと早く来たかったんだけど仕事で抜け出せなくて」

そう言ってブレイクは私の元まで来た。
そして父の方を向き、一礼する。

「先日はお時間を取って頂きありがとうございました」

「……いや……」

「正直、手紙の件では申し上げたい事は山ほどありますが、もういいんです」

「よくないわっ!私たちの大切な時間を奪われたのよっ、下手したら一緒になれなかった可能性もあるのに……」

「でも俺たちはこうして今、一緒にいる。親父さんの妨害にも屈せず、想いは消えなかった。結局、手紙を隠されたって意味はなかったんだ」

ブレイクのその言葉に、ギード=クレイルは何も言えずに俯いていた。

代わりに母の脳天気な声が聞こえる。

「本当にどうしようもない人ね。やり過ぎなのよ貴方は。貴方が隠し持っていたあれを、ブレイクに返しても良いわね?」

母が父に訊ねると、父は黙って頷いた。

あれとはなんだろう?と思っていると、母が別室から箱を一つ持ってきた。

そして私とブレイクにその箱を渡した。

「これは?」

「ブレイクがアイシャに宛てた手紙よ。全部未開封で取ってあったみたい」

手紙と聞き、私は箱の中身を確かめた。

そこにはブレイクがわたしに宛てた手紙がぎっちりと詰まっていた。

「こんなに沢山……私に書き続けてくれたのね……」

手紙の多さに、ブレイクの想いが詰まっているようで泣けてきた。

ブレイクは照れて肩を竦めながら言った。

「諦めが悪い性格なんだ。しつこい、ともよく言われるけど。……引いた?」

「引かないわ……引くわけない」

私は手紙が入った箱を胸に抱いた。

母が父に言う。

「貴方、ここで言うべき言葉は一つですよ。言い訳は必要ないですからね」

「…………ワード……」

「はい」

「本当に申し訳なかった…すまなかった……」

「……もういいです。アイシャと結婚できるんですから。これでアイシャに振られていたなら、ちょっと自分でも何し出かすか分かりませんでしたが」

「………」


私はギード=クレイルに告げた。


「ブレイクが許しても私はやっぱり許せないわ。だから暫く絶縁させて貰います」

私のその言葉を受け、母が問う。

「暫くって……いつまで?」

「さあ?孫が生まれても抱かせてあげられないかも?」

「っ……!?」

その瞬間、ギード=クレイルはもの凄い形相をこちらに向けてきた。
酷く哀れな、勝手に打ちのめされた顔。

「まぁ……そうなの……」

母は仕方ない、といった様子で私の言葉を受け入れていた。

母はもう色々と人生振り切れて達観している。
これまで散々泣き、怒り、だけどやっばり愛する事を捨てきれず、そんな事を繰り返し続けてもう思いっきり振り切れているらしい。


ツンとする私の肩を抱き、ブレイクが言った。

「アイシャは昔から一度怒るとなかなか怒りが収まりませんからね……頃合いを見て、またご連絡します」

「滅多に怒らない分、怒ったら長いのよね……でも悪いのはこちらだから…それに従うわ。貴方もそれでよろしいですね?」

「………」

「貴方?」

「……………わかった」

「あ、でもアイシャ、ジュノンにはこれまで通り文通してあげて?あの子、アイシャの事が好きだし、魔術学園に通っててブレイクに色んな話を聞きたいと言っていたから」

「ジュノンが?……まぁあの子は誰かさんに似ずいい子よね。分かった。ジュノンには手紙を書き続けるわ。それにいつでも遊びに来てとも伝えて」

「良かった、ありがとう」

ジュノンは私の異母弟だ。

つまりギード=クレイルが別れた妻との間に設けたクレイル家の後継者。

現在十六歳で魔術学園で寮生活を送っている。

母親であった前クレイル子爵夫人は恋人との逢瀬に忙しく、ほとんど息子であるジュノンの子育てに関わらなかったそうだ。

いずれ別れると分かっているからこそ構わなかったのかもしれないけど……。

ジュノンのような境遇の子は実は貴族社会では珍しくもなんともないらしい。
だから本人もあっけらかんとしたものだ。

一人っ子なのが寂しいと思っていたらしく、なぜか私を姉と慕ってくる。
継母との関係も良好らしい。
まぁ母は職業柄面倒見がいいし、もの怖じしない人だから、母の愛をあまり知らないジュノンは絆されちゃったのだろう。

まぁ……懐いてくる弟というイキモノが可愛くないわけないわよね。

だから私もこの家はともかく、ジュノンとだけは仲良くしているのだ。

といっても王都と地方の街では文通くらいしか出来ないけど。

こうして私は、ギード=クレイルに無期限の絶縁を突きつけて、クレイル邸を後にした。


母も今やギード=クレイルとセットのようなものなので、
同じく絶縁のような感じになってしまうけど仕方ない。

相容れないものは相容れないのだ。


母は母の幸せ、私は私の幸せを守って生きてゆくしかない。



ブレイクと共に有料転移魔法スポット(料金を払って転移魔法の術式を買い、目的地に転移する公共施設)までの道のりを歩いて行く。

私の手をしっかりと握るブレイクを見つめた。


「ブレイク、迎えに来てくれて、ありがとう……」

「当たり前だろ?俺の手紙の為に怒りに行ったというのに」

「あ、手紙といえば、やっと受け取れたこの手紙、帰ったらじっくり読ませて貰うわね」

「……な、なんか今さら恥ずかしいな……読まずに置いておくというのは……駄目?」

「駄目。読みたい。ブレイク少年がどれだけ頑張ってきたのか知りたいし、何を考えていたのかも知りたい」

「考えていたのはアイシャの事だけだよ……ってやっぱりその手紙読むの無し!」

ブレイクはそう言って私から手紙の入った箱を奪おうとした。

「イヤよ!絶対読むんだから」

「いや、未成年だった頃の手紙なんて、絶対変な事しか書いてないから勘弁してくれっ」

「ダメったらダメ~」


そんなやり取りが堪らなく嬉しい。


私たちはこうやって昔のように戯れ合って、
離れていた時間を取り戻そうとしている。





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次回、最終話です。


そしてフルボッコフェス開催予定日ですよ☆







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