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マーキング!?

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魔法大臣の執務室に戻ると、
部下が大慌てで部屋に飛び込んで来た。

「閣下!大変です、監視を続けていた
リック=アレンが突然姿を消しました!」

「なんだとっ!?
監視役は何をしていた!アイツは転移魔法を
使えるから気をつけろと散々言ったであろうが!……魔力残滓の回収はしているんだろうな?」

側にいたスミスが僕に言った。

「アレンは監視をしていた者の一瞬のスキを
突いたのでしょう。でもアイツにはワルターが
マーキングしていますから問題ありません。
アレ?そういえばワルターの姿が見えませんね、
彼はどうしました?」

「あぁ、あいつならどうしても少しだけ時間が欲しいと言って……ホラ、いつものアレだ」

僕がそう答えると
スミスは全てを察したように、
「……あぁ」とだけ言った。

「とにかく今すぐアレン家へ突入する。
もう少し証拠を集めたかったがやむを得ん。
もたもたしてたら全員取り逃しそうだ!
至急、騎士団に連絡を」

「承知しました!」

その時、別の部下が僕に近づいて来た。

「閣下」

「なんだ?」

「ブライス卿から念書鳩メッセンジャーが届いております」

「なに?……ワルターから?」




◇◇◇◇◇


「そんなに怒らないでよ。
勝手に連れて来たのは悪いと思ってるけどさ。
ホラ、お茶をどうぞ?冷めちゃうよ?」

「結構です。要りません」

わたしは椅子に座りながら
そっぽを向いて返事をした。

「なかなかの胆力だよね。普通、誘拐されたら
もっと不安がって怖がらない?」

「人を鈍感みたいに言わないで。
もちろん不安だし怖いに決まってるでしょ!」

「……信じてるんだ」

「…………」

「ワルターが助けに来るって、
 信じてるんでしょ?」

「ふん」

わたしは返事をしたくなくて更に
そっぽを向いた。
首がおかしくなりそう……。

でも確かにわたしは信じてる。
すぐには無理でも、彼ならきっと助けに
来てくれると。

だからわたしはそれまで出来るだけ時間を稼いで、
尚且つこのリック=アレンから情報を
引き出さねば。

「……ねぇアレンさん、
こちらの情報を流しているのはあなたなの?
あなたはわたし達を裏切っているの?」

わたしのその問いかけに
アレンさんはきょとん、とした顔で答えた。

「いや?裏切ってなんかいないよ?」

「じゃあどうしてわたしを人質になんか……」

「裏切るも何も、
俺は最初からキミ達側の人間じゃないよ」

「え……?アレンさん、それってどういうこと?」

「リックだよ。俺の名はリックだ。
アレンはからね。これから
全員を“アレンさん”って呼んでたら大変だよ?」

「……ではリックさん、他にも二人いる?
全員で3人のアレンさんがいるという事なのね?」

わたしがそう尋ねると、リックさんは頷いた。

「まぁね。ここまで話したら、もう大凡おおよその検討はついたでしょ?そう、キミ達が“組織”だと思っていたのは実は俺たちアレン家の三兄弟の仕業だったという事さ」

「三兄弟?」

「そう。俺は末っ子だけどね」

「そのアレン家の三兄弟が何故こんな犯罪を?」

わたしは唇を舐めて湿らせた。
緊張で口が渇いて辛かった。

そんなわたしの様子を見てリックさんは言う。

「どうぞせっかくだからお茶を召し上がれ?
変な薬なんか入れてないよ?喉が渇いてるんでしょ?」

「遠慮しておきます……」

「強情だなぁ。じゃあキミの婚約者が側にいれば
安心してお茶を飲む?」

「え?」

「ワルター、入って来いよ。
陰で様子を伺ってないで側に居てあげれば?
この家には他人が入ってきたらわかるように
細工してあるからな。お前が来てるって
すぐにわかったぞ」

「へ?」

突然リックさんが扉の方へ向かって
話出したものだから驚いて変な声を
あげてしまった。

するとゆっくりと扉が開く。

「えぇぇっ!?」

わたしはそれを見て驚きの声を上げてしまった。

だって扉を開けてワルターが入ってきたのだから。

そしてゆっくりとした足取りだけど
脇目も振らずにわたしの元へと歩いて来る。

「ちょっ……なんで?いや助けに来てくれるとは
思ってたけど早すぎない!?」

「リス、大丈夫?なのは最初から見てたから
わかるけど、怖かっただろう……」

そう言ってワルターはわたしを抱きしめる。

「ねぇワルター、
最初から見てたってどういう事?」

「家まで送れないって言ったけどさ、やっぱり気になって閣下に少しだけ時間を貰ったんだ。リスが家に入るまで陰から見届けようと思って……」

「なんで影からなのよ!それなら堂々と送ってくれたらいいじゃないっ」

「いや見届けたらパパッと閣下の元へ帰る
つもりだったから……」

わたし達のやり取りを見ていたリックさんが
笑い出した。

「あはは!ワルター、お前ストーカー習慣が
染み付いちゃってるじゃないか!」

ワルターはリックさんを一瞥してから
またわたしの方へ顔を向けた。

「そしたら監視下に置かれてる筈のアレンが突然
現れてリスを連れて転移するから慌てて
追いかけたんだよ」

「どうしてすぐに追いかけられたの?
魔力残滓を辿っても、それなりに時間が
かかるでしょう?」

「あぁ……それはリスにはマーキングしてて、
どこに居てもわかるようにしてたかr…」

言い辛そうにしながらも答えるワルターの口を押さえて黙らせた。

「ちょっと待って。
……………マーキングって何?」

それにはリックさんが横入りしてきた。

「え!?シリスちゃん、マーキング知らないの?
マーキングっていうのはね…「知ってるわよ!」

わたしはリックさんの言葉を遮った。

「マーキングってアレよね?自分の魔力を
相手の持ち物とかに付着して、居場所や
行動を探る魔術よね?」

「そう、……だね……でもリスは危険な事でも
首を突っ込みそうで心配で……」

「それでわたしに断りもなく
 勝手にマーキングしたと……」

「うん……ごめんさい…って痛っ!」

わたしはワルターの両頬を思いっきり
ツネってやった。


「ぶっ……くっくっくっ……お二人さん、
もうそろそろ本題に戻ってもいいかな?」

リックさんは懸命に笑いを堪えよう……とは
していないみたいだが、先ほどの話しの続きを促した。

わたしは不貞腐れながら返事をする。

「どうぞっ」

「いや、お前らお似合いだよ、ホント。
ワルターのストーカー魂を受け止められるのは
シリスちゃんくらいなものだよ」

「それはどうもっ!
ホラ話の続きをするんでしょっ!」

「ぶはっ!
はいはい、そうでしたそうでした」

面白がって笑うリックさんに
ワルターが睨め付ける。

「言っておくが、お前にもマーキング済みだ。
どこへ飛んでも無駄だからな」

「え?俺もなのっ……て、ちょっと待って、
お客さんみたいだ」

そう言ってリックさんは窓の外を見る。

「ありゃ皆さん勢揃いで。
ワルター、閣下のご到着だよ」

「来られたか。
お前を追いかける前に閣下に念書鳩メッセンジャー
を飛ばしたからな」

閣下?というとモーガン公爵がここに
来られたという事?

「せっかくだから、閣下にも同席を
お願いして聞いて貰おうかな。二人とも
ちょっと待ってて」

そう言い残してリックさんは
モーガン公爵を出迎えに玄関へと向かった。

あら?
わたしって人質じゃなかったの?
もういいの?
お役御免?

ややあって、モーガン公爵とスミスさんを連れて
リックさんが戻って来た。

部屋に入るなりモーガン公爵がわたしに仰った。

「ミス・クレマン、無事で良かった。
キミを巻き込んでしまって申し訳ない」

「い、いえ……わたしは特には……」

そしてモーガン公爵はリックさんに向き直った。
そして毅然とした態度で仰った。

「それで?一体どういうつもりだアレン。
他の兄弟はどうした?」

リックさんは肩をすくめながら
少し困ったような顔をされ、言った。

「それも全部お話しますよ。
知りたいでしょう?俺たち兄弟がなぜ魔力、
魔術売買に手を染めたか。何をしたかったのか、
何をするつもりだったのかを」

それを聞き、一同は黙り込んだ。

沈黙を肯定と見做し、リックさんは話し始める。

「では聞いて下さいよ、俺たち家族の物語を……」


















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