セフ令嬢は引き際をわきまえている

キムラましゅろう

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セフ令嬢はびっくりする

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「あ、彼ピッピじゃなかった☆彼ピなんだって?も~ウチのハシュ坊ったらこんな可愛いカノピがいる事今までナイショしてたなんて~!帰ってきたらヘッドロックからの嫌いなピーマンを口の中に詰め込む刑に処さなきゃね♡」

「え?ハッシュってピーマン嫌いなんですか?いつも美味しいって食べていますよ?」

「えぇっ?ホントにっ?も~あの子ったらミュリアちゃんの前でイイトコ見せたがり過ぎぃぃ~!」

「ピーマン食べたらイイトコ見せられるんですか?」

「そうよね☆ピーマンで男見せちゃって、バカよね☆」


「ちょっと待て貴様らっ!!俺を無視して会話を進めるなっ!!」


突然縁談を持ち込んで来た父親に生まれて初めて反抗したら殴られそうになったけれど、
ドアを蹴破って入室した目の前の女性によってそれは阻止された。

以前街でハッシュと腕を組んで歩いていたこの女性、てっきりハッシュの本命なのだと思っていたけどなんと母親だと彼女は言った。

母親?
実母?え?若過ぎない?
それもと継母?

ままママンじゃないわよ?歴としたハッシュの実ママンよ?」

考えていた事の答えがすぐに返ってきたので私は驚いた。

「アレ?声に出して言ってましたか?」

「ウンもうバッチリ♡」

「え?でも実のお母様って…え?でも若い……」

「キャーっ♡ありがとう!実年齢より若く見えるってよく言われるの!でもね、中身はちゃんと歳食ってるババァよ♡ハシュ坊はねぇ、十七の時に産んだの。坊やは今二十三歳だからぁ~キャッ☆年がバレちゃう!」

「え゛、ママンさん四十歳ですかっ!?三十歳くらいだと思ってました……び、びっくりです」

「ヤダ計算して年をバラしちゃっ!!でもウフフ♡ありがとう♡」

「だからっ!!お前ら俺を無視するなっ!!」

自分を放置して会話をする私たちに激怒した父がテーブルを叩いてがなり立てる。
ハッシュのママンさんはそれを一瞥した。

「煩いわねこの腐れ外道親父。全部聞かせて貰ったわよっ、クソな縁談を娘に押し付けといて拒否されたら殴って従わせようなんて最低のクソくその糞野郎だわね」

「なっ!?ク、クソっだとっ!?」

「アラやだ、アンタと同類にしたらクソに失礼よね。クソに謝れ!土下座しろっ☆」

「貴様っ!!平民風情が調子にのるなっ!!」

そう言った父が今度はハッシュのママンさんに殴りかかろうとした、が、

「ガッ……!?」

「イヤん♡足が当たっちゃった♡」

股間を蹴り上げられ、あえなく返り討ちに遭った……。
い、痛そう……あら……口から泡を吹いてるわ……。

床に蹲って悶絶中の父を放置して、ママンさんは私に言った。

「改めましてどーも♪ウチの息子がムスコ共々お世話になってますぅ♡」

「ムスコ?えっ?ハッシュってお子さんがいたんですか?」

「ヤダもう!ミュリアちゃんてば天然ちゃん!可愛いっ!!」

そう言ってママンさんは私の事をぎゅっと抱きしめた。
その抱き方がとても優しくて温かくて。
あぁ……母親に抱かれるのって、こんな気持ちなんだろうなぁと思えた。

そして、鼻腔をくすぐるこの香り。
ハッシュから香ったあの香水の香りと一緒だ。

この香りはママンさんの香りだったのね。
街で腕を組んで歩いていた姿を思い浮かべるとナルホドこれは香りが移っちゃうわねと思った。

そんな私を抱きしめ、頭を撫でながらママンさんは「懐かしい感覚だわ……」と言う。
その言葉の意味はよく分からなかったけど、私は挨拶がまだだった事に気付き慌ててママンさんに告げた。

「申し遅れました、危ういところを助けて頂きありがとうございます!ミュリア=オルライトです。こちらこそ息子さんにはお世話になっております」

「まぁご丁寧にどうもね。会えて嬉しいわミュリアちゃん、ハシュ坊共々よろしくね♪」

「あの……私の事はハッシュから……?」

私が躊躇いがちに聞くとママンさんは大きく頷いた。

「そうよ!昨日突然アタシんにやって来て、大切な人の様子が何だかおかしいから次の朝に会いに行って欲しいって言うじゃないっ?アタシ再婚して滅多にハシュ坊に会えなくなっちゃってたから、カノピが出来てたなんてビックリしたわよぉ~♡」

大切な人……とは誰の事だろう?
と疑問符が頭に浮かんだその時、またまた玄関の方から声が聞こえた。

「わぁっ?だ、旦那さまっ!?」

ドアの無くなった玄関の所から四つん這いになって蹲る父を見て驚いている一人の男性。
よく見るとそれはオルライト家に仕える下男フットマンだった。

「お、お嬢様っ……こ、これは一体……?」

狼狽える下男に私は説明した。

「この女性が足を動かした時にお父様の股間に当たっちゃったの。申し訳ないんだけどすぐに連れ帰ってあげて」

「そんな運悪く当たっちゃったりするもんなのですか……?」

下男がさりげなく股間を庇いながらそう言った。
不審だろうが不信だろうがそれを押し通すつもりだ。
じゃないと平民が貴族に暴力を振るったと訴えられたりでもしたら、ハッシュの大切なママンさんが捕えられてしまうから。

「とにかく早く連れ帰ってさしあげて」

「は、はいっ……だ、旦那さま、立てますか……?」

下男が父に駆け寄り、身を起こさせて肩を貸そうとする。
父は呻き声を上げながら下男に言った。

「うぅっ……な、なんだ貴様……なぜここに来た?」

「あ、はい。至急お屋敷に戻って頂きたい事が起こりましてお迎えにあがりました」

「なんだっ……?何事だ…?」

「それが……ローベル伯爵の御使者の方が見えられて……旦那さまにお話があるとお戻りを待たれております」

「なにっ?ローベル伯爵っ!?かの御仁と面識はないはずだが……なんのご用向きかは知らんが、これを機に繋がりが出来れは万々歳だっ……!おいお前、さっさと帰るぞっ肩を貸せっ!」

「はっ、はいっ……!」

偉そうにそう言って下男に支えられながら、父は屁っ放り腰の内股で私に告げた。

「縁談は今さら覆らんからなっ!拒否など認めんっ、大人しく従え!」

それを聞き、ママンさんが美しいお御足をそっと上げる。

「うわ~☆なんだか足がまた跳ね上がってもう一度股間に当たりそうな気がするわ~」

「や、やめろぉぉ……!おい、さっさと帰るぞっ!」

「は、はい旦那さまっ……」

ママンさんの発言を聞いた父は更に屁っ放り腰になって、情け無い声を出しながら急ぎ逃げ帰って行った。
私は父が言った言葉で途方に暮れる。

「そんな……覆らないなんて……」

一体どうすればいいのだろう。
逃げる?姿を眩ます?
どこに?仕事はどうするの?

父は縁談は覆らないと言った。
おそらく既にオルライト男爵家とケボロイ子爵家との連名で貴族院に婚姻申請書が提出されているのだろう。

どこに逃げても貴族院からの追手もかかる。
駆け落ち等を防ぐ為に、婚姻不履行者への処罰は重い……。
どうすれば、一体どうすれば……。

その時、あっけらかんとしたママンさんの声が室内に響いた。

「ま、とりあえず必要な荷物をマトメましょ!」

「……え?荷物を纏めてどうするんですか?」

「決まってるじゃない!ハシュ坊が戻るまでウチに来るのよ♪扉の修理はすぐに手配するけれどあのクソ親父がまた来そうじゃない?それにこのままじゃミュリアちゃんがイロボケ爺ィのオシメを代えさせられちゃう☆」

「でもっ……どこに逃げても無駄です、ママンさんに迷惑がかかってしまいます……!」

私がそう言った後に俯くとママンさんは私の肩をがっしりと掴んだ。

「大丈夫よきっとハシュ坊がなんとするわよっ!それまでミュリアちゃんはウチでのほほんと暮らしていればいいのっ!ミュリアちゃんがウチのお嫁さんになってくれないなんてイヤだものっ!」

「お嫁さんだなんてっ……私とハッシュはそんな関係じゃ……」

私のその言葉を聞き、ママンさんは首を傾げた。

「ん?そんな関係じゃないってどんな関係?ハシュ坊の感じじゃかなり深い仲だと思ったんだけど?」

「えっと……その……はい…深い仲では…あると思います……でも、それだけで……」

「ん?ん?どーいうコト?」

ママンさんの首が可動域ギリギリまで傾げられる。

「えっと、ですね……」

何となくママンさんには聞いて貰った方が良いと思い、
私はハッシュとセフレになった経緯とその後の関係の事を話した。




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次回、お待たせしました、ハッシュsideです。




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