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お見合い相手は性格に難ありのエリート
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「俺が縁談相手に望む事はこれだけだ。俺には何も期待するな。そして俺の手を煩わせるような事はするな、以上だ」
見合いの席で顔を合わせた途端に言われた言葉に、
アネットは目を瞬かせた。
◇◇◇
アネット・シラー(19)は二年前に両親が不慮の事故で亡くなった後に爵位を襲爵、
名ばかりの女性男爵となった。
災害の所為で膨らんだ借金は領地や家財を全てを売って相殺となったが、女性の身ひとつで無一文になったアネットは爪に火を灯すような貧しい暮らしを余儀なくされた。
幸い、アネットには低賃金でも魔法省の下っ端雑用係という職があったのでこれまで何とか一人でもやってこれたのだ。
勤続三年。そんなアネットにある日、縁談が持ち込まれる。
誰もやりたがらない“くだらない雑用”の数々をいつも率先して引き受けるアネットを気に入り、可愛がってくれる高官のライブラ・ジリス(53)肝入りの縁談であった。
相手は平民だが魔法省幹部候補の超エリート。
平民ゆえに起こる選民意識の高い貴族職員たちとの軋轢を緩和するために、貴族女性との婚姻を上層部が勧めたのだそうだ。
そこで、名ばかりでも男爵位を持つアネットにも候補者の一人として白羽の矢が立ったというわけらしい。
「見合い相手の名前はトリスタン・ハイド(23)。
入省三年目の若輩者だけどね、魔術学園で入学から卒業まで首席を守り抜き、入省試験もぶっちぎりのトップだった将来有望な男だよ」
と、アネットに縁談を持ち込んだライブラが言った。
ライブラ自身も魔法省きっての才媛と名高いエリート高官である。
彼女のご夫君は子爵位を持つお腹も心も大らかな男性だそうだ。
「そんな優秀な方がお相手なのですか?本当に私でよろしいのでしょうか?」
頬に手を当て小首を傾げるアネットに、ライブラが答えた。
「あぁ。確かにかなり優秀な男だ。身分の壁さえ超えればいずれは魔法省のトップになるかもしれないと言わしめるほどの……」
「まぁ……すごいですね」
「しかし、頭脳は優秀で魔力量もずば抜けて高い男なのだが、如何ともし難い欠点があってね」
「あらまぁ欠点ですか?」
「ある意味、その欠点の為にあの男の相手はアネット、キミにしか務まらんと思っているんだよ」
「それは光栄なのですが、トリスタン・ハイド様の欠点とは一体どのようなものなのでしょう?」
「それはだね……」
それまで自身のオフィスのデスクの席について話していたライブラは徐に立ち上がり、アネットの様子を窺うようにして告げた。
「性格が……かなり、難有り、なんだ」
「え?」
将来を有望視されるほどのエリートなのだからきっと人格者なのだろうと思ったアネットは、その思いがけない返答に目をぱちくりとさせた。
「いや、悪人ではないんだ。仕事面では真面目で勤勉で誠実な男なんだよ。しかしなんというか……」
「なんというか?」
「対人スキルが甚だしく残念な奴なんだ。とくに女性に対して」
「と、いいますと?」
「つまりだ、女性に対し酷い偏見を持ち、かなり不遜な態度をとる……」
ライブラ自身の古くからの友人であるトリスタン・ハイドの恩師から聞かされた話では、なんでもトリスタンはローティーンの頃からその整った容姿のために幅広い年齢層の女性から言い寄られ、ストーカー化されたり襲われたりとかなり嫌な思いをさせられ続けてきたらしい。
それはトリスタンが成長するにつれさらに激化し、彼が成人する頃にはすっかり女性に対し偏った思考を持ち、諦観するようになってしまったのだという。
「本人曰く、いつかは普通に結婚はしたいという気持ちはわずかにあるそうだ。仲の良いご両親のようになりたいという気持ちもわずかにあるらしい。しかし如何せん女性に対し偏見を持ちすぎて……」
「上手くお付き合いができない?」
ライブラの言葉の続きをアネットが拾い、そう告げるとライブラは静かに頷いた。
「相手の欠点ばかりが目につき、つい辛辣な言葉を並べてしまっている」
「まぁ。それは大変ですこと。これまでも何度かお見合いを?」
「ああ。魔法省高官の令嬢や親族の娘と何度か見合いの席をセッティングされたが悉く失敗に終わっているらしい。そりゃあ初っ端から“俺に何も期待するな。俺の手を煩わせるな”と言われて、その後もつっけんどんな態度を取られたら、たとえ将来の出世株であったとしても結婚相手としては嫌になるだろうよ」
「なるほど……」
「でも私は、アネット、キミならあの男と上手く付き合ってゆけるんじゃないかと思っているんだ」
「私がですか?でも私は形だけの爵位を持つだけの、教養もお金も何も持たない人間です」
「何も持たないことはない。アネットには何物にも代えがたい、その菩薩の如く広い心がある」
「ボサツ?東方の国の神様のお名前ですね?」
「名前というより位?称号?なのだが…まぁそれはさておき、私はアネットならあの男の難有りな性格も包み込んで上手くあしらってくれるんじゃないかと期待してるんだよ」
「まぁ……私という風呂敷を大きく広げてくださいましたね。本当に私にハイド様のお相手が務まるのでしょうか?」
「アネットがダメならもうあの男は一生独身でいるしかないと思っている」
「大袈裟ですわ」
「大袈裟なものか。私の真贋だよ」
自信ありげに大きく頷きながら言うライブラを見て、アネットはころころと笑う。
「ふふふふ。わかりました。ジリス様にそこまでおっしゃって頂いてお断りする理由がありませんわ。私でよければ、トリスタン・ハイド様とお見合いをいたします」
「ありがとうアネット。キミなら引き受けてくれると思っていたよ。よろしく頼む」
「承知いたしました」
という経緯を経て、
アネットはトリスタンとの見合いに臨んだのだが……。
それが顔を合わせるなり、冒頭のあの発言である。
『ふふふ。ジリス様がおっしゃっていた言葉と一字一句違えていない、同じことを言われたわ』
アネットとトリスタン。
二人の出会いとなったお見合いが始まった。
──────────────────
連載もハジマリマシタ。
よろしくお願いいたします(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)ペコリ♡...*゜
感想欄は解放しますがお返事はままならないかも……ごめんなさい。
。°(°`ω´ °)°。ピー
見合いの席で顔を合わせた途端に言われた言葉に、
アネットは目を瞬かせた。
◇◇◇
アネット・シラー(19)は二年前に両親が不慮の事故で亡くなった後に爵位を襲爵、
名ばかりの女性男爵となった。
災害の所為で膨らんだ借金は領地や家財を全てを売って相殺となったが、女性の身ひとつで無一文になったアネットは爪に火を灯すような貧しい暮らしを余儀なくされた。
幸い、アネットには低賃金でも魔法省の下っ端雑用係という職があったのでこれまで何とか一人でもやってこれたのだ。
勤続三年。そんなアネットにある日、縁談が持ち込まれる。
誰もやりたがらない“くだらない雑用”の数々をいつも率先して引き受けるアネットを気に入り、可愛がってくれる高官のライブラ・ジリス(53)肝入りの縁談であった。
相手は平民だが魔法省幹部候補の超エリート。
平民ゆえに起こる選民意識の高い貴族職員たちとの軋轢を緩和するために、貴族女性との婚姻を上層部が勧めたのだそうだ。
そこで、名ばかりでも男爵位を持つアネットにも候補者の一人として白羽の矢が立ったというわけらしい。
「見合い相手の名前はトリスタン・ハイド(23)。
入省三年目の若輩者だけどね、魔術学園で入学から卒業まで首席を守り抜き、入省試験もぶっちぎりのトップだった将来有望な男だよ」
と、アネットに縁談を持ち込んだライブラが言った。
ライブラ自身も魔法省きっての才媛と名高いエリート高官である。
彼女のご夫君は子爵位を持つお腹も心も大らかな男性だそうだ。
「そんな優秀な方がお相手なのですか?本当に私でよろしいのでしょうか?」
頬に手を当て小首を傾げるアネットに、ライブラが答えた。
「あぁ。確かにかなり優秀な男だ。身分の壁さえ超えればいずれは魔法省のトップになるかもしれないと言わしめるほどの……」
「まぁ……すごいですね」
「しかし、頭脳は優秀で魔力量もずば抜けて高い男なのだが、如何ともし難い欠点があってね」
「あらまぁ欠点ですか?」
「ある意味、その欠点の為にあの男の相手はアネット、キミにしか務まらんと思っているんだよ」
「それは光栄なのですが、トリスタン・ハイド様の欠点とは一体どのようなものなのでしょう?」
「それはだね……」
それまで自身のオフィスのデスクの席について話していたライブラは徐に立ち上がり、アネットの様子を窺うようにして告げた。
「性格が……かなり、難有り、なんだ」
「え?」
将来を有望視されるほどのエリートなのだからきっと人格者なのだろうと思ったアネットは、その思いがけない返答に目をぱちくりとさせた。
「いや、悪人ではないんだ。仕事面では真面目で勤勉で誠実な男なんだよ。しかしなんというか……」
「なんというか?」
「対人スキルが甚だしく残念な奴なんだ。とくに女性に対して」
「と、いいますと?」
「つまりだ、女性に対し酷い偏見を持ち、かなり不遜な態度をとる……」
ライブラ自身の古くからの友人であるトリスタン・ハイドの恩師から聞かされた話では、なんでもトリスタンはローティーンの頃からその整った容姿のために幅広い年齢層の女性から言い寄られ、ストーカー化されたり襲われたりとかなり嫌な思いをさせられ続けてきたらしい。
それはトリスタンが成長するにつれさらに激化し、彼が成人する頃にはすっかり女性に対し偏った思考を持ち、諦観するようになってしまったのだという。
「本人曰く、いつかは普通に結婚はしたいという気持ちはわずかにあるそうだ。仲の良いご両親のようになりたいという気持ちもわずかにあるらしい。しかし如何せん女性に対し偏見を持ちすぎて……」
「上手くお付き合いができない?」
ライブラの言葉の続きをアネットが拾い、そう告げるとライブラは静かに頷いた。
「相手の欠点ばかりが目につき、つい辛辣な言葉を並べてしまっている」
「まぁ。それは大変ですこと。これまでも何度かお見合いを?」
「ああ。魔法省高官の令嬢や親族の娘と何度か見合いの席をセッティングされたが悉く失敗に終わっているらしい。そりゃあ初っ端から“俺に何も期待するな。俺の手を煩わせるな”と言われて、その後もつっけんどんな態度を取られたら、たとえ将来の出世株であったとしても結婚相手としては嫌になるだろうよ」
「なるほど……」
「でも私は、アネット、キミならあの男と上手く付き合ってゆけるんじゃないかと思っているんだ」
「私がですか?でも私は形だけの爵位を持つだけの、教養もお金も何も持たない人間です」
「何も持たないことはない。アネットには何物にも代えがたい、その菩薩の如く広い心がある」
「ボサツ?東方の国の神様のお名前ですね?」
「名前というより位?称号?なのだが…まぁそれはさておき、私はアネットならあの男の難有りな性格も包み込んで上手くあしらってくれるんじゃないかと期待してるんだよ」
「まぁ……私という風呂敷を大きく広げてくださいましたね。本当に私にハイド様のお相手が務まるのでしょうか?」
「アネットがダメならもうあの男は一生独身でいるしかないと思っている」
「大袈裟ですわ」
「大袈裟なものか。私の真贋だよ」
自信ありげに大きく頷きながら言うライブラを見て、アネットはころころと笑う。
「ふふふふ。わかりました。ジリス様にそこまでおっしゃって頂いてお断りする理由がありませんわ。私でよければ、トリスタン・ハイド様とお見合いをいたします」
「ありがとうアネット。キミなら引き受けてくれると思っていたよ。よろしく頼む」
「承知いたしました」
という経緯を経て、
アネットはトリスタンとの見合いに臨んだのだが……。
それが顔を合わせるなり、冒頭のあの発言である。
『ふふふ。ジリス様がおっしゃっていた言葉と一字一句違えていない、同じことを言われたわ』
アネットとトリスタン。
二人の出会いとなったお見合いが始まった。
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