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下男夫婦焦る

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「すまなかったジゼル!極秘任務だっとはいえキミに連絡の一つも入れれず、一人置き去りにしたも同然だった!いや、いくら言い訳を並べても一緒だな、俺が至らない所為でキミに辛い思いをさせて悪かった!本当にすまないジゼル、この通りだ!」

「ちょっ…….えぇと、その………」


今ジゼルの目の前には、突然食堂にやって来てキレッキレの動作で頭を下げ平身低頭謝る、夫クロードの姿があった。

クロードは頭を下げたまま話し続けた。

「下男夫婦から全て聞き出した!父の代から仕えていた使用人だったので油断していた、まさかキミに対し無礼な態度を取り続けていたなんて……!」



クロードが長い任務の末ようやく王都にある自宅へと帰り着いたのは二日前の事であった。

結婚式の翌朝には騎士団より緊急招集がかかり登城した。
まさかそこで襲撃を受けた第二王子ジェラルミン殿下の護衛として地方都市への同行を命じられるとは思ってもみなかったのだ。

その時点では襲撃の首謀者が第三王子サイドであるという確証はなく、避難先を敵に知られない為に外部との連絡を一切禁止するとの通達を受ける。

「隊長、俺は昨日、結婚式を挙げたばかりなんですが?」

「何とか初夜だけは済ます事が出来てよかったな。早く新妻の元に戻りたければ殿下をお守りしつつ、敵のシッポを掴むのだ」

「そんな殺生な……」

「すまんが緊急事態だ。王太子殿下の警護に多くの人員を取られた上に形式上は第三王子の警護にも当たらねばならんのだ。従ってジェラルミン殿下の護衛は少数精鋭、俺が最も信頼するメンバーで構成したい。ベッドに残した新妻が恋しいのは分かるがタイミングが悪かったと諦めてくれ」

「くっ………せめて妻に文を……」

「こちらの動向が敵に漏れないとは限らん。延いてはお前の妻の身に危険が及ぶのだぞ、気持ちは分かるが諦めてくれ」

「くっ………!」

王国の剣として誓いを立てた以上、クロードたち一介の騎士に拒否権などあるはずがない。
従ってクロードは後頭部の髪が抜けて禿げるのではないかと思うほど後ろ髪を引かれながら、第二王子の護衛騎士として避難潜伏先の地方都市へと随行して行ったのであった。

こうなれば王子を守りつつも襲撃の際には必ず敵のシッポを掴み言い逃れが出来ないようにしてやる。
そして一日も早くジゼルの元へと帰る!

王国を守る剣としてというよりはただの新婚早々の男として、クロードは後継争いのスピード解決に心血を注いだ。

こうしてひと月後にはわざと逃がしたふりをして泳がせた襲撃犯から、辿りに辿って第三王子関与の証拠を手に入れたのであった。
そしてその功績が認められ最下位の騎士爵を叙爵される事となった。

───これでジゼルの元へと帰れる……!

そう思ったクロードに、無情にも次は王家の威信に関わるとされる重要な任務が課せられ、その後半年間もその極秘任務に振り回される事となったのだが、それは事情がある故にまたおいおい明らかにしてゆこう。


かくしてクロードはようやくその極秘任務からとりあえず解放され、急いで新居として構えた自宅へと戻ったのである。

しかしそこで待っていたのは可愛い新妻ではなく、先触れなく帰ったクロードの姿に驚き慌てふためく下男夫婦だけであった。

七ヶ月も放置する事になってしまった妻が怒って出迎えてくれないということは予め覚悟はしていたが、しかしそれよりも何よりも下男夫婦の狼狽え方が半端ではない。
これは留守中に何か起きたと判断した方がいいだろう。

そして事情を説明するように下男に詰め寄ると、思っていた以上に衝撃な事実を告げられた。


「………ジゼルが出て行った……?どういう事だ?」

クロードの地を這うような声に怯えつつも下男は言い訳を並びたてる。

「わ、私どもは何も存じ上げませんっ!奥さまが癇癪を起こし勝手に出て行ったのでございます!」

「ジゼルが癇癪を起こした……?あの大人しくウサギのように臆病で繊細なジゼルが癇癪など起こす訳がないだろう」

「ほ、本当でございます!頭を打った後、突然人が変わったようになられ私に暴力をふるい出て行かれたのでございますよ!」

「……頭を打った?……ジゼルが頭を打つような事態が起きたというのかっ?」

「あっ……」

その原因に心当たりのある下男は、自らの迂闊な発言に顔色を悪くした。
その様を見逃すクロードではない。

「言え……。何故ジゼルは家の中で頭をぶつけるような事になった?お前はその時一体なにをしていた?」

騎士であるクロードから漂う高圧的な空気に下男は震えながら答えた。

「お、奥様は突然別人のような話し方になり、捨てられる前に出て行くとかこっちから捨てるとかそんな事をブツブツいいながら荷物をまとめて出て行ってしまわれましたっ……」

「捨てられる?捨てる?どういう事だ?それは俺が帰って来ないからそんな事を言っていたのか?別件の任務に移行してからは定期的に手紙を出していたがジゼルはそれを読んでいたのだろう?」

「手紙?そんなもの、私は知りませんっ……」

「あっ………あ、」

下男は全く要領を得ずそう答えるも妻の方は思わずといった様子で声を上げ、次にそれをしまったといわんばかりに手で口を覆った。

「どうした」

それを見てクロードから発せられる圧がさらに強くなる。
下男の妻は口を押さえたまましどろもどろになった。

「えっ、あの、その……」

「…………何か知っているのか?……言え」

「ヒィッ」

クロードが下男の妻に躙り寄ると、妻は情けない声を上げて後ろに倒れ込み尻もちをついた。



下男の妻が白状した内容はとんでもない事であった。

クロードは第二王子ジェラルミンの護衛からとある極秘任務に移ってからは定期的にジゼルに贈り物を添えた手紙を出していたのだ。

それら全てをその贈り物欲しさに下男の妻はジゼルには知らせず騙し取っていたと言うではないか。

これはきっと他にも何かあるに違いないとクロードが剣に手をかけながら下男夫婦に洗いざらい吐くように命じた。

全てを聞き出したクロードは下男夫婦を窃盗と雇い主への身体的精神的傷害罪にて自警団へと引き渡した。
ジゼルに足をかけて転ばした下男には軽く一発頬に制裁を加えておいた。
暫くは固形物を噛む事ができないだろう。

二人を自警団送りにした後、クロードは齎された事態に頭を抱えた。

「そ、それじゃあジゼルの中では俺は結婚したばかりの妻を放置し続けた薄情な夫じゃないかっ……それじゃあ彼女が出ていっても仕方ないっ……仕方ないが、仕方ないですませられないっ!」

とにかくジゼルを探そう。
探し出し、そして誠心誠意、心を込めて謝ろう。

初夜の夜、妻にを施しておいてよかった……!

クロードは心底そう思った。

そうしてクロードはジゼルに刻んだ自らの魔力を辿って彼女を探し出し、開口一番平謝りしたのであった。







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次回から、先に希望を見い出せない妻と絶対に別れたくない夫との攻防戦が始まります。












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