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夫婦の話し合い

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「………それじゃあ…下男夫婦は今頃牢の中……」

「そうだ。俺がキミに出した手紙は、一緒に贈った品物を横取りするために隠蔽していたそうだ。キミへの数々の暴言や足を掛けて転倒させた傷害も罪状に加えておいた。もう二度と王都の地を踏むことはないだろう」

「そぉですか……手紙をくれはったんですね……」

───放置、というわけではなかったんか。


離婚協議の話し合い(あるいは慰謝料の話し合いともいう)をじっくりバッチリするつもりで自宅アパートへとクロードを連れ帰ったジゼル。

そこでクロードが極秘任務(内容は明かされなかった)によりなかなか戻って来れなかった事と、ジゼルを虐めた下男夫婦の話を聞いたのであった。

「縁あって夫婦になったというのに婚姻後ジゼルには苦労しか掛けてこなかった事、そして夫としてキミを守れなかった事を心から詫びる。本当にすまなかった」

小さなテーブルに向かい合うようにして座ったクロードが頭を下げた。
再び彼の後頭部を眺めながらジゼルは言う。

「もうええですよ。の奥様の時にでも気ぃつけてあげてくだされば」

クロードはゆっくりと頭を上げてジゼルを見る。

「……?」

「はい、です」

「次もなにも、俺の妻はキミだが」

「そんな、無理に責任取ろうとか考えんでええんですよ?ウチとはスッパリ別れて、新しい人生をやり直してください。現にウチはもうそうさせてもろてます」

あとは貰えるもんさえ貰えれば……そう言おうとしたジゼルが言葉を紡ぐ前に、クロードが要領を得ないといった顔を向けてきた。

「なぜスッパリ別れなくてはならないんだ?」

「だって、ウチは頭打ったショックで性格が360度…ちゃうそれやったら元通りや、180度変わってしもたんですよ?そんないきなり別人のようになった人間とは気持ち悪うて婚姻生活なんて続けられんでしょ?」

ジゼルは当然ながら前世の話も、ここがラノベの世界だという事も話さなかった。
信じて貰えるとは思っていないし、それにより変人扱いされるのは真っ平ごめんだと思ったからた。
どうせ直ぐに別れる夫にそんな事まで馬鹿正直に話す必要はないだろう。

ジゼルの言葉を受け、クロードは言った。

「確かに別人のようだ。話し方も考え方も、俺の知っているジゼルと違う」

「……ん?その言い方やとまるで以前からウチの事知っていたように聞こえますけど?」

「知っていたからな」

「え?」

思いがけない言葉にジゼルは目を丸くする。
一体いつ出会った?
自分が覚えていないだけで何度も会っていたのだろうか。

「キミは時々、叔父さんの仕事の手伝いで騎士団に納品に来ていただろう?その度に姿を見かけていたんだ。なんだかウサギみたいだなぁと」

「ウサギ」

「騎士団の中にはキミが叔父家族に虐げられていた事を知っている者がいた。二人で納品に来た時のやり取りで凡その状況は予想できるものだからな。俺もその一人だった」

「それって、もしかしてウチに同情して結婚してくれたって事です?嫁にしてあの家から救ったろ、みたいな?」

「最初、隊長に仲立ちを頼んだ時はその気持ちがなかったとは言わない。だけどそれだけでなく、物静かで優しいキミと穏やかな家庭を築きたいなと思ったんだ」

その話はジゼルにとって予想外のものであった。
上の者が騎士団と取引のある商家や下位貴族の娘を未婚の騎士にあてがう話はよく耳にしていたので、てっきり自分の結婚もその流れだと思っていたのだ。
まさかクロード自身がこの結婚を望んだなんて想像すらしなかった。

なら、なおさら………

「それなら余計にもうこの婚姻を続けるのは難しいでしょ?ウサギや思ぉて結婚したのに、仕事から帰って来たら嫁が虎になっとったなんて生理的に無理でしょ」

「それはもうホントに驚いた!頭を打ったくらいでこんなにも変わるものかと信じられないくらいだ。キミが言った通りもはや別人だな。たった三時間ほどだったが、食堂で働くジゼルの様子を見ていてそれをよく理解したよ」

「それやったら……」

「でも、別人のように変わってしまったキミの中にもちゃんと以前のジゼルもいるのもわかり、俺は改めてウサギと虎のジゼルに惚れ直した」

「はぁ?ほ、惚れっ……?」

そりゃ取り戻した前世の記憶の人格の方が強烈で直ぐにそちらの性格に引っ張られたが、自分はジゼルとしても20年生きてきたのだ。
それを今のジゼルからも感じ取ってくれたというのは正直嬉しい気もする。

しかしクロードの惚れたと言う言葉を聞き、ジゼルは現実に引き戻された。

───そうやった、あと数ヶ月もすればこの人はラノベヒロインのアイリスと出会うんやん。

そうなればクロードはすぐにアイリスに心を移し、ジゼルは「他に愛する人ができた」と告げられて離婚を迫られるのだ。

それが分かっていて、彼と夫婦としてやり直そうとは思わない。

ジゼルは努めて冷静にクロードに告げた。

「ウチはあなたとやり直そうとは思いません」

「どうして?」

「遅かれ早かれ、あなたはいずれ後悔します。ウチが妻である事を」

「まるで未来視を持つ人間のような事をいうな?それも頭を打った事による予言みたいなもの?」

「何とでも受け取ってもろて結構です。とにかくウチはもう婚姻維持の意思はありませんから」

「そんな事を言われても、俺は婚姻を維持したいと思っているのだから離婚に同意は出来ないな」

「もー!ごちゃごちゃ言ぅてんとさっさと離婚して、さっさと慰謝料払ろうて身軽になっときや!」

「身軽になる必要性を感じない」

「今は偉そうにそう言うてるけど、いずれ身綺麗になってたら良かったと後悔する事になるんよ!」

「なぜそう断言できる?まるで俺が他の女性にうつつをぬかすような言い方だ」

「……断言してません?そんな気がすると言っただけですぅ?」

「じゃあ婚姻継続だな」

「もー悪い事言いませんて。ここで別れとく方がお互いの為ですよ」

「そんな曖昧な理由で納得は出来ない」

「じゃあ納得いく理由があれば…「離婚はしない」なんでよっ」

その後も互いに引かず、離婚するしないの応酬が続いた。

「とにかく、ウチはもう絶対にあの家には戻りませんから!」

婚家には戻らない。もう自分の家はここなのだ。

「戻らなくてもいいよ。俺がここに移り住む」

「はぁっ!?」

「考えてみればあの家は無駄に広いよな。新婚なんだからこじんまりした家で暮らす方が絆が深まるというものだ♪」

「なにるんるんで言ぅとるねん!ウチは絶対にイヤやで!」

「鍵を掛けて締め出ししようとしても無駄だぞ?俺は転移魔法が使えるからな?」

「ちょっ……はぁぁっ!?」

なんで?こいつ原作と性格違いすぎるんとちゃう?

と、ジゼルは自分を棚に上げて思った。

その後も結局話し合いは平行線を辿り、とりあえず今日は大人しく帰るといったクロードはジゼルが飛び出したあの家へと帰って行った。


そして次の日から、簡単な手荷物を抱えて本当にアパートへ押しかけて来たのであった。


───ちょっ……なんでっ!?なんでこーなるん!?









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