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さわこさんと、こんな夜

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 その夜のことでございます。

 お店を終えた私達は、お風呂を済ませた後、寝間着でリビングに集合しておりました。
 今夜の晩酌にはエミリアも参加しています。

 私の世界では、まだお酒が飲めない年齢のエミリアですけど、こちらの世界では合法的にお酒を飲むことが出来ますので、こうして時折、私達の晩酌に参加しているのです、

 みんなで晩酌を楽しんでいる中、
「もしよかったらお使いくださいな」
 私はそう言って、バテアさん、リンシンさん、エミリアにマフラーをプレゼントいたしました。

 バテアさんは赤
 リンシンさんは緑
 エミリアは青

 居酒屋さわこさんのお店の際に、皆さんが好んで着ていらっしゃる着物の色に合わせてあります。

「へぇ、これ、あったかそうね……ふぅん、この太い紐が保温効果を……」
 バテアさんは、マフラーを手にしながら早速その仕組みを調べておられます。
 バテアさんってば、気になったことは納得いくまで調べないと気が済まない性格をなさっています。
 どうやら、その知的探究心に少し火がついてしまったようですね。

「……うれしい……あったかい」
 リンシンさんは、早速マフラーを首に巻いておられます。
 お酒で赤くなっているお顔に、満面の笑顔が浮かんでいます。

「サンキューさわこ。最近朝が寒いから助かるわ」
 エミリアは笑顔でそう言いながらマフラーを両手で持っています。

 エミリアは毎朝バテア青空市を切り盛りしてくれています。
 最近は朝夕の冷え込みが半端なくなってきておりますものね。

 そんな中、私の膝の上にベルが飛び乗ってきました。
 牙猫姿のまま私に抱きつき、私を見上げています。
「さーちゃん、ベルのは?、ねぇ、ベルのは?」
 目を潤ませているベル。
 そんなベルに、私はクスリと微笑むと、
「ベルはもう少し待っててくださいね、すぐにまた編んであげますから」

 そうなんです。
 ベルのマフラーも当然準備してあったんです。

 ただですね、今日の昼間に一緒にお散歩に出かけた際に、ベルにだけ先にマフラーを渡していたのですけれども、そのマフラーのほつれを発見したベルが、それを引っ張ってしまいまして……ベルのマフラーは毛糸の玉に逆戻りしてしまっているんです。

 私の言葉を聞いたベルは、ぱぁっと表情を明るくすると
「だからさーちゃん、大好きにゃ!」
 そう言いながら、その姿を人型に変化させて私の顔に抱きついてきました。

 っといいますか……牙猫の姿から人型に変化したばかりのベルってば、素っ裸なんですよ。

「ちょ、ちょっとベル!? せめて服を着てからにしてくださぁい」
「えー、服は鬱陶しいから嫌にゃ」
 私の言葉を無視しながら、私に抱きつき続けているベル。
 
 もう、ホントに困ったものです……

 私にじゃれついているベル。
 困惑しながら苦笑している私。

 そんな私達を、バテアさん達が楽しそうに笑いながら見つめておいでです。

 もう、見てないで、ベルに服を着せるのを手伝って頂きたいのですが……

◇◇

 そんなベルなのですが、最近少し困ったことも起こしております。

 寝ている際には、基本牙猫姿のベルなのですが。
 寝ぼけて人型に変化することが多々ございます。

 そうなりますと、体を覆っている体毛が極端に少なくなってしまいまして、
「寒いにゃ」
 そう言いながら、毛布をかき集めて暖を取ろうとするのです。

 ただベルはですね、私とバテアさんに挟まれて寝ているんです。
 つまり、毛布は3人で1枚なんです。

 ベルが、その毛布を独り占めしてしまうものですから、私とバテアさんの上に毛布がない状態が何度も発生している次第なのでございます。

 寝室の中は、バテアさんの魔石で温度調整されていますので、寒くて仕方がないというほどではないのですが、そのまま寝続けることが出来るほどでもないんですよね。

「……もう、ベルったら」
 この夜も、そんなベルに毛布を独り占めされてしまいまして、私は夜中に目を覚ましてしまいました。
 これはもう、毛布を1人1枚にした方がいいかもしれませんね。

 そんな事を考えている私の前で、毛布にくるまって丸くなっているベルは、
「うにゅう……」
 幸せそうな笑顔をその顔に浮かべていました。

◇◇

 少し目が覚めてしまった私は、枕元に置いてあった予備の毛布をバテアさんにかけました。
 そのままベッドを抜け出すと自分の部屋へと移動していきます。

 寝室に隣接しているこの部屋には扉がございません。
 部屋の中には、私が引っ越しの際に持参した荷物のうち、すぐに必要なかった品々が段ボールに入ったまま山積みになっています。

 机と椅子、それに棚が2つ。
 これはバテアさんからプレゼントして頂きました。

 その棚の中には、本や小物にくわえて、写真立てを飾っております。

 その写真立ての中には居酒屋酒話のお店の前で仲良く並んでいる私と父の写真……

「……何年前になるのかしら」
 
 写真から目を離した私は、椅子に座り、窓の外へと顔を向けていきました。

 街には、ポツポツと灯りが灯っています。
 空には満天の星空。

 その光景を、私はしばらく眺めておりました。

 ……不思議なものですね

 全てが終わったと思ったあの日……バス停でバテアさんと出会ったことで、私の人生は一変してしまいました。

 そう……

 全てが終わったと思ったあの日に、新しい全てが始まったのでございます。

 これも、縁というものなのでしょうか……でも……

 私は、寝室へ視線を向けました。

 そこでは、

 ベッドの中で寝ているバテアさんと、ベル。
 ベッドの下に敷いてある布団の中で寝ているリンシンさんとエミリア。

 ……父さん、私……ここで元気にやってます。素敵な皆さんと一緒に。

 写真たての中から、笑顔の父が私を見つめてくれています。
 そんな父に、私は笑顔を返しました。

 しばらく、そこで時間を過ごした後……私はベッドへと戻っていきました。

「さわこ、どうかしたの?」
 そんな私に、バテアさんが声をかけてこられました。
「あ、す、すいません、起こしてしまいましたか? ちょっと目が覚めてしまったものですから……」
「気にしなくてもいいわ。私もたまたま目が覚めただけよ」
 そう言うと、バテアさんは
「もし何かあったら、遠慮しないで何でも言ってちょうだい。あなたはアタシの大切な友達なんだからね」
 そう言うと、毛布に潜り込まれました。

 そんなバテアさんに、私は
「……はい、ありがとうございます」
 軽く頭を下げました。

 予備に準備してあったもう1枚の毛布を体の上にかけた私は、もう1度バテアさんに頭を下げてから目を閉じました。

 ……うん、明日も頑張ろう


ーつづく


 
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