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さわこさんと、オレンジのカーテン その1
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バテアさんの家の裏。
そこには、オレンジのカーテンとでも言うべき光景が広がっています。
はい、これなんですが、渋柿……こちらの世界では渋カルキですね、その皮を剥いて干したものでございます。
これを私は毎日、天気の良い日は屋上まで持って上がって干し、日が陰り始める居酒屋さわこさん開店前頃に、ここバテアさんのお宅の裏へと移動させて陰干しし続けているんです。
渋柿作りは、根気が大事。
晴れたら干し、それ以外の時期は日陰で過ごさせる。
これを延々繰り返すのでございます。
そんな作業を繰り返していたこの渋カルキですが……よく見ますと、中にいくつかいい感じに白くなっている物が出て来始めています。
「どうやら、そろそろ食べ頃のようですね」
その実を見つめながら、私はにっこり微笑みました。
◇◇
家の裏に干していた渋カルキを、私は一度全て魔法袋に移動させました。
そのまま家の屋上に上がり、今度はそれを取り出して、再度干していきます。
すでに手慣れた物ですので、そんなに時間はかかりません。
そして、
干し終えた渋カルキの中で、白くなって食べ頃になっている物を回収いたしました。
それを籠にいれた私は、そのまま居酒屋さわこさんの厨房へと移動していきます。
はい。
干柿を作成した際には、まずお店でお出しするお通しにするのが居酒屋酒話の常でございましたので、今年もまずはそれを作成してみようと思います。
準備いたしますのは、
先ほど回収したばかりの干カルキ
酒粕
日本酒
豆乳
味噌
塩
みりん
水飴
以上でございます。
私は、魔法袋の中からこれらの材料を順番に取り出していきました。
厨房の上に並べた材料を再度確認して
「……はい、全部揃っていますね」
さぁ、調理開始です。
まず酒粕に、燗したお酒と豆乳を加えてお鍋であたためます。
酒粕がゆるくなったら、そこに味噌・塩・みりんで味を調えます。
最後に、水飴で少し甘みを加えたら、そのままもうしばらくお鍋を弱火で煮こみ、水気をなくしていきます。
クツクツ……
鍋の中で、酒粕がいい音を奏でています。
木ヘラで全体を返してみますと、水気がいい感じに飛んで、少しもっちりした感じになっています。
「うん、こんなもんですね」
魔石コンロの火を止めた私は、準備していた干カルキをまな板の上に広げました。
包丁でこれを開きます。
真っ二つにしてしまわないように気をつけないといけません。
開いた中から種を取り出すと、その代わりに先ほど出来上がった酒粕のペーストを詰めていきます。
作業が終わりましたら、それを魔石冷蔵庫にいれて冷やしていきます。
そうですね、1時間少々といったところでしょうか。
1時間後……
「どうでしょうかねぇ……」
お皿に乗せて魔石冷蔵庫に入れて冷やしておいた調理済みの干カルキを取り出した私は早速それを輪切りにしました。
それを、手持ち式のバーナーで軽く炙れば、干カルキの酒粕巻きの完成です。
私は、輪切りにした一切れを早速口に運びました。
干カルキのもっちりとした甘みと、酒粕の旨みが口の中で芳醇に交わっていきます。
一噛みするごとに、その味わいが濃くなっていきます。
「……うん、いいですね」
まだ日が高いのですが、思わずお酒を飲みたくなってしまう、そんな味でございます。
味を確認した私は、他の干カルキもすべて輪切りにしてから魔法袋の中へ保存してきました。
まだ食べたいといいますか……いっそのことこれを肴にして日本酒をくいっといきたいところなのですが、毎年最初の干カルキはお客様に……そう決めておりますので、試食以上は我慢我慢ですね。
「……まぁ、でも……」
チラッと厨房へ視線を向ける私……
そこには、先ほどわ義理にして軽く炙った干カルキの酒粕巻きの残りがございます。
……こ、これくらいは……
一度左右を確認して、店内に他に誰もいないことを確認した私は、残っていた酒粕巻きを口に運んでいきました。
その芳醇な味わいのせいで、日本酒を我慢するのが大変でしたけれども……はい、この味……本当にたまりません。
アレンジといたしましては、中にバターやクリームチーズを巻いても大変おいしくなるんです。
そのまま頂くのもありなのですが、こうして一手間加えるとさらに美味しくなるんですよんr。
「あら、さわこ。何を食べてるの? 試食?」
ここで、バテアさんがお店に顔を出されました。
異世界へ薬草を採取に行かれていたバテアさんですが、どうやらお戻りになられたようですね。
「バテアさんお帰りなさい。これ、今夜からお通しにお出ししてみようと思っているのですが、味見してみられますか?」
残り少ない干カルキの酒粕巻きですが……よく考えますと、バテアさんには味見をしておいていただいた方がいいなと思いまして、これをバテアさんに差し出しました。
「あら、いいの? 残り少ないけど」
「はい、ぜひ味見してくださいな」
少し遠慮気味なバテアさんに、私は笑顔でお勧めさせていただきました。
その後、私とバテアさんは、居酒屋さわこさんの厨房で、しばらくあれこれ意見を交わしていきました。
◇◇
その夜……
今夜も居酒屋さわこさんは元気に営業を開始いたしました。
先日しつらえましたお座敷ですが……それなりに好評な感じでございます。
元々テーブルに椅子の文化が根付いてるこの世界ですので、大人気という程ではないのですが、気がつくと絶え間なくどなたかが席に着かれている、そんな感じでございます。
今日、お座敷を一番にご利用くださったのは、役場のヒーロさんのグループでした。
部下の、シウアさんとツチーナさんを会わせて3人でご来店くださったヒーロさんは、
「ウェルカム、今日はどっちの席にしますか」
出迎えに出たエミリアに、
「そうだな……じゃあ、ザシキでお願いしてもいいかな?」
そう申し出てくださいました。
その後、エミリアから受け取ったサービスの日本酒を3人一緒に飲まれてから、皆様お座敷へ移動なさいました。
すでに、コタツのスイッチは入っています。
靴を脱いで、その中に足をおいれになられました3人は一斉に
「「「あったかい~」」」
そう言いながら、安堵のため息をもらしていかれました。
なんでしょう……こうしてこたつの暖かさを満喫してくださっているのを、その様子から感じることが出来ますと、こちらまで嬉しくといいますか、心が温かくなってくるんですよね。
そんな3人のために、私は早速、昼間の間に下ごしらえをしておきました干カルキの酒粕巻きを取り出しました。
お皿に盛り付け、それを手持ち式のバーナーで軽く炙ります。
軽く焼き色が付いたら完成です。
「はい、今日のお通しです。早くにご来店くださったお客様にお試し頂いているんです」
「ほう? これはまた珍しい色の……」
「なんでしょう……輪切りになっていますけど……」
「真ん中が白いですね……」
ヒーロさん達は、私が皆様の前にお出しした器の中をマジマジと見つめながら、あれこれ会話をなさっておいでです。
程なくいたしまして……最初にそれを口に運んでくださったのはヒーロさんでした。
「……へぇ、これは濃厚な味わいですね。思わずお酒が欲しくなるような、そんなおいしさだ……」
口の中の酒粕巻きを味わいながら、ヒーロさんが何度も頷いておられます。
すると
「はい、ヒーロ。そこにこのワノンの二人羽織はどうかしら? 甘くて濃厚なこのお通しには、このフルーティな二人羽織があうと思うわよ」
手に、パルマ酒の瓶を持たれたバテアさんが、ヒーロさんに笑顔でそのお酒をお勧めなさっています。
これ、昼間に、バテアさんと一緒に干カルキの酒粕巻きの味見をした際にですね、
「このお酒があうんじゃない?」
「あ、でも、これも捨てがたいです」
そんな会話をバテアさんと交わしながら、この酒粕巻きにあうお酒を一緒に考えた結果、たどりついた結論なんです。
「バテアさんがそこまで勧めてくださるとなら、それをお願いしようかな」
「あ、じゃあ僕もそれで」
「こっちもそれを」
ヒーロさんの言葉を受けまして、シウアさんとツチーナさんもそれに同意してくださいました。
お三方は、バテアさんが継いでくださった二人羽織を口にし、そしてまた干カルキの酒粕巻きを口になさると
「うん、確かにあいますね」
「すごく美味しいです」
「ホント、すごくあいますね」
皆さんは、笑顔を浮かべてくださいました。
その様子を拝見した私もまた、思わず笑顔を浮かべた次第でございます。
ーつづく
そこには、オレンジのカーテンとでも言うべき光景が広がっています。
はい、これなんですが、渋柿……こちらの世界では渋カルキですね、その皮を剥いて干したものでございます。
これを私は毎日、天気の良い日は屋上まで持って上がって干し、日が陰り始める居酒屋さわこさん開店前頃に、ここバテアさんのお宅の裏へと移動させて陰干しし続けているんです。
渋柿作りは、根気が大事。
晴れたら干し、それ以外の時期は日陰で過ごさせる。
これを延々繰り返すのでございます。
そんな作業を繰り返していたこの渋カルキですが……よく見ますと、中にいくつかいい感じに白くなっている物が出て来始めています。
「どうやら、そろそろ食べ頃のようですね」
その実を見つめながら、私はにっこり微笑みました。
◇◇
家の裏に干していた渋カルキを、私は一度全て魔法袋に移動させました。
そのまま家の屋上に上がり、今度はそれを取り出して、再度干していきます。
すでに手慣れた物ですので、そんなに時間はかかりません。
そして、
干し終えた渋カルキの中で、白くなって食べ頃になっている物を回収いたしました。
それを籠にいれた私は、そのまま居酒屋さわこさんの厨房へと移動していきます。
はい。
干柿を作成した際には、まずお店でお出しするお通しにするのが居酒屋酒話の常でございましたので、今年もまずはそれを作成してみようと思います。
準備いたしますのは、
先ほど回収したばかりの干カルキ
酒粕
日本酒
豆乳
味噌
塩
みりん
水飴
以上でございます。
私は、魔法袋の中からこれらの材料を順番に取り出していきました。
厨房の上に並べた材料を再度確認して
「……はい、全部揃っていますね」
さぁ、調理開始です。
まず酒粕に、燗したお酒と豆乳を加えてお鍋であたためます。
酒粕がゆるくなったら、そこに味噌・塩・みりんで味を調えます。
最後に、水飴で少し甘みを加えたら、そのままもうしばらくお鍋を弱火で煮こみ、水気をなくしていきます。
クツクツ……
鍋の中で、酒粕がいい音を奏でています。
木ヘラで全体を返してみますと、水気がいい感じに飛んで、少しもっちりした感じになっています。
「うん、こんなもんですね」
魔石コンロの火を止めた私は、準備していた干カルキをまな板の上に広げました。
包丁でこれを開きます。
真っ二つにしてしまわないように気をつけないといけません。
開いた中から種を取り出すと、その代わりに先ほど出来上がった酒粕のペーストを詰めていきます。
作業が終わりましたら、それを魔石冷蔵庫にいれて冷やしていきます。
そうですね、1時間少々といったところでしょうか。
1時間後……
「どうでしょうかねぇ……」
お皿に乗せて魔石冷蔵庫に入れて冷やしておいた調理済みの干カルキを取り出した私は早速それを輪切りにしました。
それを、手持ち式のバーナーで軽く炙れば、干カルキの酒粕巻きの完成です。
私は、輪切りにした一切れを早速口に運びました。
干カルキのもっちりとした甘みと、酒粕の旨みが口の中で芳醇に交わっていきます。
一噛みするごとに、その味わいが濃くなっていきます。
「……うん、いいですね」
まだ日が高いのですが、思わずお酒を飲みたくなってしまう、そんな味でございます。
味を確認した私は、他の干カルキもすべて輪切りにしてから魔法袋の中へ保存してきました。
まだ食べたいといいますか……いっそのことこれを肴にして日本酒をくいっといきたいところなのですが、毎年最初の干カルキはお客様に……そう決めておりますので、試食以上は我慢我慢ですね。
「……まぁ、でも……」
チラッと厨房へ視線を向ける私……
そこには、先ほどわ義理にして軽く炙った干カルキの酒粕巻きの残りがございます。
……こ、これくらいは……
一度左右を確認して、店内に他に誰もいないことを確認した私は、残っていた酒粕巻きを口に運んでいきました。
その芳醇な味わいのせいで、日本酒を我慢するのが大変でしたけれども……はい、この味……本当にたまりません。
アレンジといたしましては、中にバターやクリームチーズを巻いても大変おいしくなるんです。
そのまま頂くのもありなのですが、こうして一手間加えるとさらに美味しくなるんですよんr。
「あら、さわこ。何を食べてるの? 試食?」
ここで、バテアさんがお店に顔を出されました。
異世界へ薬草を採取に行かれていたバテアさんですが、どうやらお戻りになられたようですね。
「バテアさんお帰りなさい。これ、今夜からお通しにお出ししてみようと思っているのですが、味見してみられますか?」
残り少ない干カルキの酒粕巻きですが……よく考えますと、バテアさんには味見をしておいていただいた方がいいなと思いまして、これをバテアさんに差し出しました。
「あら、いいの? 残り少ないけど」
「はい、ぜひ味見してくださいな」
少し遠慮気味なバテアさんに、私は笑顔でお勧めさせていただきました。
その後、私とバテアさんは、居酒屋さわこさんの厨房で、しばらくあれこれ意見を交わしていきました。
◇◇
その夜……
今夜も居酒屋さわこさんは元気に営業を開始いたしました。
先日しつらえましたお座敷ですが……それなりに好評な感じでございます。
元々テーブルに椅子の文化が根付いてるこの世界ですので、大人気という程ではないのですが、気がつくと絶え間なくどなたかが席に着かれている、そんな感じでございます。
今日、お座敷を一番にご利用くださったのは、役場のヒーロさんのグループでした。
部下の、シウアさんとツチーナさんを会わせて3人でご来店くださったヒーロさんは、
「ウェルカム、今日はどっちの席にしますか」
出迎えに出たエミリアに、
「そうだな……じゃあ、ザシキでお願いしてもいいかな?」
そう申し出てくださいました。
その後、エミリアから受け取ったサービスの日本酒を3人一緒に飲まれてから、皆様お座敷へ移動なさいました。
すでに、コタツのスイッチは入っています。
靴を脱いで、その中に足をおいれになられました3人は一斉に
「「「あったかい~」」」
そう言いながら、安堵のため息をもらしていかれました。
なんでしょう……こうしてこたつの暖かさを満喫してくださっているのを、その様子から感じることが出来ますと、こちらまで嬉しくといいますか、心が温かくなってくるんですよね。
そんな3人のために、私は早速、昼間の間に下ごしらえをしておきました干カルキの酒粕巻きを取り出しました。
お皿に盛り付け、それを手持ち式のバーナーで軽く炙ります。
軽く焼き色が付いたら完成です。
「はい、今日のお通しです。早くにご来店くださったお客様にお試し頂いているんです」
「ほう? これはまた珍しい色の……」
「なんでしょう……輪切りになっていますけど……」
「真ん中が白いですね……」
ヒーロさん達は、私が皆様の前にお出しした器の中をマジマジと見つめながら、あれこれ会話をなさっておいでです。
程なくいたしまして……最初にそれを口に運んでくださったのはヒーロさんでした。
「……へぇ、これは濃厚な味わいですね。思わずお酒が欲しくなるような、そんなおいしさだ……」
口の中の酒粕巻きを味わいながら、ヒーロさんが何度も頷いておられます。
すると
「はい、ヒーロ。そこにこのワノンの二人羽織はどうかしら? 甘くて濃厚なこのお通しには、このフルーティな二人羽織があうと思うわよ」
手に、パルマ酒の瓶を持たれたバテアさんが、ヒーロさんに笑顔でそのお酒をお勧めなさっています。
これ、昼間に、バテアさんと一緒に干カルキの酒粕巻きの味見をした際にですね、
「このお酒があうんじゃない?」
「あ、でも、これも捨てがたいです」
そんな会話をバテアさんと交わしながら、この酒粕巻きにあうお酒を一緒に考えた結果、たどりついた結論なんです。
「バテアさんがそこまで勧めてくださるとなら、それをお願いしようかな」
「あ、じゃあ僕もそれで」
「こっちもそれを」
ヒーロさんの言葉を受けまして、シウアさんとツチーナさんもそれに同意してくださいました。
お三方は、バテアさんが継いでくださった二人羽織を口にし、そしてまた干カルキの酒粕巻きを口になさると
「うん、確かにあいますね」
「すごく美味しいです」
「ホント、すごくあいますね」
皆さんは、笑顔を浮かべてくださいました。
その様子を拝見した私もまた、思わず笑顔を浮かべた次第でございます。
ーつづく
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