異世界居酒屋さわこさん細腕繁盛記

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

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さわこさんと、春のお昼

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 先日お店にやってきた極楽鳥人のテルミピッピ。
 その母親と2人して羽根をお礼と言って残していってくださいました。

 その羽根は、少し水を入れたコップの中に入れてリビングの窓際においています。

 ベルとエンジェさんがもらった羽根も一緒にいれているのですが、不思議なことにその羽根を飾っている窓の向こうには、まったく雪が積もらないのです。
 その窓の周辺だけ、まるで雪が羽根を避けるかのようにして積もっていたのです。

「これが、春を呼ぶ鳥と呼ばれる所以なのかもしれませんね」
 その窓の周囲を見回しながら、私はそんなことを思っておりました。

◇◇

 そんなテルミピッピ達が遊びに来て、すでに数日が経過しています。

 あの日以降、雪の降る量が目に見えて減ってまいりました。
 ここしばらくの間は、バテアさんが毎朝魔法で雪を溶かして回ってくださっていたのですが、役場のヒーロさんから、
「明日からは2日に1回で十分だから」
 との連絡を受けたほどでございます。

「そろそろ、春が近づいてきた感じねぇ」
 バテアさんも、窓の外を見回しながら、そんなことを呟いておいででした。

 お昼の準備をしながら、私は日本酒の瓶を1本取り出しました。
 薄い緑色をした瓶に張られているラベルには『春だより』と書かれています。

 はい、惣誉の春だよりでございます。

 吟醸酒のこのお酒は、新鮮な香り柔らかな味わいが口の中に広がっていく、まさに春を思わせるような味わいが特徴のお酒なんです。

「まだお昼ですけど……春の足音に乾杯ということで」
「あらあら、さわこがそんなことを言うなんて、珍しいわね」
「おいやですか?」
 私がにっこり笑ってそう言いますと、バテアさんは、
「むしろ大歓迎よ。毎日こうあってほしいものね」
「さすがに毎日は無理ですよ」
 楽しそうに笑っているバテアさんに、私は苦笑を返していきました。

 この日のお昼ご飯は、お好み焼きにしております。

 春キャベツと、タルマネギをふんだんに使用した、春のお好み焼きとでももうしましょうか。

 リビングの中央に魔石コンロを置きまして、その上に置いたフライパンの上で調理をしていきます。
「わはぁ……さーちゃん楽しそうニャ」
「ほんと、すごく楽しそうねさわこ」
 その光景に、ベルとエンジェさんも興味津々でして、椅子から身を乗り出すようにして、私の手元を見つめています。

 そんな2人の横では、バテアさんが早速封を切った春だよりをコップに注いで飲み始めておいでです。

「ふぅ……いいお酒じゃない、これ」

 笑顔を浮かべながら、お酒の入っているコップを見つめているバテアさん。
 その光景に、思わず喉を鳴らしてしまった私でした。

 いけません、いけません……今は料理に集中しませんと。

 ボウルの中で、小麦粉などと一緒にして材料を混ぜ合わせていきます。
 それを、一人分ずつフライパンの上に……

 ジュワー

 お好み焼きの種を流し込むと、香ばしい匂いが周囲に広がっていきます。
 その匂いを、身を乗り出しているベルとエンジェさんが同時に鼻から吸い込んでいます。

 その可愛い光景に、思わずクスリと微笑んでしまう私。

 その後、フライパンをクイッと持ち上げて、中のお好み焼きを空中に放り上げていきました。
 それによって、上下が逆さまになり、再びフライパンの中に収まっていくお好み焼き。

「うわぁ!? さーちゃんすごい!」
「さわこ、まるで曲芸ね」

 私といたしましては、そこまですごいことをしたつもりは毛頭無かったのですが、ベルとエンジェさんは目を輝かせながら、その光景を見つめていたのです。

 なんと言いますか……そこまで注目されてしまいますと、ついサービス精神が旺盛になってしまうといいますか……その後の私は、お好み焼きをひっくり返す際には、わざと大きく宙に放り上げてから、フライパンで受け止めるように心がけていきました。

 こういうことはあまりしない私なのですが、お好み焼きの種が宙を舞う度に、

「うわぁ!」
「すごいわ!」

 そう言いながら楽しそうにしているベルとエンジェさんをみておりますと……つい……

◇◇

 程なくいたしまして、両面こんがり焼き上がったお好み焼きの上にソースをかけていきます。
 ソースは、たっぷりかけていきます。

 すると、フライパンの上にソースが溢れていきまして、その部分が

 ジュワー

 と、いい音を立てながら焼けていきます。
 ソースの焼ける匂い……これがまたとてもたまりません。

 その匂いを、ベルとエンジェさんが再び鼻でおもいっきり吸い込んでいます。

 そんな2人の前で、お好み焼きを皿に移した私は、
「はい、出来ましたよ」
 そう言って、出来上がったばかりのお好み焼きがのったお皿をベルとエンジェさんの前に置きました。

 1枚で2人前になっております。

 最後に載せたかつお節が、お好み焼きの熱気で、まるで生きているかのようにうねうねしております。

「わは、なんか楽しいニャ」
 
 そんなかつお節の動きを見つめながら、ご機嫌な様子のベル。
 その横で、エンジェさんがお好み焼きをおはしで2つに分けています。

 背格好がほぼ同じで、まるで双子のようなベルとエンジェさんなのですが、こういうところを見ておりますと、

 しっかり者のお姉さんなエンジェさんと、天真爛漫な妹のベル。

 そんな風に思えてしまいます。

 そんな事を思っている私の前で、お好み焼きを取り分けた2人は、両手を合わせて
「いただきますニャ!」
「いただきます!」
 そう、食前の挨拶をしてから、お好み焼きを頬張っていきました。

 ベルも、ずいぶんお箸を使うのが上手になっていまして、器用にお好み焼きをお箸でつまんで、それを自分の口の中に運んでいきました。
「ニャはぁ! すごく美味しいニャ!」
 ベルは、嬉しそうな声をあげながら、席から立ちあがっています。
「ベル、気持ちは嬉しいですけど、食事中にあまりはしゃいではいけませんよ」
「えへへ、わかったニャ」
 私の言葉に頷くと、ベルは椅子に座り直してから再びお好み焼きを口に運んでいきました。

 フライパンが空きましたので、今度は私とバテアさんの分を作っていきます。

 早く作って、私も日本酒と一緒にお好み焼きを……

 そう考えただけで、口の中に唾液が溢れてきてしまいます。
 
 その唾を、音をたてないように飲み込んでから、私は新しく作成したお好み焼きの種をフライパンの上に流し込んでいきました。

 その光景を、ベルとエンジェさんが、自分達のお好み焼きを食べながら見つめています。

「さーちゃん、後でお代わりがほしいニャ」
「私もお願いしたいわさわこ」

 よく見ると、2人はすでにお好み焼きをほとんど食べ尽くしていたのでございます。
 とても気に入ってみたいですね。

「はいはい、すぐに作りますから少しまってくださいね」
「はいニャ!」
「わかったわさわこ」
 ベルとエンジェさんは、私の言葉に頷くと、残りのお好み焼きを口に運んでいきました。

 この後、ベルとエンジェさんは、2人で3枚のお好み焼きを食べました。
 
 私とバテアさんは、嬉しそうにお好み焼きを食べている2人の姿を笑顔で見つめながら、日本酒とお好み焼きを頂いた次第です。

 たまには、こういうお昼もいいものですね。

ーつづく 



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