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苦肉の策
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「ニーヤ村に行くのは嘘です。俺たちの目的地は黒の荒野にある聖域パーン。先日も話したとおり成長の壁の突破と退魔の呪印を手に入れるため。これは嘘ではありません」
「それが本当ならばこの国の神殿でもできる。そこで儀式をおこなえばいい。だから」
「だから儀式が終わったら賢者の石を渡せと? 賢者の石がどこかの国に渡って力を持てば、国家間のバランスが大きく崩れてしまう。そうなれば人族同士の争いになり、あの悲劇的な戦争の二の舞になります」
「七年前の侵略戦争か」
この場にいるハルカ以外の誰もが、その当時を思い出して心を痛めた。
「ヴェルガン、君の心配はもっともだ。そういった圧倒的な力による侵略から自国を守るためにも、賢者の石の力はやはり欲しい」
「サクバーンさん。俺もあなたの思いはわかります。だけど、あなたが信用できたとしても国は信用できないんだ。それはハークマインだけじゃなく、ライスーンも同じです」
エリオの頭には欲深いイラドン大臣が思い浮かんでいた。
「ならば君らは目的を達成したあと、それをどうするつもりなんだ? 平和主義の国を立ち上げて賢者の石を管理するとでも?」
「アドミニスト」
「ん? それは伝説の四英雄がいる浮遊王国じゃないか」
「そうです。そこに持っていきます」
四人の英雄。大昔には悪魔と戦い、数十年前は魔族と戦い、七年前は賢者の石で世界を統一しようとしていた帝国とも戦った英雄の国。
「…………きっと君の判断は正しいのだろう。だが、この国にいる以上、こちらの指示にしたがってもらわなければならない。攻撃するつもりはないが、拘束はさせてもらう」
「エリオ、どうする!」
背負っていた盾を前方に構えたザックがエリオに指示を仰ぐが、エリオから返される言葉はない。それは、戦ってどうこうできる人数ではないのもあるが、悪意のない者に刃を向けることがためらわれたからだ。
「こんなときこそアルティメットガールでしょ」
「このピンチに来てくれないのかよ」
レミとマルクスは空を見上げて彼女を探すが、陽光降り注ぐ空には一羽の鳥も見えない。
「アルティメットガールは来られないと思います」
「この前もその前もすっ飛んで来てくれたのに」
セミールの嘆きにハルカは心で答える。
(だってここには変身できるような場所がないんだもん!)
見渡すかぎりの平原には建物などない。ところどころ多少の草木があるだけだった。
「ここはいったん指示にしたがいましょう。呪印の儀式もしてくれるって言ってますし」
変身できないハルカに打つ手はない。戦っても逃げても互いに傷付くことは必至だ。
「エリオさん?」
盾を構えた騎士たちが迫ってくる。だが、ハルカの提案にエリオはうなずかない。
(賢者の石は一国が持つには過ぎた力なんだろうから渡したくない気持ちはわかるけど、この状況でも頑なにそれを拒むなんて)
なぜここまで賢者の石を渡すことを拒むのか。その理由を知らないのはハルカだけだ。
ハークマイン兵と戦いたくはないが、戦わずしてこの状況は打破できない。武器に手をかけることもためらわれたが、ハルカは杖を握り魔法を使う心の準備はしていた。とは言っても、直撃はさせずにどうにか混乱を促してその隙に逃げる。思いつく作戦はそんな程度だった。
ハルカが覚悟を持ってエリオの横に並ぶと、エリオは背負っていたリュックから賢者の石の使われた魔道具を取り出した。
「おい、エリオ?!」
驚いたザックが声をかけるがエリオは魔道具を使って自分の魔力を増幅させた。
「あのときの物と違うな。やはりあれは偽物だったってわけか」
封魔処理されたリュックから取り出されて魔布が取り払われた魔道具は、エリオの魔力を受けて溜めこまれた静かで重厚な力を激しく躍動させる。この状態で魔法を使えば、魔法適正の高くないエリオでも想像を絶する広域殲滅魔法になる。だが、彼はそれをしなかった。
その凄まじい魔道具の波動に騎兵隊はおののき、サクバーンもエリオがなにかするのかと思い、一歩二歩と身を引いた。
十数秒のあいだ激しく躍動していた魔道具は次第にその波動をおさめていく。そして再び静かで重厚な威圧へと戻った。
この行為が騎士団の足を止め、サクバーンの思考を混乱させる。それは仲間たちも同様だった。賢者の石が持つ力の片鱗を垣間見たことで誰も動けず声も出せない。
この現象が周辺の精霊をも沈黙させ、静寂の中の静寂があたりを包んでいた。
「こんな方法は本意じゃないんだけどね」
仲間たちがその意味を理解する前に、冷静さを取り戻したサクバーンがエリオに言った。
「素直に従うとまでは思ってはいなかったが、君がそいつを使って攻撃してくるような人物ではないと信じていたのだがな」
「そんな恐ろしいことはしません。それに、下手したらすべての力を吸われて死ぬ可能性もありますから。今のはこの場を切り抜けるために試行錯誤した結果です」
この言葉がなにかを企んでいるのだと感じさせ、騎士団たちの行動を抑制する。だが、エリオは魔道具を魔布で包み、何事もなかったようにリュックへ戻した。
「それが本当ならばこの国の神殿でもできる。そこで儀式をおこなえばいい。だから」
「だから儀式が終わったら賢者の石を渡せと? 賢者の石がどこかの国に渡って力を持てば、国家間のバランスが大きく崩れてしまう。そうなれば人族同士の争いになり、あの悲劇的な戦争の二の舞になります」
「七年前の侵略戦争か」
この場にいるハルカ以外の誰もが、その当時を思い出して心を痛めた。
「ヴェルガン、君の心配はもっともだ。そういった圧倒的な力による侵略から自国を守るためにも、賢者の石の力はやはり欲しい」
「サクバーンさん。俺もあなたの思いはわかります。だけど、あなたが信用できたとしても国は信用できないんだ。それはハークマインだけじゃなく、ライスーンも同じです」
エリオの頭には欲深いイラドン大臣が思い浮かんでいた。
「ならば君らは目的を達成したあと、それをどうするつもりなんだ? 平和主義の国を立ち上げて賢者の石を管理するとでも?」
「アドミニスト」
「ん? それは伝説の四英雄がいる浮遊王国じゃないか」
「そうです。そこに持っていきます」
四人の英雄。大昔には悪魔と戦い、数十年前は魔族と戦い、七年前は賢者の石で世界を統一しようとしていた帝国とも戦った英雄の国。
「…………きっと君の判断は正しいのだろう。だが、この国にいる以上、こちらの指示にしたがってもらわなければならない。攻撃するつもりはないが、拘束はさせてもらう」
「エリオ、どうする!」
背負っていた盾を前方に構えたザックがエリオに指示を仰ぐが、エリオから返される言葉はない。それは、戦ってどうこうできる人数ではないのもあるが、悪意のない者に刃を向けることがためらわれたからだ。
「こんなときこそアルティメットガールでしょ」
「このピンチに来てくれないのかよ」
レミとマルクスは空を見上げて彼女を探すが、陽光降り注ぐ空には一羽の鳥も見えない。
「アルティメットガールは来られないと思います」
「この前もその前もすっ飛んで来てくれたのに」
セミールの嘆きにハルカは心で答える。
(だってここには変身できるような場所がないんだもん!)
見渡すかぎりの平原には建物などない。ところどころ多少の草木があるだけだった。
「ここはいったん指示にしたがいましょう。呪印の儀式もしてくれるって言ってますし」
変身できないハルカに打つ手はない。戦っても逃げても互いに傷付くことは必至だ。
「エリオさん?」
盾を構えた騎士たちが迫ってくる。だが、ハルカの提案にエリオはうなずかない。
(賢者の石は一国が持つには過ぎた力なんだろうから渡したくない気持ちはわかるけど、この状況でも頑なにそれを拒むなんて)
なぜここまで賢者の石を渡すことを拒むのか。その理由を知らないのはハルカだけだ。
ハークマイン兵と戦いたくはないが、戦わずしてこの状況は打破できない。武器に手をかけることもためらわれたが、ハルカは杖を握り魔法を使う心の準備はしていた。とは言っても、直撃はさせずにどうにか混乱を促してその隙に逃げる。思いつく作戦はそんな程度だった。
ハルカが覚悟を持ってエリオの横に並ぶと、エリオは背負っていたリュックから賢者の石の使われた魔道具を取り出した。
「おい、エリオ?!」
驚いたザックが声をかけるがエリオは魔道具を使って自分の魔力を増幅させた。
「あのときの物と違うな。やはりあれは偽物だったってわけか」
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その凄まじい魔道具の波動に騎兵隊はおののき、サクバーンもエリオがなにかするのかと思い、一歩二歩と身を引いた。
十数秒のあいだ激しく躍動していた魔道具は次第にその波動をおさめていく。そして再び静かで重厚な威圧へと戻った。
この行為が騎士団の足を止め、サクバーンの思考を混乱させる。それは仲間たちも同様だった。賢者の石が持つ力の片鱗を垣間見たことで誰も動けず声も出せない。
この現象が周辺の精霊をも沈黙させ、静寂の中の静寂があたりを包んでいた。
「こんな方法は本意じゃないんだけどね」
仲間たちがその意味を理解する前に、冷静さを取り戻したサクバーンがエリオに言った。
「素直に従うとまでは思ってはいなかったが、君がそいつを使って攻撃してくるような人物ではないと信じていたのだがな」
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