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良薬口に苦し
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謎の行動にサクバーンも仲間たちも混乱するが、ハルカだけは意図を察して肩を落とす。
「エリオさん。なんてことを……」
「もうコレしか思いつかなかったんだ」
エリオの言うコレがなんなのかと仲間たちも考えるのだが思いつかない。
「これから大変なことが起こると思います。それに乗じて俺たちは逃げます」
「なに?」
「だけど、大惨事と言えるほどにはならないと……、俺は思っています」
(え? エリオさんも同じことを)
賢者の石が絡む事態に遭遇してからの短い旅のあいだに、ハルカはあることに疑問を抱いていた。それと同じことをエリオも感じていたのだとハルカは驚く。
「言っている意味がわからん。なにをしようというんだ?」
「俺たちはなにもしません。今のがすべてです。もう取り消しもできませんけどね」
威圧するでもないその言葉には確かな重みがあった。
彼らを包囲する兵たちは警戒を強めて様子を見ているが、いっこうになにも起こらない。
「エリオ……?」
レミがそう声をかけたとき、この場にいる者たち全員の背筋に冷たいモノが走った。それがなにかと確認するまもなく、サクバーンの後方で土砂が巻き上がる。その爆心地から甲冑を纏った騎士の数人が押し飛ばされ、サクバーンも前のめりに倒れた。
「なんだ!」
サクバーンが振り向くが立ち込める砂煙のせいでなにも見えない。だが、エリオの仲間たちは見えなくとも、それがなにかすぐに気付いた。
砂煙が風に流されはじめ、隙間から大きなくぼみが見えてくる。まわりに騎士が倒れるその中心には片膝を突く何者かがいる。
サクバーンとは反対側でエリオたちを包囲していたハークマインの騎士たちが、この状況の原因を彼らだと思っていきり立った。
「違います。わたしたちじゃありません」
ハルカがなだめようとしたところ、薄くなった砂煙を突き破って二十本もの炎の矢が天に舞い上がり騎士団に降り注いだ。地面に刺さった炎の矢が勢いよく燃え広がったことで、騎士団も隊列を乱して離れていく。
「いまだ、走れ!」
かけ声と同時にエリオが走り出すのを見て、仲間たちもつられて追いかけた。
「おい、待て!」
サクバーンの制止も聞かず全力で走るのは少しでも距離を取るため。それは騎士団たちのためでもあった。
「エリオ、なんてことしてくれたんだ!」
先頭を走るセミールが叫ぶ。なぜなら彼がこの状況に一番恐怖している者だから。
「ごめん。君はこれを持って逃げてくれ」
そう言って背負っているリュックを投げ渡す。
彼らの後方ではようやく砂煙が晴れ、くぼみの中心にいる人物の姿があらわになった。
「片角の魔族なんか呼ぶんじゃねぇよ!」
リュックを受け取ったセミールが涙目で言った。
「危機は去ったが次はもっと大きな危機だぞ!」
最後尾でザックが叫ぶ。
「これって一難去ってまた一難っていうんじゃなかったっけ?」
マルクスが返す。
「これは毒を持って毒を制すってことなの?」
レミが続く。
「毒はときとして薬にもなるが、強過ぎる薬はやっぱり毒だろ」
フォーユンが反論する。
「毒と薬は紙一重らしいけど、あれはあきらかに毒でしょ」
フレスが肯定する。
「良薬口に苦しっていうじゃないか」
エリオがごまかす。
「だから薬じゃねぇんだよ!」
セミールが突っ込んだ。
マルクスとレミは重装備のザックの腰を押し、そのザックは必死になって足を回す。
その頃、騎士団に囲まれている魔族はまわりの状況を確認し、勢いよく両手を広げて燃える炎と共に全員を吹き飛ばした。
「ちっ。俺を利用しやがったのか」
彼の背中に黒い半透明の翼が浮かびあがる。その翼を広げてひと扇ぎすると、それだけで十メートルほど舞い上がった。さらにもうひと扇ぎした魔族の体はグンと加速する。
「うわぁぁぁぁ。追ってきた!」
人生最大の速度で走るセミールだったが魔族の飛行速度にかなうはずもなく、その距離はあっという間に埋まっていく。
「毒には薬だ。本物の薬だ。アルティメットガールだ!」
セミールだけじゃなくこの場の誰もがそれを願った。
(だから彼女は来られないんですってばぁ)
状況が状況なだけにアルティメットガールは出るに出られない。
要塞まで百メートルを切ったところで魔族は彼らを追い抜いて地上に降り立った。
「人族どうしで追いかけっこか。狙われているのは境界鏡なんだろ? そいつがなくなれば狙われることもない。見逃してやるから俺に返せ」
「悪いけど目的を果たすまでは返せない」
これまでとは違ったこの魔族の言動にエリオたちは逆の意味で驚き戸惑ってしまう。
魔族をおびき寄せてハークマイン兵の包囲網を抜けるという作戦は成功した。しかし、これは魔族を使ってアルティメットガールを呼ぶというところまでがセットなのだ。この確証のない浅はかな作戦は、じっくりと考える時間も冷静に考える余裕もなかったエリオの苦肉の策。
魔族はにじり寄るでもなく威圧するでもなく、静かな口調でこう言った。
「あの女はどうした?」
「あの女?」
不意の質問に対してエリオは復唱で返した。
「あいつと勝負するために来た。万全の全力でな。来ないならば仕方がない。境界鏡を返してもらうまでだ」
このときの魔族の表情が少し残念そうだとハルカは思った。そのわずかな変化もすぐに消え、彼がおもむろに一歩足を踏み出すと、それだけで皆は尻もちを突きそうになる。
(どうしよう。このままじゃ……。でも、みんなの前で)
ハルカが葛藤する中でエリオはグレンを引き抜いた。
「エリオさん。なんてことを……」
「もうコレしか思いつかなかったんだ」
エリオの言うコレがなんなのかと仲間たちも考えるのだが思いつかない。
「これから大変なことが起こると思います。それに乗じて俺たちは逃げます」
「なに?」
「だけど、大惨事と言えるほどにはならないと……、俺は思っています」
(え? エリオさんも同じことを)
賢者の石が絡む事態に遭遇してからの短い旅のあいだに、ハルカはあることに疑問を抱いていた。それと同じことをエリオも感じていたのだとハルカは驚く。
「言っている意味がわからん。なにをしようというんだ?」
「俺たちはなにもしません。今のがすべてです。もう取り消しもできませんけどね」
威圧するでもないその言葉には確かな重みがあった。
彼らを包囲する兵たちは警戒を強めて様子を見ているが、いっこうになにも起こらない。
「エリオ……?」
レミがそう声をかけたとき、この場にいる者たち全員の背筋に冷たいモノが走った。それがなにかと確認するまもなく、サクバーンの後方で土砂が巻き上がる。その爆心地から甲冑を纏った騎士の数人が押し飛ばされ、サクバーンも前のめりに倒れた。
「なんだ!」
サクバーンが振り向くが立ち込める砂煙のせいでなにも見えない。だが、エリオの仲間たちは見えなくとも、それがなにかすぐに気付いた。
砂煙が風に流されはじめ、隙間から大きなくぼみが見えてくる。まわりに騎士が倒れるその中心には片膝を突く何者かがいる。
サクバーンとは反対側でエリオたちを包囲していたハークマインの騎士たちが、この状況の原因を彼らだと思っていきり立った。
「違います。わたしたちじゃありません」
ハルカがなだめようとしたところ、薄くなった砂煙を突き破って二十本もの炎の矢が天に舞い上がり騎士団に降り注いだ。地面に刺さった炎の矢が勢いよく燃え広がったことで、騎士団も隊列を乱して離れていく。
「いまだ、走れ!」
かけ声と同時にエリオが走り出すのを見て、仲間たちもつられて追いかけた。
「おい、待て!」
サクバーンの制止も聞かず全力で走るのは少しでも距離を取るため。それは騎士団たちのためでもあった。
「エリオ、なんてことしてくれたんだ!」
先頭を走るセミールが叫ぶ。なぜなら彼がこの状況に一番恐怖している者だから。
「ごめん。君はこれを持って逃げてくれ」
そう言って背負っているリュックを投げ渡す。
彼らの後方ではようやく砂煙が晴れ、くぼみの中心にいる人物の姿があらわになった。
「片角の魔族なんか呼ぶんじゃねぇよ!」
リュックを受け取ったセミールが涙目で言った。
「危機は去ったが次はもっと大きな危機だぞ!」
最後尾でザックが叫ぶ。
「これって一難去ってまた一難っていうんじゃなかったっけ?」
マルクスが返す。
「これは毒を持って毒を制すってことなの?」
レミが続く。
「毒はときとして薬にもなるが、強過ぎる薬はやっぱり毒だろ」
フォーユンが反論する。
「毒と薬は紙一重らしいけど、あれはあきらかに毒でしょ」
フレスが肯定する。
「良薬口に苦しっていうじゃないか」
エリオがごまかす。
「だから薬じゃねぇんだよ!」
セミールが突っ込んだ。
マルクスとレミは重装備のザックの腰を押し、そのザックは必死になって足を回す。
その頃、騎士団に囲まれている魔族はまわりの状況を確認し、勢いよく両手を広げて燃える炎と共に全員を吹き飛ばした。
「ちっ。俺を利用しやがったのか」
彼の背中に黒い半透明の翼が浮かびあがる。その翼を広げてひと扇ぎすると、それだけで十メートルほど舞い上がった。さらにもうひと扇ぎした魔族の体はグンと加速する。
「うわぁぁぁぁ。追ってきた!」
人生最大の速度で走るセミールだったが魔族の飛行速度にかなうはずもなく、その距離はあっという間に埋まっていく。
「毒には薬だ。本物の薬だ。アルティメットガールだ!」
セミールだけじゃなくこの場の誰もがそれを願った。
(だから彼女は来られないんですってばぁ)
状況が状況なだけにアルティメットガールは出るに出られない。
要塞まで百メートルを切ったところで魔族は彼らを追い抜いて地上に降り立った。
「人族どうしで追いかけっこか。狙われているのは境界鏡なんだろ? そいつがなくなれば狙われることもない。見逃してやるから俺に返せ」
「悪いけど目的を果たすまでは返せない」
これまでとは違ったこの魔族の言動にエリオたちは逆の意味で驚き戸惑ってしまう。
魔族をおびき寄せてハークマイン兵の包囲網を抜けるという作戦は成功した。しかし、これは魔族を使ってアルティメットガールを呼ぶというところまでがセットなのだ。この確証のない浅はかな作戦は、じっくりと考える時間も冷静に考える余裕もなかったエリオの苦肉の策。
魔族はにじり寄るでもなく威圧するでもなく、静かな口調でこう言った。
「あの女はどうした?」
「あの女?」
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「あいつと勝負するために来た。万全の全力でな。来ないならば仕方がない。境界鏡を返してもらうまでだ」
このときの魔族の表情が少し残念そうだとハルカは思った。そのわずかな変化もすぐに消え、彼がおもむろに一歩足を踏み出すと、それだけで皆は尻もちを突きそうになる。
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