爆力! アルティメットガール ~戦いを終えたヒーローは、異世界の日常という非日常の中で幸せを求め、新たな人生を歩き出す~

プオン

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運命

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  戦いの場からハルカを連れ出したセミールに視線が集まるのだが、カイルに脅える彼はまだ心が落ち着かず話せない。そのセミールに代わってフレスが説明した。

「それがね、馬車に乗って走り出してしばらくしてから急に跳びおりちゃって。あなたたちを助けに行ってしまったの」

「俺たち、ハルカを置いてきたってことかよ」

  来た方向を振り返ったマルクスにアルティメットガールがあわてて伝えた。

「彼女は大丈夫です。わたしがエリオさんたちのところに駆けつける前にハルカさんを見かけたので、戻るように伝えました」

  彼女もすっかりハルカである自分のことを忘れていたために、いつものように落ち着いて伝えることができない。しかし、皆はそれを怪しむようなことはなく、ヒヤヒヤした内心をどうにか隠して取りつくろった。

「事態が事態でしたので彼女を探して拾ってこられませんでしたが、わたしが責任を持って送り届けます。なので、あなたたちは目的地へ向かってください。また面倒なことに巻き込まれたら大変ですからね」

「確かに面倒だな……はははは……」

  これは、マグフレアやグレイツといった迷惑な勇者たちを思い出しての苦笑いだ。

  出発しようとしたエリオたちだが、馬車の前に座り込むカイルへと視線を落とす。

「で、彼はどうするの?」

  皆に囲まれる中で座っているカイルに大きな外傷はないが、アルティメットガールから受けた重い攻撃によるダメージが蓄積して動けない。

「この状態の彼を放置できませんし、ハークマインの兵団が追ってくる可能性もあるので、一緒に乗せてあげてください」

「「「えーーーーー!」」」

  皆の叫び声が重なるが、森の草木をも震わせる桁違いに大きなセミールの声が仲間の叫びをかき消した。

「だって、わたしはハルカさんを迎えに行かないと。大丈夫ですよ、彼はみんなを襲ったりはしません。ねぇ?」

  顔を覗き込んだアルティメットガールに、笑顔で同意を求められたカイルは、視線を横に逃がした。

「ということでお願いします」

  腕を引いてカイルを抱き上げたアルティメットガールはふわりと浮きあがり、困惑するカイルにかまうことなく荷馬車に入れた。それに続いて皆も馬車に乗り込んでいく。

  それを確認して飛び去ろうとするアルティメットガールにエリオは言った。

「せっかく会えたのにゆっくり話す時間はなかったな」

  この言葉に彼女はじんわりと顔と目頭の奥が熱くなる。城塞都市ブレッドでのエリオの告白を思い出したからだ。

「しかたありません。こういった状況ですから。それに以前も言いましたが、わたしはこの場を通りすがっただけ」

「異世界から来たんだろ?」

「ハルカさんから聞いたのですね。そうです、だからこうして顔を合わせるなんて、本来はなかったことなんです」

  これは、ハルカとエリオの出会いをも否定する発言だが、そう返さざるを得なかったために彼女は表情を曇らせた。

「それは重々承知しているよ。だけど……」

  この言い分を聞いてもエリオは引かない。それどころかもう一歩踏み込んだ。

「だけど、それでも会うことがあるなら、それは運命なのかなって」

(わたしではないわたしに、なんてこと言うんですかぁぁぁぁぁぁ!)

  エリオのストレートな物言いに、アルティメットガールの顔が紅潮していく。胸の高鳴りが隠しきれなくなり、エリオに背を向けて大きくひと呼吸。気持ちを落ち着けてから逃げるように宙に浮きあがった。

「運命ですか。良い運命は辿り、悪い運命はこの手で切り開いていく。わたしは好きです」

「君は、この世界に来た運命を、辿りたい? それとも、切り開きたい?」

「意地悪な質問ですね」

  エリオの質問を受けて、この世界でハルカとして過ごした日々を思い返す。

  宿敵との戦いを終え、煌輝春歌きらめきはるかというひとりの女の子として生きる日々は、たとえ異世界であっても穏やかで楽しい日々だった。

「この世界は素晴らしいところだと思います。だからこそ、わたしという存在はだとも思います。わたしが必要な世界は人々にとって脅威があるということ。魔族という脅威も結界を張りなおすという解決策があり、その手段の難易度は高くありません。達成は目前です」

  エリオに返したのはこんな回答だった。

「そうか……」

  エリオとの距離をこれ以上縮めないための少し冷めた対応。自分でやっていることながら彼女は胸を痛め、拳をギュッと握ってその心苦しさに耐えていた。

「結界さえ張りなおせば大きな脅威は起こらないでしょう」

  振り返らずにスーッと上昇を始める彼女に向かってエリオはもうひと言だけ伝えた。

「俺たちが聖域に到達するのは二日以内。そのときに君にも儀式に立ち会って欲しいんだ」

  返答の無い彼女に、エリオは続けてこう言った。

「これは、君のためでもある」

「わたしの……?」

『君のため』という思いもよらないエリオの言葉に、彼女は思わず振り向いた。

  その真剣な目と感じたことのない心の色に、彼女の胸は強い痛みと、それと同等の喜びを感じてしまう。

「約束は……できません」

  そう言い残してアルティメットガールは飛び去り、その姿をエリオはしばらく眺めていた。

「エリオ、行こう。時間が惜しい」

  ザックに促され、エリオは切なさを胸に抱きながら馬車に乗り込んだ。

  その頃、彼らと別れたアルティメットガールはというと……。

「あぁぁぁん。言ったことも言われたこともつらぁぁぁい!」

  深い森の薄暗い木々の陰で、両ひざを抱えて嘆いていた。

「でも仕方ないの。結界を張ればアルティメットガールは現れない。あとはハルカを見てもらえるように頑張るだけよ」

  そんなふうに自分に言い聞かせて気持ちを落ち着けたハルカは、心と体の不調を抱えたまま、彼らの馬車を追っていくのだった。
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