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カイルの家系
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「お、俺は殺されそうになったんだぞ。それも二度もだ!」
いまだ腰を抜かしているセミールに、アルティメットガールは穏やかな口調で言った。
「わたしが駆けつけるまでにあなたを殺して魔道具を奪うことなんて簡単だったと思いますよ。それをしなかったのはなぜでしょう?」
セミールはアルティメットガールの問いに対する答えを持ってはいたが、自分でも信じられず返答しなかった。
「エリオさんと別行動を取っていたセミールさんたちがカイルと遭遇したときにも、彼を殺して奪うようなことをしませんでした。なによりさっきの戦いでもそれは顕著に現れていました。気が付きませんでしたか?」
その言葉に続けてエリオが言った。
「そう、あきらかにハークマイン兵や俺たちへの被害を考えて戦っていた。俺たちがふたりの戦いの戦闘領域内から離れるに合わせて戦いの規模を拡張していたのはあきらかだ」
このことを聞いてエリオパーティーの面々はその状況を思い返す。
「決定的だったのはわたしが兵隊さんたちの中に飛ばされたときですね」
カイルは彼女から視線をそらした。
「あそこで大規模魔法でも撃たれたら全員を無傷で守ることは難しかったでしょう。でもカイルはそれをせず、わたしを兵隊さんの中から蹴り飛ばして、彼らがその場から逃げたうえで魔法を撃っています」
エリオも彼女の意見に同意であるとうなずく。
「ひとつひとつの行動だけ見たら、たまたまとか裏をかいたとか言えるかもしれないけど、ここまで揃うと間違いないと俺は思う」
「彼は人族を殺せない、または殺したくない。そんな意志を持っているんだと思います」
「あれだけ殺すとか豪語していたのにか? 信じられねぇよ」
マルクスのこの意見はもっともなことだろう。
「しかし、彼は人族を殺していません。でも敵であった同族はためらいなく殺しました。すでに動くこともできなかった人をです」
その相手はアルティメットガールが戦った青い記章を持つ魔族のことだ。
「どう? わたしのこの予想は」
カイルは視線を外して黙っていたが、彼女の視線が痛くなったのか小さな声で言った。
「人族は大嫌いなんだ。信用できん」
「遠回しな言い方ね。それは人族を殺せないってことに繋がらないけど、大嫌いで信用できないのに、殺せないくらい情があるってことなのかしら?」
そんな繋がり方ってあるかとまわりが思う中で、カイルはまた小さな声で言った。
「俺の父親は人族だ」
「なに!」
「えっ!」
「なんだって!」
このことは皆にとってあまりに衝撃的だった。人族と魔族の混血など想像すらしたことがなかったからだ。
「大魔王の親族が人族とのあいだに子を作っていたなんて」
出会ったら最期、抗うことなどできずに殺される『死』の象徴。そんな魔族との恋愛など、いったい誰が考えようか。人族はそれほど魔族を恐ろしい存在だと思っている。
「あなたが片角なのは混血だからなのね」
「俺には弟がいた。そいつは容姿に魔族の特徴がほぼなかったから、父と一緒に人族の村に住んでいて、俺は母と共に大魔王の宮殿で育った」
話があらぬ方向に向かうのだが、その内容の興味深さに皆は黙って聞いている。
「俺と母は、父と弟に会うために人族の村への行き来はしていた。弟はその村の娘と結ばれ、子を授かり幸せに暮らしていた。だが、人族と魔族の争いが激化し始め、その戦いが原因で弟を含めて村の者が大勢殺された。その村の者を殺したのが人族の奴らだ!」
最後の言葉は絞り出した声だった。
「なぜ人族が村の者を?」
「魔王を信仰する人族の一派があったらしいからその可能性もある。単に魔族と深いかかわりを持っていたことを気に入らなかったか、または恐怖した者の仕業かもしれん。子どもまでいたことがどこからか漏れたのか、誰かが漏らしたのかまではわからないがな」
予想をしつつ聞いた質問に対して返ってきた回答は、その予想を悪い意味で裏切らない。言葉が見つからず、皆は黙っていることしかできなかった。
ここまでの話を聞いて歴史の出来事が繋がったレミがハッとなる。
「大魔王が人族と友好な関係を望んでいたのって、大魔王の娘が人族と結ばれたから? その大魔王が人族に牙を剥いて襲ってきたのは、その村にいた魔族の子どもが人族に殺されたからってことなの?」
その結論に至ったレミにカイルはギロリと視線を向ける。その視線にたじろいだレミをマルクスが支えた。
「人族に情がありながらも人族が嫌いで信用できない理由はそういうことなのね」
「俺から家族を奪った奴らが今度は魔道具を奪って儀式を邪魔しやがった。人族ってのは本当にムカつくぜ」
「魔道具を使って昇格しようとしたのは人界への侵攻を目的としたのではなくて、あなたの国を滅ぼした同じ魔族への復讐のため」
「あの頃と同じなら黒の荒野は三つ巴のはず。大魔王を殺した三魔王は必ずぶっ殺す」
「そういえば彼、人族と同じくらい魔族が嫌いっていうようなことを言ってたか」
アルティメットガールは数日前の出来事を思い返した。
こうして、アルティメットガールと魔族の戦いは決着し、彼の行動に対する違和感も解消された。しかも、魔道具が人界と黒の荒野を分け隔てていた結界の力の源であったことも発覚する。加えて、魔道具が納められていた場所は、現在エリオたちが向かっている聖域だった。
「さて、今後はこの魔族の脅威に怯えることもなさそうだし、全員そろって窮地から脱出もできたし、あとは聖域パーンに行ってハルカを……」
「「「うわっ!」」」
背伸びしながらそう言ったマルクスの口をレミがあわてて塞いだ。
「ど、どうしたんですか?」
この妙な行動に少し驚くアルティメットガール。皆は不自然な表情でまわりをキョロキョロと見回した。
「いや、なんでもないんだけど……」
馬車の中を覗きながらエリオは言葉を止める。そして、再び周りを見回した。
「そういえばハルカは?」
ここでようやくこの場にハルカがいないことにエリオたちは気が付いた。
いまだ腰を抜かしているセミールに、アルティメットガールは穏やかな口調で言った。
「わたしが駆けつけるまでにあなたを殺して魔道具を奪うことなんて簡単だったと思いますよ。それをしなかったのはなぜでしょう?」
セミールはアルティメットガールの問いに対する答えを持ってはいたが、自分でも信じられず返答しなかった。
「エリオさんと別行動を取っていたセミールさんたちがカイルと遭遇したときにも、彼を殺して奪うようなことをしませんでした。なによりさっきの戦いでもそれは顕著に現れていました。気が付きませんでしたか?」
その言葉に続けてエリオが言った。
「そう、あきらかにハークマイン兵や俺たちへの被害を考えて戦っていた。俺たちがふたりの戦いの戦闘領域内から離れるに合わせて戦いの規模を拡張していたのはあきらかだ」
このことを聞いてエリオパーティーの面々はその状況を思い返す。
「決定的だったのはわたしが兵隊さんたちの中に飛ばされたときですね」
カイルは彼女から視線をそらした。
「あそこで大規模魔法でも撃たれたら全員を無傷で守ることは難しかったでしょう。でもカイルはそれをせず、わたしを兵隊さんの中から蹴り飛ばして、彼らがその場から逃げたうえで魔法を撃っています」
エリオも彼女の意見に同意であるとうなずく。
「ひとつひとつの行動だけ見たら、たまたまとか裏をかいたとか言えるかもしれないけど、ここまで揃うと間違いないと俺は思う」
「彼は人族を殺せない、または殺したくない。そんな意志を持っているんだと思います」
「あれだけ殺すとか豪語していたのにか? 信じられねぇよ」
マルクスのこの意見はもっともなことだろう。
「しかし、彼は人族を殺していません。でも敵であった同族はためらいなく殺しました。すでに動くこともできなかった人をです」
その相手はアルティメットガールが戦った青い記章を持つ魔族のことだ。
「どう? わたしのこの予想は」
カイルは視線を外して黙っていたが、彼女の視線が痛くなったのか小さな声で言った。
「人族は大嫌いなんだ。信用できん」
「遠回しな言い方ね。それは人族を殺せないってことに繋がらないけど、大嫌いで信用できないのに、殺せないくらい情があるってことなのかしら?」
そんな繋がり方ってあるかとまわりが思う中で、カイルはまた小さな声で言った。
「俺の父親は人族だ」
「なに!」
「えっ!」
「なんだって!」
このことは皆にとってあまりに衝撃的だった。人族と魔族の混血など想像すらしたことがなかったからだ。
「大魔王の親族が人族とのあいだに子を作っていたなんて」
出会ったら最期、抗うことなどできずに殺される『死』の象徴。そんな魔族との恋愛など、いったい誰が考えようか。人族はそれほど魔族を恐ろしい存在だと思っている。
「あなたが片角なのは混血だからなのね」
「俺には弟がいた。そいつは容姿に魔族の特徴がほぼなかったから、父と一緒に人族の村に住んでいて、俺は母と共に大魔王の宮殿で育った」
話があらぬ方向に向かうのだが、その内容の興味深さに皆は黙って聞いている。
「俺と母は、父と弟に会うために人族の村への行き来はしていた。弟はその村の娘と結ばれ、子を授かり幸せに暮らしていた。だが、人族と魔族の争いが激化し始め、その戦いが原因で弟を含めて村の者が大勢殺された。その村の者を殺したのが人族の奴らだ!」
最後の言葉は絞り出した声だった。
「なぜ人族が村の者を?」
「魔王を信仰する人族の一派があったらしいからその可能性もある。単に魔族と深いかかわりを持っていたことを気に入らなかったか、または恐怖した者の仕業かもしれん。子どもまでいたことがどこからか漏れたのか、誰かが漏らしたのかまではわからないがな」
予想をしつつ聞いた質問に対して返ってきた回答は、その予想を悪い意味で裏切らない。言葉が見つからず、皆は黙っていることしかできなかった。
ここまでの話を聞いて歴史の出来事が繋がったレミがハッとなる。
「大魔王が人族と友好な関係を望んでいたのって、大魔王の娘が人族と結ばれたから? その大魔王が人族に牙を剥いて襲ってきたのは、その村にいた魔族の子どもが人族に殺されたからってことなの?」
その結論に至ったレミにカイルはギロリと視線を向ける。その視線にたじろいだレミをマルクスが支えた。
「人族に情がありながらも人族が嫌いで信用できない理由はそういうことなのね」
「俺から家族を奪った奴らが今度は魔道具を奪って儀式を邪魔しやがった。人族ってのは本当にムカつくぜ」
「魔道具を使って昇格しようとしたのは人界への侵攻を目的としたのではなくて、あなたの国を滅ぼした同じ魔族への復讐のため」
「あの頃と同じなら黒の荒野は三つ巴のはず。大魔王を殺した三魔王は必ずぶっ殺す」
「そういえば彼、人族と同じくらい魔族が嫌いっていうようなことを言ってたか」
アルティメットガールは数日前の出来事を思い返した。
こうして、アルティメットガールと魔族の戦いは決着し、彼の行動に対する違和感も解消された。しかも、魔道具が人界と黒の荒野を分け隔てていた結界の力の源であったことも発覚する。加えて、魔道具が納められていた場所は、現在エリオたちが向かっている聖域だった。
「さて、今後はこの魔族の脅威に怯えることもなさそうだし、全員そろって窮地から脱出もできたし、あとは聖域パーンに行ってハルカを……」
「「「うわっ!」」」
背伸びしながらそう言ったマルクスの口をレミがあわてて塞いだ。
「ど、どうしたんですか?」
この妙な行動に少し驚くアルティメットガール。皆は不自然な表情でまわりをキョロキョロと見回した。
「いや、なんでもないんだけど……」
馬車の中を覗きながらエリオは言葉を止める。そして、再び周りを見回した。
「そういえばハルカは?」
ここでようやくこの場にハルカがいないことにエリオたちは気が付いた。
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