辺境伯令嬢に転生しました。

織田智子

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始まり?

心配事がつきません。

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鑑定にも慣れてきたころ、そろそろメルリィが安定期も終わりに差し掛かる頃。
お母様のお腹も少しずつ大きくなってきており、しっかり妊娠したとわかるレベルになってきた。
ようやくお父様の方もゴタゴタが落ち着いたらしい。

私がお母様の妊娠に気づいたのがどうもこの世界での医療ではわからないレベルだったらしい。
お腹が大きくなるまでわからないのが普通らしい。

わかるのは、医学じゃなくて、鑑定眼なのか・・・。

今日はお母様から話があって、メルリィの様子を見てきてほしいとのこと。
なので、イシュトと二人で使用人用の別館へと歩いてきた。

どうも、メルリィここ一ヶ月程、ほとんど臥せっているらしいのだが、
医師が見ても特に異常は見られないらしい。

メルリィの旦那さんもうちで働く料理人なのだが、
あまりにもひどい状態になっているので耐え切れず、お母様に話をしてきたのだそうな。

部屋の前ではメルリィの旦那さん、セジルが立っていた。
大きな体のクマのような人で、軍の人と言われても不思議じゃないけど料理人さんなのだ。
どちらかといえば無口な人だけど、ちゃんと周りを見ていて、
欲しいと思ったりしたものをいいタイミングで渡してくれる、素敵な人だ。

「ネージュ様、イシュト様、わざわざありがとうございます」

「こんにちは、セジル。おかあさまじゃなくてごめんなさいね」

「私も一緒でよろしかったのでしょうか?」

「最近では水もあまり飲めないようで、このままではお腹の子どもとメルリィが持たないのではないかと・・・」

大きな体を小さく竦めて、私達に頭を下げるが、
セジルも顔色が悪い。

「セジル、あなたはちゃんとねれているの?
 めのしたのクマがすごいわ」

イシュトを見ると何も言わずに抱き上げてくれる。
セジルが頭を下げているため、イシュトにだっこされてギリギリ頭まで手が届く。

「メルリィがしんぱいなのでしょうけど、セジルがたおれたらたいへんよ?」

セジルの頭をなでながら、少しでも体が楽になるように・・・
と、前世だと気休めにしかならない手当てをする。

前世だと気休めにしかならなかった手を当てて、楽になるように、と念じることも、
この世界だと多少なりとも効果があるらしい。

さすが魔法のある世界だ。

私自身、多少なりとも治癒に長けた属性を持っていることから、
その程度でもよくなるとのイシュトの見立てだった。

その辺りは、まだ内緒なので、子どもが無邪気にやるような感じでしている。
さすがに激変するわけではないので、割と気がまぎれた感で少し楽になった、という程度らしい。
まぁ、あまりバラしていくわけにもいかないので、丁度いい。

「わかってはいるのですが、どうしても・・・」

「うん。そうだよね。じゃあ、メルリィにあわせてくれる?」

「もちろんです。こちらへどうぞ」

ドアを開けて部屋へ入れてもらう。
そのまま、部屋を通過して、寝室であろう部屋をセジルがノックする。

「メルリィ、入るぞ。どうぞ、こちらへ」

部屋へと入ると、ベットの中からこちらを向いたメルリィが驚いているのだが・・・

げっそりと痩せた、というかやつれた感じの顔で、ものすごく驚いている。

「メルリィ・・・」

イシュトがだっこから降ろしてくれ、すぐベットへと駆け寄る。
メルリィはセジルとイシュトと私を驚いてみているものの、
小さくなっているセジルを見てわかったらしい。

てか、メルリィに話してなかったんかい。

「ネージュ様・・・」

靴を脱いでベットによじ登り、メルリィの手を取る。

握った手もカサカサに荒れていて、痛いくらい。

じっとメルリィを見ると視えてくる。

メルリィ・セディエル
オブライエン辺境伯 元女性部隊隊長
状態 妊娠中期 精神不安定のため悪阻悪化中
   胎児は健康 男児

精神不安定?

「メルリィ、ちゃんとやすめてる?」

メルリィの手を握ったまま、大きくなっているお腹を撫でる。

「ずっと吐き気が絶えなくて・・・」

「そっか。まだつわりがつづいてるんだね、しんどいね」

ちらり、とイシュトを見るとにこり、と笑う。
どうやら、イシュトが鑑定しても胎児に悪影響はないようだ。
私も頷く。

「メルリィさん、お腹のこどもは元気ですよ」

イシュトは私の後ろにやってくる。
セジルは未だ部屋の入口で小さくなっているから、ベットの反対側を指差して近くに来るよう指示する。

「私の眼で見ていますが、元気に育っています。
 特に異常はないです。大丈夫ですよ」

「そうなのね、イシュト、わざわざありがとう」

イシュトに対して弱弱しく笑う。
なんだか痛々しい笑顔だ。

「メルリィ、あのね」

「どうしました、ネージュ様?」

「あのね、おなかのあかちゃんがいってるの。
 こんどはちゃんとうまれてくるから、がんばるからね、って」

「こんどは・・・ちゃんと?」

メルリィの顔から表情がなくなり、私の言った言葉を繰り返す。

「うん。まえはごめんね、って。
 こんどはだいじょうぶだから、がんばるから、しんぱいしないで、って」

メルリィのお腹を撫でながら、丈夫に育ちますように、しっかり生まれてきますように。
心の中で唱えながら、メルリィに話をする。

いや、お腹の子は何も言ってない。
てかお腹の子の声なんて聞こえん。
さすがに私もそりゃ無理だ。

けど、メルリィの子、私の乳兄弟は、産声を上げられずに亡くなったと聞いた。

一度ダメだったもの、また同じようになるんじゃないかって、
不安になるはずだよね。

「ほんとうに?」

つぶやいたメルリィの声に反応するように、ぽこん、とお腹が動いた。

まるで聞こえて、返事したかのように。

タイミングいいなぁ。起きてて聞こえてたの?
そういや、昔時々あったなぁ~こんなこと。

「あ、うごいておへんじしたよ、メルリィ。
 このこ、すごいね。おかあさんにだいじょうぶだよ、っていってるよ」

メルリィの目からポロポロと涙がこぼれだした。

イシュトを見上げるとすぐにだっこしてくれ、
入れ替わりにセジルがメルリィを抱きしめる。

セジルがこっちを見てくるので、うなずいて、手を振るとイシュトが部屋を出る。
あとは夫婦でなんとかしてくれ。
これ以上はどうしようもないぞぅ。

部屋を出ると、力が抜けてぐったりした。

「大丈夫ですか?ネージュ様」

「あはは、ちょっと、つかれたかなぁ・・・」

主に精神的に。

普段だと降ろして手を引いてくれるイシュトがまだだっこしてくれてる。

「あれでちょっとましになってくれたらいいんだけどなぁ。
 どうこういったところで、ふあんになるのはどうしようもないし」

「そうですね。
 とりあえず、ネージュ様は今日はこのままお昼寝しましょうか。
 お疲れのようですし、丁度いい時間だと思いますから」

「それでだっこのままだったんだね~」

イシュトは歩きながら寝かしつけモードに突入する。
揺れが気持ちよくって、まぶたが重くなる。

「あ、くつ・・・」

「ちゃんと持ってきていますので、心配ないですよ」

回収してあったのか、イシュト。
ぬかりないなぁ

次に会うときはメルリィが元気になってくれているといいなぁ。
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