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神谷 あずさ 1
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総合病院では、緊急搬送のコールが鳴り響いた。夜勤当番の日比野医師は直ぐに電話を取った。
「はい、こちら横浜総合病院救急センター。…はい、16歳、女性、リストカット…意識は?…ありますか、わかりました。受け入れ可能です。…10分後、了解です。」
ガチャン。
「10分後に急患!16歳の女性、風呂場でリストカットし出血多量、かろうじて意識はあり。」
日比野医師の声で、スタッフたちは受け入れ準備に入った。
「自殺…ですかね。」
嬉野医師が日比野医師に近づき呟いた。
「多分ね。ったく、何で自ら死を選ぶかなぁ。命を救う仕事をしてる身としては、全然理解できないわよ。でも、そんなの関係ないわね、ほら、嬉野先生も準備、準備!」
日比野医師はそう言うと、他の二人を引き連れ、救急搬送口へと向かった。
間もなく救急車が到着し、まず、付き添いの女性が降りた。
「あずさ!しっかりして!」
泣き叫ぶように、患者に声を掛ける女性は、恐らく母親だろうと日比野医師は思った。
「搬送中に容態が急変しました。脈が落ちてます。」
「わかった。とにかく処置室へ。」
急いで患者を救急処置室へと運んだ。看護師の一人が、パニックになっている母親を処置室の前の椅子に座らせ、落ち着くように促した。
処置室では、患者の容態の確認が行われていた。日比野医師たちの横で、救急隊員が患者の情報を読み上げた。
「患者は神谷(かみや)あずさ、16歳、A型。本日23時15分に母親から救急へ通報。23時過ぎにいつもより長風呂だった娘を心配した母親が、浴室を覗いた際に、右腕を湯船に入れてぐったりしている当該者を発見。右腕手首には幅5センチ、深さ1センチ程度の切り傷があり、近くに果物ナイフが落ちていました。出血量も相当なもので、発見時は意識がほとんどなく、搬送中に意識を取り戻しましたが、再び失いました。」
「嬉野先生はとりあえず傷の縫合をお願い出来るかしら?」
「わかりました。」
プシュー。
処置室のドアが開き、看護師が駆け込んで来た。
「日比野先生、これ。」
看護師は手に持っていたカルテを日比野医師に渡した。日比野医師は受け取ったカルテを読んで驚愕の表情を浮かべた。
「ALS!?」
日比野医師の言葉に、嬉野医師や若手の医師が日比野医師の持つカルテに目を向けた。
「筋萎縮性側索硬化症…こんなに若いのに?」
嬉野医師も驚き、診察台で横たわるあずさを見つめた。
「…主治医は片野先生か。…とりあえず、今は処置続けて!」
20分後。
プシュー。
処置室のドアが開き、日比野医師が処置室から出ると、ドアの脇の椅子で項垂れている母親に声を掛けた。
「お母さん、無事に処置が終わりました。今は安定を取り戻しています。」
日比野医師の言葉に、母親は立ち上がって日比野医師の手を握った。
「本当ですか!?ありがとうございます、ありがとうございます。」
「直ぐに病室に移動になります、数日は様子見のため、入院となりますので。…それと、少しいいですか?」
日比野医師はそう言うと、母親に再び腰掛けるように促し、自分も隣に腰掛けた。
「…あずささん、ALSとカルテで拝見しました。」
母親はまた沈んだ表情を浮かべた。
「…えぇ。一ヶ月前に診断されました。二ヶ月前くらいに、顔や手足に痺れがあるって言うんで、病室で受診したんです。何回か精密検査をして、ALSだと言われました。」
「あずささんもご存知なんですか?」
「…勿論です。あの子には隠し事なんて出来ません。一緒に片野先生から話を聞きました。治す方法がないことも、これから筋肉がどんどん弱くなって、歩くこともご飯を食べることも…呼吸することすらも出来なくなる恐れがあることも聞きました。娘が自分で先生に聞いたんです。この先想定される最悪なケースを知りたいって。…でも、その内容は余りに残酷なものでした…。」
「…あずささんも相当ショックを受けていたんですよね?」
母親は涙を浮かべながら頷いた。
「…そ、それで…こんなことに…。娘は病気がわかった後も、私たちを心配させないために、明るく振る舞ってました。…私はそれが演技だとわかっていたのに…しっかりと支えてやれなかったんです。」
プシュー。ガラガラガラ。
処置室のドアが開き、あずさを乗せたベッドが出てきた。
「あずさ!」
母親は、とっさにあずさの顔の横に駆け寄った。あずさは容態は安定しているが、まだ目覚めていなかった。
「お母さん、後でお部屋にご案内しますので、先ずは入院の手続き等をお願いします。」
母親は看護師に落ち着くよう促され、入院手続きのため、部屋へと案内された。
あずさを見送った日比野医師と嬉野医師は、処置室に戻ると、手分けをして片付けを始めた。
嬉野医師は細かいゴミを拾いながら日比野医師に聞いた。
「…先生。ALSって、最後は呼吸もできなくなるんですよね?16歳でそんな現実突き付けられたら相当ツラいですよね…。」
「そうね。本当にこれからって時だもんね。何とか進行を遅らせる方法しかない病気だから、医者としてもツラいわね。…片野先生には、今日のこと伝えないとな。…嬉野先生、ちょっと電話掛けてくるわ。」
日比野医師はそう言うと、処置室を出て公衆電話スペースに移動し、携帯から片野医師に電話を掛けた。
「はい、こちら横浜総合病院救急センター。…はい、16歳、女性、リストカット…意識は?…ありますか、わかりました。受け入れ可能です。…10分後、了解です。」
ガチャン。
「10分後に急患!16歳の女性、風呂場でリストカットし出血多量、かろうじて意識はあり。」
日比野医師の声で、スタッフたちは受け入れ準備に入った。
「自殺…ですかね。」
嬉野医師が日比野医師に近づき呟いた。
「多分ね。ったく、何で自ら死を選ぶかなぁ。命を救う仕事をしてる身としては、全然理解できないわよ。でも、そんなの関係ないわね、ほら、嬉野先生も準備、準備!」
日比野医師はそう言うと、他の二人を引き連れ、救急搬送口へと向かった。
間もなく救急車が到着し、まず、付き添いの女性が降りた。
「あずさ!しっかりして!」
泣き叫ぶように、患者に声を掛ける女性は、恐らく母親だろうと日比野医師は思った。
「搬送中に容態が急変しました。脈が落ちてます。」
「わかった。とにかく処置室へ。」
急いで患者を救急処置室へと運んだ。看護師の一人が、パニックになっている母親を処置室の前の椅子に座らせ、落ち着くように促した。
処置室では、患者の容態の確認が行われていた。日比野医師たちの横で、救急隊員が患者の情報を読み上げた。
「患者は神谷(かみや)あずさ、16歳、A型。本日23時15分に母親から救急へ通報。23時過ぎにいつもより長風呂だった娘を心配した母親が、浴室を覗いた際に、右腕を湯船に入れてぐったりしている当該者を発見。右腕手首には幅5センチ、深さ1センチ程度の切り傷があり、近くに果物ナイフが落ちていました。出血量も相当なもので、発見時は意識がほとんどなく、搬送中に意識を取り戻しましたが、再び失いました。」
「嬉野先生はとりあえず傷の縫合をお願い出来るかしら?」
「わかりました。」
プシュー。
処置室のドアが開き、看護師が駆け込んで来た。
「日比野先生、これ。」
看護師は手に持っていたカルテを日比野医師に渡した。日比野医師は受け取ったカルテを読んで驚愕の表情を浮かべた。
「ALS!?」
日比野医師の言葉に、嬉野医師や若手の医師が日比野医師の持つカルテに目を向けた。
「筋萎縮性側索硬化症…こんなに若いのに?」
嬉野医師も驚き、診察台で横たわるあずさを見つめた。
「…主治医は片野先生か。…とりあえず、今は処置続けて!」
20分後。
プシュー。
処置室のドアが開き、日比野医師が処置室から出ると、ドアの脇の椅子で項垂れている母親に声を掛けた。
「お母さん、無事に処置が終わりました。今は安定を取り戻しています。」
日比野医師の言葉に、母親は立ち上がって日比野医師の手を握った。
「本当ですか!?ありがとうございます、ありがとうございます。」
「直ぐに病室に移動になります、数日は様子見のため、入院となりますので。…それと、少しいいですか?」
日比野医師はそう言うと、母親に再び腰掛けるように促し、自分も隣に腰掛けた。
「…あずささん、ALSとカルテで拝見しました。」
母親はまた沈んだ表情を浮かべた。
「…えぇ。一ヶ月前に診断されました。二ヶ月前くらいに、顔や手足に痺れがあるって言うんで、病室で受診したんです。何回か精密検査をして、ALSだと言われました。」
「あずささんもご存知なんですか?」
「…勿論です。あの子には隠し事なんて出来ません。一緒に片野先生から話を聞きました。治す方法がないことも、これから筋肉がどんどん弱くなって、歩くこともご飯を食べることも…呼吸することすらも出来なくなる恐れがあることも聞きました。娘が自分で先生に聞いたんです。この先想定される最悪なケースを知りたいって。…でも、その内容は余りに残酷なものでした…。」
「…あずささんも相当ショックを受けていたんですよね?」
母親は涙を浮かべながら頷いた。
「…そ、それで…こんなことに…。娘は病気がわかった後も、私たちを心配させないために、明るく振る舞ってました。…私はそれが演技だとわかっていたのに…しっかりと支えてやれなかったんです。」
プシュー。ガラガラガラ。
処置室のドアが開き、あずさを乗せたベッドが出てきた。
「あずさ!」
母親は、とっさにあずさの顔の横に駆け寄った。あずさは容態は安定しているが、まだ目覚めていなかった。
「お母さん、後でお部屋にご案内しますので、先ずは入院の手続き等をお願いします。」
母親は看護師に落ち着くよう促され、入院手続きのため、部屋へと案内された。
あずさを見送った日比野医師と嬉野医師は、処置室に戻ると、手分けをして片付けを始めた。
嬉野医師は細かいゴミを拾いながら日比野医師に聞いた。
「…先生。ALSって、最後は呼吸もできなくなるんですよね?16歳でそんな現実突き付けられたら相当ツラいですよね…。」
「そうね。本当にこれからって時だもんね。何とか進行を遅らせる方法しかない病気だから、医者としてもツラいわね。…片野先生には、今日のこと伝えないとな。…嬉野先生、ちょっと電話掛けてくるわ。」
日比野医師はそう言うと、処置室を出て公衆電話スペースに移動し、携帯から片野医師に電話を掛けた。
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