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若手医師の目標
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日比野医師は、勝蔵たちを処置室で見送ると、気分転換のため、嬉野医師を連れて、一つ上の階にある売店に来ていた。
「嬉野先生、好きな飲み物決まったら頂戴。」
「え?いいんですか?あざーす!」
嬉野医師は、コーラを手に取ると、日比野医師に手渡した。
「相変わらず炭酸好きね。骨溶けるわよ。」
「おや、医者らしからぬ発言!1日一本のコーラで骨は溶けませんって!」
日比野医師には、嬉野医師のテンションが妙に高く見えた。日比野医師は、自分のコーヒーとコーラの会計を済ませると、コーラを嬉野医師に渡した。
「嬉野先生、私に変に気を遣わないでいいからね。」
ぼそりと言った言葉に嬉野医師は、コーラを受け取ったまま固まった。
「…日比野先生、悩んでますよね?」
「…え?」
「神谷さんの一件から、日比野先生ちょっとおかしいですよ。なんてゆーか、前まで感じていた自信に溢れたオーラが感じられないって感じで。」
「…歩きながら話しましょ。」
二人は売店を出て、処置室に向かって歩き出した。
「…確かに私は、神谷さんの一件で…、あっ!」
日比野医師は話の最中で、目の前に鵺野医師を見つけた。以前、片野医師に、鵺野医師に話を聞いてみたらどうかと言われたことを思い出した。
鵺野医師は、夫婦と思われる男女と廊下で立ち話しをしていた。
「…日比野先生?」
嬉野医師は、突然立ち止まった日比野医師を不思議に思いながらも、視線の先に鵺野医師を見つけて、状況を察した。
「先に戻ってますね。」
嬉野医師はそう言って、今使おうとした一番近い階段ではなく、反対側の階段へと向かった。何故だかわからなかったが、鵺野医師の前を通るのを拒んだ為だった。
嬉野医師が階段に差し掛かると、下から片野医師が下を向きながら神妙な面持ちで上ってきた。その雰囲気に声を掛けるか迷ったが、嬉野医師はすれ違い様に声を掛けた。
「…先ほどはお疲れ様でした。」
「ん?…あ、嬉野先生。お疲れ様でした。…すみません、考え事しちゃってましたね。」
「…何かあったんですか?」
階段で立ち話をするわけにもいかず、片野医師は嬉野医師を売店の隣のイーティングエリアに誘った。
二人は空いていたテーブルに対面に腰掛けた。
「…すみませんね、お忙しいところ。」
「いえ、自分なんかではお役に立てるかどうか…。」
嬉野医師は、片野医師と会話しながらも、ここからは死角となっている日比野医師たちのことが少し気になっていた。
「先ほど、有縣さんの様子を伺いに霊安室を訪れたんですが、中から聞こえた会話が、とても第三者が交える雰囲気ではなかったもので、入るのを拒んだんです。…人ってのは、本当にわからないものですね。」
「…そうだったんですか。…あの、有縣さんの救命措置の最中、片野先生…泣いてましたよね?」
片野医師は、照れくさそうに鼻の下を掻いて答えた。
「あの命のやり取りの現場は、やっぱり凄いなという、なんとも言えない感情が溢れてしまいまして…。面目ない。医師としては、あるまじき行動だったかもしれませんね。」
「いえ、そういう意味で言ったわけではなくて。…救急科は、いつも患者さんが来れば直ぐに戦場と化します。皆、目の前の命をつなぐために必死になる、とても客観的に見る余裕もなければ、患者さんの背景にある家族に目を向けることも、正直中々難しいです。…自分にとって、日比野先生のようなスキルと、片野先生のような患者さんを第一に考える心、その両方をもった医師になることが目標なんです。」
「嬉野先生なら、私よりもずっといい医師になれますよ。…私だって若い頃は嬉野先生のように、目の前の患者さんだけに我武者羅になってました。患者さんの家族とか背景にあるものを落ち着いて感じられるようになったのは、比較的最近の話です。嬉野先生の若さで、その点に気が付けるだけで、良い医師になる素質がありますよ。」
優しい笑顔で話す片野医師の言葉が、嬉野医師は本当に嬉しかった。
「ありがとうございます。目標は大きいですが、少しでも近づけるように頑張ります。…あ、それで有縣さんの件は、会話の内容って何だったんですか?」
片野医師は笑顔を仕舞って、神妙な面持ちで話し始めた。
「…まぁ、どの家庭にもある話なんでしょうけど、遺産の話ですね。奥さんは勝蔵さんに遺産がほとんど無いことをつい最近知ったようでして、支えていく気持ちが冷めてしまったようです。」
「なるほど、奥さんの雰囲気が、何か変な感じがするなって思ってたんですけど、それが正体でしたか。…難しい話かもしれませんが、やっぱりお金って、重要なんですかね?」
嬉野医師は、モヤモヤした気持ちで質問した。
「重要な人もいる、ってのが答えですかね。私もそういう部分で、色々考えちゃいましてね。…ただ、よく考えると、有縣さんの場合は、お金の話じゃなくて、勝蔵さんに裏切られた気持ちだったんじゃないでしょうかね。患者さんとしては、短い期間のお付き合いでしたけど、あの奥さんは勝蔵さんを立てることができるしっかりとした方でした。」
「…死人にくちなし。奥さんがあらゆる疑いを勝蔵さんに抱いても真実を聞く機会はもう無いわけですしね。信頼していたなら、言い訳の一つくらい聞きたいでしょうね、奥さん。」
「そうですね、残された方は信じたくない現場を受け入れなければ…。」
ブーッ、ブーッ。
「失礼。急にありがとうございました。」
片野医師は、仕事用の携帯が鳴ったため、嬉野医師に頭を下げて、電話に出ながら診察室へと足早に向かった。
残された嬉野医師は、ずっと気になっている日比野医師の様子を見ようと、反対側の廊下に向かった。
「嬉野先生、好きな飲み物決まったら頂戴。」
「え?いいんですか?あざーす!」
嬉野医師は、コーラを手に取ると、日比野医師に手渡した。
「相変わらず炭酸好きね。骨溶けるわよ。」
「おや、医者らしからぬ発言!1日一本のコーラで骨は溶けませんって!」
日比野医師には、嬉野医師のテンションが妙に高く見えた。日比野医師は、自分のコーヒーとコーラの会計を済ませると、コーラを嬉野医師に渡した。
「嬉野先生、私に変に気を遣わないでいいからね。」
ぼそりと言った言葉に嬉野医師は、コーラを受け取ったまま固まった。
「…日比野先生、悩んでますよね?」
「…え?」
「神谷さんの一件から、日比野先生ちょっとおかしいですよ。なんてゆーか、前まで感じていた自信に溢れたオーラが感じられないって感じで。」
「…歩きながら話しましょ。」
二人は売店を出て、処置室に向かって歩き出した。
「…確かに私は、神谷さんの一件で…、あっ!」
日比野医師は話の最中で、目の前に鵺野医師を見つけた。以前、片野医師に、鵺野医師に話を聞いてみたらどうかと言われたことを思い出した。
鵺野医師は、夫婦と思われる男女と廊下で立ち話しをしていた。
「…日比野先生?」
嬉野医師は、突然立ち止まった日比野医師を不思議に思いながらも、視線の先に鵺野医師を見つけて、状況を察した。
「先に戻ってますね。」
嬉野医師はそう言って、今使おうとした一番近い階段ではなく、反対側の階段へと向かった。何故だかわからなかったが、鵺野医師の前を通るのを拒んだ為だった。
嬉野医師が階段に差し掛かると、下から片野医師が下を向きながら神妙な面持ちで上ってきた。その雰囲気に声を掛けるか迷ったが、嬉野医師はすれ違い様に声を掛けた。
「…先ほどはお疲れ様でした。」
「ん?…あ、嬉野先生。お疲れ様でした。…すみません、考え事しちゃってましたね。」
「…何かあったんですか?」
階段で立ち話をするわけにもいかず、片野医師は嬉野医師を売店の隣のイーティングエリアに誘った。
二人は空いていたテーブルに対面に腰掛けた。
「…すみませんね、お忙しいところ。」
「いえ、自分なんかではお役に立てるかどうか…。」
嬉野医師は、片野医師と会話しながらも、ここからは死角となっている日比野医師たちのことが少し気になっていた。
「先ほど、有縣さんの様子を伺いに霊安室を訪れたんですが、中から聞こえた会話が、とても第三者が交える雰囲気ではなかったもので、入るのを拒んだんです。…人ってのは、本当にわからないものですね。」
「…そうだったんですか。…あの、有縣さんの救命措置の最中、片野先生…泣いてましたよね?」
片野医師は、照れくさそうに鼻の下を掻いて答えた。
「あの命のやり取りの現場は、やっぱり凄いなという、なんとも言えない感情が溢れてしまいまして…。面目ない。医師としては、あるまじき行動だったかもしれませんね。」
「いえ、そういう意味で言ったわけではなくて。…救急科は、いつも患者さんが来れば直ぐに戦場と化します。皆、目の前の命をつなぐために必死になる、とても客観的に見る余裕もなければ、患者さんの背景にある家族に目を向けることも、正直中々難しいです。…自分にとって、日比野先生のようなスキルと、片野先生のような患者さんを第一に考える心、その両方をもった医師になることが目標なんです。」
「嬉野先生なら、私よりもずっといい医師になれますよ。…私だって若い頃は嬉野先生のように、目の前の患者さんだけに我武者羅になってました。患者さんの家族とか背景にあるものを落ち着いて感じられるようになったのは、比較的最近の話です。嬉野先生の若さで、その点に気が付けるだけで、良い医師になる素質がありますよ。」
優しい笑顔で話す片野医師の言葉が、嬉野医師は本当に嬉しかった。
「ありがとうございます。目標は大きいですが、少しでも近づけるように頑張ります。…あ、それで有縣さんの件は、会話の内容って何だったんですか?」
片野医師は笑顔を仕舞って、神妙な面持ちで話し始めた。
「…まぁ、どの家庭にもある話なんでしょうけど、遺産の話ですね。奥さんは勝蔵さんに遺産がほとんど無いことをつい最近知ったようでして、支えていく気持ちが冷めてしまったようです。」
「なるほど、奥さんの雰囲気が、何か変な感じがするなって思ってたんですけど、それが正体でしたか。…難しい話かもしれませんが、やっぱりお金って、重要なんですかね?」
嬉野医師は、モヤモヤした気持ちで質問した。
「重要な人もいる、ってのが答えですかね。私もそういう部分で、色々考えちゃいましてね。…ただ、よく考えると、有縣さんの場合は、お金の話じゃなくて、勝蔵さんに裏切られた気持ちだったんじゃないでしょうかね。患者さんとしては、短い期間のお付き合いでしたけど、あの奥さんは勝蔵さんを立てることができるしっかりとした方でした。」
「…死人にくちなし。奥さんがあらゆる疑いを勝蔵さんに抱いても真実を聞く機会はもう無いわけですしね。信頼していたなら、言い訳の一つくらい聞きたいでしょうね、奥さん。」
「そうですね、残された方は信じたくない現場を受け入れなければ…。」
ブーッ、ブーッ。
「失礼。急にありがとうございました。」
片野医師は、仕事用の携帯が鳴ったため、嬉野医師に頭を下げて、電話に出ながら診察室へと足早に向かった。
残された嬉野医師は、ずっと気になっている日比野医師の様子を見ようと、反対側の廊下に向かった。
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