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第1章 世紀の判決 第1節 村上 正人
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20×8年10月15日
ー 横浜市内 ー
正人は、25歳で今の出版社に入社し、7年目を迎えている。週刊情報誌の記者をしている為、頭の中で今回の裁判をどのように報道するかを考えていた。正人は旬な人物を掘り下げて特集する企画ページを担当している。
「やっぱり、今回の由比裁判長かなぁ。」
そんな事を考えながら歩く会社への道中も、皆今回の判決に釘付けのようだった。ちらほら聞こえてる会話は恐怖心を語るものが多く、中には自分にもできるのでは、と言った内容もある。
「…呪いなんて、やってみたいと思うのかね…。」
正人はそんな独り言を呟きながら、世の中が混乱するのではと危惧した。
ー 出版社 ー
「おはようございます。」
正人が挨拶しながら執務室のドアを開けた。
「おっす!あぁ、今日もフレックス出勤か。」
同僚の生駒(いこま)が声をかけ、そのまま続けた。
「ニュース見た?マジで呪いっつーのが認められちゃったなぁ。なんか噂だと、あの由比という裁判長、早速雲隠れ状態らしいぞ。来月で任期終了で退職らしいしな。お前が来るまでも、その話題で持ち切りだ。」
どこか楽しげにテンション高めに話す生駒に、正人はちょっと引いた。生駒は正人より一つ歳上だが、入社年は同じであり、更には同じ人物企画ページを担当している。
「本当にどんな世界になるんだかな。なぁ、今回の特集は、やっぱり由比裁判長にしようかと思ってるんだけど、どうだ?」
正人が生駒に言葉を返すと、執務室に隣接している会議室の扉が開き、編集長の山本(やまもと)が部屋から出てきた。
その姿を見て、正人は、生駒の返答は聞かずに山本に駆け寄った。
「編集長!おはようございます。」
「おはよう、村上くん。どうだ、そちらの企画は順調か?」
「はい、ぼちぼちです、今回の裁判長を特集しようかと。来月初めに長い連休を頂くので、それまでにはバッチリ終わらせます。」
「あ、そうだったな。旅行だっけ?」
「えぇ、たまには妻にサービスしないと、夫婦が破綻しそうで。」
「ハハハ、そうだな。君にはこの夏無理させてしまったから。今の企画が落ち着いたら、ゆっくり休んでくれ。三戸(さんのへ)班長には私からよく言っておくから。」
「ありがとうございます。」
山本は、手に持っていた書類に目を向け、それまでのにこやかな表情から、目を強張らせるような考え事をする表情へと変え、正人に聞いた。
「それはそうと、今言ってた裁判を特集する企画記事の関係で今打ち合わせしてたんだが、村上くんの知り合いに呪いとか詳しい人はいないか?こっちの特集も、やはり呪い裁判は外せなくてな。」
そんな知り合いはいないことはわかってるのだが、一応考えた振りをし、正人が答えた。
「いやぁ、いま…せんねぇ、思い当たらないです。あれですか、インタビュー的な?」
「あぁ。ネット上で話題の呪いのメカニズムの推測ってのが今テレビや新聞で大分詳しく取り上げられてるが、なかなか誌面だと面白く伝えるのが難しそうでな。世間は常に面白い結果を望んでいるからな。だったら、真面目な記事よりいっそ、呪い経験者にインタビューするような破天荒な記事の方が面白いんじゃないかって意見が出てさ。」
「なんか対応間違えると、自分が呪われそうで怖い仕事っすね。」
苦笑いの正人に苦笑いで山本が答える。
「まぁな。畑(はた)くんが主担当で今呪いの経験者にコンタクトとってるんだが、反応が芳しくない。畑くんも初の主担当で頑張っているから何とかやり遂げさせたいんだが相手が見つからないとなぁ。まぁ、なんか面白い企画案があったら是非畑くんに助言してやってくれ。」
山本はそう言うと、正人の肩をポンッと叩き、自席に向かった。
「…どこもかしこも呪いの話題一色だな…」
ー 横浜市内 ー
正人は、25歳で今の出版社に入社し、7年目を迎えている。週刊情報誌の記者をしている為、頭の中で今回の裁判をどのように報道するかを考えていた。正人は旬な人物を掘り下げて特集する企画ページを担当している。
「やっぱり、今回の由比裁判長かなぁ。」
そんな事を考えながら歩く会社への道中も、皆今回の判決に釘付けのようだった。ちらほら聞こえてる会話は恐怖心を語るものが多く、中には自分にもできるのでは、と言った内容もある。
「…呪いなんて、やってみたいと思うのかね…。」
正人はそんな独り言を呟きながら、世の中が混乱するのではと危惧した。
ー 出版社 ー
「おはようございます。」
正人が挨拶しながら執務室のドアを開けた。
「おっす!あぁ、今日もフレックス出勤か。」
同僚の生駒(いこま)が声をかけ、そのまま続けた。
「ニュース見た?マジで呪いっつーのが認められちゃったなぁ。なんか噂だと、あの由比という裁判長、早速雲隠れ状態らしいぞ。来月で任期終了で退職らしいしな。お前が来るまでも、その話題で持ち切りだ。」
どこか楽しげにテンション高めに話す生駒に、正人はちょっと引いた。生駒は正人より一つ歳上だが、入社年は同じであり、更には同じ人物企画ページを担当している。
「本当にどんな世界になるんだかな。なぁ、今回の特集は、やっぱり由比裁判長にしようかと思ってるんだけど、どうだ?」
正人が生駒に言葉を返すと、執務室に隣接している会議室の扉が開き、編集長の山本(やまもと)が部屋から出てきた。
その姿を見て、正人は、生駒の返答は聞かずに山本に駆け寄った。
「編集長!おはようございます。」
「おはよう、村上くん。どうだ、そちらの企画は順調か?」
「はい、ぼちぼちです、今回の裁判長を特集しようかと。来月初めに長い連休を頂くので、それまでにはバッチリ終わらせます。」
「あ、そうだったな。旅行だっけ?」
「えぇ、たまには妻にサービスしないと、夫婦が破綻しそうで。」
「ハハハ、そうだな。君にはこの夏無理させてしまったから。今の企画が落ち着いたら、ゆっくり休んでくれ。三戸(さんのへ)班長には私からよく言っておくから。」
「ありがとうございます。」
山本は、手に持っていた書類に目を向け、それまでのにこやかな表情から、目を強張らせるような考え事をする表情へと変え、正人に聞いた。
「それはそうと、今言ってた裁判を特集する企画記事の関係で今打ち合わせしてたんだが、村上くんの知り合いに呪いとか詳しい人はいないか?こっちの特集も、やはり呪い裁判は外せなくてな。」
そんな知り合いはいないことはわかってるのだが、一応考えた振りをし、正人が答えた。
「いやぁ、いま…せんねぇ、思い当たらないです。あれですか、インタビュー的な?」
「あぁ。ネット上で話題の呪いのメカニズムの推測ってのが今テレビや新聞で大分詳しく取り上げられてるが、なかなか誌面だと面白く伝えるのが難しそうでな。世間は常に面白い結果を望んでいるからな。だったら、真面目な記事よりいっそ、呪い経験者にインタビューするような破天荒な記事の方が面白いんじゃないかって意見が出てさ。」
「なんか対応間違えると、自分が呪われそうで怖い仕事っすね。」
苦笑いの正人に苦笑いで山本が答える。
「まぁな。畑(はた)くんが主担当で今呪いの経験者にコンタクトとってるんだが、反応が芳しくない。畑くんも初の主担当で頑張っているから何とかやり遂げさせたいんだが相手が見つからないとなぁ。まぁ、なんか面白い企画案があったら是非畑くんに助言してやってくれ。」
山本はそう言うと、正人の肩をポンッと叩き、自席に向かった。
「…どこもかしこも呪いの話題一色だな…」
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