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第2節 畑 賢太郎
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10月14日 (1日前)
ー 出版社 ー
8時23分
「おはようございま~す。」
リュックサックを背負い、ドアを開けた手と反対の手は薄手の上着のポケットに入れっぱなしの畑賢太郎(はたけんたろう)が出社してきた。自席を通り過ぎ、山本の席に向かう。
「編集長、おはようございます。」
「おはよう、畑くん。今日も元気そうで何よりだが、挨拶に来るときは鞄くらい下ろしてから来なさい。二日に一回は注意してると思うんだがね、、、」
「やべっ、すみません、つい。いや、あぁ、編集長にいち早く挨拶したくて。」
「それはありがとう。言い訳が下手すぎるぞ。折角、君の仕事の腕は買ってるんだ、あとは礼節を学べば完璧だよ。取材先とかで失礼を働かないために言ってるんだからな。」
畑は軽く頷き、下を向いてこの場が終わるのを待った。ただ、仕事の腕は買ってると言われたことは正直嬉しかった。山本が続けた。
「まぁ、いい。それはそうと、例の事件の判決明日だろ。次号では、この裁判の特集をしようと思っててな、朝礼が終わったあとにB会議室にきてくれ。担当班と私で打ち合わせをしたい。」
「わかりました。てか、裁判の結果で大きく変わりますよね内容って。」
「おはようございます、編集長、畑。」
二人の会話中に出社してきた稗田(ひえだ)が加わった。畑と山本が挨拶を返すと稗田が続けた。
「畑、裁判の結果はだいたいわかんだろ。誰がどう見たって無罪だよ。昨日もニュースで大きく取り上げてたけど、被告のアリバイは完璧だ。」
稗田の言葉に山本も頷いた。
「あぁ、俺もその番組見たよ。事件現場に被告はいなかった。じゃあどうやって人を殺したか。今回の事件は、被告が自供している゛呪い゛というものが科学的に立証できるかが重要な点だ。畑くんはどう思う?」
「難しい話はよくわかりませんが、もし本当に離れた場所からでも人を殺せる方法があって、それが立証されてしまったら、今までの色々な事件にも影響があると思います。」
畑の言葉に頷きながら、稗田が話し出した。
「そうだな、死亡推定時刻に現場にいることが立証できずに、逮捕を免れてる輩はいるかもな。併せて冤罪とかもな。…まぁ、そもそも呪いなんてもんが科学的に立証できるはずがないよ。昨日の番組でも言ってましたよね、編集長。」
「あぁ。まぁ続きは会議でにしよう。足立(あだち)くん、すまん、朝礼を始めてくれ。」
自席に座っていた足立が立ち上がると、他の人たちも立ち上がり朝礼が始まった。
8時58分
B会議室には編集長の山本、企画ページ班のメンバーで班長の稗田、それから担当者の畑、足立、荒木(あらき)の計5人が集まった。山本が口を開いた。
「今回の会議のテーマは事前に伝えてあるが、明日判決が出る呪い裁判の特集ページについてだ。10ページの企画ものにしたいと考えている。どういった内容が良いか、意見をどんどん出してくれ。じゃあ、ここからの進行は班長に任せるよ。」
進行役は稗田に移った。
「はい。じゃあ皆、まずは率直に今回の判決はどういう結果になると思う?」
稗田がメンバーを見回すと足立と目が合った。目が合ったことに慌てた様子で足立が話し出した。
「え、えぇと、私は…呪いは…本当にあると思ってます。でも、科学的に立証できるかどうかは、多分無理だと思うので無罪…かなぁ。」
「足立、ありがとう。ただ正直、呪いの存在を認める意見には驚いたよ。何か経験があるのか?」
稗田の質問に足立は下を向きながら、辿々しく話し出した。
「いや、私は経験はないですが…単純にオカルトが好きなんです。霊とか…宇宙人とか…オーパーツとか都市伝説とか。…あ、あと最近はアカシックレコードっていうのにも…」
「もういいよ、そんくらいで。」
好きな話題でまだまだ話が続きそうな足立に担当者では最年長の荒木が割って入った。荒木が続けた。
「俺は逆に非現実的なものは信じないんで、呪いの立証が論点の裁判なら間違いなく無罪だと思ってます。」
「荒木、ありがとう。足立、オカルトの話は今度聞くよ。じゃあ畑はどうだ?」
ちょっと反省してる様子の足立を見て笑いを堪えていた畑は、急にふられてびっくりした。というか、自分の答えがわからなかった。朝礼前に山本と稗田と話していた内容を思い出し、多分無罪なんだろうなと思いつつも、有罪なら今までの犯罪史が全て塗り替えられて、面白くなりそうとも思っていた。だが、面白そうという理由で有罪だと思うなどとは口が避けても言えないため、やっぱり無難な答えを選んだ。
「…普通にいけば無罪じゃないっすかねぇ。……でももし有罪、つまり呪いの存在が認められたら世界はどうなるか、ということに少し興味はあります。」
畑は、「無罪だと思う」だけにするつもりが、つい要らぬことも話してしまいすぐに後悔した。
そんな畑を見て山本が話し出した。
「畑くん、良い意見だ。俺も多分無罪になると思っている。だが世間はきっと有罪になることを期待してると思うんだよ。何故なら、その方が面白いからだ。世間てのはそんなもんだ。なぁ班長。」
「そうですね。言い方は悪いが、事件の結果などほとんどの人間には関係がない。無罪なら無罪で、ただ平穏に事件が幕を閉じるだけ。どうせなら面白いことが起きてほしい。人間の欲望はそんなもんだ。実際、ネットの書き込みは有罪を支持する声が多くある。テレビや新聞では、有罪側の意見はほとんど取り上げてないけどな。」
「な、なんでですかね?テレビが取り上げないのって。」
純粋な表情の足立の質問に山本が答えた。
「テレビは無責任な意見の報道はしたがらない。特に最近はどんな内容でもすぐにクレームにつながる世の中だからな。それに有罪側の意見なんてほとんどが面白いからって理由で、それも顔や名前が一切バレないネット上の意見、仮にテレビで顔を晒すインタビューを受けたら絶対無難な無罪を支持するさ。」
山本の言葉に稗田も被せていく。
「だから、我々はテレビや新聞とは違う内容をやりたい。どちらかというと有罪側の意見を全面に押し出した内容にしたいんだ。」
その言葉に対し荒木が話し出した。
「そっちの方がウケるのは理解できます。じゃあ呪いのメカニズムを科学的に説明するような内容にします?」
「え~、なんか硬くないですか?私全然理解できないですよ、科学とか。」
荒木のアイディアを、つまんなそぉという分かりやすい表情で否定する足立に稗田が続けた。
「足立の意見もあるな。なんかもっと食い付きやすい内容がいいなぁ。」
なかなか良いアイデアが思い浮かばずに担当者3人は黙り混んでしまった。その様子を見て山本が話し出した。
「よし、まぁ主旨は伝わったかな?明日また朝一に会議をやろう。今日一日アイデアを考えてくれ。」
「わかりました。」と3人が頷くと会議は閉会となり、山本、稗田、荒木の3人はさっさと会議室から出ていった。畑も立ち上り部屋を出ようとすると足立が声を掛けてきた。
「ねぇ、畑くんはオカルト興味ある?」
足立のあまりにキラキラした目に、苦笑いの表情を浮かべながら、畑はつい「…少し」と答えてしまった。
ー 出版社 ー
8時23分
「おはようございま~す。」
リュックサックを背負い、ドアを開けた手と反対の手は薄手の上着のポケットに入れっぱなしの畑賢太郎(はたけんたろう)が出社してきた。自席を通り過ぎ、山本の席に向かう。
「編集長、おはようございます。」
「おはよう、畑くん。今日も元気そうで何よりだが、挨拶に来るときは鞄くらい下ろしてから来なさい。二日に一回は注意してると思うんだがね、、、」
「やべっ、すみません、つい。いや、あぁ、編集長にいち早く挨拶したくて。」
「それはありがとう。言い訳が下手すぎるぞ。折角、君の仕事の腕は買ってるんだ、あとは礼節を学べば完璧だよ。取材先とかで失礼を働かないために言ってるんだからな。」
畑は軽く頷き、下を向いてこの場が終わるのを待った。ただ、仕事の腕は買ってると言われたことは正直嬉しかった。山本が続けた。
「まぁ、いい。それはそうと、例の事件の判決明日だろ。次号では、この裁判の特集をしようと思っててな、朝礼が終わったあとにB会議室にきてくれ。担当班と私で打ち合わせをしたい。」
「わかりました。てか、裁判の結果で大きく変わりますよね内容って。」
「おはようございます、編集長、畑。」
二人の会話中に出社してきた稗田(ひえだ)が加わった。畑と山本が挨拶を返すと稗田が続けた。
「畑、裁判の結果はだいたいわかんだろ。誰がどう見たって無罪だよ。昨日もニュースで大きく取り上げてたけど、被告のアリバイは完璧だ。」
稗田の言葉に山本も頷いた。
「あぁ、俺もその番組見たよ。事件現場に被告はいなかった。じゃあどうやって人を殺したか。今回の事件は、被告が自供している゛呪い゛というものが科学的に立証できるかが重要な点だ。畑くんはどう思う?」
「難しい話はよくわかりませんが、もし本当に離れた場所からでも人を殺せる方法があって、それが立証されてしまったら、今までの色々な事件にも影響があると思います。」
畑の言葉に頷きながら、稗田が話し出した。
「そうだな、死亡推定時刻に現場にいることが立証できずに、逮捕を免れてる輩はいるかもな。併せて冤罪とかもな。…まぁ、そもそも呪いなんてもんが科学的に立証できるはずがないよ。昨日の番組でも言ってましたよね、編集長。」
「あぁ。まぁ続きは会議でにしよう。足立(あだち)くん、すまん、朝礼を始めてくれ。」
自席に座っていた足立が立ち上がると、他の人たちも立ち上がり朝礼が始まった。
8時58分
B会議室には編集長の山本、企画ページ班のメンバーで班長の稗田、それから担当者の畑、足立、荒木(あらき)の計5人が集まった。山本が口を開いた。
「今回の会議のテーマは事前に伝えてあるが、明日判決が出る呪い裁判の特集ページについてだ。10ページの企画ものにしたいと考えている。どういった内容が良いか、意見をどんどん出してくれ。じゃあ、ここからの進行は班長に任せるよ。」
進行役は稗田に移った。
「はい。じゃあ皆、まずは率直に今回の判決はどういう結果になると思う?」
稗田がメンバーを見回すと足立と目が合った。目が合ったことに慌てた様子で足立が話し出した。
「え、えぇと、私は…呪いは…本当にあると思ってます。でも、科学的に立証できるかどうかは、多分無理だと思うので無罪…かなぁ。」
「足立、ありがとう。ただ正直、呪いの存在を認める意見には驚いたよ。何か経験があるのか?」
稗田の質問に足立は下を向きながら、辿々しく話し出した。
「いや、私は経験はないですが…単純にオカルトが好きなんです。霊とか…宇宙人とか…オーパーツとか都市伝説とか。…あ、あと最近はアカシックレコードっていうのにも…」
「もういいよ、そんくらいで。」
好きな話題でまだまだ話が続きそうな足立に担当者では最年長の荒木が割って入った。荒木が続けた。
「俺は逆に非現実的なものは信じないんで、呪いの立証が論点の裁判なら間違いなく無罪だと思ってます。」
「荒木、ありがとう。足立、オカルトの話は今度聞くよ。じゃあ畑はどうだ?」
ちょっと反省してる様子の足立を見て笑いを堪えていた畑は、急にふられてびっくりした。というか、自分の答えがわからなかった。朝礼前に山本と稗田と話していた内容を思い出し、多分無罪なんだろうなと思いつつも、有罪なら今までの犯罪史が全て塗り替えられて、面白くなりそうとも思っていた。だが、面白そうという理由で有罪だと思うなどとは口が避けても言えないため、やっぱり無難な答えを選んだ。
「…普通にいけば無罪じゃないっすかねぇ。……でももし有罪、つまり呪いの存在が認められたら世界はどうなるか、ということに少し興味はあります。」
畑は、「無罪だと思う」だけにするつもりが、つい要らぬことも話してしまいすぐに後悔した。
そんな畑を見て山本が話し出した。
「畑くん、良い意見だ。俺も多分無罪になると思っている。だが世間はきっと有罪になることを期待してると思うんだよ。何故なら、その方が面白いからだ。世間てのはそんなもんだ。なぁ班長。」
「そうですね。言い方は悪いが、事件の結果などほとんどの人間には関係がない。無罪なら無罪で、ただ平穏に事件が幕を閉じるだけ。どうせなら面白いことが起きてほしい。人間の欲望はそんなもんだ。実際、ネットの書き込みは有罪を支持する声が多くある。テレビや新聞では、有罪側の意見はほとんど取り上げてないけどな。」
「な、なんでですかね?テレビが取り上げないのって。」
純粋な表情の足立の質問に山本が答えた。
「テレビは無責任な意見の報道はしたがらない。特に最近はどんな内容でもすぐにクレームにつながる世の中だからな。それに有罪側の意見なんてほとんどが面白いからって理由で、それも顔や名前が一切バレないネット上の意見、仮にテレビで顔を晒すインタビューを受けたら絶対無難な無罪を支持するさ。」
山本の言葉に稗田も被せていく。
「だから、我々はテレビや新聞とは違う内容をやりたい。どちらかというと有罪側の意見を全面に押し出した内容にしたいんだ。」
その言葉に対し荒木が話し出した。
「そっちの方がウケるのは理解できます。じゃあ呪いのメカニズムを科学的に説明するような内容にします?」
「え~、なんか硬くないですか?私全然理解できないですよ、科学とか。」
荒木のアイディアを、つまんなそぉという分かりやすい表情で否定する足立に稗田が続けた。
「足立の意見もあるな。なんかもっと食い付きやすい内容がいいなぁ。」
なかなか良いアイデアが思い浮かばずに担当者3人は黙り混んでしまった。その様子を見て山本が話し出した。
「よし、まぁ主旨は伝わったかな?明日また朝一に会議をやろう。今日一日アイデアを考えてくれ。」
「わかりました。」と3人が頷くと会議は閉会となり、山本、稗田、荒木の3人はさっさと会議室から出ていった。畑も立ち上り部屋を出ようとすると足立が声を掛けてきた。
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