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第3節 村上 正人 其の2
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正人は、池畑の言う、「自殺だった場合でも、千里の意志かどうかはわからない」という意味が理解できなかった。
難しい表情をしている正人に池畑は説明を続けた。
「…実はまだ公表はしていませんが、今ニュースで取り上げられている呪いの話で…。」
「呪い…?」
正人は、また恐怖を感じた。池畑が続けた。
「…呪いを掛けられて自ら命を絶った場合、脳に特定の症状が出ることがわかりました。」
正人はまだ理解が出来ていなかった。
「先程、亡くなられた南雲由実さんの解剖結果を確認しましたが、南雲さんの脳にもこの症状が見られました。」
「…呪いを掛けられて自ら命を絶つってのは、…つまり由実は誰かに殺されたってことですか?」
正人は自分が言っている台詞の意味を理解していないまま答えた。
「はい、これから殺人事件として立件します。犯人を見つけるのは中々難しいとは思いますが、まだ呪いについては色々と研究段階でして、もしかしたら犯人を特定するための証拠も眠ってるかもしれません。」
淡々と話をする池畑の姿に、正人は何か不思議な感覚がしていた。
「…なんか話が現実見がないような内容で、頭が付いていけなくてすみません。」
「いえ。誰だって最初はそう思います。私自身も呪いについては、まだまだ勉強中ですんで。ですが、奥様が自ら命を絶ったわけではないと分かれば、あなたの自責の念も多少は和らぐのでは。
…ただ、解剖の結果、脳に特定の症状が無ければ自殺ということになりますので、期待を持たせてしまった分、より重く辛い結果になってしまいますが。」
正人は、とりあえず池畑の話を信じることにして、その問いかけに悩んだ。
自責の念で押し潰されそうなのは間違いないが、自分を救うために千里の身体にキズを付けてよいのか。だが、娘は自殺したわけじゃないと分かれば、千里の両親は少しは救われるのでは。…そんな色々な考えが浮かび自分一人では結論が出せなかった。
「さっき、脳の症状については、まだ公表していないとおっしゃってましたが、一人じゃとても決められないので、私と妻の両親に相談しても良いですか?」
「わかりました、そうですよね。ただ、世の中に公表するまでは、そこまでで止めといていただけますか?こちらの都合で申し訳ないですが。」
「わかりました。両親にもそう伝えます。」
「では、今日はこれで失礼します。ご傷心の最中、色々とありがとうございました。奥様のご遺体は一度こちらでお預かり致します。こちらからまたご連絡を差し上げたいので連絡先をお願いします。」
正人は自分の携帯番号を教え、替わりに池畑の名刺をもらった。
「お辛い中、色々ご協力いただきありがとうございました。では失礼します。」
池畑たちが帰り、伽藍とした部屋の中、正人はソファーに座り深い溜息をついた。
「ふぅ~。」
正人は何も考えずに部屋のあちこちを見渡した。すると、部屋の至るところに千里の存在を感じた。
キッチンには料理を作る千里、ダイニングテーブルには千里の自慢料理を自分と食べながら談笑する千里、部屋の隅には部屋の掃除をしてくれている千里、横を見ると自分にもたれ掛かりながら幸せそうにテレビを見ている千里、この部屋には千里が溢れていることに改めて気付き、正人の胸を締め付けた。
あぁ、一旦落ち着いたと思ったのにな………涙が止まらなかった。
ふと上を見ると、一番見たくない最期の姿の千里が映る。
苦しかっただろう…辛かっただろう…言葉では上手く言い表せない感情が正人の中で暴れていた。
「…うぅ……ごめんな。」
誰もいない部屋で正人が呟いた。
それからどれくらい時間が経っただろうか、涙も枯れるとはこのことかと思うほど泣き、ふと時計を見ると、思っていたほど時は経っていなかった。
そう言えば職場に連絡を入れなくてはと思い付き、山本の席への直通番号に電話をすると、2コール目に電話が繋がった。
「はい、こちら北条出版社、現代自身編集長席です。」
「…あ、村上です。その声は荒木さんですか?」
「あ、村上か!?時間になっても来ないから皆心配してたぞ。なんかあったのか?あ、まさか寝坊か?」
「あ、いえ、ちょっと色々ありまして。編集長は今ご不在ですか?」
「…なんか元気ないな、大丈夫か?編集長は今会議で外に出てる。今うちのシマも村上のシマも俺以外は皆席外しちゃってるよ。風邪とかなら俺から伝えとくが。」
「…どうしようかな。あ、いえ、三戸班長の携帯に掛けてみます。ありがとうございました。」
そう言うと正人は自分から電話を切った。同僚に上手くこの事を話す自信がなかった。
正人は三戸班長の携帯に電話を掛けると、直ぐに繋がった。
「ん?正人か?お前どうしたんだ?遅刻なんて珍しいから心配したじゃないか。」
「班長、すみません。色々ありまして…。」
正人は事の流れを班長に全て話した。ただ、千里が呪いによる死の可能性があることだけは伏せた。
「…そうか、そんな事態になってるとは当然想定してなかったから、何と言っていいか…本当に大変だったな。辛い中電話くれてありがとうな。
編集長には俺から伝えておくから、しばらく仕事は休んで、少しでも気持ちが安らいだら、改めて自分から報告してくれ。
あ、大変だと思うが、葬儀の日程がわかったら連絡くれよな。」
「はい、ありがとうございます。…仕事は大丈夫ですか?」
「大丈夫になるようにこっちで何とかするから安心しろ。仕事復帰したら生駒には、飯でも奢ってやってくれ。」
「ありがとうございます。」
「おう。無理はするなよ。」
そう言うと電話は切れた。
そうか、葬儀の日程とか色々決めないと。正人は早く親に会って色々相談したかった。
難しい表情をしている正人に池畑は説明を続けた。
「…実はまだ公表はしていませんが、今ニュースで取り上げられている呪いの話で…。」
「呪い…?」
正人は、また恐怖を感じた。池畑が続けた。
「…呪いを掛けられて自ら命を絶った場合、脳に特定の症状が出ることがわかりました。」
正人はまだ理解が出来ていなかった。
「先程、亡くなられた南雲由実さんの解剖結果を確認しましたが、南雲さんの脳にもこの症状が見られました。」
「…呪いを掛けられて自ら命を絶つってのは、…つまり由実は誰かに殺されたってことですか?」
正人は自分が言っている台詞の意味を理解していないまま答えた。
「はい、これから殺人事件として立件します。犯人を見つけるのは中々難しいとは思いますが、まだ呪いについては色々と研究段階でして、もしかしたら犯人を特定するための証拠も眠ってるかもしれません。」
淡々と話をする池畑の姿に、正人は何か不思議な感覚がしていた。
「…なんか話が現実見がないような内容で、頭が付いていけなくてすみません。」
「いえ。誰だって最初はそう思います。私自身も呪いについては、まだまだ勉強中ですんで。ですが、奥様が自ら命を絶ったわけではないと分かれば、あなたの自責の念も多少は和らぐのでは。
…ただ、解剖の結果、脳に特定の症状が無ければ自殺ということになりますので、期待を持たせてしまった分、より重く辛い結果になってしまいますが。」
正人は、とりあえず池畑の話を信じることにして、その問いかけに悩んだ。
自責の念で押し潰されそうなのは間違いないが、自分を救うために千里の身体にキズを付けてよいのか。だが、娘は自殺したわけじゃないと分かれば、千里の両親は少しは救われるのでは。…そんな色々な考えが浮かび自分一人では結論が出せなかった。
「さっき、脳の症状については、まだ公表していないとおっしゃってましたが、一人じゃとても決められないので、私と妻の両親に相談しても良いですか?」
「わかりました、そうですよね。ただ、世の中に公表するまでは、そこまでで止めといていただけますか?こちらの都合で申し訳ないですが。」
「わかりました。両親にもそう伝えます。」
「では、今日はこれで失礼します。ご傷心の最中、色々とありがとうございました。奥様のご遺体は一度こちらでお預かり致します。こちらからまたご連絡を差し上げたいので連絡先をお願いします。」
正人は自分の携帯番号を教え、替わりに池畑の名刺をもらった。
「お辛い中、色々ご協力いただきありがとうございました。では失礼します。」
池畑たちが帰り、伽藍とした部屋の中、正人はソファーに座り深い溜息をついた。
「ふぅ~。」
正人は何も考えずに部屋のあちこちを見渡した。すると、部屋の至るところに千里の存在を感じた。
キッチンには料理を作る千里、ダイニングテーブルには千里の自慢料理を自分と食べながら談笑する千里、部屋の隅には部屋の掃除をしてくれている千里、横を見ると自分にもたれ掛かりながら幸せそうにテレビを見ている千里、この部屋には千里が溢れていることに改めて気付き、正人の胸を締め付けた。
あぁ、一旦落ち着いたと思ったのにな………涙が止まらなかった。
ふと上を見ると、一番見たくない最期の姿の千里が映る。
苦しかっただろう…辛かっただろう…言葉では上手く言い表せない感情が正人の中で暴れていた。
「…うぅ……ごめんな。」
誰もいない部屋で正人が呟いた。
それからどれくらい時間が経っただろうか、涙も枯れるとはこのことかと思うほど泣き、ふと時計を見ると、思っていたほど時は経っていなかった。
そう言えば職場に連絡を入れなくてはと思い付き、山本の席への直通番号に電話をすると、2コール目に電話が繋がった。
「はい、こちら北条出版社、現代自身編集長席です。」
「…あ、村上です。その声は荒木さんですか?」
「あ、村上か!?時間になっても来ないから皆心配してたぞ。なんかあったのか?あ、まさか寝坊か?」
「あ、いえ、ちょっと色々ありまして。編集長は今ご不在ですか?」
「…なんか元気ないな、大丈夫か?編集長は今会議で外に出てる。今うちのシマも村上のシマも俺以外は皆席外しちゃってるよ。風邪とかなら俺から伝えとくが。」
「…どうしようかな。あ、いえ、三戸班長の携帯に掛けてみます。ありがとうございました。」
そう言うと正人は自分から電話を切った。同僚に上手くこの事を話す自信がなかった。
正人は三戸班長の携帯に電話を掛けると、直ぐに繋がった。
「ん?正人か?お前どうしたんだ?遅刻なんて珍しいから心配したじゃないか。」
「班長、すみません。色々ありまして…。」
正人は事の流れを班長に全て話した。ただ、千里が呪いによる死の可能性があることだけは伏せた。
「…そうか、そんな事態になってるとは当然想定してなかったから、何と言っていいか…本当に大変だったな。辛い中電話くれてありがとうな。
編集長には俺から伝えておくから、しばらく仕事は休んで、少しでも気持ちが安らいだら、改めて自分から報告してくれ。
あ、大変だと思うが、葬儀の日程がわかったら連絡くれよな。」
「はい、ありがとうございます。…仕事は大丈夫ですか?」
「大丈夫になるようにこっちで何とかするから安心しろ。仕事復帰したら生駒には、飯でも奢ってやってくれ。」
「ありがとうございます。」
「おう。無理はするなよ。」
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