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第3節 村上 正人 其の2
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ー 村上宅 ー
16時30分
自宅に着くと、和彦と武志が相談をし、葬儀の日程を葬儀屋に連絡し、明日打合せに行くことまで話を進めていてくれた。
そんな二人を見て、正人は、やらないといけないことは山ほどあり、悲しみに暮れる暇はないことに気づいた。皆で力を合わせて乗り越えようという決意をした。
正人はそれぞれの両親に家にしばらく泊まってよいと言ったが、それぞれ近くのシティホテルに宿泊するということで話がつき、また連絡するということで、皆が部屋を出て行った。
さっきまで人の温もりや息遣いが溢れていた部屋。…また伽藍とした部屋が正人の心に襲いかかった。
「千里!」と呼べば、キッチンからひょっこり出てきそうな感覚が抜けるのはまだまだ時間がかかりそうだと実感した。
ふぅと大きな溜息をつき、天井を見上げ涙が零れるのを避けようとしたが、天井を見るとシャンデリアが視界に必ず入り、千里の最期の姿がどうしても浮かんでしまう。結局、大粒の涙を流すはめになった。
「…しばらくは上は見れないな…」
涙を拭っていると、ブーッブーッとスマホが鳴った。絵美子からだった。
「もしもし、正人さん。今、由実ちゃんのお母さんから連絡があって、由実ちゃんの葬儀の日程が決まったみたいです。明後日がお通夜ですって。私は一回実家に帰って焼香に行くことにしますが、正人さんはどうしますか?あなたも千里を通じて由実ちゃんとは親しくしてたようで、向こうのお母さんが気にされてたわ。」
「わざわざありがとうございます。由実ちゃんの葬儀は気になってたので、ご連絡いただき助かります。俺は行く暇ありますかね?」
「皆で協力し合うんだから、そこは大丈夫よ。親戚の手伝いとかで経験してるんだから。新幹線の切符、明後日の朝で二枚取っておきます。」
「助かります。あ、明日の葬儀屋も一緒にお願いたします。お義父さんにもよろしくお伝えください。では。」
そう言うと正人は電話を切った。さっきまで意気消沈していた絵美子から、しっかりした内容の電話がきて、正人は最初正直驚いたが、声が小さく震えていることに気づき、気を紛らわすために無理してることを悟った。
正人が由実の通夜に行くことは、勿論焼香をあげることが一番の目的だが、呪いで殺されたことがわかった心境を由実の両親に聞いてみたいという思いもあった。
「そいや、千里の義母さん、千里が死んだこと由実の母さんに言えたのかな…」
誰もいない部屋で正人が呟いた。
しばらくソファーに座り、考え事をしているとピンポーンとインターホンが鳴った。正人はインターホンの通話ボタンを押した。
「はい。」
「急に失礼します。私、千里さんの同僚の神谷と申します。今日千里さんが職場に来なくて、携帯に何度も電話したのですが、一回も出てもらえなかったので、心配で伺いました。千里さんは病気ですか?」
正人は、しまった、と思った。千里の職場に連絡するのをすっかり失念していた。
「ご連絡を失念しており申し訳ございません。今玄関に行きますので。」
正人は玄関を開けると千里の同僚の女性が二人立っていた。
「実は色々ありまして、外ではなんなので中へどうぞ。」
正人は二人をリビングへ案内し、ソファーに座らせた。
「コーヒーでよろしいですか?」
「あ、お構い無く。申し訳ございません。」
正人はコーヒーを3人分リビングテーブルに運び、自分はダイニングテーブルのイスを移動させ、テーブルを挟んで対面に座った。
「ありがとうございます。私は千里さんの後輩の神谷で、この子は私の同期の内藤です。」
内藤は正人に一礼した。
「今日はすみません。ご心配をおかけして。あの何から話してよいのか。」
二人は何事かと顔を見合わせた。
「千里は今朝……死にました。」
二人は正人の言葉にリアクションができずに固まった。
「…え?…今なんて?」
内藤が聞き返した。
「その、自ら命を絶った形で私が今朝発見しました。1日ドタバタしており、連絡するのをすっかり忘れていました。申し訳ありません。」
正人は深々と頭を下げた。
「冗談…じゃなくてですか?」
今度は神谷が聞き返した。
「冗談…だったらいいですよね。本当に…。」
落ち込む正人の様子を見て冗談じゃないと思った二人は、事の重大さに漸く気づいた。
「え、自殺ですか?嘘、先輩今大きなプロジェクトの一員になれたって喜んでたのに。どうして。」
「遺書らしい遺書がなく、理由はわからないままです。…驚きましたよね。仕事面でも多大なご迷惑をおかけすることになると思います。本当に申し訳ございません。」
「…なんて言ったらよいか。先輩、ずっと私たちと細胞の再生に関する研究をしてて、今度一大プロジェクトチームを立ち上げることになったんですが、所長からサブリーダー任命の話を一昨日もらったばかりなんですよ。あんなに泣いて喜んでたのに。…本当に信じられません。」
「研究の話は伺っています。サブリーダーの話は聞いていませんでしたが。ただ、思い返せば、昨日の朝、千里がとても良いことがあったと言っていました。内容を聞いたら今度の旅行で美味しいお酒を呑みながら話したいって、その時は教えてくれなくて。」
「あ、そういえば結婚五周年で旅行に行くって言ってましたね。ご主人の提案だって、嬉しそうに話してくれましたよ。だから、本当に信じられないです。」
神谷が色々と話してくれている横で、内藤はずっと泣いていた。
正人は明日葬儀の日程が決まると思うこと、決まり次第職場に挨拶に行く旨を告げて、二人は帰って行った。
また、伽藍とした部屋が待っていた。人が来て、帰ってしまった後のこの部屋の寂しい感じが堪らなく辛かった。
また涙が出そうになったが正人は上を向こうとはしなかった。涙をティッシュで拭いながらソファーに座ると、二人の温もりが残っていて温かかった。
正人はコーヒーを啜る。
「もう冷たいな…。」
せっかく温もりを感じた正人の身体は、また一気に冷めてしまった。
16時30分
自宅に着くと、和彦と武志が相談をし、葬儀の日程を葬儀屋に連絡し、明日打合せに行くことまで話を進めていてくれた。
そんな二人を見て、正人は、やらないといけないことは山ほどあり、悲しみに暮れる暇はないことに気づいた。皆で力を合わせて乗り越えようという決意をした。
正人はそれぞれの両親に家にしばらく泊まってよいと言ったが、それぞれ近くのシティホテルに宿泊するということで話がつき、また連絡するということで、皆が部屋を出て行った。
さっきまで人の温もりや息遣いが溢れていた部屋。…また伽藍とした部屋が正人の心に襲いかかった。
「千里!」と呼べば、キッチンからひょっこり出てきそうな感覚が抜けるのはまだまだ時間がかかりそうだと実感した。
ふぅと大きな溜息をつき、天井を見上げ涙が零れるのを避けようとしたが、天井を見るとシャンデリアが視界に必ず入り、千里の最期の姿がどうしても浮かんでしまう。結局、大粒の涙を流すはめになった。
「…しばらくは上は見れないな…」
涙を拭っていると、ブーッブーッとスマホが鳴った。絵美子からだった。
「もしもし、正人さん。今、由実ちゃんのお母さんから連絡があって、由実ちゃんの葬儀の日程が決まったみたいです。明後日がお通夜ですって。私は一回実家に帰って焼香に行くことにしますが、正人さんはどうしますか?あなたも千里を通じて由実ちゃんとは親しくしてたようで、向こうのお母さんが気にされてたわ。」
「わざわざありがとうございます。由実ちゃんの葬儀は気になってたので、ご連絡いただき助かります。俺は行く暇ありますかね?」
「皆で協力し合うんだから、そこは大丈夫よ。親戚の手伝いとかで経験してるんだから。新幹線の切符、明後日の朝で二枚取っておきます。」
「助かります。あ、明日の葬儀屋も一緒にお願いたします。お義父さんにもよろしくお伝えください。では。」
そう言うと正人は電話を切った。さっきまで意気消沈していた絵美子から、しっかりした内容の電話がきて、正人は最初正直驚いたが、声が小さく震えていることに気づき、気を紛らわすために無理してることを悟った。
正人が由実の通夜に行くことは、勿論焼香をあげることが一番の目的だが、呪いで殺されたことがわかった心境を由実の両親に聞いてみたいという思いもあった。
「そいや、千里の義母さん、千里が死んだこと由実の母さんに言えたのかな…」
誰もいない部屋で正人が呟いた。
しばらくソファーに座り、考え事をしているとピンポーンとインターホンが鳴った。正人はインターホンの通話ボタンを押した。
「はい。」
「急に失礼します。私、千里さんの同僚の神谷と申します。今日千里さんが職場に来なくて、携帯に何度も電話したのですが、一回も出てもらえなかったので、心配で伺いました。千里さんは病気ですか?」
正人は、しまった、と思った。千里の職場に連絡するのをすっかり失念していた。
「ご連絡を失念しており申し訳ございません。今玄関に行きますので。」
正人は玄関を開けると千里の同僚の女性が二人立っていた。
「実は色々ありまして、外ではなんなので中へどうぞ。」
正人は二人をリビングへ案内し、ソファーに座らせた。
「コーヒーでよろしいですか?」
「あ、お構い無く。申し訳ございません。」
正人はコーヒーを3人分リビングテーブルに運び、自分はダイニングテーブルのイスを移動させ、テーブルを挟んで対面に座った。
「ありがとうございます。私は千里さんの後輩の神谷で、この子は私の同期の内藤です。」
内藤は正人に一礼した。
「今日はすみません。ご心配をおかけして。あの何から話してよいのか。」
二人は何事かと顔を見合わせた。
「千里は今朝……死にました。」
二人は正人の言葉にリアクションができずに固まった。
「…え?…今なんて?」
内藤が聞き返した。
「その、自ら命を絶った形で私が今朝発見しました。1日ドタバタしており、連絡するのをすっかり忘れていました。申し訳ありません。」
正人は深々と頭を下げた。
「冗談…じゃなくてですか?」
今度は神谷が聞き返した。
「冗談…だったらいいですよね。本当に…。」
落ち込む正人の様子を見て冗談じゃないと思った二人は、事の重大さに漸く気づいた。
「え、自殺ですか?嘘、先輩今大きなプロジェクトの一員になれたって喜んでたのに。どうして。」
「遺書らしい遺書がなく、理由はわからないままです。…驚きましたよね。仕事面でも多大なご迷惑をおかけすることになると思います。本当に申し訳ございません。」
「…なんて言ったらよいか。先輩、ずっと私たちと細胞の再生に関する研究をしてて、今度一大プロジェクトチームを立ち上げることになったんですが、所長からサブリーダー任命の話を一昨日もらったばかりなんですよ。あんなに泣いて喜んでたのに。…本当に信じられません。」
「研究の話は伺っています。サブリーダーの話は聞いていませんでしたが。ただ、思い返せば、昨日の朝、千里がとても良いことがあったと言っていました。内容を聞いたら今度の旅行で美味しいお酒を呑みながら話したいって、その時は教えてくれなくて。」
「あ、そういえば結婚五周年で旅行に行くって言ってましたね。ご主人の提案だって、嬉しそうに話してくれましたよ。だから、本当に信じられないです。」
神谷が色々と話してくれている横で、内藤はずっと泣いていた。
正人は明日葬儀の日程が決まると思うこと、決まり次第職場に挨拶に行く旨を告げて、二人は帰って行った。
また、伽藍とした部屋が待っていた。人が来て、帰ってしまった後のこの部屋の寂しい感じが堪らなく辛かった。
また涙が出そうになったが正人は上を向こうとはしなかった。涙をティッシュで拭いながらソファーに座ると、二人の温もりが残っていて温かかった。
正人はコーヒーを啜る。
「もう冷たいな…。」
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