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第4節 池畑 一輝
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桐生が取調室を出て行ってから数十分後、池畑と溝口は、さっき桐生が置いていった資料を持って、警視庁直属の科学研究所を訪れた。
この科学研究所は、科学的な観点から事件を解明するために造られた組織であり、池畑たちも度々世話になっている。
池畑たちは、いつも訪れる第1研究室の扉をノックし、返事がくる前に開けた。
「失礼するよ。」
扉を開けた先には広い研究室があり、4人の科学者が在籍している。部屋には中二階の他、寝泊まりできるように仮眠室やシャワーまで備え付けられている。
「あら、久しぶり。」
研究室の責任者であり、この研究所でナンバー3のポジションにいる佐倉(さくら)と目が合った。
「久しぶりって、一週間も経ってくらいだろ。悪いけど、またお願い事だ。」
「今忙しいのよね、色々頼まれてて。」
「佐倉さん、お願いしますよ。」
軽く洗われている池畑を見て、溝口も一緒に頼み込んだ。溝口が声を発すると佐倉はハッとし、満面の笑みになった。
「あら、溝口くんもいたんだぁ。溝口くん、今日ご飯行かなぁい?そしたら、お願いきいてあげる。」
池畑と話すときより2オクターブくらい声が高くなる佐倉に、池畑はため息をついた。
「…お前、わかりやすいな。」
「うっさいわ。で、溝口くん、お願いって何?」
「これなんですけど…」
溝口は桐生が置いていった資料を佐倉に渡した。佐倉は一枚目から丁寧に読んでいく。
無言で読み続ける佐倉を池畑と溝口はじっと眺めていた。一枚目の半分くらいまで読んだ佐倉は目を丸くして言った。
「ねぇ、これを書いたのは何者なの?」
「桐生朱美っていう女性だ。昨日、横浜で包丁が腹部に刺さった状態の遺体が発見され…」
「見たわそれ。確か菅野って女性だったわよね。警察からの最新情報だと、確か結論は自殺になりそうって…。」
佐倉は池畑のセリフを奪いとるように言い、続けた。
「それとこのペーパーが関係してるの?」
「今日、桐生という女性がうちにやって来て、菅野茜は私が呪って殺したんだ、と言いやがって。呪いで殺したわけだから、これは殺人だ、私を逮捕しろって暴れてよ。」
「…呪い?」
普通なら馬鹿馬鹿しく思うであろう、ましてや科学者からしたら非科学的な呪いという単語に、佐倉は呆れることもなく、真剣な眼差しで呟いた。予想外の佐倉の反応に、池畑も態度を変えて話を続けた。
「その、桐生の話す呪いというのが、我々にはさっぱりであまりに会話にならなくてな。しびれを切らして、何か証拠はあるのかと言ったら、そのペーパーを置いてった。」
「そう。…これ、1日貸して。明日連絡するから。」
佐倉は一枚目の続きを読みながら言った。
「お、おう。」
池畑は今まで見たことない佐倉の興奮ぶりに驚いた。池畑と溝口は佐倉からの連絡を待つことにして研究所を後にした。
ー 居酒屋 早雲 ー
21時25分
「はぁ、池畑さんは呪いって何だと思います?」
乾杯のビールを一口飲み、溝口が池畑に聞いた。
「呪いなんてのは、あーあれだろ!こう霊的な感じのさ。夜中の遅い時間に神社の木に藁人形くっ付けて釘を打ち込むような。」
「頭に蝋燭さしてね。って、呪いって何の話?」
池畑、溝口と同じ係の千代田(ちよだ)が自分の後輩にあたる溝口に聞いた。桐生が来た時、留守にしていた千代田に、溝口は今日あった桐生の件を説明し、今その内容を研究所の佐倉に見てもらってることまで話した。
「なんか面白そうな人が来てたのね。その場に居なくて損した気分。」
「面白そうって……お前。」
佐倉とは全く違う反応を見せる千代田に、池畑が突っ込んだ。
「そりゃ、私は科学者みたく頭は良くないですから。あっ、そう言えば池畑さん、佐倉さんとはもう終わったんですか?」
千代田は突然ニヤニヤしながら池畑に聞いた。池畑は飲んでたビールに噎せた。
「プハッ。ゴホッゴホッ。歩美(あゆみ)、お前の質問は直球すぎる。もう少し聞き方ないのか。」
「え!やっぱりそうだったんすか、池畑さん。半年前くらいから、随分二人の関係性が違って見えたんですよ。やっぱり付き合ってたんすねぇ。…え、でももう終わったって?」
初耳の溝口は、前のめりで池畑に食い付き、池畑に瓶ビールを注ぎながら聞いた。
「…溝口も乗っかんな!俺はそんな話をしに来たつもりはない!」
池畑が多少声を張って言った。その横で、千代田がぼそっと溝口に言った。
「なかなか時間が合わなくて半年で関係は終了だってさ。お互い忙しいから、しょうがないよね。佐倉さんって研究一筋って感じだし。」
溝口はへぇと思いながらも、佐倉が最近自分に好意を抱いているような態度をとってくることを思い出し、ハッとした。
「あ、あの…池畑さん。俺に嫉妬とかしてないっすよね?」
「バ、バッカ野郎!!!
」
池畑は完全に動揺し、大声を荒げてしまった。溝口は今度から佐倉に会うときは、色々気をつけようと思った。
「…で、関係ない話は置いておいて…」
「お前が切り出したんだろ!」
池畑の突っ込みを無視し、千代田が続ける。
「その呪いのメカニズムってやつ、つまり自分の手を汚さずに人を殺すことができるってことですよね。佐倉さんがそんなに興味を抱いているなら、科学的にも筋が通ってる説明なのかな。」
「…フンッ、バカな。呪いで人がホントに殺せるもんか。」
池畑は鼻で笑った。
「でも、ホントに殺せるとしたら、日本、いや世界の犯罪史が大きく変わるかもしれませんね。」
溝口がシリアスな口調で言うと、池畑はまた鼻で笑った。
「そもそも、そんなことが罷り通ってたら、世の中完全犯罪だらけだろ。」
「…でもさ、その桐生って女が最初に成し遂げたって可能性もあるわね。」
「もしそうなら、凄い事件を担当しちゃいましたね、池畑さん。」
二人の話が本当だったらと一瞬考えた池畑は、勘弁してくれよと頭を掻いた。
この科学研究所は、科学的な観点から事件を解明するために造られた組織であり、池畑たちも度々世話になっている。
池畑たちは、いつも訪れる第1研究室の扉をノックし、返事がくる前に開けた。
「失礼するよ。」
扉を開けた先には広い研究室があり、4人の科学者が在籍している。部屋には中二階の他、寝泊まりできるように仮眠室やシャワーまで備え付けられている。
「あら、久しぶり。」
研究室の責任者であり、この研究所でナンバー3のポジションにいる佐倉(さくら)と目が合った。
「久しぶりって、一週間も経ってくらいだろ。悪いけど、またお願い事だ。」
「今忙しいのよね、色々頼まれてて。」
「佐倉さん、お願いしますよ。」
軽く洗われている池畑を見て、溝口も一緒に頼み込んだ。溝口が声を発すると佐倉はハッとし、満面の笑みになった。
「あら、溝口くんもいたんだぁ。溝口くん、今日ご飯行かなぁい?そしたら、お願いきいてあげる。」
池畑と話すときより2オクターブくらい声が高くなる佐倉に、池畑はため息をついた。
「…お前、わかりやすいな。」
「うっさいわ。で、溝口くん、お願いって何?」
「これなんですけど…」
溝口は桐生が置いていった資料を佐倉に渡した。佐倉は一枚目から丁寧に読んでいく。
無言で読み続ける佐倉を池畑と溝口はじっと眺めていた。一枚目の半分くらいまで読んだ佐倉は目を丸くして言った。
「ねぇ、これを書いたのは何者なの?」
「桐生朱美っていう女性だ。昨日、横浜で包丁が腹部に刺さった状態の遺体が発見され…」
「見たわそれ。確か菅野って女性だったわよね。警察からの最新情報だと、確か結論は自殺になりそうって…。」
佐倉は池畑のセリフを奪いとるように言い、続けた。
「それとこのペーパーが関係してるの?」
「今日、桐生という女性がうちにやって来て、菅野茜は私が呪って殺したんだ、と言いやがって。呪いで殺したわけだから、これは殺人だ、私を逮捕しろって暴れてよ。」
「…呪い?」
普通なら馬鹿馬鹿しく思うであろう、ましてや科学者からしたら非科学的な呪いという単語に、佐倉は呆れることもなく、真剣な眼差しで呟いた。予想外の佐倉の反応に、池畑も態度を変えて話を続けた。
「その、桐生の話す呪いというのが、我々にはさっぱりであまりに会話にならなくてな。しびれを切らして、何か証拠はあるのかと言ったら、そのペーパーを置いてった。」
「そう。…これ、1日貸して。明日連絡するから。」
佐倉は一枚目の続きを読みながら言った。
「お、おう。」
池畑は今まで見たことない佐倉の興奮ぶりに驚いた。池畑と溝口は佐倉からの連絡を待つことにして研究所を後にした。
ー 居酒屋 早雲 ー
21時25分
「はぁ、池畑さんは呪いって何だと思います?」
乾杯のビールを一口飲み、溝口が池畑に聞いた。
「呪いなんてのは、あーあれだろ!こう霊的な感じのさ。夜中の遅い時間に神社の木に藁人形くっ付けて釘を打ち込むような。」
「頭に蝋燭さしてね。って、呪いって何の話?」
池畑、溝口と同じ係の千代田(ちよだ)が自分の後輩にあたる溝口に聞いた。桐生が来た時、留守にしていた千代田に、溝口は今日あった桐生の件を説明し、今その内容を研究所の佐倉に見てもらってることまで話した。
「なんか面白そうな人が来てたのね。その場に居なくて損した気分。」
「面白そうって……お前。」
佐倉とは全く違う反応を見せる千代田に、池畑が突っ込んだ。
「そりゃ、私は科学者みたく頭は良くないですから。あっ、そう言えば池畑さん、佐倉さんとはもう終わったんですか?」
千代田は突然ニヤニヤしながら池畑に聞いた。池畑は飲んでたビールに噎せた。
「プハッ。ゴホッゴホッ。歩美(あゆみ)、お前の質問は直球すぎる。もう少し聞き方ないのか。」
「え!やっぱりそうだったんすか、池畑さん。半年前くらいから、随分二人の関係性が違って見えたんですよ。やっぱり付き合ってたんすねぇ。…え、でももう終わったって?」
初耳の溝口は、前のめりで池畑に食い付き、池畑に瓶ビールを注ぎながら聞いた。
「…溝口も乗っかんな!俺はそんな話をしに来たつもりはない!」
池畑が多少声を張って言った。その横で、千代田がぼそっと溝口に言った。
「なかなか時間が合わなくて半年で関係は終了だってさ。お互い忙しいから、しょうがないよね。佐倉さんって研究一筋って感じだし。」
溝口はへぇと思いながらも、佐倉が最近自分に好意を抱いているような態度をとってくることを思い出し、ハッとした。
「あ、あの…池畑さん。俺に嫉妬とかしてないっすよね?」
「バ、バッカ野郎!!!
」
池畑は完全に動揺し、大声を荒げてしまった。溝口は今度から佐倉に会うときは、色々気をつけようと思った。
「…で、関係ない話は置いておいて…」
「お前が切り出したんだろ!」
池畑の突っ込みを無視し、千代田が続ける。
「その呪いのメカニズムってやつ、つまり自分の手を汚さずに人を殺すことができるってことですよね。佐倉さんがそんなに興味を抱いているなら、科学的にも筋が通ってる説明なのかな。」
「…フンッ、バカな。呪いで人がホントに殺せるもんか。」
池畑は鼻で笑った。
「でも、ホントに殺せるとしたら、日本、いや世界の犯罪史が大きく変わるかもしれませんね。」
溝口がシリアスな口調で言うと、池畑はまた鼻で笑った。
「そもそも、そんなことが罷り通ってたら、世の中完全犯罪だらけだろ。」
「…でもさ、その桐生って女が最初に成し遂げたって可能性もあるわね。」
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