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第4節 池畑 一輝
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ー 池畑宅 ー
23時50分
池畑のスマホの着信音が鳴った。
23時すぎに溝口たちとの飲み会から帰宅した池畑は、珍しく飲みすぎてしまい、帰るなりソファーに座り込み、そのまま寝落ちしてしまったらしい。
池畑は着信音で飛び起き、頭を掻きながらテーブルの上の置いておいたスマホを手に取った。
「由香里(ゆかり)?」
スマホの画面には佐倉由香里からの着信と表示されていた。
「…もしもし?」
「あ、一輝(かずき)まだ起きてた?…いや、その声は寝起きね。」
「こんな時間にどうした?」
「今日あんたから預かった桐生って女の例のペーパーだけど、かなりヤバいことになりそうよ。明日連絡しようかと思ったけど、急いだ方が良いと思ってしちゃった。今から会えない?」
「い、今から!?…すまん、酒を飲んでしまって運転できん。」
「ご安心を。今あんたのマンションの入り口にいますから。」
…会えない?と聞いておきながら、強引に会うつもりだったんじゃねぇかと池畑は思ったが、余程のことがあったということも理解した。
「わかった。今ロック解くから入ってこいよ。」
佐倉は池畑の部屋に上がり、慣れたようにソファーに座った。
「なんか飲むか?」
「コーヒー、ブラックで。あんた、相変わらず部屋綺麗にしてるわね。」
佐倉は池畑の部屋を見回しながら言った。
「余計な話はいい。それでどうしたんだ。」
池畑はカウンター越しにキッチンでドリップ式コーヒーを入れながら佐倉に問いた。
「あのペーパー全部読んだんだけど、本当に桐生って女が言ってたとおりかもよ。…呪いは実在するかも。」
池畑はコーヒーがまだ入れ終わってなかったが、カップを放置してリビングに駆け寄り、佐倉の横に座った。
「どういうことだ!?」
池畑の酔いは一気に醒めていた。
「正確には呪いって言っていいかわからないけど、科学的に、人を操る方法が書かれていた。もっと言うと、そうさせる装置の話ね。」
「装置?」
「ヒエロニムスマシン…って知ってる?」
「…いや、全く。言葉自体も初めて聞いた。」
「アメリカのヒエロニムスって人が提唱したんだけど、簡単に言うとエロプティック・エネルギーっていうエネルギー源を使って、遠隔的に人の身体を治療したり、虫程度なら駆除する力があるって言われているものよ。そのエネルギー力はその装置を使う人の精神力に左右されるとも言われているわ。もちろん、科学的には認められずに今日まで来てるんだけどね。」
池畑は全部を理解できたわけではなかったが、凄く非現実的な感じがした。
「…あー、それはつまり…超能力か?」
「うーん、そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。科学的に認められてないから、まだ無限の可能性があるのよ。」
「それで、桐生が言ってた呪いの正体は、そのエロティックマシンのことなのか?」
「ヒエロニムスね!正確には、ヒエロニムスマシンの理論を基に、桐生が作った新しい装置ね。」
「桐生が作った新しい装置……。」
さっきの飲み屋での千代田と溝口のセリフが頭を過った。
「桐生が最初に成し遂げた殺人。やベぇ事件かも…な、マジで。」
ぼそっと呟いた池畑の言葉に佐倉も頷いた。
「明日、実験するわ。桐生の装置を使って。本当に殺すことが可能性か。」
「実験!?装置手に入れたのか?」
「造るのよ。装置自体は何処ででも買えそうな材料でできるし、組立てにも複雑さはないわ。」
「ん?じゃあ桐生は何を成し遂げたんだ?」
「科学的な理論よ。私も目から鱗だったわ。普通の科学者が考えることと180°真逆の発想で、この装置はできてるわ。所謂、権威と言われるような科学者ほど、この発想はないわ。」
佐倉はその中身を池畑に説明したが、横文字だらけの説明は池畑には全く響かなかった。ただ、桐生は物凄いものを造ったということだけは沸々と伝わってきた。
説明をしている佐倉の姿はイキイキとしていて、心底科学者なんだなと実感した。
佐倉とは、同じ大学で同じサークル仲間であり、更には何年も一緒に仕事をしていたが、関係が変わったのは、千代田が言ってた通り半年前だ。
酒の力でというのが正解だが、ひょんなことで一線を越えた二人は、互いに秘めていた感情に正直になり、付き合うことになったのだ。
だが、自分は不定期の休みで、仕事する時の帰りは夜遅くなることがほとんど。それは佐倉も同じであり、仕事以外ではほとんど会えず、連絡する暇もないことから恋人という関係は絶つことにした。
だが、池畑の本心は佐倉の研究の邪魔をしたくなかった、自分が深い関係でいると、それだけで変なプレッシャーをかけてしまい、思う存分研究に没頭できないだろうと思った。
池畑は佐倉の仕事に没頭している姿に惚れたのだ、だから今も仕事上では本当に頼りにしており、この関係性がベストなんだなと感じた。
池畑はそんなことを考えながら、佐倉に聞いた。
「…凄いものだということはわかった。ただ、実験って?人殺すのか?」
「まさか。この装置は殺すことだけが目的なわけじゃないわ。簡単にいうと、自分の思い通りに人を操る装置ね。」
「…なるほど。使うヤツによっては、それが凶器になるわけだな。」
「そういうこと。まずはネズミみたいな小動物や虫から試すわ。明日の午前中に造りあげるから、午後に来て。」
「わかった。溝口も連れてくよ。…お前狙ってるようだから。」
「はい?私が溝口くんを?ただ若くて顔が良いから仲良くしといて損はないかなと思ってるくらいよ。後輩に紹介したりね。私のタイプはよく知ってるでしょ。それに溝口くんは…。…いや、何でもない。あんまり馬鹿なこと言わないで。」
池畑は表情には出さなかったが嬉しかった。反面、自分の後輩に嫉妬していたことが本気で恥ずかしかった。
「じゃあ明日よろしくね。夜分にお邪魔しました。」
佐倉はソファーから立ち上がり、玄関に向かった。佐倉がリビングから出ようとした時、池畑はソファーから立ち上がり、佐倉の背中に向かって名前を呼んだ。
「由香里!」
特に何にも要件は考えてなかったが、池畑は思わず引き止めるように名前を呼んでしまった。
「…なぁに?」
振り返った由香里は何かを期待してそうな表情に見えた。…いや勝手な都合の良い妄想かと自分に言い聞かせ池畑は答えた。
「…いや、ありがとな。色々と。」
「…変なの、いつもはそんな優しくないでしょ。」
「そんなことないだろ。本当に感謝してるよ。」
「お役に立てて嬉しいわ。明日よろしくね。」
「あぁ、気をつけて。」
佐倉は微笑んで玄関の扉を閉めた。
「…泊まってけば、とは言えないよな。」
池畑は、幻影の残る玄関のドアに向かって話しかけた。
23時50分
池畑のスマホの着信音が鳴った。
23時すぎに溝口たちとの飲み会から帰宅した池畑は、珍しく飲みすぎてしまい、帰るなりソファーに座り込み、そのまま寝落ちしてしまったらしい。
池畑は着信音で飛び起き、頭を掻きながらテーブルの上の置いておいたスマホを手に取った。
「由香里(ゆかり)?」
スマホの画面には佐倉由香里からの着信と表示されていた。
「…もしもし?」
「あ、一輝(かずき)まだ起きてた?…いや、その声は寝起きね。」
「こんな時間にどうした?」
「今日あんたから預かった桐生って女の例のペーパーだけど、かなりヤバいことになりそうよ。明日連絡しようかと思ったけど、急いだ方が良いと思ってしちゃった。今から会えない?」
「い、今から!?…すまん、酒を飲んでしまって運転できん。」
「ご安心を。今あんたのマンションの入り口にいますから。」
…会えない?と聞いておきながら、強引に会うつもりだったんじゃねぇかと池畑は思ったが、余程のことがあったということも理解した。
「わかった。今ロック解くから入ってこいよ。」
佐倉は池畑の部屋に上がり、慣れたようにソファーに座った。
「なんか飲むか?」
「コーヒー、ブラックで。あんた、相変わらず部屋綺麗にしてるわね。」
佐倉は池畑の部屋を見回しながら言った。
「余計な話はいい。それでどうしたんだ。」
池畑はカウンター越しにキッチンでドリップ式コーヒーを入れながら佐倉に問いた。
「あのペーパー全部読んだんだけど、本当に桐生って女が言ってたとおりかもよ。…呪いは実在するかも。」
池畑はコーヒーがまだ入れ終わってなかったが、カップを放置してリビングに駆け寄り、佐倉の横に座った。
「どういうことだ!?」
池畑の酔いは一気に醒めていた。
「正確には呪いって言っていいかわからないけど、科学的に、人を操る方法が書かれていた。もっと言うと、そうさせる装置の話ね。」
「装置?」
「ヒエロニムスマシン…って知ってる?」
「…いや、全く。言葉自体も初めて聞いた。」
「アメリカのヒエロニムスって人が提唱したんだけど、簡単に言うとエロプティック・エネルギーっていうエネルギー源を使って、遠隔的に人の身体を治療したり、虫程度なら駆除する力があるって言われているものよ。そのエネルギー力はその装置を使う人の精神力に左右されるとも言われているわ。もちろん、科学的には認められずに今日まで来てるんだけどね。」
池畑は全部を理解できたわけではなかったが、凄く非現実的な感じがした。
「…あー、それはつまり…超能力か?」
「うーん、そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。科学的に認められてないから、まだ無限の可能性があるのよ。」
「それで、桐生が言ってた呪いの正体は、そのエロティックマシンのことなのか?」
「ヒエロニムスね!正確には、ヒエロニムスマシンの理論を基に、桐生が作った新しい装置ね。」
「桐生が作った新しい装置……。」
さっきの飲み屋での千代田と溝口のセリフが頭を過った。
「桐生が最初に成し遂げた殺人。やベぇ事件かも…な、マジで。」
ぼそっと呟いた池畑の言葉に佐倉も頷いた。
「明日、実験するわ。桐生の装置を使って。本当に殺すことが可能性か。」
「実験!?装置手に入れたのか?」
「造るのよ。装置自体は何処ででも買えそうな材料でできるし、組立てにも複雑さはないわ。」
「ん?じゃあ桐生は何を成し遂げたんだ?」
「科学的な理論よ。私も目から鱗だったわ。普通の科学者が考えることと180°真逆の発想で、この装置はできてるわ。所謂、権威と言われるような科学者ほど、この発想はないわ。」
佐倉はその中身を池畑に説明したが、横文字だらけの説明は池畑には全く響かなかった。ただ、桐生は物凄いものを造ったということだけは沸々と伝わってきた。
説明をしている佐倉の姿はイキイキとしていて、心底科学者なんだなと実感した。
佐倉とは、同じ大学で同じサークル仲間であり、更には何年も一緒に仕事をしていたが、関係が変わったのは、千代田が言ってた通り半年前だ。
酒の力でというのが正解だが、ひょんなことで一線を越えた二人は、互いに秘めていた感情に正直になり、付き合うことになったのだ。
だが、自分は不定期の休みで、仕事する時の帰りは夜遅くなることがほとんど。それは佐倉も同じであり、仕事以外ではほとんど会えず、連絡する暇もないことから恋人という関係は絶つことにした。
だが、池畑の本心は佐倉の研究の邪魔をしたくなかった、自分が深い関係でいると、それだけで変なプレッシャーをかけてしまい、思う存分研究に没頭できないだろうと思った。
池畑は佐倉の仕事に没頭している姿に惚れたのだ、だから今も仕事上では本当に頼りにしており、この関係性がベストなんだなと感じた。
池畑はそんなことを考えながら、佐倉に聞いた。
「…凄いものだということはわかった。ただ、実験って?人殺すのか?」
「まさか。この装置は殺すことだけが目的なわけじゃないわ。簡単にいうと、自分の思い通りに人を操る装置ね。」
「…なるほど。使うヤツによっては、それが凶器になるわけだな。」
「そういうこと。まずはネズミみたいな小動物や虫から試すわ。明日の午前中に造りあげるから、午後に来て。」
「わかった。溝口も連れてくよ。…お前狙ってるようだから。」
「はい?私が溝口くんを?ただ若くて顔が良いから仲良くしといて損はないかなと思ってるくらいよ。後輩に紹介したりね。私のタイプはよく知ってるでしょ。それに溝口くんは…。…いや、何でもない。あんまり馬鹿なこと言わないで。」
池畑は表情には出さなかったが嬉しかった。反面、自分の後輩に嫉妬していたことが本気で恥ずかしかった。
「じゃあ明日よろしくね。夜分にお邪魔しました。」
佐倉はソファーから立ち上がり、玄関に向かった。佐倉がリビングから出ようとした時、池畑はソファーから立ち上がり、佐倉の背中に向かって名前を呼んだ。
「由香里!」
特に何にも要件は考えてなかったが、池畑は思わず引き止めるように名前を呼んでしまった。
「…なぁに?」
振り返った由香里は何かを期待してそうな表情に見えた。…いや勝手な都合の良い妄想かと自分に言い聞かせ池畑は答えた。
「…いや、ありがとな。色々と。」
「…変なの、いつもはそんな優しくないでしょ。」
「そんなことないだろ。本当に感謝してるよ。」
「お役に立てて嬉しいわ。明日よろしくね。」
「あぁ、気をつけて。」
佐倉は微笑んで玄関の扉を閉めた。
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池畑は、幻影の残る玄関のドアに向かって話しかけた。
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