Rem-リム- 呪いと再生

雨木良

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第4節 池畑 一輝

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2月9日

ー 神奈川県警 署内 ー

8時00分

溝口は、朝早くから自席のパソコンで調べものをしていた。Wikipediaで゛呪い゛を検索した。

゛呪いとは、人または霊が、物理的手段によらず精神的あるいは霊的な手段で、悪意をもって他の人や社会全般に対し災厄や不幸をもたらせようとする行為をいう。゛

「呪い…ね。」

次に呪いにまつわる事件を検索しようとした。たまたま一人っきりの執務室で、恐ろしい言葉を調べている状況になんだか寒気が襲ってきた。その瞬間、執務室の扉が開いた。

「おはようございまぁす。ふぁああ。」

欠伸をしながら入ってきた池畑の目にとまったのは、何故か地面に尻もちをついている溝口の姿だった。

「お前朝から何してんだ?」

「べ、べつに、何も。ビビってなんか…ビビってなんかないっすからぁ」

溝口はそう言うと小走りで執務室を出ていった。池畑は状況が飲み込めずにポカンとした。

考えても分からないので、池畑は自席に向かった。その途中で開きっぱなしの溝口のパソコンをチラッと見ると、゛呪い゛に関して検索してたことが丸わかりだった。

「…ビビってんじゃねぇか、バカが。」

8時20分

「池畑、ちょっといいか。」

課長の杉崎(すぎざき)が遠くの自席から池畑を呼んだ。池畑は、パソコンでの作業を一旦止め、課長席の前まで早歩きで向かった。

「何でしょうか、課長。」

「一昨日の自殺で片付きそうな件、自殺じゃない可能性があるのか?昨日、変な女性が来たと聞いたが。」

「あ、その件は昨日課長お休みでしたので、ある程度まとまり次第ご報告しようかと思ってまして。」

「え?今の状況どんななの?自殺じゃないのか?」

杉崎は、池田の返答で、自殺で片付くはずの事件がそうではない、つまり殺人事件になる可能性があると察して慌てた。そんな杉崎に、池畑が冷静に続けた。

「えー、簡単に言いますと、昨日来た女性が、自分が殺したんだと言い張りまして、その女性が渡してきた殺害方法が書かれた紙を科学研究所の職員に見てもらい、そろそろ結論が出そうなんです。というか、今日の午後にその紙に書かれたことを実験するので立ち会ってきます。」

「大分はしょっててあんまりわかんないが、そのぅ、実験する殺しの方法ってのは何だ?」

杉崎は目を細めて、眉間にシワを寄せながら聞いた。

「えーと、…呪い…です。」

「…は??」

池畑は、何か口に出すのを一瞬躊躇ってしまったせいか、小さめの声で答えため、聞きとれなかった杉崎が聞き返した。

池畑は、次は大きめの声で言った。

「の・ろ・い、です。」

「…え?…の…ろ…い……呪い!?」

思わず席を立ちながら大声を出した杉崎。執務室中の視線を感じた杉崎は、ゆっくり座りながら、今度は周りに聞こえないような声で続ける。

「どういうことだ。呪いで人を殺したってのか?科学研究所はどういう結論を出すつもりだ?」

「ですので、結論はこれからです。あ、あれでしたら課長も午後ご一緒にいかがですか?実験。」

「…うん、行くわ。」

杉崎はなんか嫌な予感がした。

池畑は、自席に戻る途中で、チラッと振り返り課長を見ると、頭を抱えている姿が目に入った。そんな姿を見て溜息を付きながら自席に戻ると、すぐに隣の千代田が話しかけてきた。

「課長何ですって?」

「いやまぁ、呪いの話したらビックリしてたわ。今日、午後に研究所でやる実験に誘ったら来るってよ。」

「え!実験って?あれから進展あったんですか?」

「昨日の夜にユカ…佐倉が家に来て、桐生のペーパーの中身を説明してくれたんだ。」

「夜って、あの時間からですか!?」

すっごくニヤニヤした顔で、迫るように聞いてくる千代田に池畑は大分イラッとした。

「何を期待してんだか知らんが、お前が考えてるようなことは一切ないからな。あのペーパーの中身、相当凄いものらしく、簡単に言えば人を操る装置のメカニズムが記されていたみたいだ。」

「人を操る…なんかヤバくないっすか?」

そう返した千代田の顔はまだニヤついていた。

「何だっけなぁ、エロなんとかマシンってのが基になっててって言ってたんだよなぁ。」

相変わらずヒエロニムスマシンという名称を覚えられない池畑だったが、千代田は“エロ”という言葉に、なんかあったなと勝手な妄想をし、ニヤニヤ度を更に増した。そんな千代田の顔でイラつき度を更に増した池畑が会話を終わらせようと必死に続けた。

「と、とにかく!今日の午前中にその装置を佐倉が再現して、午後に実験することになったんだよ。それで結論が出るだろ!」

「へぇ、なんか本当に凄いことになりましたね。……下手したら日本の犯罪史に名を残す事件ですよ、これ。」

急に真面目な表情で返答する千代田。池畑は、千代田の言葉に、それは勘弁してくれよと思いつつも、本当にそうなりそうだと頭を掻いた。

「で、本当のとこどうだったんです?佐倉さんとは。あ、まさかお泊まりとか。」

「話をまた戻すな!何も無いわ!佐倉も要件済んだら帰りました!」

本当は泊まってけと言いたかった、なんて絶対言えない池畑だった。

「なぁんだ、つまんなぁい。でも、池畑さんと佐倉さんって大学時代からの知りあいなんですよね?」

「え、まぁな。あいつがひとつ下の後輩だ。あいつは大学の時から研究一筋だったよ。まさかあいつが大学院卒業後に警視庁直属の研究所に就職するとは思ってもみなかったけどな。」

千代田の不思議な会話力とでも言えるのか、池畑は自然と佐倉の話を話していた。

「大学時代はどんな関係だったんです?」

「ただのサークルの先輩後輩だよ。」

「サークル?」

「天文サークルだ。星空を見に行くのが主な活動。」

「へぇ池畑さんって意外とロマンチストなんですねぇ。佐倉さんって天文学が専門なんですか?」

「いや、専門は全く違うよ。生物学系の…何だっけな。まぁ、あいつ曰く、一日研究室に閉じこもりの生活で、溜まったストレスの発散に星空を見るために入ったんだと。広大な星空見ると宇宙を感じて、自分の悩みやストレスがアホらしく感じたらしい。……ってプライベート聞きすぎだ!!」

池畑は急に我に返った。千代田は、自分でペラペラ喋ってるじゃんという突っ込みは控えた。

「研究一筋の佐倉さんか、カッコいいですね。」

千代田はニコッと笑うと席を立ち執務室を出て行くと、代わりに溝口が自席に戻ってきた。

池畑は溝口の顔を見て、まだ溝口には午後の話をしてないことに気付き、また昨日の夜に佐倉が来た所から話をしないといけないなと苦虫を噛み潰したような顔をしてしまった。
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