Rem-リム- 呪いと再生

雨木良

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第5節 村上 正人 其の3

(3)

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池畑がファミレスが出ていくと、正人はふと時計を見た。まだ通夜の時間まで1時間ほどあったため、近くを散歩でもしようと、コーヒーを飲み干し、会計をしてファミレスを出た。

正人は、この地に過去3回訪れたことがある。千里の両親とは比較的多く会っている方だと思うが、そのほとんどが横浜で会うことが多く、この地を訪れたのは…半年ぶりくらいだった。

正人は、過去の記憶を頼りに何処に行こうか考えた。まず、思い付いたのは近くの神社だ。去年の年始はこの地で過ごし、神社に初詣に行った。

正人は神社への7分程度の道中、父親の武志に電話を掛けた。

「…あ、もしもし。俺。こっちは無事に着いたよ。そっちはどう?」

「着いたか、お疲れさん。こっちはだいたい決めることは済んだよ。こっちの心配はしなくて大丈夫だから。」

「悪いね、ほとんど任せてちゃって。本当は俺が全部やらなきゃいけないのに。」

「千里さんだって、天国で由実さんの通夜には行ってあげてって思ってたと思うぞ。あんまり、千里さんのお母さんに迷惑かけるなよ。」

「…子ども扱いするなって。…じゃあまた連絡する。」

武志との電話を終えると調度神社の鳥居の前に着いた。もう日が傾いてることもあってか、境内を覗くと閑散としていた。この静けさが良かった。

10月でも比較的暖かい日で、神社の静かな空気は心を洗ってくれたように感じた。境内の木製ベンチに座り、鳥居の方を眺めると、去年の正月の時のように人混みの中で手を繋いでニコニコしながらこちらに歩いてくる自分と千里が見えた。正人は、幻想だと気付いてはいるがこのまま醒めなければよいと切に願った。

…千里との当たり前の日常はもう来ない。知らぬ間に流れた涙に秋風が当たり、涙が流れた頬がヒヤリとした。座ってからどれくらい経ったのだろうか、涙を拭うことなく感傷に浸っていると神社内の電灯に灯りがともった。正人は、時計を見た。

「もう五時過ぎか。」

正人は、喪服に着替えるため、千里の実家に向かった。その道中にも、コンビニや公園、近くの動物園の広告看板など、二人の思い出が残る場所が多く、正人はひとつひとつの出来事を噛み締めながら歩いた。

ー セレモニーホール ー

18時00分

南雲由実の通夜式が開始された。正人と絵美子は弔問客用の席に座り、南雲家菩提寺の住職がゆっくり通路を歩いていくのを見ていた。住職が席に着き、お経が開始され、まずは親族、そして室内の椅子に腰かけている参列者の順にお焼香が始まった。正人と絵美子はお焼香を済ませ、また席に着き、お経を聞いていた。

隣を見ると絵美子は静かに涙を拭い、正人に向かい「親友同士向こうでも寂しくないわね。」と呟いた。

正人は頷ずいた。正人もお経の間、目を潤ませながら、由実について考えていた。

由実は、非常に活発な子で趣味も夏は登山、冬はスノボーとアクティブなイメージだった。研究者でどちらかというとインドアな千里とは真逆のイメージだったが、幼馴染みの二人は長い付き合いで、二人の会話を聞いているとツーカーで通じる部分もよくあり、本当に親友なんだなと微笑ましく感じていた。

千里と付き合い出して一ヶ月後くらいに、由実を紹介された。彼氏を親友には紹介しときたいという千里の考えだったが、それ以来よく三人で遊ぶようになった。構成的には、由実がカップルの邪魔をしてるわけだが、この三人の場合は俺が邪魔してるんじゃないかと感じてしまうくらい二人は仲が良かった。最も正人自身も、そんな二人を見てるのが好きで、好んで三人で遊んでいた。

そんな仲の良い二人だったが、一度だけ千里が由実のことで、愚痴を溢していたことも思い出した。その時は酒も入っており、下戸な千里は、酔いが早く、酔うと流暢に話し出すタイプだった。愚痴の中身は、自分と由実は好きな男性のタイプが似すぎており、中学、高校と偶然同じ人を好きになり、結果はいつも由実がその人たちと付き合っていたというものだ。

その時俺は、じゃあ由実は俺のことも?、と千里に聞いた覚えがある。

バーカ!んなわけあるか!、と一蹴され少しショボンとしたことも思い出し、不覚にも通夜の会場で微笑んでしまった。

やっちまったと目線を前に向けると、調度池畑が焼香してる時だった。正人は、手を合わせ、目を閉じてる池畑の丁寧で凛とした姿を見て、今、由実本人と由実の無念を晴らす約束を交わしているのだろうと思った。正人はまた自分が恥ずかしくなった。

ー 解剖医学センター ー

18時00分

南雲由実の通夜式が始まる時刻と同時刻、解剖医学センターでは、村上千里の司法解剖が行われようとしていた。センターのロビーでは正人の両親と千里の父親と妹が、結果を聞くために待っていた。結果というのは、千里の死に呪いが関係しているかどうかである。

「…紗希、千里は誰かに恨まれたりする人間だと思うか?」

誰も話さずに静かに待っている中で、和彦が沈黙を破った。 

「それはお姉ちゃんが誰かに呪いをかけられて殺されたってこと?」

「…だってな、紗希。千里が自殺する理由はあるか?仕事だって順調そうだったじゃないか。母さんも言ってたろ?千里は自ら母さんや紗希を悲しませるような選択はしない子だって。父さんもそう思うよ。」

「漆崎(うるしざき)さん、私は千里ちゃんは、自殺するような子だとも思わないし、誰かに恨まれるような子とも思っていません。」

正人の母親のゆかりが涙声で会話に参加すると、父親の武志もゆかりに同意した。

「母さん。俺だってそう思ってるよ。なんであんないい子が、こんなことに。」

「…すみません村上さん、取り乱しまして。なんか結果が出るのが怖いんですよ。」

和彦は憔悴しきっていた。絵美子がいる前では、妻を支えようと自分は強がっていたが、妻が由実の通夜に出掛けてから強がる必要がなくなり、何かが吹っ切れたようにこの場所に来る寸前まで声を出しながら泣き続けていた。

紗希はそんな父親の姿を見たのは初めてで正直驚いた。母親、つまり父にとって妻の存在は偉大なんだと未成年なりにわかった気がした。紗希は静かに和彦を抱き締めた。

「父さん、私はずっといるから……父さんより長生きするから…お姉ちゃんより出来は悪い娘かもしれないけど…私はいるから…ね。」

紗希の意表を突いた言動に、和彦は我に返った気がした。

「すまん、紗希。情けない父さんで。お前だってツラいよな…紗希。…千里は良い子だ。どんな結果でも俺たちは千里の味方であって、あの子の事を信じてやろうな。」

「うん。……いいの父さん、自分もツラいのにママを支えてくれてありがとう。今は私が父さんを支えるから……ママが戻ってきたらまたママを支えてあげてね。」

正人の両親は、なんて素晴らしい妹さんだろうと静かに二人を見守っていた。
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