Rem-リム- 呪いと再生

雨木良

文字の大きさ
26 / 114
第5節 村上 正人 其の3

(3)

しおりを挟む
池畑がファミレスが出ていくと、正人はふと時計を見た。まだ通夜の時間まで1時間ほどあったため、近くを散歩でもしようと、コーヒーを飲み干し、会計をしてファミレスを出た。

正人は、この地に過去3回訪れたことがある。千里の両親とは比較的多く会っている方だと思うが、そのほとんどが横浜で会うことが多く、この地を訪れたのは…半年ぶりくらいだった。

正人は、過去の記憶を頼りに何処に行こうか考えた。まず、思い付いたのは近くの神社だ。去年の年始はこの地で過ごし、神社に初詣に行った。

正人は神社への7分程度の道中、父親の武志に電話を掛けた。

「…あ、もしもし。俺。こっちは無事に着いたよ。そっちはどう?」

「着いたか、お疲れさん。こっちはだいたい決めることは済んだよ。こっちの心配はしなくて大丈夫だから。」

「悪いね、ほとんど任せてちゃって。本当は俺が全部やらなきゃいけないのに。」

「千里さんだって、天国で由実さんの通夜には行ってあげてって思ってたと思うぞ。あんまり、千里さんのお母さんに迷惑かけるなよ。」

「…子ども扱いするなって。…じゃあまた連絡する。」

武志との電話を終えると調度神社の鳥居の前に着いた。もう日が傾いてることもあってか、境内を覗くと閑散としていた。この静けさが良かった。

10月でも比較的暖かい日で、神社の静かな空気は心を洗ってくれたように感じた。境内の木製ベンチに座り、鳥居の方を眺めると、去年の正月の時のように人混みの中で手を繋いでニコニコしながらこちらに歩いてくる自分と千里が見えた。正人は、幻想だと気付いてはいるがこのまま醒めなければよいと切に願った。

…千里との当たり前の日常はもう来ない。知らぬ間に流れた涙に秋風が当たり、涙が流れた頬がヒヤリとした。座ってからどれくらい経ったのだろうか、涙を拭うことなく感傷に浸っていると神社内の電灯に灯りがともった。正人は、時計を見た。

「もう五時過ぎか。」

正人は、喪服に着替えるため、千里の実家に向かった。その道中にも、コンビニや公園、近くの動物園の広告看板など、二人の思い出が残る場所が多く、正人はひとつひとつの出来事を噛み締めながら歩いた。

ー セレモニーホール ー

18時00分

南雲由実の通夜式が開始された。正人と絵美子は弔問客用の席に座り、南雲家菩提寺の住職がゆっくり通路を歩いていくのを見ていた。住職が席に着き、お経が開始され、まずは親族、そして室内の椅子に腰かけている参列者の順にお焼香が始まった。正人と絵美子はお焼香を済ませ、また席に着き、お経を聞いていた。

隣を見ると絵美子は静かに涙を拭い、正人に向かい「親友同士向こうでも寂しくないわね。」と呟いた。

正人は頷ずいた。正人もお経の間、目を潤ませながら、由実について考えていた。

由実は、非常に活発な子で趣味も夏は登山、冬はスノボーとアクティブなイメージだった。研究者でどちらかというとインドアな千里とは真逆のイメージだったが、幼馴染みの二人は長い付き合いで、二人の会話を聞いているとツーカーで通じる部分もよくあり、本当に親友なんだなと微笑ましく感じていた。

千里と付き合い出して一ヶ月後くらいに、由実を紹介された。彼氏を親友には紹介しときたいという千里の考えだったが、それ以来よく三人で遊ぶようになった。構成的には、由実がカップルの邪魔をしてるわけだが、この三人の場合は俺が邪魔してるんじゃないかと感じてしまうくらい二人は仲が良かった。最も正人自身も、そんな二人を見てるのが好きで、好んで三人で遊んでいた。

そんな仲の良い二人だったが、一度だけ千里が由実のことで、愚痴を溢していたことも思い出した。その時は酒も入っており、下戸な千里は、酔いが早く、酔うと流暢に話し出すタイプだった。愚痴の中身は、自分と由実は好きな男性のタイプが似すぎており、中学、高校と偶然同じ人を好きになり、結果はいつも由実がその人たちと付き合っていたというものだ。

その時俺は、じゃあ由実は俺のことも?、と千里に聞いた覚えがある。

バーカ!んなわけあるか!、と一蹴され少しショボンとしたことも思い出し、不覚にも通夜の会場で微笑んでしまった。

やっちまったと目線を前に向けると、調度池畑が焼香してる時だった。正人は、手を合わせ、目を閉じてる池畑の丁寧で凛とした姿を見て、今、由実本人と由実の無念を晴らす約束を交わしているのだろうと思った。正人はまた自分が恥ずかしくなった。

ー 解剖医学センター ー

18時00分

南雲由実の通夜式が始まる時刻と同時刻、解剖医学センターでは、村上千里の司法解剖が行われようとしていた。センターのロビーでは正人の両親と千里の父親と妹が、結果を聞くために待っていた。結果というのは、千里の死に呪いが関係しているかどうかである。

「…紗希、千里は誰かに恨まれたりする人間だと思うか?」

誰も話さずに静かに待っている中で、和彦が沈黙を破った。 

「それはお姉ちゃんが誰かに呪いをかけられて殺されたってこと?」

「…だってな、紗希。千里が自殺する理由はあるか?仕事だって順調そうだったじゃないか。母さんも言ってたろ?千里は自ら母さんや紗希を悲しませるような選択はしない子だって。父さんもそう思うよ。」

「漆崎(うるしざき)さん、私は千里ちゃんは、自殺するような子だとも思わないし、誰かに恨まれるような子とも思っていません。」

正人の母親のゆかりが涙声で会話に参加すると、父親の武志もゆかりに同意した。

「母さん。俺だってそう思ってるよ。なんであんないい子が、こんなことに。」

「…すみません村上さん、取り乱しまして。なんか結果が出るのが怖いんですよ。」

和彦は憔悴しきっていた。絵美子がいる前では、妻を支えようと自分は強がっていたが、妻が由実の通夜に出掛けてから強がる必要がなくなり、何かが吹っ切れたようにこの場所に来る寸前まで声を出しながら泣き続けていた。

紗希はそんな父親の姿を見たのは初めてで正直驚いた。母親、つまり父にとって妻の存在は偉大なんだと未成年なりにわかった気がした。紗希は静かに和彦を抱き締めた。

「父さん、私はずっといるから……父さんより長生きするから…お姉ちゃんより出来は悪い娘かもしれないけど…私はいるから…ね。」

紗希の意表を突いた言動に、和彦は我に返った気がした。

「すまん、紗希。情けない父さんで。お前だってツラいよな…紗希。…千里は良い子だ。どんな結果でも俺たちは千里の味方であって、あの子の事を信じてやろうな。」

「うん。……いいの父さん、自分もツラいのにママを支えてくれてありがとう。今は私が父さんを支えるから……ママが戻ってきたらまたママを支えてあげてね。」

正人の両親は、なんて素晴らしい妹さんだろうと静かに二人を見守っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

陰法師 -捻くれ陰陽師の事件帖-

佐倉みづき
ホラー
 ――万物には、光と陰が存在する。それは、人の心もまた然り。妬み嫉み、恨み辛み……心の翳りは、時に恐ろしいモノを生み出す。  人が抱く負の感情より生じた怪異による、人智を超えた怪奇事件。解決するは、影を操る陰陽師の末裔。  これは、陰をもって陰を制する怪奇譚。 ※こちらの作品はカクヨムでも同名義で公開中です。 ※表紙はかんたん表紙メーカー様にて作成しました。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

いい加減こっち見ろよ!〜見た目だけだとフラれ続ける私は、どうやら幼馴染の執着愛に気づいていなかったようです。〜

こころ ゆい
恋愛
保育士の八重と外科医の一生は、小学生の頃からの幼馴染。 傍から見れば、儚く清楚に見えるらしい八重は、実は外見にそぐわぬ性格をしていた。 そのせいで、見た目につられて告白してくる男性たちは、ことごとく彼女の中身を知って離れていく。 フラれる度に、やけ食いややけ酒に付き合ってもらっている一生は優しいが、懲りずに同じような恋愛を繰り返す八重に呆れている....と思っていたら? 「....八重の可愛さは、そんなもんじゃないんです。....誰も気付かなくていい。俺だけが知ってればいい」 ーーどうやら、かなり愛されていたようです? ※じれじれ・執着・溺愛 ラブストーリー。🌱 ※この物語は、全て作者の想像で描かれたフィクションです。実際の場所・建物・人物とは関係ありません。🌱 ※HOTランキング入りしました。(最高47位でした)全ては、読者の皆様のおかげです。心より感謝申し上げます。今後も精進して参ります。🌱

下っ端宮女のひたむき後宮恋譚 ~前世の夢を追いかけていたらいつのまにか寵愛されていました~

紀本明
キャラ文芸
妃嬪から嫌がらせを受けつつも耐え忍んでいた下っ端宮女の鈴風(りんふぁ)はある日突然前世の記憶を取り戻す。料理人になるのが夢だった彼女は、今世でもその夢を叶えようと決意した矢先、ぼさぼさ頭の宦官・雲嵐(うんらん)と出会い、毎晩夕飯をつくることになる。料理人になるべく奮闘するも、妃嬪からの嫌がらせはひどくなる一方だった。そんなある日、事件が起こり、鈴風は窮地に立たされるが……――?

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

呪われた少女の秘された寵愛婚―盈月―

くろのあずさ
キャラ文芸
異常存在(マレビト)と呼ばれる人にあらざる者たちが境界が曖昧な世界。甚大な被害を被る人々の平和と安寧を守るため、軍は組織されたのだと噂されていた。 「無駄とはなんだ。お前があまりにも妻としての自覚が足らないから、思い出させてやっているのだろう」 「それは……しょうがありません」 だって私は―― 「どんな姿でも関係ない。私の妻はお前だけだ」 相応しくない。私は彼のそばにいるべきではないのに――。 「私も……あなた様の、旦那様のそばにいたいです」 この身で願ってもかまわないの? 呪われた少女の孤独は秘された寵愛婚の中で溶かされる 2025.12.6 盈月(えいげつ)……新月から満月に向かって次第に円くなっていく間の月

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

処理中です...